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推しが押してくる

推しが押してくるー番外編6ー終わらない愛(怪談)

作者: 神尾瀬 紫

はじめましてさんも二度目以上ましてさんもこんにちは。

神尾瀬紫です。


季節外れのホラー(泣)苦手な方はお気をつけ下さい。

そりゃ、書き始めたのが8月の下旬じゃぁ季節外れにもなりますよ(笑)


叶多が頑張ってます。



「ふわぁ。着いた〜。」

 エンジンを止めた紫づ花が、大きく伸びをする。

「お疲れ様。」

 助手席の叶多も一緒に腕を伸ばした。

 ただ車に乗っているだけでも疲れるものだ。


 8月の後半。叶多の連休を利用して、森の中のペンションに来た。

「ああ、なんだか懐かしい感じがする。」

 山の中で育った紫づ花には豊かな濃い緑は馴染み深いものだ。

 逆に、港町で育ち東京に出て長い叶多には、新鮮な風景だった。

 まずは、深呼吸。

「ほら、チェックインしよう。」

「はーい。」

 シルバーのレンタカーのトランクからお互いの荷物を出し、玄関に向かう。久しぶりに出したゴシックなデザインのキャリーカートが砂利に車輪を取られて跳ねるので、玄関前のアプローチまで持ち上げて歩く。

 薄ピンクの壁の尖った屋根を持つその建物は、西洋の街並みに馴染むような可愛らしい外観だった。

 名前は〈ペンション森の泉〉

 玄関に入ると、空気が変わる。

 太陽の角度で少し薄暗いロビーは、エアコンが効いているのかヒヤリとしている。

「ちょっと肌寒いかな。」

「そうか?暑いよ。」

「叶多さん暑がりだった。」

 そんなことを話していると、カウンターに男性が出てきた。

「いらっしゃいませ。おまたせしました。廣崎様、2名様ですね。」

 50代くらいのダンディな笑顔が迎えてくれる。

 長めの無精髭に、白髪混じりの長めの髪。赤いチェックのシャツがこれ以上ないくらい“ペンションのオーナー”感を醸し出している。

「オーナーの森泉と申します。何かありましたら遠慮なくお申し付けください。」

 そう言って、部屋の鍵を渡してくれた。

「なんで名乗る前に私達の名前がわかったんですか?」

 紫づ花はそこが不思議だったらしい。確かに奥から出てきていきなり名前を当てられた。

「本日のお客様が、年配のご夫婦二組とお子様連れのご家族一組と廣崎様でしたので。」

 叶多と紫づ花が『ほぉぉ〜』と頷く。

 部屋の名前は“あさぎり”。宿泊する部屋はすべて二階にある。

 二人が階段を登ろうとした時、声が追いかけてきた。

「あの、この辺は野生動物が多いので夜は物音がするかもしれませんが、気になさらないでください。」

「はい。ありがとうございます。」

 にこやかに返事をして、部屋を目指した。


 四部屋のみの小さなペンションは夫婦経営。多分夕食の時に奥さんを紹介されるのだろう。

 階段を上がったところ、正面が共用のトイレと浴室。お風呂は時間で区切られて男湯と女湯が切り替わるらしい。

 左手に曲がる。

 手前に“さざなみ”奥に“あさぎり”

 振り返ると2つの扉に“いざよい”と“そよかぜ”のネームが見える。

「・・・そよかぜあたりで力尽きた感じがするな。」

「そういうこと言っちゃダメ。」

 紫づ花がたしなめながら、あさぎりの扉を開ける。

 ザッと風が通り抜ける。

 掃除をした後だからか、開け放した窓から外の景色が見えた。

 お盆過ぎとはいえまだまだ残暑厳しいが、この風は気持ちいい。

「お。駐車場の上の部屋だ。あの窓はこの部屋だったんだな。」

 網戸越しに見下ろすと自分達が乗ってきた車の屋根が見える。

 そして二人は同時にはるか前方に目を移した。

「あっちの方に、森泉峡谷があるんだって。」

 紫づ花が青々と茂る森の向こうを指差した。

「森泉峡谷の近くで森泉さんが経営するペンションの名前が森の泉とか。」

 叶多がまたクスクスと笑い出した。

 紫づ花はさっそく荷物を解き、持参したお菓子や飲み物をテーブルに出していた。

 振り返りその姿を見る彼の表情は、情けないほどに弛みきっている。

 その時、冷たい風が吹き込んできた。

 叶多は窓を閉めて、お茶の準備が整ったテーブルの脇にあぐらをかいた。


 夕食は全員で食堂でとることになっていた。

 ごく普通の家庭料理。サラダとハンバーグとスープ。そこに近くで採れるという山菜の胡麻和えと自家菜園の野菜の煮物が付き、洋と和が混在する食事はかなり美味しかった。

「さすがペンション経営するだけあって、奥さんの料理美味しかったね。」

 部屋に戻った二人は、食後のお茶を楽しんでいた。

「そうだよ、やっぱり紫づ花の用意するサラダの量は多いよ。一人分はだいたい今日くらいの小鉢でしょ。丼に山盛りって。」

「サラダは美容にいいんだよ。あれだけじゃ食べても意味ないじゃない。」

 少し口を尖らせるのが叶多のツボであることは、紫づ花は知らない。

 ニヤける叶多を前に、扉を振り返る。

「どうした?」

「・・・ん〜、トイレ行きたいけど・・・」

「何?怖いの?一緒に行く?」

「・・・ヘンタイ。」

 ここのトイレは男女共用で、男性用の小用トイレと個室が同じ空間にある。そういう仕様だとわかっていても、たとえカレシだとしても、男とトイレに入るのは抵抗があった。

 覚悟を決めたように、紫づ花が立ち上がった。

 ちょうどその時部屋の電話が鳴った。

 オーナーから、風呂に入れるという連絡だ。

「よし、俺も風呂入ってくるか。」

 叶多も立ち上がる。

 結局風呂の前まで一緒に行くことになった。


「あの子供連れの夫婦、まだ30歳なんだってね。」

 風呂上りの顔のお手入れをしながら紫づ花が苦笑いをしていた。

 その化粧水を叶多ももらいながら、同じような表情になる。

 自分の人生に悔いはないが、40代になってもまだ独身で子供がいないというのはどこか世間に対して後ろめたさがある。それでもだからこそ紫づ花と出逢えたので、結果的には良かったのだけど。

 ていねいに紫づ花に教わったマッサージを施しながら、化粧水を塗りこんでいく。それなりに人前に出ることが多いので顔やスタイルに気をつけてはいたが、びっくりするほど若く見える紫づ花と同じ事をしていたら、少しは若くなったような感じがしないでもない。

「なんか想像できるんだけど。また若く見られたんだろ?」

「うん。まだ若いからこれからでしょって。なんだか本当の歳言いにくくなっちゃって・・・」

『彼とは結婚しないの?』と聞かれたことは胸の内に秘めておく。変に催促みたいになって重いと思われたくない。

「そういえば、その旦那の方が面白い事言ってたよ。」

 念入りに頬のリフトアップをしながら叶多が思い出した。

「さっき話したじゃん?森泉峡谷。あそこってかなり深い谷に小さな橋がかかってるんだけど、そこから飛び降りる人が絶えなくって、けっこう有名なミステリースポットになってるらしいよ。」

 その瞬間、突然紫づ花が背後を振り返った。

 カタカタと窓が鳴る。

 静まり返った部屋の中に、木々の葉擦れの音が響く。

 同時に、どこかの部屋にいる子供たちの笑い声とそれを咎める夫婦の声も聞こえる。

 その声にふと肩の力を抜いた紫づ花が、化粧品を片付けて叶多の横に来た。

 そっともたれ掛かる肩を右手で抱き寄せる。

「・・・今日も線香持ってるんだろ?炊く?」

 寄せられた頭に口をつけて囁くように訊ねる。

 紫づ花は顔を上げて、その唇に自らの頬を押し付けた。

「うん・・・、後で。」

 今はこの方が落ち着く。

 叶多の体温と鼓動と匂いと・・・。

 首にぎゅっと腕を回し、抱きしめた。



 どれくらい眠っただろう。

 紫づ花の意識が眠りの沼から浮上した。

 目は開けず、自分の状況を把握する。

 仰向けに寝ている。左側に叶多の寝息と体温。


 次の瞬間。


 ドクン


 心臓が痛いくらい跳ねた。


 ドクンドクンドクン

 早鐘のように打つ鼓動が痛くて苦しい。

 全身の皮膚がピリピリと異常事態を訴える。

 ザワザワと頭の中で鳴る耳鳴りが反響して、聞こえないはずの何かの声になる。

 この感覚は今まで生きてきた中で3回目。

 小学生の頃に一度。

 5年くらい前に一度。


 怖い。


 怖い怖い怖い。

 目を開けられない。


 何かが・・・



 いる・・・



 突然、


 ドンドンドンドン!


 ドアを力任せに叩く音が響き渡る。


 ガンガンガンガン!


 窓ガラスを力任せに叩く音が重なる。

 一人ではなく、無数のナニカが壁も天井も床もところ構わず叩き始める。

 その音に叶多が飛び起きた。

「な、なんだ!?」

 暗闇の中響く騒音に、部屋全体が揺れているようだ。

(し、紫づ花)

 傍らに眠っているはずの紫づ花を守ろうと腕を伸ばした瞬間、目の前に大きな何かが出現したように弾かれ、叶多の体が吹き飛ばされた。

 壁に背中を打ち付けて、一瞬息が止まる。

「・・・っ!ってぇ!」

 背に感じる壁は容赦なく叩かれて振動で弾かれる。

 両手を前についた彼の目に、異様な光景が写った。


 微かな外の灯りに浮かび上がる紫づ花の輪郭。

 その上に覆いかぶさるような

 黒い、黒い影。

「紫づ花!」

 思わず叫ぶと、その影がこちらを見た。ような気がした。

 途端に衝撃を受けて再び壁に打ち付けられる。

「っぐっ・・・くっそー!!紫づ花!起きろ!!」


 紫づ花は目を開けていた。


 その目の前の影を見つめる。

 重い。

 重くて体が動かない。

 心臓が暴れて激しく酸素を要求しているのに、抑えこまれた肺が呼吸を封じられる。

 浅く呼吸を繰り返し、自分の上の黒いものを凝視する。

 耳鳴りがうるさくて何も聞こえない。

 叶多が何か叫んでいるようだが耳元で騒ぐ何かに邪魔されて聞こえない。


『どうして』


 意味を成さなかった耳鳴りが、突然言葉になった。


『なんでどうして』

『なんでどうして』

『どうしてどうしてどうして』

 悲痛な感情が流れ込んでくる。

 徐々に影が近づき、どんどん重くなってくる。

 このままでは窒息する。


「なんで!こんなうるさいのに!誰も来ないんだ!」

 叶多の目の前で、紫づ花が影に飲み込まれようとしている。

 少しずつ膨張している黒いナニカが、まるで紫づ花の顔を覗き込むように近付いている。

 ドンドンと部屋全体を叩いている音に、違うものが混じり始めた。


 うぉ〜 ォオ〜 オォオ〜 うう〜


 無数の雄叫び、苦鳴、泣き声。

「クッソー!!何なんだよ!!」

 紫づ花の元へ行きたいのに体が動かない。

 心の底から這い上がる恐怖。

 それを吹き飛ばすように叶多が叫ぶ。

 負けられない。負けちゃいけない。

 なにがなんだかわからないけど、ここで彼女を守れなくては自分はここで終わる。

 たった一人、人生で一人出逢えた人を失えない。

 紫づ花を見つめながらもがく叶多の脳裏に、突然閃くものがあった。


(これだけ大騒ぎして壁も窓も叩いて嘆いているのに、なんで入ってこない?)

(壁とかガラスとかなんてこういう奴らにとっては無いようなものだろう?)

(じゃぁこいつらが入れない理由って?)


 その目が、布団を敷くために足元に避けられていたテーブルを捉える。

 二人が使わない灰皿の中に、線香の灰。

 その瞬間、飛び出した叶多がまだそこに置いてあった線香を手にとった。

 火を点けたその束を紫づ花の上に蹲る塊に押し付ける。

「そこから離れろ!!」

 靄のような黒い塊に突っ込んでブンブン振る。

 線香の煙はたゆたうのにその黒いものはなんの変化もない。

「ちっくしょう!なんで!なんで!」

 それでも諦められず他に何も思いつかない叶多が線香の煙を撒き散らす。

 ピクリと紫づ花の指が反応した。

 苦しそうに、指先だけが動いている。

 その手を掴もうと一歩踏み出した彼は、大きな物に躓いて盛大に転んだ。

 おもわずその正体を確認する。

 紫づ花のキャリーカートが転がっている。これに足を取られたのだ。

 そして

 外付けのポケットのファスナーが半開きになっていて、そこから光るものがはみ出していた。

 この薄明かりの中、異様に光っている様に見えるそれは、透明な珠と所々規則的に紫の珠が並ぶブレスレットだった。

(こんなの、持ってたっけ?)

 吸い寄せられるようにそれを手に取る。

 その時。

 頭に閃いた感覚のまま体が動いた。

 投げたブレスレットは紫づ花に覆いかぶさる影に当たり―


 激しい光を発して、パンッ!と砕けた。


『ヒィィ〜〜ィァアァ〜〜〜』


 黒いものが仰け反るように紫づ花から離れる。

 叶多は慌てて覆い被さるように紫づ花を抱きしめ頬を撫でた。

「紫づ花、紫づ花、大丈夫か?」

 急に酸素が入ってきてむせている紫づ花を起こしその背を、ゆっくり撫でながら黒い影を睨む。

 しばらく荒い呼吸を繰り返していた紫づ花が、すっと叶多から体を起こした。

 そして叶多の肩越し、隅に蹲る影の方を見た。

「苦しかったんだね。でも、もう終わったんだよ。」

 その慈愛に満ちた声に、叶多がギョッとして紫づ花を見下ろした。

 その手は震えながら、しっかりと叶多のシャツを掴んでいる。

「だからもう自分を殺さなくてもいいの。自分に似た人を襲わなくてもいいの。」

「え?」

 叶多が息を飲む。

 黒い影はいつの間にか黒い長い髪の女の姿になっていた。

 顔はよく見えない。しかしシルエットだけは紫づ花に似ているかもしれない。

 いつの間にか静まり返った室内。紫づ花ではない女の泣く声がする。

 次の瞬間、二人は気絶するように眠りに落ちた。



 どれだけ眠っただろう。

 激しい鳥の声に起こされる。

 むくりと起き上がった叶多は、ボーッっとしたまま周囲を見渡した。

 ペンションの一室。昨夜ここで泊まった。

 酷い夢を見た。せっかくの紫づ花との旅行が台無しだ。

 すると、窓枠に腰掛けて外を見ている紫づ花がこちらを振り向いた。

「おはよう。散々だったね。」

「ぇ?」

 その悲しそうな笑顔に、途端に夢だと思っていた暗闇の攻防がフラッシュバックしてくる。

 夢じゃなかった。

 叶多は立ち上がり、紫づ花の横に座った。

 窓枠にもたれて外を見る。この先は峡谷があったはずだ。

 紫づ花が、握っていた手を開いた。

 そこにはバラバラになったブレスレットの石。

 朝日を浴びて輝きながら、チャラッと透明な音を立てる。

「これね、母方の祖母の形見なの。母方はなんだか霊感というか不思議な力が強くて、特に敏感でパワーがあるのが祖母だった。」

『特にそういう仕事をしていたわけではないんだけどね』と、紫づ花は懐かしそうに目を細める。

「これ、無くしてたと思っていたのに、ちゃんと付いて来てくれてた。おばあちゃんが守ってくれてたのかな?」

 微笑む紫づ花の目の周りは、泣いたような跡がある。

 紫づ花の腕を引っ張り窓枠から下ろすと、自分の足の間に座らせて背後からギュッと抱きしめた。

 その腕をギュッと抱きしめて、顔を押し付ける。


 紫づ花は夢を見た。

 幸せに微笑み合う二人の夢。

 長い髪をたなびかせたセーラー服の少女が手を伸ばすと、その手をとって微笑む人がいる。

 ずっとその幸せが続くとは思っていなかった。

 いつかは別れなければいけないと思っていた。

 自分たち二人に、一緒の未来はないとわかっていた。

 それでも、その時はまだ先だと、その時には自分の気持ちも離れていて納得できるはずだと思っていた。

 それなのに―

 その人は違う人を見つけて、少女から離れていった。

 一方的に置いて行かれた。

 苦しくて苦しくて苦しくて。

 おかしくなるくらい泣いて。

 あの人がいない今日に希望なんてなくて。

 すぐにこの苦しみを終わりにしたくて。

 少女は峡谷の橋から飛んだ。

 それでも自由にはなれなかった。

 その近くのペンションに旅行に来るカップル。

 とりわけ未婚のロングヘアの女性を見ると自分が重なった。


 今は幸せかもしれないでもいつか裏切られるくらいなら今ここで終わりにしなきゃ―


 同時に


 男と微笑み合う女性の姿は、かつての恋人に重なった。


 誰にも渡したくない。自分だけのものにしたい。最期に自分だけを見て、その網膜に永遠に焼き付けたい。


 ロングヘアのセーラー服の少女は、自分より少し背の低いセーラー服の少女と幸せそうに微笑んでいた。


「昨日のようなことは、何回かあったんだろうね。でも、命を奪うほどの力はなかったから、襲われて苦しい思いをするだけで済んだのかも。」

 チェックインした時にオーナーが言っていた“音”。

 多分時々苦情があったのだろう。中には『ちょっとうるさいな』くらいで済む人もいたかもしれない。

 たまたま紫づ花は波長が合ってしまった。

 流れ込んできた痛いまでの切なさ。

 それは自分にも理解できる。

 今、こんなにも叶多を愛しているのに彼が違う人を選んで離れてしまったら・・・

 そう思うと、自分に自身が持てない。

 私は彼女と同じことをするんじゃないか。

 そんな確信がある。

 今までもギリギリの精神で生きてきた。少し何かがズレたらすぐにこの生を手放していた。

 それを踏みとどめさせてくれたのが叶多だから。

 その叶多が自分を要らないと言うならば、もうこの世界に生きている理由なんてない。

 叶多が紫づ花を抱きしめる腕に力を込める。

「紫づ花を失ったらと思うと怖かった。無我夢中でいろいろやったけど、良かった。奪われなくて。」

 あの時、叶多がつまづいた紫づ花のキャリーカート。

 確か寝る前は部屋の隅にあったはず。

 きっちりしている紫づ花が、あんな半端なところに置いているはずない。

 そしてブレスレットを投げるように指示した意識。

 叶多は、紫づ花を守ってくれたナニカに感謝する。

 そして、紫づ花を守らせてくれたことに感謝する。

 失いたくない、たった一人の人。

 鳥のさえずりの中、お互いに与え合うぬくもりが愛しい。

 階下で朝食の支度ができたとオーナーが叫んでいる。

「ご飯、いただこうか。」

 紫づ花がそっと身体を離し、見上げて微笑む。

 叶多は頷いて、その目尻に唇を落とした。



 ―――END


いかがでしたでしょうか。

楽しんでいただければ幸いです。

いつも紫づ花に振り回されている叶多をかっこ良くさせてあげようと思い、作ったお話です(笑)

いつも何かと残念なので。おかしいなぁ(笑)


それではまたいつか、短編か本編でお会いしましょう。


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