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ギルドの看板娘

 祭りになると人はテンションが降り切れてしまうものだ。

 

 他人の楽しそうな姿を見て自分も楽しくなる。

 例えるならつられ笑い。

 笑いが連鎖し増幅し際限なく大きくなったら常識なんてものは置き去りにされてしまう。


 そう、目の前で繰り広げられる肌色のバカ騒ぎはそうやって作られたものだろう。


 本能的に関わるとめんどくさいと察し、肩を組みあって左右に揺れている集団を見ない振りしながらギルドの中に入るのだった。

 知り合いでもないからわざわざ話をする必要は無い。なにせ筋肉モリモリの男どもだ、こんな華奢な女の子に絡んでくるわけがない。


 思考から存在を完全にシャットダウンし受付の方に目を向ける。

 列ができているが受付の人が見えなかった。


 見えなかったというのは決して居なかったということではなく文字通りに見えなかった。

 小さい手がカウンター越しにチラチラ見えるので人間がいることは確かだろう。

 腕だけでもせわしなく働いているのが確認できたのでステラのことを聞くのは、ひと段落して落ち着いた頃でいいだろう。


 そうなれば時間を潰す必要があるな。

 ビールの掛け合いを始めた男たちに混ざるのは厳しい。というかリーグ優勝した球団が来ているのだろうか?はしゃぎすぎだろ。


 ギルドによくあるクエスト掲示板を見るのが暇つぶしとしてベストだろう。

 どれどれ、今のところは受けるつもりはないがどの様なクエストがあるのか興味がある。

 

『緊急クエスト:挟まった!たすけて!』難易度SS

 かなりテクニカルな挟まり方でもしたのだろうか。

『ゴブリンの根城(女子限定ゴブ)』難易度そこそこ

 難易度設定は自由な感じだな。

『いやもう、誰でもいいからたすけて』難易度F

 難易度の下げ方が露骨!

下水道inSスモールマウスの影』難易度☆☆☆☆

 インスマウスの影?

『魔王の影』難易度 勇者

 明らかにやばそう。影が流行ってるのか。

「たすけての影』難易度たすけて

 あやかるな!

 ホントに早くたすけてやれよ。

 

 しかし魔王とかあったな、出来れば関わりたくないクエストだ。


 酒の匂い濃く鼻を刺激する。

「おう、嬢ちゃん見ない顔だな。突っ立ってないで一緒に飲もうぜ」

「…………」


 いたのかぁー。一切気づかなかった、我ながら周囲への警戒心がなさすぎだろ。


「いやってんなら別にいいがよ」

「……まてまて、誰が嫌だって言った。飲み比べと行こうかミルクならいくらでも飲めるぞ」

 未成年だしね。


 騒ぐようなことは好かない。本当は断りたい。

 しかし今ここにいるのはテラスだ。

 テラスならここで断ることはしないだろう。

 なんて()()()()()()()()()()()()()()()()席につく。


「クエストボードなんて見てたが、嬢ちゃんみたいなか弱そうな子がするには危ないことだぜ」

 この筋肉は心配して話しかけてくれたのか。


 勇者にするには見当違いな心配だが優しいやつなんだな。


「忠告は嬉しいがこう見えて私は強い。大丈夫だ。それにしてもこの酒場ではいつも馬鹿騒ぎをしているのか?」

「いつもと言われればそうだが、今日は一段と盛り上がっているぜ。なぜなら世界が救われたからな。勇者テラスが魔王を討伐したって話だぜ」


 まるで自分の話かのように楽しそうだ。


「その話なら知ってるよ。ここに来てから何回も聞かされたからな」

 実際町を通ってきた間も勇者の話はいたるところで話されていた。

「ファストの村人は嬉しくて堪らないのさなんたって勇者はこの村の出身。さらに細かく言えばこの酒場の看板娘ステラちゃんの姉なんだからな」


 妹は酒場の看板娘をしているのか。

 軽い手伝いをしていることはテラスの記憶にあるが看板娘にまで出世しているとはな。


「ステラは元気にやってそうで何よりだ」

「ステラを知ってるってことはこの村の出身だったのか。そういえば名前を聞いてなかったな」

「ああ、テラスだ。さっき話してた勇者だよ」


 筋肉は口をあんぐりと開け驚きの表情だ。

 か弱いと思い、声を掛けた少女が勇者だったのだ。顎が外れ、目が点だろう。


「びっくりしちまったよ。冗談が上手だな嬢ちゃん」

「だろ」


 にやりと笑い、アメリカのドラマのように手を広げる。とても皮肉が効いている。

 テラスは人をおちょくるところがある、俺にはできないことだな。


 受付の列がいつの間にか解消されていた。

「ハイハイ、皆さん飲み過ぎですよ。通してくださいねー」


 小さな女の子がむさ苦しい男たちを掻き分け歩いてきた。

 その子と目が合うと持っていた配膳のお盆を落としてしまった。

 大丈夫かと駆け寄ると女の子は今にも泣き出しそうな笑顔で言った。


「3年間ずっとお待ちしておりました。()()


 ズキッ、胸が痛む。

 ごめんな、俺はテラスじゃあないんだ。

 罪悪感に苛まれながら、それでいて平然と答えた。


「大きくなったな。()()()


 思考を止める。それが正しいことだと思わないが痛みでどうにかなりそうだったから。


「たまげたぜ。嬢ちゃんがあの勇者だったのか!」

「いっただろ。テラスだって」

 ペロッと舌を出してからかうように言った。

 二枚舌を一つ隠して。


「姉様も疲れていることでしょう。どうぞ奥の応接間に」

「おっと、姉妹水入らずの時間を邪魔するところだったぜまたな嬢ちゃん。なんか困ったことがあればツユの店に来てくれや、そこにいるからよ」


 待ってくれ、俺を置いていかないでくれ、2人にしないでくれ。

 いつの間にかテラスも居なくなっていた。

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