71.プロポーズ
あれからかなりの日数がたった。
ユイは妹と楽しく過ごしている。
タニアはちゃんといい子になっているようで安心している。
僕のことは相変わらず苦手みたいだけど、好かれ過ぎても困るのでこのままでいいかなと思っている。
ユイの治療は毎日継続している。
タニアにも魔法を教えてみた結果、少し効率が上がった。
ユイのことを好きであればあるほど効果の上がる魔法なので、タニアは本当にユイが好きなんだなとわかる。
もうすぐ治療は完全に終わることだろう。
この回復魔法もかなり広まって、女性にしか使えない魔法ということが周知されている。
怪我だけでなくある程度の病気も治せるため、女性の社会的地位も向上している。
魔法を効果的に使ってもらうために、そばにいる女性には優しく接する男も増えた。
その流れで奴隷から解放する人も増え、少しずつだけど男女平等の世界に近づいていると思う。
僕らはと言えば、最近はディーラさんのところで働いている。
以前作ったぬいぐるみを売り出したところヒットしたので、ユイと一緒にたくさん作っている。
一番人気はユイぬいぐるみだ。
僕が気合を入れてデザインした結果、小さい女の子に大人気となったんだ。
ちなみに冒険者はやめている。
いろいろあってモンスターが出なくなってしまったんだ。
そのせいで大半の冒険者が職を失っている。
ディーラさんが事業の拡大のためにその冒険者たちを雇ってはいるけど、しばらく混乱が続くかもしれない。
さて、僕は今日1人でディーラさんに紹介してもらった宝石屋に来ている。
目的はもちろん、結婚指輪を買うためだ。
この世界では結婚相手と同じ指輪を付ける習慣は特にないらしいが、僕の知っている方法でプロポーズしようと思う。
ユイとリリィの指のサイズは、寝ている間にこっそり測っておいた。
まず決めるのは、ユイとリリィとそれぞれ別にペアで買うか、3人お揃いの指輪にするかだ。
それぞれに買う場合、僕は指輪を2つはめることになる。
そう考えるとやはり3つお揃いにするべきなのか。
店員さんに相談した結果、3つの指輪をオーダーメイドで作ってもらうことにした。
指輪の素材はプラチナで、3色のダイヤを並べてもらうことにした。
白と青と緑のダイヤだ。デザインに関してはお任せとした。
かなりお高くなるようだが、ここは思い切って買うとしよう。
数日後に出来上がるとのことなので、楽しみに待つ。
***
それから1週間後、ユイの体が傷ひとつない状態になった。
これで僕の人生の目標の1つが完了した。
僕の目の前には綺麗な体となったユイが全裸で……いるはずだけど、目隠しをされているので見えないんだ。
妹のタニアもいるし、僕がいやらしい気分になってはいけないということで、ユイの治療の時はこの形である。
「お姉ちゃん綺麗……」
「そうだね。ユイの体まぶしいよ」
「みなさんのおかげです。本当にありがとうございます……」
見たい……でも今は言い出せない。
その時が来るまで、この気持ちはためておこう。
「ユイ、おめでとう。とりあえず顔を見たいな」
「はい、すぐに服を着ますね」
そしてユイが服を着て僕の目隠しがとられる。
目の前には、顔から完全に火傷の痕が消えたユイがいた。
直前の状態でもうっすらとしか見えない状態だったため変化は少ないが、完全に消えたということで感動が押し寄せてくる。
「ユイ、綺麗だよ……」
「はい……ありがとうございます。あまり変わった気はしないのですが、変わっているのですよね?」
「そりゃあもちろん……」
いろいろ変わってるよね……?
僕がユイを綺麗だと思う気持ちは……変わってない。
僕がユイを好きな気持ちも……変わってないか。
改めて考えると、僕ってこんなにもユイが好きだったんだなあ。
よし、今夜決めちゃおう。
「ご主人様……?」
「あ、今は恥ずかしいから後で言うよ」
僕がタニアをちらっと見てそう言うと、タニアがちょっとむっとした顔をした。
お姉ちゃんを僕にとられまいしてるのかもしれない。
生意気な態度ではあるが可愛いものだ。
「そ、そうですか……」
ユイは頬を赤く染める。
今夜はこれまでで一番照れてくれるかな。
***
そして夜。
僕はユイとリリィと手をつないでガナードの街を散歩していた。
タニアは地下の隠れ家でお留守番だ。
あの子はまだ自分1人で家を出ることができない。
ちょっと可哀想だけど、しばらくは我慢してもらっている。
万が一でも逃げだしたりするようなことがあれば、ユイが悲しむから。
「アル、今夜はどこ行くの?」
「広場に行こうと思ってるんだ」
「あ、ご主人様とわたしが初めて会った場所ですね。それにリリィさんを初めて見た場所も広場でしたね」
「そうなんだ、あの時だと恥ずかしいな……」
「うん、思い出の場所だよ」
ユイと初めて出会った場所……僕の冒険が始まった場所だ。
リリィと初めて話した場所は奴隷管理ギルドだけど、あの場所は思い出にしたくないので、初めて見た広場を思い出の場所としたい。
だからあの場所が最適なんだ。
「それでなにしに行くの? ユイとの思い出の場所だったらあたしは邪魔じゃないかな?」
「邪魔じゃないよ。リリィとも思い出の場所にしたいしさ」
「そっか……」
「そうですよリリィさん、抜け駆けさせようなんて許しません」
普通こういう時って抜け駆けは許さないっていうものなのになあ。
実にユイらしくていい。
何も悩まなくていい三角関係……よくできた2人だ。
自分の幸せをかみしめながら広場に到着した。
いい感じに誰もいない。
「ユイ、リリィ、話があるんだ。そこに立ってくれるかな」
「はい、ご主人様」
「うん、なんだろ?」
ユイとリリィの手を離して正面に立つ。
さあ、言うぞ!
「改めて言わせてね。僕と一緒にいてくれてありがとう。2人とも大好きだよ」
「はい、わたしもご主人様が大好きです。ここで出会えてお供させていただけてよかったです」
「あたしもアルが大好きだよ。ここに連れてこられた時は恥ずかしかったけど、見られてて良かった」
「うん、こんな素敵な2人に出会えた僕は幸運だね。だからこれからも一緒にいてほしいんだ」
「はい、わたしも一緒にいたいです」
「あたしも一緒にいたいな」
僕はポケットから小箱を2つ取りだし、2人の前に差し出す。
これはもちろん一生一緒にいるための証だ。
「これを受け取ってほしいんだ。開けてみてね」
「はい、あ……指輪でしょうか? すごく綺麗ですね」
「あたしのも指輪だ。ユイとおそろいなのかな?」
「僕の分もあるんだ。3人でお揃いだよ」
「わあ……素敵です」
「またお揃いのものが増えるんだね」
ユイもリリィもこの指輪の意味がわからないようだ。
まあ当然か……。
では教えることにしよう。
「僕の生まれた場所での習慣を教えるね。この指輪には大事な意味があるんだ。それはね……一生一緒にいましょうって約束の証なんだよ」
「一生……素敵な約束です」
「うん……大事にするね」
「そしてこの指輪を渡す時にはこう言うんだ。ユイ、リリィ、結婚しよう」
よし、言えたぞ。
ユイもリリィも時間が止まったかのように固まっている。
あたりは暗いけど、顔が赤くなっているように見える。
僕も顔が熱い……。早く返事を聞きたいな。
しばらく待つと、ユイとリリィは顔を見合わせて頷いた。
そして僕に向かってお辞儀して、声をそろえてこう言ってくれた。
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
よかった……いい返事をもらえるはずと思っていたけど、なにか安心する。
嬉しくてたまらない。
結婚式は改めてするつもりだけど、今指輪をはめてもらおう。
「この指輪はね、お互いに指にはめるんだ。まずはユイ、左手を出して」
「はい……」
「薬指にはめるからね。リリィも一緒に……」
「うん……。あたしはアルとだけじゃなくてユイとも結婚するみたいだね……」
「3人で結婚……素敵です」
ユイの薬指に3つのダイヤが煌めく指輪が付けられた。
嬉しそうなユイの顔に僕も嬉しくなる。
「これで一生ご主人様とリリィさんと一緒なんですね」
「そうだよユイ。でもあの……」
「ユイ、結婚するんだからもう名前で呼んでほしいみたいだよ」
「そうですね……。アル、あなたを幸せにします。だからわたしも幸せにしてください」
「もちろんだよ」
久しぶりに名前を呼んでくれた。
夫婦になるんだもん。ずっとそう呼んでほしいな。
よし、次はリリィだ。
「次はリリィだね。指を出して」
「うん、早く付けたいな……」
「わたしも一緒に……リリィさん、幸せになりましょうね」
リリィの指にも指輪が輝く。
リリィも満面な笑顔を見せてくれている。
「嬉しいな。アルとユイと一生一緒だ。あのね、あたしはハーフとはいえエルフだから長生きすると思う。だから2人の一生を見届けるね」
「うん、リリィに看取られるなんて幸せな一生だよ」
「リリィさん……その時寂しくないように、たくさん子供を作りましょうね」
「うん!」
リリィだけ長生きしてしまうのは寂しかもしれないけど、リリィはそのことを嬉しそうに言ってくれたんだ。
だから僕もユイも変に悲しんだりはせず前向きにとらえた。
その時までに、悲しみを超えるだけの幸せを一緒に作っていきたいな。
さあ、最後だ。
「ユイ、リリィ、僕にもお願いね」
「はい……これで3人の約束が完成なんですね」
「うん、きっとこのままずっと仲良くいられるよね」
僕の薬指に指輪がはめられた。
これで今から夫婦だ。
夫婦婦かな? いや、婦夫婦の方がしっくりくるな。
この後僕はキスをしたくなった。
でもユイとリリィのどちらからするべきかひたすら悩むのであった……。
世界で一番幸せな悩みかもしれないな。




