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09.2日目の夜

 冒険者ギルドを出て、これから買い物だ。

 もともと予定していた買い物に加えて、明日の冒険準備もする必要がある。

 ギルドより、準備金と必要な物のメモも渡された。

 物を直接くれればいいのにと思ったけど、こうやって自分で準備する方が後々役立つからいいのかもしれない。


 まずはその準備をすませた。

 いろいろ買った中に、わりとかさばる荷物がある。

 モンスターが出現する魔法陣を壊すのに必要な杭の束だそうで、僕の両手は塞がっている。もし使う必要がなかった場合は悲しくなりそうだ……。


「ご主人様、やっぱりわたしが持ちますよ」


「いいんだよ。もし悪い奴が襲ってきたら、僕を守るためにユイはすぐ動ける状態にしておかなくちゃ」


「それはそうですが……」


「それに僕もこうやって体を鍛えたいんだ。だから協力してね」

「はい……」


 さて、次は武器屋だ。

 ユイの剣はあっさり折れたし、いいものを選びたいなあ。

 でも剣を見てもどれがいいかさっぱりだ。鑑定能力とかあればよかったのに。


「ユイ、どの剣がいいか選んでみて」


「そうですね……どれがご主人様を守れるのでしょう……」


 そう考えていればいい剣がわかるのだろうか?

 ユイは剣を1本1本手に取り眺めている。


「あまり違いがわかりませんね……」


「そっか……どの武器も同じような性能なのかもしれないね」


「そうですね……」


 というわけで適当に剣を2本とナイフを2本購入。

 ユイの腰には2本の剣がぶらさがった状態となる。

 二刀流とかやってくれそうな気がしてちょっと楽しみ。


 あと、今日はお金に余裕があるので防具も買おう。

 革製の動きやすい鎧や膝サポーター、帽子を買った。


 次は雑貨屋さんで大きなリュックを買った。

 その他いろいろ役立ちそうなものも見繕う。

 最後に今日一番買いたかったもの……ユイの髪をとかすためのくしを購入した。

 髪の毛に付けるといいらしい液体も購入してみた。楽しみだ。




 買い物に時間がかかったため、宿に着く頃にはすっかり日が暮れていた。

 昨日と同じように2人部屋を借りて部屋に入る。

 ユイがおなかすいてる感じだったので、先に夕食にした。

 満面の笑顔で食事するユイがとても可愛い。


「おいしいです。今日も食事をくださってありがとうございます」


「ほとんどはユイが稼いだお金だよ。あ、おかわり頼もうか。おなかまだすいてるよね?」


「はい……まだ食べたいです……」


 恥ずかしそうにそう答えるユイ。

 遠慮せず、ちゃんと正直に言ってくれるのが嬉しい。

 追加料金を払って、ユイは2人分の食事をたいらげた。

 そういえば15歳くらいだし、成長期なお年頃かもしれない。

やせ細った体も健康的になってほしいな。



 食事の後は2人で仲良く水くみだ。

 僕が作業をして、ユイは僕を見守ってくれている。

 手伝いますとは言わず、少し困ったような嬉しそうな顔で僕を見てくれている。

 僕とユイとの仲はいい感じに進展している気がするな。

 お水のたらいは2人で仲良く部屋へと運んでいく。


「じゃあユイ、先に体を拭きなよ。僕は後ろを向いてるからね」


「あの……ご主人様」


「ん? 僕は後でいいから遠慮しちゃだめだよ」


「えと……そうでなくてですね……」


 ユイはもじもじしている。

 いったいどうしたんだろうか?


「ご主人様が迷惑でなければですね……」


「僕がユイに言われて迷惑なことなんてないよ。言ってみて」


「ご主人様にはわたしの全てを見ていただきたいんです」


「全てって……えっと……? もしかして裸を?」


「は、はい……」


 ユイは真っ赤になっていて、僕もなんだか顔が熱くなっている気がする。

 急にこの子は一体何を言い出すんだ?

 えっとえっと……まずは落ち着かなきゃ。


「やはりお嫌でしょうか?」


「い、いや……そういうわけじゃないんだ。どうして急にそんなことを言い出したのかなって思って」


「ご主人様はわたしになんでも正直に言うよう命令されました。ですので、わたしはご主人様に隠し事をせずに生きていきたいと思います。それは言葉だけでなくこの体も同じこと……ご主人様にわたしの全てを見ていただきたいんです。お願いします!」


 ユイは深々と頭を下げている。

 僕の言ったお願いをそんな風に捉えているなんて……。

 女の子が簡単に裸を見せてはいけないよと言いたい。

 でもそれを言うと、ユイは自分が醜いから見てもらえないんだと思って悲しむ気がする……。


 それにユイが自分の意思でお願いをしてきてるんだ。ここは見てあげるべきなのかもしれない。いろいろな考えが頭をよぎる。一体どうしたらいいんだ……。

 ユイは顔を上げて、不安そうな目で僕を見つめている。

 ユイのためには見るべきなのか?


 いや、考えてみたらユイは正直な気持ちをぶつけてきてくれているんだ。

 僕も正直になるべきだろう。

 ユイのためだとか、お願いしてきてるからとか、そんなのは言い訳だな。

 僕の正直な気持ちは……ユイの全てを見たい!

 うん、簡単なことだった。


「じゃあユイ、僕もユイに正直に言うね。僕はユイの全てを見たい。見せてほしいんだ」


「はい……。嬉しいですご主人様……」


 ユイは僕を見つめながら服を脱ぎ始めた。

 僕はなんとなく正座してユイを見つめる。

 シャツを脱ぎ、スカートを脱ぎ、タイツも脱ぎ……あとは下着だけの状態だ。

 この時点で、ユイの身体にある火傷や鞭の痕であろう傷がたくさん見えている。

 ユイの全てを見たいと言った僕は、目をそらさずユイを見つめ続ける。


「やはり恥ずかしいですね……。すみませんがもう少しお待ちください」


「無理せず、途中でやめたっていいんだよ」


「いえ、見せると先ほど言いました。ご主人様に嘘をつくわけにはいきません」


「気が変わった時はね、それを正直に言ってくれればいいんだ。そういうのは嘘にならないんだよ」


「そ、そうなのですか……」


 ユイはどうしたものかと悩んでいる。

 僕は正直見たくてたまらない僕だけど、楽しみを後にとっておくのは嫌いじゃない。

 助け船を出そうかな。


「ユイ、また今度にしよう。僕は次の機会を楽しみに待つから。楽しいことが先にあるとがんばれるしね」


「ご主人様はわたしの裸を見るのが楽しみなのですか?」


「え? そりゃまあ……」


「でしたらやはり今日がいいです。ご主人様がどんな反応をされるのか見たいですから」


 うーん……ユイが中断しやすいように言ったつもりなのに、逆に決意を固めてしまったようだ。言葉って難しいや。

 ユイは上に着ているスポーツブラ的な下着をゆっくりと脱いだ。

 そして現れるささやかな膨らみ。

 そこにも傷はあるけど、そんなことは気にならないくらい綺麗で……僕は目を奪われてしまった。


「ご主人様の視線がすごく熱いです。でも……こんな醜い体なのに目をそらさずに見ていただけて嬉しいです」


「美しいものを見つめてしまうのは当たり前のことだよ。ユイは醜くなんてないもの」


「でもこんな傷だらけです……」


「それが気にならないくらい元がいいんだろうね」

「はうう……」


 これはお世辞でもなんでもない本心だ。

 頬を紅潮させたユイを見ながら、自分の正直な気持ちに安堵する。

 でも、ユイの体はこれで大丈夫なのかが気になる。


「ユイ、この傷痕は痛くないの?」


「はい。昨日連れて行っていただいた治療以来、まったく痛みを感じないんです。それまでは夜眠れないほどズキズキしていたのですが……」


「そっか。それならよかった」


 もし連れて行ってなかったら、きっとユイは今も痛みに耐えていたことだろう。

 あの治療術師さんに感謝だ。

 では今日は勇気を出して……。


「じゃあユイ、今日は僕に体を拭かせてほしいな」


「あの……恥ずかしいです」


「あ、ごめんね。さすがにそれはだめだよね」


「いえあの……恥ずかしいけどしていただきたいです」


「うん……」


 ユイをベッドに座らせ、僕はタオルを濡らして絞る。

 よし……タオル以外ではユイに触れないよう気をつけて……。

 タオル越しにユイのやわらかさが伝わってきて……嬉しくて恥ずかしい。


「ユイ、どうかな?」


「もう死んでもいいくらいに幸せです……」


「ふふっ、死んだらだめだよ」


「はい……わたしはご主人様と共に生きていきますので……」


 ユイと同じように僕だって幸せだ。

 僕はもう何も考えられなくなり……いつのまにか体を拭き終わっていた。

 楽しい時はあっという間に過ぎ去るということだろうか。


「ご主人様、ありがとうございました。すごく綺麗になれた気分です」


「どういたしまして。じゃあこのまま髪を整えようね」

「はい……」


 さっき買った瓶から液体を手に取り、ユイの髪をなでるようにつけていく。

 ほんのりといい香りがするな。


「んん……気持ちいいです」


「今からくしでとくからね、痛かったら言うんだよ」


「はい……でもきっと痛くないです。んっ……」


 ユイの髪はだいぶ痛んでいるようで、くしはスムーズに動かない。

 少しつらいだろうけど、ちょっとだけ我慢してもらおう。

 あ、よく見ると根元のあたりの髪はすごく綺麗だ。

 こうやって毎日ケアしていけば、いずれは全体的に綺麗な黒髪となるだろう。

 やったことないけど、今度髪を切るのも挑戦してみようかな。


「ユイ、これを毎日させてね。きっとユイは綺麗になれるから」


「はい……ご主人様の好みになれるようお願いします……ひゃうう……」


「ユイは髪を触られるのが好きなんだね」


「はい……。あ、でもご主人様以外には触れられたくないです」


「うん、僕も触らせたくない」


 うーん、幸せだ。

 毎晩こんなことができるのが楽しみだ。

 僕は夢中でユイの髪を梳かし、あっという間に時間は過ぎていった。


「ユイ、終わったよ」

「ありがとうございました。ではご主人様の体をお拭きしますね」


「うん、お願い……。あれ? 服は着ないの?」


「ご主人様に買っていただいた服……長持ちさせたいので今日はこのまま寝ます。ではお脱ぎください……」


「う、うん……」


 2人で下着だけの姿となり、僕は体を拭いてもらった。

 若い男女がほぼ裸で2人きりの部屋。

 こんな状況で間違いが起きないわけがない……のは一般的なお話。

 特に何も起きず、昨日と同じように別々のベッドで寝た。

 僕たちはこれでいいんだ……時間はまだまだあるんだから。

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