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コールオブマイソロジー  作者: エラー娘48
第一章 こんな主神は嫌だ
1/10

プロローグ

久しぶりの投稿です。

ラストマイソロジーの原案を大幅に修正し加筆し続けて、結果何年も上げられなかった作品です。

稚拙ですが見て頂けると幸いです。

【アウトソース】

 “業務”の“一部”を、他の“業者”などに“業務委託”すること。

 “アウトソーシング”

 ───ウェブリオより───


 異世界モノのに当てはめるとこうなる。


 業務の一部を、他の“異世界の人間”などに“業務委託”すること。


 その仲介役に神様が間に入っているかともかくとして、こうなってしまうのだ。


『異世界の期間英雄・期間使徒専門の求人専門情報サイト』

※選考会参加報酬・召喚祝いにSR(スーパー“アレ”)が貰える!!

※選べる三つの特典【宿泊費無料】【食事補助】【四属性の初期魔法のうちどれか一つプレゼント】

※初期装備品は現地で支給されます。

※赴任旅費と初期必要経費は、現地の貨幣で支給されます。


【待遇】契約期間6カ月満了の際、報奨金とは別に日本円で100万円が支給されます(規定あり)。更に更新の際には慰労金が日本円で支給される場合もあります。

【手当】討伐手当・赴任手当・経験者手当・クエスト遂行手当・経験者手当等が、報奨とは別に支給されます。


※尚、上記の一部内容は召喚先の各国によって若干の差異がございます。



 サイトでアルバイトを探してエントリーした結果、このような紹介メールが送られてきた俺は、どうすればいいのだろうか?

 高校生である俺とすれば学校を休んでいるわけにもいかない。


 そんなことを考えつつそっとノートパソコンを閉じようとした時、キーボードが操作されているわけでもないのに、画面の中でいつの間にか俺の個人情報を勝手にエントリーシートに打ち込まれていく。


 慌てて俺は電源を切ろうとするが、電源は落ちることなく登録が完了すると同時に画面から眩いばかりの光が漏れ出し、俺はいつの間にか見知らぬ会場で目を覚ますこととなった。



 先ほどまで自室にいた筈なのに、ここは見覚えのないホテルの会場のように見える。


 周囲には個別で面談を受けている様々な人達がいた。


『それでは志望動機からお願いします』

 パーテーションで区切られた一つ一つの面談席で、志望者が面接官とやりとりを行っているのが見えた。

 俺はというと名前が呼ばれるまで待っているかのように、何故か後ろのパイプ椅子の席で大人しく座っているのである。

 自分でも非常にびっくりである。

「楓さん。嵯峨楓さん」


 名前を呼ばれていることに気が付いた俺は、声の下方向へと視線をゆっくりと向けると、そこにはバインダーを持ったブルーブロンドの女性が立っていた。

 高身長でスーツが似合う、実にキャリアウーマンと言えるショートヘアー美人だ。


 俺は呼ばれるがままに彼女に促され、面談席に無意識につくと彼女はファイルを開きながら俺に一つ一つ質問をしてくる。


「好きな食べ物は?」


 好きな食べ物って何か関係あるの?

 通常であれば志望動機とか聞いてくると思うんだけど。

「えーと、祖母がつくったもつ煮です」

「なるほど。カレーライスが好きと」


 無表情で無感情な声音の彼女だけれど、一切こっちに視線を向けることなくファイルと記入事項への記入を淡々と行う。

「いや、もつ煮」

「それでは次の質問。聖剣と魔剣ならばどちらが好きですか?」

 全く俺の言葉を聞いていないばかりか、次々と変な質問ばかりしてくる。

 しかもツッコミ役が誰もないないので正直どうしていいかわからないんですけど!

「いや、まあどちらかというと聖剣ですかね」

「そう。もつ煮込みが好きなのね。聖剣祖母のゾウモツニコミ希望と」

 そんな聖剣は無い!

 むしろそこで祖母の伏線使い切った!


「さっきから質問と答えがかみ合ってないんですけど」

「噛み合っているわ。もつ煮込みの触感が丁度いいくらいに」


 無表情ながらも、自分で上手いこと言ったって感じがプンプンしている。

 なんだこの茶番は。


 そもそも何で俺はここにいるのだろうか?


 周囲を見ても誰もが当たり前のように面接を受けているのだ。


「ここは世界と世界の間。言うなれば英雄の卵が集う場所であり、私達は戦場となる世界へ送る英雄の卵を集め、選定し送り出す役目を持つ者。言うなればここはヴァルハラで私達は戦乙女(ヴァルキリー)。そしてあそこの奥で偉そうに椅子に座っているチビの給料泥棒(オーディン)みたいなのが、総責任者の主神(あほ)というところかしら」


 片目眼帯の少女が物凄い勢いでこっちを睨んでいるような気がする。

「名乗っていなかったわね。私は貴方の担当官。ヴェロニカ=ヴァレンタイン。向こうの世界で貴方をサポートするのが仕事。と言っても、元は私達は貴方達と同じ英雄の卵というべきかしら。私と貴方の関係を言い表すなら・・・・・・主人(わたし)奴隷(あなた)こほん・・・・・・・主人(マスター)英霊(サーヴァント)みたいな感じかしらね」


「明らかに最後の言葉はどっちでもいろんな意味でアウトだからな!」


 言い直したつもりで全然直ってないばかりか、諸所からクレームがくる問題発言である。


 あれ、そう言えば他にも変なルビ変換があった気もする。

 バカバカしい話に付き合ってられないと、俺は椅子を立ち上がった。


「悪いけど、このまま貴方を返してあげてもいいけれど、それだと損するのは貴方よ」


 そう告げる彼女は、俺の前にタブレットを出した。

 それはタブレットと言うには映画の小道具のように、外装が若干神々しいデザイン。


「どういう意味だ?」

「貴方は何で自分達がここにいるのか聞いて無かったわね。貴方達がここにいるのはこういうことよ」


 タブレットに動画が映し出されると、俺が病室で家族に囲まれながら息を引き取る姿があった。


「俺の死ぬ映像か。良く出来た映像だ」

「これは貴方が元の世界に戻った際に起る未来の話。それも近いうちに。なので私達は選択肢を用意してあげているの。もしここで契約すれば貴方は生き延びる。でも断れば近いうちに死ぬわ」

「死因は?」

「さあ。禁足事項です」


 全く愛想も無い無表情で、本来愛想のある少女が口にする言葉を躊躇うことなく口にするヴェロニカ。


 きっと禁足事項でも何でもないのに言ってみたかっただけだろうな。


 断るべきか悩んでいると、


「契約期間は?」

「最初は半年間。でも半年間何もせずダラダラするようだったら契約はこちらから打ち切るわ。延長に関しては個人の自由だけれど、もし何かの偉業を成し遂げることが出来れば、偉業の度合いにもよるけど、最高の褒章では願いを一つ叶えることが出来るわ。まあ3年間生き延びてそれなりに成果をだしていれば、こちらがランダムで提示した貴方の中の願いをどれか一つ叶えてあげる。それと契約期間中は向こうの世界の口座にお金がちゃんと振り込まれる。命の危険にさらされる契約だけれど、それに見合ったものである筈よ。ちなみに元の世界へ戻った時の時間軸に関しては心配しなくてもいいわよ。どう?」


 色々稼げるばかりか元の時間軸で戻れるというのも悪くない。

俺は一応確認する。


「6か月後に元の世界で死ぬってことは?」

「ここで成果を出した人は提示された死の運命からは逃れられるわ。戻って1カ月は無事よ。その後に別の死の運命が提示される可能性は無くは無いわ。それは個人によって様々。その時は一カ月後に運が良ければまたここに来れるかもね。一応経験者は候補として優遇されるわ」


 それを優遇と呼べるかどうか疑わしいものだけれど、これがもし夢じゃなかったらきっと俺は死んでいるのだろう。

 もし夢だったとしたら、契約しても何も問題ない筈だ。

 そして夢じゃなかった場合、契約した後に俺に待っているのは過酷な冒険か。


「乗り気はしないが選択肢はなさそうだ。わかった。契約しよう」


 そもそも選考会となっている筈なのに、今思えば既に俺が内定しているような話し方だった気がするが、俺の思い過ごしだろうか?


 何にしても俺はバインダーに挟まれた契約書にサインをすると、契約書が発光し燃えるように消滅した。


「契約は成立。果たされることを祈るわ。嵯峨楓」


 そう言って彼女は悪手の手を差し出し、俺はその手をゆっくりと握ろうとして、


「うわああああああああああああああああああああああああ」


 突如床が開いて真っ逆さまに落ちたのだった。




 

 顔に葉っぱが乗っかっていて、起き上がると雑草の絨毯が広がっている。


「いつまで寝ているのかしら」


 背後から聞こえた声に振り返ると、そこには純白のフードローブを身に纏い、その下に軽装に身を包んだヴェロニカが立っていた。


 白の膝下までの厚底タイプのロングブーツに、黒のニーハイの組み合わせは、己の美脚に自信があるからだろう。

 身長175はある身長が185近くにまでかさ増しされている分、若干威圧感を感じるし、見下ろされている感が半端ない。


 かくいう俺の身長は169しかないので、非常に悔しい気分である。


「えと、ここは・・・・・・」

「ラストマイソロジー。貴方がいた世界のVRMMOゲームと酷似した世界で、ゲームのシステムの大半が実在する世界。言うなれば、この世界のシミュレーション用にゲームが造られたと言うべきかしら」


 彼女はそう言って空を指さす。


 空には普通は存在しないであろう翼竜の類が、群れを形成して飛んでいた。


「ワイバーン?」

「そうね。貴方のVRデバイスのデータを元に、この世界をランダムで選ばせて貰ったわ」


「えーと、つまり俺はこの世界で何をすればいいんだ?」

「順番に説明するわ。まず貴方はこの世界で冒険者の身分を得る。その前に貴方達期間限定の転移者をダイバーと言うのだけれど、現地人の間ではその存在は異世界人としてにわかに知られているわ。でも自分からは明かさないことね。面倒になるから」


 彼女は事務的な感じで淡々と俺に説明を続ける。

 まさにキャリアウーマンという風格が出ているのだけれど、俺は若干苦手意識を感じる。

「さてここまでで質問は?」

「理解出来た。続きをどうぞ」

「理解が早くて助かったわ。私、頭の悪い人生理的に苦手なのよ」

 無表情で無感情な声音の彼女の毒は、きっと矛先を向けられた者にとって物凄く効くだろう。

 男なら特に自分に自信を無くすかもしれない。


 何せ彼女は特にその毒の威力を底上げする外見的美しさを持っている。


 内面はどうか知らないけどな。


「ちょっと待ってて頂戴」



 説明を続けようとしたところで彼女は突如空を見上げた。


 空にはワイバーンが飛んでいる以外、特に変わったことはない。

 大自然の上に広がる青空は・・・・・・・・・・なんか降ってきた。



「いいいいいいいいいいぇええええええええええええええええええ」


 

 物凄い衝撃と土ぼこりを上げ、地面に突き刺さらずに砕け散ったそれは、もはやグロテスクというか・・・・・・・

「待たせたわね。彼女はオーディン。貴方に授けるSR(スーパーアレ)な特典よ」


「見事に血肉まき散らして死んでるじゃん」

「大丈夫よ。上空で一度ワイバーンに当て逃げされているから、落下速度の計算からして十分生存可能領域よ。こう見えて彼女砕け散ったら凄いのよ?」


 脱いだら凄いんです的なノリで言われても困る。


 そうして暫くすると血肉が光の粒子となって消えて、いつの間にか眼帯をつけた少女の姿になっていた。


「死ぬかと思った! くそ! 保険屋に言って当て逃げしたワイバーンからふんだくってやらないと!」


 彼女のコメントに対して不毛なツッコミは止めよう。

「はぁ・・・・・・そう言うわけで私達ヴァルハラは貴方のサポートをするのだけれど」

「ちょっと待ってくれ! オーディンって言ったら主神なんだよな! そんな凄い存在が俺と一緒に来るのか!?」


 俺の言葉を聞いて少女ことオーディンが眼を輝かせる。


「ふははははは! ありがたく思うがよい!」


「彼女はあれよ。ミーミルの知恵の泉を呑んで知識を得ようとしたら、脳みその容量が100MGしか無くて、処理負担が追い付かずにパーになったの。全知の高座(フリズスキャールヴ)システムを使わせても電卓代わりにしか使わないし。そう言うわけでちょっとアレだけど面倒見て頂戴」


 色々と残念過ぎる主神。ヴァルハラでも持て余されて追い出されたパターンなのに、彼女は全くそれに気づいていない様子だ。


「えーと、面倒見手当って」

「あるわよ。月300万が向こうの世界の口座に、それとこちらでかかる必要経費は随時支給するわ。その際は領収書出して頂戴」



 なんだ。そんなに手当が出るのかよ。しかも半年で1800万円!


 田舎の実家を飛び出して仕送り無しだったけれど、いきなり勝ち組人生じゃないか!



「・・・・・・チョロいわね」

「何か?」

「いいえ。では最初の街へ行き冒険者登録をするところから始めて頂戴。ちなみに既に査定は始まっているわ」


 そう言われた俺は自分の格好が私服ではなく、皮鎧などの装備に身を包んでいることに気づいた。


 これが最初の初期装備品ということか。

 早速俺は戸惑いながらも、ゲームのように呼び出せるマップを確認し、街と思われる場所を見つけてそこへ向かって歩き出そうとする。

「待ちなさい」


 そう言われて足を止めると、彼女は小さな袋を俺に差し出した。


「赴任旅費の1万ベルク。それと初期経費分として5000ベルク。合わせて1万5000ベルクのお金が入っているわ。特典はどうする?」

「特典? ああ、そう言えば宿泊費無料と食事代無料だっけ。それと初期魔法が貰えるんだっけ?」

「よく考えて選びなさい。宿泊費や食事無料の特典は、確かに宿や食事を出している所では私達が代金を建て替える。でも、それが無い地域では意味が無い特典よ。更に食事は1日3食で、1食あたりの金額はその地域の平均的な1食分として計算される。魔法は火水土風の初期魔法の4つのうちのどれか」


 改めて説明された俺は、よくよく考えて魔法を選んだ。


「水魔法だ」

「・・・・・・一応聞くけどどうしてかしら?」

「自分の衣食住は自分で何とかしてこそ冒険者なんだろ? それに水魔法を選んだのはいざ喉が渇いた時に飲み水を出せるんじゃないかって。ほら、行く場所の水って実際飲めるかどうかわからないだろ?」

「なるほど。よく考えているのね。確かに貴方の推測も間違っていないけれど、水魔法だって魔法。自分の魔力が無ければ生み出せないし、魔力を消費して肉体の生理機能を補う考えは少しばかり危険よ。何故ならお腹が空いたからって自分の肉を食べたりしないでしょう? 乾いた喉を潤す程度であれば多少は問題ないけれど」


 確かに。せいぜい食べれても目くそ鼻くそくらいだろう。

 いや腹減っても食べないけどさ。


「なるほど。それじゃあ水じゃなく火だな。火があれば肉は焼けるし、水を煮沸消毒できる」


 そう告げた俺に彼女は無言で革袋から水晶を取り出した。

「これに触れて念じなさい。それだけで覚えることが出来るわ」


 言われるがままに水晶に触れると、見知らぬ知識が思考に流れてきて、それが止んだ直後に水晶が割れて、光の粒子となって消滅した。


「これで使えるようになったんだ?」

「ええ。でも貴方のレベルは1。大して魔力も無いから街へ着くまで試し打ちでも使わない方がいいわよ? まあどうしても言うなら、そこにいい的があるわ」


 そう言って彼女が指さした先では、


「あっはっはっは! モグラだモグラだ! こいつ食えるかなぁ?」


 無邪気に土から出て来たモグラと戯れている少女。


「まず右手を構え、深呼吸しなさい。大丈夫、引き金はちゃんと二回引くのよ」

「いきなり俺を主神暗殺の犯人に仕立て上げる気かよ!」

 あぶねえ。


 早速試しで使ってみようとしたところで忠告され、その矢先に主神を的にさせるとは。

 

大体、いつなんどき危険な目に遭うかわからないのに、なけなしのMPを無駄に消費している場合じゃない。

 俺は忠告に従って街に着くまでの間、慎重に周囲を警戒しながら歩き続けたのだった。




「貴方って運が良いのか悪いのかわからないわね」


 そんな一言を口にするヴェロニカやオーディンの前で、俺は剣を構えていた。


 目の前にはゴブリンと思われるモンスターが一匹、さび付いた剣を弄ぶように構えながら俺達を威嚇している。


「ちなみに加勢は?」

「レベル10までは助言サポートと、担当ダイバーが死なない程度の戦闘介入は行うわ。ちなみに生き物を殺した経験は?」


 そう問われた俺は小さく首を横に振る。


「・・・・・・実家は道場も運営している大きな財閥。でも色々と俺は駄目な部類で放り出された。そのうちの一つが殺生が苦手なことかな」


「・・・・・・殺生が苦手が駄目な部類って時点で、貴方の家が異常であると思うのだけれど」


 言うな・・・・・・・俺も少し気にしているんだよ。だから実家を飛び出したんだ。


 まあ飛び出した理由は他にもあるけどさ。


 ゴブリンの前で雑談をしていたら、その隙をついて襲い掛かられた。

 様々な達人クラスの人達と立ち合いしていた経験のおかげか、ゴブリンという生物の動きに俺は難なく対応することが出来た。


 しかし、ここは地球とは違う異世界ラストマイソロジー。


 骨皮みたいにやせ細った体躯の癖に、ゴブリンは意外と筋肉があるのか、足のバネの力、所謂脚力が見た目よりもあり、その動きに俺は一瞬驚いた。



 でも武人クラスの人間なら兎も角、殺気も隠さない生物的本能駄々洩れの動きは、素人というより野生の獣。


 例え小さな人型の体躯であろうと、その瞳の動きは真っすぐに獲物のどこを攻撃するか丸わかりだった。


 俺は持っていた剣でゴブリンの剣を受け流すと、そのまま蹴り飛ばして即座に後ろに回り込み、噛まれないように瞬時に首に腕を回すように頭部をホールドすると、そのまま両手で引くように首の骨を折って絶命させる。


「意外と首にも筋力があるけど、成人男性ほどじゃない。耐久値は低いんだな」

「そりゃゴブリンだもの。それにしても剣で斬り殺さなかったのは何故?」

「武器だって万能じゃないし油で切れ味が落ちる。メンテナンスの費用が掛かるなら、それを見越して節約した戦い方をするのも立派な作戦だろ?」


 そう告げると彼女は納得したように頷いた。


「・・・・・・この子当たりかも」


 何やら呟いている彼女に不思議な顔を向けると、


「どうした?」

「いいえ。一応今の戦いも査定に入っているわ。この調子で頑張りなさい。それと私達のような担当者の戦闘介入の例を一つ。それはダイバーによる明らかな犯罪行為があり、犯罪者ダイバーとの戦闘が行われる場合のみ、介入条件は適用されないし、カウントもされない。覚えて置いて。それとそう言ったダイバーらしき者を見つけた場合は、一人で何とかしようとせずに必ず私に報告すること。いいわね?」

「わかった」


 俺は忠告を聞き入れ再び街へ向かって歩き出したのだった。



 そうして街にたどり着くと、衛兵によって止められるものの、ヴェロニカがいたことで難なく街の中へと入り込めた。


「通常ならば通行証や身分証明が必要なのだけれど、一応私達担当官はかつてのダイバーであり冒険者。担当者は私以外にもこの世界では様々な職業に扮して潜り込んでいるから。今回は私の顔で入れるけど、次からは冒険者の身分証で通行できるから覚えておきなさい」


 衛兵はヴェロニカの顔を見るなり、仰々しいほどの丁寧な敬礼で彼女を迎え入れていた。


「ちなみに余談だけれど、契約が終わっても帰還せずに留まることも出来るわ。更に帰りたいなら契約終了後の1カ月以内なら担当官に言えば帰れる。それを過ぎると二度と帰れないわ」


 そういう選択肢があることも覚えて置いてと言われた俺は、一応頭の片隅に入れておき、ヴェロニカの案内のもとギルドへと向かう。


 ギルドに向かうまでの街の通りなのだが、石畳と木組みの家が印象的で、明らかに文明が違うのだと実感する。


 文明レベルなんてぱっと見ではわからないけれど、そんな細かいことよりも、活気づいた街の人々に目が行ってしまった。


 道端に店を広げる様々な店主達に、それらを買いに来る交易商人らしき人や、俺みたいな冒険者風の格好をした人達。

 その光景だけでハリウッドのファンタジー映画のワンシーンを彷彿させる。


「これがファンタジー世界の街の光景か」

「これは良い方よ。これとは別に酷い場所はいくらでもある。それこそ街の中でも命の危険はいくらでもあるんだから気をつけなさい。こんな風に」


 突如俺にぶつかりそうになった少年の腕を、ヴェロニカが掴んで軽々と持ち上げた。


「ひいいいいい」


 一応俺も何となく少年が俺目掛けて、素知らぬ顔で近づいてきているのはわかっていたけれど、今のこの状況は正直シュールな光景である。


 衆目に晒されながらヴェロニカは無表情で少年の顔をみやると、


「スリは良くないわ。今回は見逃してあげる。次は無いわよ」


 彼女にそう告げられ地面に優しく降ろされた少年は、顔を青ざめさせながらもこくこくと頷いて、その場から逃げ出すように走り去っていった。


 一見周囲にはヴェロニカが怖い存在に見えただろうが、彼女はこっそりと常人には見えない俊敏さと手際の良さで、少年のポケットに銅貨を数枚いれていた。


 まるで手品師のような早業だが、そんな彼女の優しさに敬意を表し、俺は特にそのことについては触れないことにした。


 でも暫くして。


「盗み食いは良くないわ」

「お慈悲をおおおおどうかお慈悲をおおおおお」

 

 アイアンクローを部下にかまされるオーディン。

 露店の串焼きを盗み食いしてほんの1秒で捕まっていた。


 何してんだよお前。


 そうして様々なトラブルがあったけど、どうにかお目当てのギルドらしき建物にたどり着いた時だった。


「入る前に一言忠告しておくわ。一応私は貴方の担当であるけれど、貴方が誰とパーティーを組もうと構わない。貴方と同じように他のダイバーにも担当者はついているけれど、向こうも同じ条件よ。つまり何が言いたいかというと、もしパーティー内でトラブルが起こった場合、担当者は犯罪に関わること以外は関知しないわ」


 そう告げる彼女に俺は頷いた。


「えーと、こいつがトラブルを起こした場合は?」


 俺が隣のちっこい主神を指差すと、


「失礼な奴だな! 私が何か」

「担当者は関知しないわ」

「えーと」

「・・・・・・楓。この国には奴隷制度というものがあるの。それ以上は言わないわ。わかるわね?」


 無表情の瞳で俺に何かを訴えかけてくる極悪担当者。


・・・・・・つまりは売って来いと。

 


「出来ればそうなる前に返品したい。俺だけ滅茶苦茶外れだろ」

「そう言わないの。その為の面倒見手当じゃないの。不満?」


「一つ聞く。アンタが俺の立場だったら?」


「・・・・・・もう少し我慢して頂戴。上に掛け合って譲歩を引き出すから」


 彼女も俺の立場だったら不満らしい。そんなもの押し付けてくるんじゃねえよ。


 命の危険はらんだこの世界で、こんなとんでもない奴のお守りなんか正直していられないのが本音だ。

 月々300万と必要経費が落ちるのは美味しいけど。


「一応話しておくけど、担当者は遠隔地において貴方達を監視することが出来る。同時にダイバーと担当の間で出来る個人通信方法を有しているわ。その情報は別の担当者やダイバーに共有されることは無い。通信は少し試してみましょうか」


 そう言って彼女は空中で手をヒラヒラさせると、突如俺の視界にホログラムのようなゲーム画面に似たウィンドウが出てくる。


 そこへコールの文字が出ていたので、ヴェロニカに促されて恐る恐る触れてみると、彼女の顔と背景がそのままウィンドウに表示された。


「なるほど。ゲームみたいだな」

「言ったでしょ。システムの大半がゲームと酷似しているって。そう言う風にサポートが用意されているの。最も仕組みは明かせないけれど」

「何となくわかった」



 そうしてギルドの中に足を踏み入れると、そこには多くの冒険者達がギルドを訪れている光景を目にする。


 何とも独特な雰囲気で、入り口の扉を開けた俺に誰もが一瞬注目する。


 いや、俺じゃなくきっとヴェロニカを見ているのだろう。


ヴェロニカは真っすぐにギルドカウンターへ歩み寄ると、受付の女性に話しかけた。

「久しぶりねイザベル。今日は新人の登録をお願いしたいのだけれど」

「お久しぶりですヴェロニカさん。登録ですね。つまり彼は例の?」

「そういうこと。なので彼に関しては“いつもの”形でお願いするわ」

 小さな声でのやり取りをしている間、終始男性冒険者達から視線を浴びているヴェロニカだけれど、すぐに受付のイザベルが俺の名前を呼んだ。


「カエデ=サガさん。登録をしますのでこちらへどうぞ」


 促されるままに俺はイザベルの後ろについていき、不思議な道具が置かれたカウンターの前に立たされる。


「えーと、これから何を?」

「これからカエデさんにはこの道具に触れて貰います。すると奥にある道具に情報が行き、その中からカエデさん専用のカードがギルドカードが発行されるんです。ギルドカードは複製・偽造不可能でして紛失した場合の再発行手数料がかかりますのでお気を付けください」


 注意事項を告げられた俺は早速道具に触れようとした時、ヴェロニカが何やら小さな石をイザベルに渡す。


「すいません。これをセットさせて頂きますね」

「それはなんだ?」

「これは“特典”ですよ。良いスキルが得られるといいですね」


 そう告げられた瞬間に俺は納得する。

 そう言えば得点でSRスキルが与えられるとあったけれど、このタイミングで付与されるものだったのか。


 仕組み的には理解できるけど、この街までたどり着けなかったダイバーは不遇過ぎる。

 万が一天災なりなんなり、担当でもどうにも出来ないような危機に直面しない限り、そういうことはないだろうけど。


 俺は一瞬ヴェロニカの顔をみると、


「良かったわね。相手がゴブリンで」


 この女、まさしく俺の思考を読んでいるらしい一言を口にしていた。



 そうして俺は道具に触れて、発行されたカードを確認すると、


【カエデ=サガ Lv2】【スキルポイント 20P】【職業 無し】

【スキル 無法者(デスペラード) Lv1 レアリティ R(1/1) 効果:規律を重んじる相手に対し攻撃威力+10パーセント。精神耐性+10パーセント。法則を捻じ曲げるReアクセラレート発動。ロストアルカナの23番目】

【スキル2 ファイア Lv1 レアリティ C 効果:初級の火属性魔法。威力はE】

【スキル3 コールオブマイソロジー  詳細??? 使用条件???】


 ゴブリンと戦闘したことでレベルが上がっていたらしいのだけれど、SRスキルが貰えるはずが、何故かただのレアだった。


 愕然としている俺にカードを覗き込むヴェロニカが、俺のカードを取り上げてまじまじと見る。


「運が悪かったわね。必ずSRスキルが貰えるわけでもなければ、ユニークを引き当てる幸運者もいるのよ。でもこれ、ただのレアの割には一つしかないスキルね。恐らく貴方の資質に合わせた固有スキルかもしれないわ」


「どういうことだ?」

「スキルの覚醒には様々な方法があるのよ。眠っている資質を呼び覚ます形にするか、元々持っていないスキルを与える方法がある。後者は同じものを持っている可能性があるけれど、前者の場合、一生目覚めない可能性のスキルを引き当てる場合がある。覚醒ってホイホイ出来るものじゃないから、こういった場合のスキルってレアでもSR並みの価値があることも多いのよ。最もそれでも価値は価値。熟練度を上げなければ使い道が困るものよ。とにかくレアだからって悲観しないことね。だからと言って楽観していい理由にはならないけど」


「お前は俺を慰めているのか、気分を落させたいのかどっちなんだよ」


「まあまあ、それよりも職業を決めましょう」


 職業決めにさっさと移ったせいで肝心のもう一つのスキルについて聞きそびれてしまった。

 まあいいか。


 イラついてヴェロニカに噛みつく俺に、イザベルが話題を逸らそうと割って入って来る。


 イザベルの説明では職業もまた資質による影響を受けるらしい。


「えーと俺が成れる職業ってなんだ?」

「カエデさんの場合は・・・・・・軽兵(ライトソルジャー)冒険者(チャレンジャー)魔法使い(ウィザード)しかなれませんね。気を落さないでくださいね」


 何だよ軽兵って・・・・・・・様々な異世界モノを見て来たけど、軽兵なんて聞いたことも見たことも無いぞ。


「本当運が無いわね。職業も一般以下のものなんて。通常の最低値とされる職業は冒険者(チャレンジャー)。他の職業と違い様々なスキルを取得できるけど、派生上級職は無い最弱職。一方軽兵は身軽さを売りにした後衛から前衛までこなせる職業だけれど、扱える武器が様々な分、どれも中途半端になりがちな職業で、言ってしまえばどのパーティーからも敬遠されがちな職業よ。でもそれは初心者ならの話。熟練者なら引く手あまたの職業だけれど、そもそも軽兵で冒険者をやっている人はほぼいないわ」


「えーと・・・・・・軽兵だと魔法は覚えられないのか?」

「覚えられるわよ。でも魔法使いなら受けられる職業補正が受けられないわね」

「いや。まあいいや。様々な武器を扱える利点があるなら、軽兵でかまわない」


「本当に宜しいんですか?」

 心配そうに尋ねてくるイザベルに、俺は頷き返す。

「レベルが上がれば転職できる幅も広がるんだろ?」

「保証は出来ませんが、現在提示されている職業には転職出来ます。まあ冒険してみて様々な職業を試してみるのも手ですからね」


 この時のイザベルの言葉は、今の俺の状況に何の慰めにもならなかった。


 何せ周囲の冒険者の冷笑が向けられているんだから。


こんな派遣は嫌ですね・・・・・・でも行ってみたい。

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