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ドワーフ少女はスラムへ向かう

 


 朝食を済ませたわたしは、二階の自室に戻る。

 自室の様子は眠る前ととくに変わっておらず、賊が入った形跡は無かった。

 まあ、金目のものは全部わたしのポケットの中に突っ込んであるから、盗るものなんてなかったのだろう。

 ポケットに入れているといっても、わたしの左ポケットは亜空間庫に繋がっていて、わたし以外の人には何も取り出せないのだけど。

 ちなみに、親分くんにスられたお金は右ポケットに入れていた分である。お金をいちいち亜空間庫から取り出すのはめんどくさいから。




 わたしは部屋に入るとまず、ベッドの下から、未だにぐーすか寝ている駄ペットを引きずり出すことにした。


「マーリン、いつまで寝てるの」

「キュウ!?」


 マーリンはわたしに両耳を掴まれて玉ねぎみたいな顔になり、「何事!?」と悲鳴を上げた。


「あなた、ご主人様がピンチの時、よくも眠りこけていたわね。これはその罰」

「キュウキュウ!?」


「そんな理不尽な!」とマーリンが抗議するけれど、わたしはマーリンの耳を掴んだまま、お風呂に移動する。


 お風呂場でお湯が沸いたら、わたしはマーリンの耳をようやく離す。まあ、逆恨みだってのはわかっているし、これくらいにしておこう。


 マーリンは「ご主人様酷い……」とプルプル震えて隅っこに逃げてしまったが、宝石を取り出して見せびらかすと、「ご主人様大好き!」と目を輝かせて近づいてきた。チョロい。



 機嫌を直したマーリンと共にお風呂に入り、髪を乾かしてから、ベッドに潜り込む。

 夜中に走り回ったせいで、もう眠くてしょうがないのだ。


 それではおやすみなさい。


 ふかふかなベッドに包まれて、わたしはすぐさま夢の世界に旅立った。





 目を覚ますと、正午過ぎだった。

 お昼ご飯を宿で食べてから、わたしは外出することにする。

 目指すは、スラム。親分くんたちのいる場所だ。


 親分くんたちには、ドラン商会について、話を聞きたい。ドラン商会へ報復する前に、ドラン商会が本当に人攫いなのだという確たる証拠が欲しいのだ。

 あと、大丈夫だとは思うけど、チビちゃんの経過観察もしておきたい。


 スラムに向かう途中、親切な人が「そっちはスラムだ。嬢ちゃんみたいなのが行く場所じゃない」と忠告してくれたのをありがたく聞き流し、スラムに入る。



 スラムに入ると、表通りでは気にならない腐臭や糞尿の臭気が鼻を刺激する。わたしは顔をしかめて、わたしの周囲の空気を清浄な状態に錬金しながら進む。


 途中何度かわたしの美貌に目が眩んだ男たちを睡眠球で撃退しつつ、ぐんぐんとスラムの中を進み、親分くんたちの()()()()()()ボロ屋にたどり着く。


 わたしがボロ屋をノックすると、警戒した様子の男の子が顔を出した。


「誰?」

「親分くんの知り合い。親分くんにルミナが来たって伝えて」


 そう伝えると、一旦扉が閉じられて、それからすぐに眠そうな親分くんが扉を開けた。


「ルミナ? 俺、アンタにこの場所のこと教えたか?」

「ううん。けど、わたし人探し得意だから」

「そういえばそんな魔法が使えるんだったな。……入っていいぞ」

「ん。お邪魔する」


 狭い家の中には、親分くんの他に、双子姉妹とチビちゃん、男の子三人がいた。人口密度が大きくて、とても狭っ苦しい。


 姉妹とチビちゃんはわたしに気づくと駆け寄ってくるが、男の子たちは警戒を解かず、睨みつけるようにわたしを見ている。


「ちょっと、やめなさい。この人は私たちの恩人よ!」

「だってよ……」

「だっても何も無いの!」


 双子の姉がぴしゃりと言い放つと、男の子たちはバツが悪そうにそっぽを向いた。


「ごめんなさい、お姉さん。アイツら、人間不信を拗らせてて。おまけに昨日、人攫いに襲撃されたから、余計ピリピリしているの」

「なるほど。別にいい」


 わたしがそう言うと、双子の姉はホッとため息をする。

 男の子たちをよく見ると、ところどころに青痣がある。たぶん、人攫いに抵抗した痕なのだろう。


「で、ルミナ。一体なんの用で来たん……って、おい何してる?」

「触診? 異常が無いか確かめてる」

「にゃぁ〜、くすぐったいにゃ……」


 そばにきたチビちゃんをサッと捕まえたわたしは、チビちゃんの頭をナデナデ、猫耳をモミモミする。

 さすがはケモミミ。素晴らしい撫で心地。


「にゃっ、ひぅ、あぁ〜……」


 最初はくすぐったそうに身をよじって逃げようとしていたチビちゃんだったが、次第に顔を蕩けさせ、わたしに身体を委ねてくる。

 チビちゃんの喉元をコシュコシュと撫でると、チビちゃんの身体から力が抜けて、わたしに寄りかかったまま動かなくなる。

 わたしはチビちゃんを抱きしめつつ、チビちゃんのお尻に手を回し、尻尾の付け根をトン、トン、としてあげる。すると、チビちゃんはだらしなく口を開けて、「にゃぅ、にゃっ、にゃぁ〜〜ッ」と嬌声を上げながら足をカクカクさせる。どうやら、気持ち良すぎて立っていることも難しくなったらしい。


「触診……だよな」

「ん。触診」

「うわっ、うわー……」

「はわわっ」


 ジト目で親分くんがわたしを見てくるので、親分くんの視線をスルーする。

 まったく、わたしがチビちゃんを触りたいだけみたいに言わないで欲しい。いくら獣人の女の子の撫で心地が素晴らしいからと、わたしが変態さんみたいに思われるのは心外だ。せっかくだから、触診のついでにチビちゃんをナデナデするのをちょっと楽しみつつ、チビちゃんに気持ち良くなってもらっているだけではないか。


 ちなみに、双子の姉妹はシンクロしたように両手で顔を隠し、しかし指の隙間からバッチリと様子を伺っていた。




「で、親分くん。ここに来たのは、ドラン商会のことを聞くため」

「おう、何急に真面目な顔して仕切り直してやがる。チビを撫でるのに夢中になっていたくせによ」


 十分後、幸せそうにわたしにほっぺすりすりするチビちゃんを膝の上に乗せて、親分くんたちに向き合っていた。


「触診。他意はない」

「あっそ……」


 これ以上話しても無駄だと悟ったのか、親分くんはため息を吐いた。


「ドラン商会についてって言っても、何を話せばいい?」

「人攫い事件について。他の話は表通りで聞けても、これはスラム以外では聞けない話でしょ? 報復するにしても、動かぬ証拠を見つけてからの方が、心置きなく報復できるから。それに、どう報復するかの作戦たてるのにも必要だし」

「あんた、お貴族サマみたいなカッコーして過激なヤツだなあ」

「そう? わたしの義姉さんよりはマシなつもりだけど……」


 義姉さんはこういう時、とりあえず全部氷漬けにしてから、兄さんに後処理を丸投げするからなぁ……。

 兄さんも兄さんで、「忍び込んで証拠集めをする手間が省けるから」と言って義姉さんを止めないのだから大概だけど。


「ルミナのねーちゃんの事は知らねえけど。

 そうだなあ、人攫いが起きるのは、大体月に一回くらい。月末近い時が多いかな。で、その人攫いをするのが、ドラン商会が雇ってるゴロツキどもだ。

 領主が代替わりして以降、この街での奴隷売買は禁止されたから、ゴロツキどもが捕まえた人を自分で売ってるとは思えない。なにせ、攫った人を売るルートを持ってないからな。間違い無く、裏でドラン商会が関わってやがる」

「なるほど。なら、手っ取り早いのは人攫いのゴロツキに接触することかな。で、捕まったフリをして取引現場に行って、現行犯フルボッコ」

「それは作戦か……?」

「立派な作戦」


 親分くんからシツレイな視線を感じる。何、人のことを残念脳筋のように見ているのか。


「それに、いくらルミナが魔法を使えるって言っても、一人じゃゴロツキに勝てねーんじゃないのか? 敵は一人だけってことはないんだからな。

 真っ正面からの多対一なんて、魔法使いの苦手な戦いだろ」


 魔法を使うには、詠唱をする時間が必要だ。だからこそ、魔法使いは前衛に守ってもらいながら戦うか、魔法戦士職なら戦いながら簡単な魔法を使う。

 あるいは無詠唱を身につけることも可能だが、たとえ無詠唱でも魔法を多数同時に展開するのは難しく、多対一なら、一人倒している間に、他の敵にやられてしまうだろう。


 まあ、普通の魔法使いなら、だけど。


「問題ない。ゴロツキ程度、何人いてもよゆー」

「本当か?」

「何? 心配してくれるの?」

「べ、別に心配なんかしてねーよ」


 親分くんはそっぽを向いて言い放った。やっぱりこの子、ツンデレさんではなかろうか?






 親分くんからもう少し話を聞いたあと、わたしは親分くんたちの家を去ることにした。もうちょっと長居して双子姉妹たちやチビちゃんと親睦を深めてもいいのだが、男の子たちがわたしのことを警戒していてちょっと居心地が悪いのだ。


「ルミナおねーちゃん、もう行っちゃうの?」


 すっかりわたしに懐いてくれたチビちゃんが、ウルウルとわたしを見上げる。

 ぐふっ、可愛い……。


「親分くん、この子貰っていい?」

「やるわけねーだ……ああ、いや、ちゃんと面倒見てくれるなら連れてって構わない」

「意外。いいの?」

「こんなゴミ溜めにいるより、あんたについて行ったほうが、チビも幸せだろーさ」

「そう。チビちゃん、わたしと一緒にくる?」

「にゃ?」

「三食昼寝におやつ付きで面倒見てあげるよ」

「おやつ! おやびんたちも一緒?」

「俺たちゃいかねーよ。チビだけだ」

「にゃぅ〜……、ならいい……」

「残念。好かれてるね、親分くんたち」

「「チビちゃん!」」

「けっ。付いてきゃ、贅沢な暮らしができるのに。バカなやつだ」


 双子の姉妹は感極まってチビちゃんに抱きついた。

 反対に、親分くんはバカにするように悪態をつく。けど、親分くんの耳もちょっと赤くなっている。やっぱり親分くんはツンデレさんだ。

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