欠乏症
私はただただ、目を見開いた。
「うそ…でしょ」
震える声でそう呟く。
スマホを持つ手が震えている。
なぜって、なぜかって、それは。
「ブロック…されてる」
カツンと、床に落ちたスマホが音をたてた。
✻
目をうろうろと泳がせながら、私はスマホをそっと拾った。
しかし、何回見たってその事実は変わらない。
君の投稿が見れなくなっているのは、
私が送った言葉が未読のままなのは、
紛れもなく私の目の前にある。
「そっか…そう、だよね」
分かっていたことだ。
君に必要とされていないことなんて。
君が私のことをなんとも思ってないことなんて。
私に好意がないことなんて。
けれど。
「今まで…拒絶されたことって、なかったよね」
色々と言いながらも、私たちは一緒にいられていた。
私の脳裏に浮かぶのは、私たちの繋がりだったゲーセンの記憶。
私が一緒にゲームをやろうと誘えば、彼は無言のまま応じてくれた。
何回も、何回も。
言葉はなくても、私と君の焦点は確かに合っていた。
繋がりは細くてもそこにある。
私はそう信じこんでいた。
でも、
「そんなこと、なかったんだ」
あの笑顔はただの気紛れだった。
私と遊んでくれたのは、きっとただ暇だったから。
私に返信をくれたのは何となく。
私をブロックしたのは…私がめんどくさくなったから。
いらない。
いらない。
私は、いない。
彼の中に、いない。
何かが私の頬を伝った。
私は知らない。
知らない。
もう何もしない。
何もできない。
彼には、会えない。
「ふっ…あっ………は、はははっ…!」
乾いた笑みと共に、冷たいものはポタポタと落ちる。
私の中から、彼は消えた。
いない。
いないんだ。
私が好きだった彼は、いない。
けれど、私の心は彼を求めている。
彼が欠乏していると訴えている。
私の手の中では、私が彼に送った、
彼に届くことのなかったメッセージが、映し出されていた。
『お誕生日おめでとう!!』