08.異常な戦果
お昼を食べ終わり、少し休憩した。
ユイの能力によりモンスターも近寄ってこないから、ほんとピクニック気分だ。
もしくはデートのような……。
さて、昼からも狩りをしよう。
ユイの提案で森を出ることにした。
モンスターを集めることができるわけだし、広い場所のほうが存分に戦えるからだそうだ。
「ではご主人様、始めますね」
「うん。でも疲れたら無理せず終わろうね。もう十分稼いでると思うし」
「はい、疲れたらちゃんと正直に言いますね」
よし、きっと無理することなく戦ってくれるだろう。
ユイは呪文を唱え、僕は魔法の障壁に包まれた。
それを合図としたかのように、森からモンスターが出てくる。
森の中で戦っていた時はよく見えなかったが、大きなネズミや狼、歩くキノコのお化けとかいるみたいだ。大きな虫……あれは嫌だなあ。
「一閃!」
ユイが気合いとともに剣を振ると、遠くのモンスターが斬られてその場で動かなくなる。
すでに芸術の域に達しているかのような美しい剣さばきだ。
僕が見とれている間に、モンスターはどんどん倒されていく。
「ユイがんばれー」
「はい!」
のんびり応援しつつ、戦利品を集める僕。
すでに僕のかばんはいっぱいだ。
どこかに集めておいて、後でユイに持ってもらうとしよう。
そしてもっと大きなかばんを買うとしようかな。
「きゃあっ!?」
突如聞こえたユイの悲鳴に驚いて振り向くと……剣が根元からぽっきり折れてしまったようだ。あれだけ使えば仕方ないか……。
ユイが怪我したわけじゃなくてよかったけど、戦えるのかな?
「うう……ご主人様に買ってもらった剣が……。てやああああっ!」
ユイが刃の無くなった剣の柄だけを持って振り回すと……なんと落ちていた刃が浮かび、回転しながら敵を切り刻み始めた。
あれは技なのか魔法なのか……。
すごいけど、ああいうことをするのって疲れるんじゃないだろうか。
「ユイ! 僕のナイフを使って」
「はい! すみませんが投げていただけますか」
「うん……それっ!」
ナイフを放り投げると、ユイは跳びあがって空中でキャッチした。
そのまま近くのモンスターに斬りかかる。
剣を使っていたさっきまでとは全く違う動きだ。
ユイってばどんな武器でもすぐ使いこなせるんだなあ。
そうだ、戦いに迷いが出ちゃいけないから言っておこう。
「ユイー、ナイフは安物だから壊れてもいいからねー。怪我をしないように戦うんだよー」
「はい! ご主人様の命令であれば無傷で終わらせますー!」
命令というか望みなんだけど……あれなら怪我しそうにないからいいか。
あのナイフ安物だし、あれがもし壊れたら今日は帰ろう。
うーん……華麗なナイフさばきに見とれちゃう。
それにしても不思議なのはモンスターだ。
倒すと消えちゃうってことは生き物じゃないんだろうか?
まるでゲームみたいだ。
ユイは帰り血を浴びているようだけど、モンスターが消えると同時にそれも消える。
まあいいか、魔法もある世界なんだ。そういうものと思おう。
……やがてナイフが折れたようだ。
ユイは悲しそうな顔をして、残っているモンスターを殴り倒した。
よし、ユイが謝る前に僕から声をかけよう。
「ユイ、お疲れ様。がんばってくれたね」
「あ、はい……でも……ひゃう……」
申し訳なさそうな顔になったので頭をなでなで。
すぐに嬉しそうな顔になってくれた。
「じゃあ休憩しようか。あれだけ動いたから疲れてるよね?」
「はい……疲れちゃいました。もっと体力をつけないといけません」
「あれだけ動ければ十分だよ。はい、ここに座ってね」
「では失礼します」
戦利品に大量にあった狼の毛皮を地面に敷いてみた。
不思議なことに、まったく汚れていない綺麗な状態だ。
ユイは休ませつつ、僕は散らばった戦利品を集めて回る。
「あの……ご主人様……」
「今度は僕が働く番だから、しっかり見ててね」
「はい……働くご主人様かっこいいです」
「ありがと。あ、ユイのかばんにも入れさせてね。ちょっと借りてくよ」
「はい、お願いします」
ユイは立ち上がったりせずにちゃんと休んでくれている。
少しはこの状態に慣れてきてくれたかな。
そして戦利品の回収は終わり、僕もユイの隣に座る。
「たくさん倒したね。今日戦ったモンスターの強さってどのくらいだったのかな?」
「おそらくは弱いモンスターだと思います。全然手ごたえがなかったです」
「それはユイが強すぎるからかなあ……。僕じゃあたぶん負けちゃうよ」
「大丈夫です。ご主人様は戦う必要ないんです。だから常に不戦勝です」
「ふふっ、ありがと」
僕を持ち上げようとしてくれているユイの頭をなでなで。
ユイはいつも通り気持ちよさそうで、ちょっとうらやましい。
ちょっと頼んでみようかな。
「ねえユイ、僕にもこれしてくれないかな?」
「えっと、あの……失礼ではないですか?」
「ユイは僕にこうされてどんな気分なの?」
「とても気持ち良くて幸せです」
「じゃあ僕も同じ気分になれるよ」
「ではあの……失礼します」
ユイの小さな手が僕の頭に乗せられる。
予想以上に気持ちいい……。
目を閉じてこの感触を楽しもう。
「ご主人様、お仕事お疲れさまでした」
「うん、がんばった甲斐があったよ」
「ご主人様……可愛いです……。あ、ごめんなさい。失礼なことを……」
「いいんだよ。思ったことは正直に言ってね」
「はい……こうしていても気持ちいいです」
しばらくまったりとした時間を過ごした。
ユイとまた仲良くなれた気がする。
「さあ帰ろう。荷物が多いけど、一緒に運ぼうね」
「はい!」
大量の戦利品は2つのかばんにも入りきらなかったので、ユイの羽織っているフード付きケープにも戦利品をくるんだ。
これはいくらくらいで引き取ってもらえるのかなあ。
荷物は重かったけど、わくわくした気分で歩いた。
太陽がまだ明るいうちに街へ到着、さっそく冒険者ギルドへ行こう。
受付で戦利品を渡せばよかったはず。
「すみません、モンスター退治してきたんですが」
「はい、ではこちらに置いてください……おや、たくさんあるみたいですね。ではこちらの箱へお願いします」
3箱くらいに戦利品を入れると、係の人がどこかへ持っていった。
ばらばらに入れちゃったから、数えるのに時間がかかりそうだ。
「ではアルバートさん、お待ちしている間に少し質問させてください」
「あ、はい」
「冒険者ギルドに登録されたのは昨日でしたよね。先ほどの戦利品は何日かかけて集められたのでしょうか?」
「あ、まあそんなところです」
ユイが不思議そうな顔で僕を見てくるが、とりあえずそう言っておこう。
1日でこれだけ集めてくるのはきっと異常なんだろうし……。
「それにしてもあの量は多いですね……。モンスターを倒した場所を教えていただけますか?」
「はい、地図のえっと……このへんかな?」
「ご主人様、この森です」
「なるほど……最近そのあたりでモンスターが多いと報告されていましたが、この森が原因かもしれませんね。情報をありがとうございます。ではもうしばらくお待ちください。」
モンスターが多い報告?
ユイがモンスターを呼び寄せたから多いんだと思ってたけど、別の要因もあったのか。
なんにせよラッキーだったかな。
しばらく待っていると、名前を呼ばれた。
「では今回の報酬、13428Gです。お確かめください」
「はい、ありがとうございます」
たくさんある金貨がまぶしい。
元の世界で言えば、今日1日で10万円以上稼いだってことになる。
一気にお金持ち気分だ。
「それと、今回の働きで冒険者ランクがFからEとなります。これまでの見習いではなく、ある程度の仕事を任せられると信頼された形になります」
「なるほど、じゃあ受けられる仕事が増えるんですね」
「そうですね。それで、ひとつ依頼を受けていただけないでしょうか?」
「どんな依頼ですか?」
「先ほど教えていただいた森の調査で、モンスター大量発生の原因を調べていただきたいのです。あれだけの戦果を見せていただけたので、問題なくやっていただけると思います。こういったギルドからお願いする依頼では報酬も多めに出ますよ」
ランクがEに上がったのも嬉しいし、仕事を任せてもらえるのも嬉しい。
ぜひ受けたいな。あ、ユイにも聞こう。
「ユイ、できそうかな?」
「はい、お任せください!」
「では引き受けます。その調査は明日でいいんですかね?」
「もちろんです。今から向かうと危険の多い夜になってしまいますので。では説明させていただきますね」
モンスター大量発生の原因としては、予想されるものが2種類あるらしい。
ひとつはモンスター召喚の魔法陣が自然発生、もしくはだれかが描いた場合。
もうひとつは奥地で強大なモンスターが発生して、それに引き寄せられている場合。
それを調べてくればいいそうな。
この後もいろいろ説明してもらって冒険者ギルドを後にした。
明日がちょっと楽しみだ。
冒険って楽しいなと思ってる僕がいる。
きっとユイがいるからかな?