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ゴブリンの根城(女子限定ゴブ)③

 鉄製の扉が吹き飛んだ音は地下牢に反響し鳴り響く。

 音に引き寄せられてゴブリン共が集まるのは当たり前のことであった。

 テラスの実力的にゴブリンなど楽勝に倒せるだろうが今はメイラがいる。

 ネムソウで動けないメイラを庇いながら戦うにはきっと数が多すぎる。

 城の中で見かけただけでも21匹のゴブリンがいた――少なく見積もってその倍の40匹くらいがここのゴブリンの総数であろう。

 2階が使われていないというのがウソであった場合や身を隠した伏兵が居たなら数はさらに増える。

 1人なら何匹だろうと大差ないがネムソウで動けないメイラを庇いながら戦うには数が多すぎる。

 よって俺はメイラを担いだまま、すたこらサッサ逃げることにした。


「まて! 女が逃げる! 殺してもいいから止めるゴブ」

 一直線に階段を目指す。外にさえ出てしまえば体制を立て直して戦うことができる。

 地下に追い詰められる形で戦うのは不利だ、更に相手の規模も正確に把握できていない今、いつまで戦闘を続ければいいか分からない。

 幸いゴブリン共はまだ集まりきっていない、少ない人数ならば押し通せる。


「邪魔だッ!」

 何度も繰り返したように自然で洗礼された剣筋で偶々目の前にいたゴブリンの首筋を叩き付け気絶させる。

 陽炎のように揺らめく剣――『バウン・ダリ』で敵を倒す方法はテラスに刻み込まれている。平和な世で生活した俺にだって扱えてしまうほどに。


 槍を持ったゴブリンが横一列で陣形を作り止まる様子のない俺に槍を向ける。

「槍兵ゴブリンズの名に懸けてここで食い止めるゴブ! 行くぞッ! 竹やり! 石やり! ヤリもく!」

「「「応ッ!」」」

 1匹だけ槍を持ってないのがいるなぁ。


 3匹が同時に槍を突き出す。

 放たれた攻撃に対して地面を蹴って飛びあがり避ける。

 思ったよりも身体能力が高く、頭が天井に着いてしまいそうになった。

 思わず笑えてしまえるほど出鱈目だがそれがテラスだ。

 『バウン・ダリ』を持ったまま天井を手で押し落下に勢いをつけてゴブリンの集団に蹴りを入れた。

 1人を気絶させ、ゴブリンたちの懐に入り込んだ。

 槍などの中距離武器は近づいてさえしまえば反撃されることはない。

 流れるような軌道で槍先を切り落とし、剣の腹でゴブリンたちを気絶させた。

 鮮やかと呼ばれるような腕前だっただろう。

 だがこれじゃあテラスの体を使いこなしているとはいえない。

 本来ならば、例えメイラを抱えていたとしてもこの状況を切り抜けることは容易なのだ。


 予想以上にゴブリンの反応が早く、一階から列をなして押し寄せてきた。

「クソッ! 待機されていたか!」

 階段からはかなりの量のゴブリンが列をなして押し寄せてきた。

 これではメイラを守り切ることは出来ない。

 目の前では傷の1つだってつけさせたくはない、それはこのテラスの体だって同じだ。

 何か方法はないのか?

 一撃で盤面をひっくり返すことのできる奇策。

 魔法はどうだろう、『ファイアー』程度ならば使えるはずだ。

 手の平を向けて炎をイメージする。

 すると指先が熱を帯びてきた。

「これでも喰らえ」ポッ

 ライターで付けたような可愛らしい火の魔法がヒョロヒョロと空を飛んでゴブリンの鼻に当たり消えた……。

「ブブブ! それが魔法ゴブか?」

「うるせー。今のはお試し版だ」

 まさか子供の頃のテラスよりも威力が出ないとは思わなかった。

 子供の頃から才能のある子供だったのか! テラスってやつは。


 とにかく魔法には期待できない。別の何かだ。

 先ほどまでいた牢屋の前にまで戻ってくると元々地上に居た口に布を巻いてネムソウの防護をしていないゴブリンの達が追ってくるのを渋り始めた。

 そうか! ネムソウだ! 奴らにだってネムソウは危険な物だ、どこかで纏めて安全に保管せれているはず。

 専用の保管部屋があるとするならば効果が広がらないように防護方法の整っている地下にあるはずだ。

ネムソウが効かないというアドバンテージを生かして盤面をひっくり返せるならばあるかもわからない部屋を探してみる価値はある。

 地下牢の奥を目指して走り出した。


 がむしゃらに扉を開けて探してみるが見つからない。

 ゴブリン達から逃げ回りながらの捜索をしていると重量感のある足音と共に鼻歌が聞こえてきた。

「頭に王冠、引っさげて、赤いマントがはためいた、我が名は、我が名はゴブリ~~ン~~キングッ! パンチッ!」

うおっ! あぶね! 名乗り口上の最中に攻撃するか普通。

 自ら歌いあげたように王冠と赤いマントを付けた巨大なゴブリン――ゴブリンキングが現われた。

「我を卑怯だと糾弾するかぁ~? それとも有無を言わさず切り捨てるかぁ~? あの時のように、久しいなテラス~殺されてぶりだ」

「お前のことなんて記憶にないね」

 こいつテラスを知っているのか? 殺されてぶりとはどういうことなのだろう?

「ゴブリンなぞ、記憶するに値しないということか。憎いなテラス~」会話中にもかかわらず丸太のような足から蹴りが繰り出される「やたらにうろついて財宝でも狙っているのか」

「そんなものに興味はない。テラスッ! スラッシュ!」

 パクってみたがどうだ、効いたか。効いたか?

「これはなかなかだなぁ」

 斬撃はゴブリンキングの持っていた巨大な棍棒で逸らされた。


 こいつはほかのゴブリンとは違う気がする

 キングを冠する名前であるだけではない、ほかのゴブリンくっついていた語尾も使ってはいなかった。

 幾たびも互いに武器を打ち重ねるがゴブリンキングは一度たりとも正面から攻撃を受け止めることはしなかった――棍棒など簡単に切断できることを知っているのだ。

 今はこいつを倒せない。

 テラスの記憶を思い出さない限り。


 使いたくはない、だがこいつがテラスに殺されたことがあるというのなら突破方法は記憶の中にある。

 一度だけ、一度だけ――だから大丈夫だ。

 メイラを、テラスを傷つけないためだ。怖くない、怖くない。

 ()()()()()()()()

 私は思い出した。

 何をてこずっているのだろうか、情けない。

 たった一太刀あれば充分だ。

 大きさが変わろうが所詮はただのゴブリンなのだから。

 私は空を切る音を響かせ両足を一度に切断して見せた。

 ()――? もやもやとした疑問が残るが今は魔物を減らせることを喜ぶべきだ。

 メイラとテラスの為にもネムソウの在処を聞かなくては

 「ネムソウの保管場所はどこだ」

「草なんぞの在処を探してどう使うつもりだ? そんなものより早く殺せ、それが勝者の特権だ」

 顎を上げて首を差し出す。

 ――切り落とせということだろう。

 まあいい、自力で探そう。こいつは魔物なのだから殺してもいい。


 愛刀を振りかぶり――。

 ――いや違う! 俺だ! 風向だ! また、持っていかれそうになった。

 テラスは命を奪う覚悟が出来ているだろうが俺にそんな覚悟はない。

 覚悟もなしにそんなことしちゃダメだ。

()()()()

「例え足を切り落とそうと魔物は息の根を止めぬ限り再生するぞ」

「そしたら何度だって倒してやる」

「勇者も甘くなったものだ。草は最奥の部屋にある、行けば分かるはずだ」

「ありがとう」

 ゴブリンキングは目を丸くし一瞬固まってから息を噴き出した。

「ゴブブブゥ!! 笑わせてくれたお礼に良いこと教えてやろう、

 魔王は生きているぞ。くそったれな勇者の行く末に幸あれ」

 魔物に対しての覚悟が決まっているテラスはありがとうなんて言葉を使わないか。

 もっと魔王について教えてもらおうとした矢先、ゴブリンキングが崩れ始めた。

 切断された足の断面、目、口、穴という穴から本来である泥が血液のようにドロドロとあふれ出してくる。

「あーあ、柄にもないことしてしまったようだな。魔物の領分から外れるとこうなる――知っていたか? 魔物は憎しみを受けるためだけに存在しているのだよ」

「お前……」

 別れ話も出来ず瞬く間にただの泥と化し、俺には地面に広がった泥と疑問だけが残された。

 敵でこそあったが己を曲げずいい奴だった。少し剣を突き合わせただけでそれが充分に理解できる。

 そこまでのことか――ほんの少し情報を喋っただけで死ななければならないのか?

 魔物の領分? 誰が決めた。魔王か? それとも――

 ここで考えても答えの出ることではない。


 祈りを捧げ、道を急ぐ。今は地下牢から脱出するのが先決だ。

 言われた通りに地下の最奥までたどり着くと『危』の一文字が書かれた扉を見つけた。

 確かにこれは分かりやすい。


 中にはネムソウは勿論、爆弾や火薬、毒のポーションまであった。

 ネムソウは5樽分もあったので全てに火をつければ地下中に効果がいきわたるだろう。


 ヘアピンを外し、わきに抱えていたメイラに付ける。

 これでネムソウの効果を無効化できる。

 無防備なまま大量の煙を吸えばどうなるかわからない、一生眠り続けるなんてことになっても嫌だ。だから無効化はメイラに預けておいて俺は煙を吸わないようにするつもりだ。

 たかが地上に出るまで息を止めるだけのことだ。

 大きく息を吸い呼吸を整え、『ファイアー』で火を付けた。

 乾燥したネムソウはよく燃えた、スカッとするほどよく燃えて煙もバンバンだした。

 ――燃え過ぎじゃね。

 本能的に危険を感じ取り咄嗟に走り出す、それはもう死に物狂いで。

 ドカーン! ボンボンボンボン!

 はい! 引火しました! そりゃね、ダメだよね。あの部屋は火気厳禁だよね。

 背後から熱が伝わり煙に包まれる。

 視界は封じられ記憶を元に出口まで走らねばならなくなった。

 それにこの煙を吸うと昏睡してしまう、とんだハードモードだ。

「あわわ、なにしてくれちゃってるゴブ」

「冗談じゃないゴブ、アクション映画ゴブか?」

「ブブブっ、あばばゴブ」

 すまねぇ。ゴブリンたちは阿鼻叫喚であった。


 走れ走れ、足を止めるな、視界がないなら音を聞け。

 ゴブリンの足音や倒れる音を頼りに道を算出する。

 出口までの距離が分からない、息も苦しくなってきた。

 酸素を求めて頭が脈打つように痛む。

 口を開いて楽になるという選択肢が頭をよぎる。

 限界は明らかに迫る。


 引き寄せられるわずかな空気の動き、漏れ出る光は天国への誘いのように道を作る。

 まだ天国になんていけない。元の世界にも帰れてもいなければ、体も返せていない。

 光を切りつける、酸欠でもたらされた幻覚に騙されなんてしない。

 それこそが出口であった。


 頭がもうろうとして自分が何をしたのか理解できていないが、地下を塞いでいた木の板を破り地上に出られた。

 大きく息を吸い、酸素が末端まで供給されているのを感じる。

 周りにゴブリンは居ない、おそらく全員が地下に出張ってネムソウの被害を食らったのだろう。

 ゴブリン駆除の依頼達成だ。


 地面に横たわり身体を労わる、とても肩が凝った。

 一服して考えてみるとネムソウがなければここまでの惨事にはならなかったはずだ。

 すると途端に腹が立ってきた。

 ネムソウってなんだ! 安直な名前しやがって、草でいいよ、ふざけんな。

 バイオレンスな思考回路を働かせて至った結論はあの草許さんということだった。


 メイラからヘアピンを回収し、怒りを原動力に花畑に向かう。

 ネムソウを全て引き抜くのに対した時間はかからなかった。


「ふう、たまには草抜きもいいものだな」

「あなたどこ行っていたの? あれゴブリンは?」

 メイラは症状が回復したらしく眠たそうに瞼をこすっていた。

「実はゴブリンの罠で、なんだかんだ全員倒した。それとネムソウにむかついたから全部抜いた」

「へー」

 興味なさげだな。


 そろそろ、話を切り出すべきだろう。寝起きのもうろうとした状態なら何でも答えてくれるかもしれない。

 俺はメイラに問いかけた、

 魔物が何故存在しているのかを。

 今回のことで疑問はさらに深まった、あれは何者かの意思があって作り出されたものだと理解できる。

 定められた役割を全うしなければ自らを壊す。

 自然に出来上がるものじゃない。

「そう……ね。ちゃんと説明してなかったわね……」

 魔物を生み出したのが神かもしれないという疑いはまだ晴れていない。

 ないとは思っているがメイラがそのことを承知しているという可能性もある、完全な信頼はできない。

 だからこそここで推し量る。

「では教えましょう、天地創造の7日間が過ぎた8()()()()()()()()()()()――」


予定通りに三話完結

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