風はただ
それは紺碧の夜
さざ波が遠くから
近づき
銀色に光る泡となった
会いたい人がいる
わたしの空洞を
そのまま影に
落とし込み
砂浜に置けばいつか
海は拐ってくれるだろうか
ここと言う場所は
ただ外側から
海を眺めているに過ぎず
視線はわたしと
切り離しても切り離しても
細く繋がり続け
無数の記憶から
取り出された景色が
越えられない水平線を保ったまま
広がっている
仰いだ夜空に
砂の数ほどの星が
あったとして
その個々の孤独を測っても
結びつかないから
描き続ける
遠ざかる波を追い
あの仄暗い彼方
冷たさは滲まず
深く色を増し
濃い静寂を敷き詰めた
余りなくすべては
収まらないから
耳をすませ
聞いていた
漏れ出づる呼吸の
一際熱い音が
波と被さり
波は風と
そして風はいつしか
言葉のない
沈黙の沖へと
渡り
風はただ
そこを
撫でるように
通りすぎるだけ