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70.がんばるお姉ちゃん

 次の日、何故か僕とリリィは寝坊した。

 買い物をし、地下の隠れ家についたのは昼ごろだった。

 ユイとタニアはどうなったかなあ……。

 さすがに1日でなんとかなるとは思えないけど。


 家に着くといい香りがしてきた。

 お昼ごはんを作っているのだろうか。

 台所にそーっと向かおう。

 そして聞き耳を立ててみる。


「タニア、もうすぐお昼ごはんできるからね」


「おなかすいた……。それにもっといいもの食べたい……」


「今日はご主人様の分も作るから、昨日や朝のよりは豪華だからね」


「そっか……」


 わがままなことを言っているようだ。

 でもユイは楽しそうに喋っているように聞こえる。

 仲良くはなれたのかな。


「タニア、そっちで座って待ってていいよ」


「えと……手伝わなくていいの?」


「うん、お掃除頑張ったからいいよ。それにね、ご主人様が食べる食事はわたしが作りたいんだ」


「そっか……でもここで見てる……」


 お、なかなかいい雰囲気に見える。

 タニアが手伝っていないと思ったけど、ユイが1人で作ろうとしてたようでなにか嬉しい。

 それにしてもタニアはなんであんなしおらしくなってるのやら。


 そういえば……リリィが言っていたことを思い出した。

 奴隷にされて首に印を付けられてから、後ろ向きな思考になっていろいろあきらめると……。

 すごく不快な現象だと思ったけど、今回はそれがいい方向に働いているのかもしれない。

 よし、そろそろ顔を出そうかな。


「ユイ、ただいま」


「あ、ご主人様にリリィさん。おかえりなさいませ。もうすぐ帰ると思って、食事の準備をしてるんです」


「そっか、ありがと。いい匂いだね」


 タニアは僕の姿を見ると、少しおびえるようにユイの背中に隠れた。

 ユイになついてようでなにより。


「タニア、ご主人様に挨拶してね」


「ん……おかえり……」


「おかえりなさいでしょ」


「なさい……」


 僕を嫌ってはいるようだけど、ユイの言うことを聞いているな。

 このまま僕はタニアに優しくしないことにしよう。


「もうタニアってば……。ご主人様、失礼な子ですみません」


「別にいいよ。捨てるまではユイに任せてるし」


 僕の言葉にタニアがびくっとしてユイを見上げる。

 困った時はユイに頼ろうとするのはいい傾向だ。


「あの……ご主人様、見てください。タニアががんばって掃除したんです。だいぶ綺麗になったんですよ」


 確かに周りを見ると、綺麗になっている気がするし整頓もされている。

 でもたぶん、タニアよりユイががんばったんだろうなあ。

 ユイが僕を期待するような目で見つめてくるので、少し態度を変えて褒めておくか。

 これでタニアがユイに感謝してくれればいいんだけど。


「そっか、お疲れ様タニア。ちゃんとユイの言うことを聞いた?」


「まあね……」


「ご主人様、タニアはすごくいい子になったんです。言葉遣いが悪いのはまだ慣れてないからで……直させますから」


 ユイが必死にアピールしてくる。

 ユイを信じたいけど……こんなすぐいい子になるとは思えない。

 ちょっと聞いてみるか。


「タニア、ユイこと好きかな?」


「一応……」


「ユイと一緒に暮らしたい?」


「うん……」


 ユイの手をぎゅっと握ってそう答えるタニア。

 もう自分には行く場所がないことを知っているのかな。

 そしてユイの所にいれば幸せに暮らせると知ったんだろう。

 はあ……しばらくは冷たくするつもりだったけど、もう甘やかしてしまいたい。

 そしてユイを喜ばせたい。

 よし、ひとつ簡単なテストをさせよう。


「タニア、こっちに来て。話をしようか」


「え……」


 タニアは不安そうな顔になってユイの後ろに隠れた。

 ユイはタニアを優しく見つめている。


「タニア、ご主人様の所に行ってね」


「うう……いじめられちゃう……。また叩かれる……」


「大丈夫、タニアがいい子にしていればそんなことはないから」


「うん……」


 そして僕が歩きだすと、タニアが少し離れてついてきた。

 昨日ほっぺたを叩いたことで、僕をかなり怖がっているようだ。

 

 部屋の1つに入り、椅子に座った。

 タニアは離れた場所でびくびくしている。

 女の子にこうも嫌われると、なんとも悲しくなるな。


「タニア、ユイのことは今なんて呼んでる?」


「呼んでない……」


 まだお姉ちゃんと呼んでいないのか。

 よし、まずここからだ。


「なんでお姉ちゃんって呼ばないの? ユイを姉とは認められない?」


「だって知らなかったもん。いきなり言われてもびっくりで……」


 そうか、ヴァルマンが教えなかったんだな。

 この子はユイを姉と知らずにいじめていたわけか。

 相手がだれであろうといじめはだめだが、父親が悪いやつだからなあ……。


「タニアは昔ユイをいじめたんだよね?」


「うん……」


「その君をユイは助けて守ろうとしてるんだ。なんでかわかる?」


「お姉ちゃんだから?」


「よくわかってるね。それでも姉と認めてお姉ちゃんとは呼べない?」


「えと……なんか恥ずかしい……」


 恥ずかしいか。

 姉とは認めてるんだな。

 よし、テストの内容は決めた。


「タニア、今から言うことができたらユイとずっと一緒にいさせてあげるよ。やってみる?」


「したいけど怖い……」


「怖いって何が?」


「だって土下座させられたり、叩かれたりするんでしょ?」


 僕はこうも怖がられてるんだろうか……。

 あ、もしかするとタニアがユイにしたことをやり返されると怯えているのかも?

 うーむ……そう考えると許したくなくなってくるな。

 ユイをいじめたことを反省しているのかどうか確かめてみよう。


「もしそうだったらどうする?」


「がんばる……いい子になるもん……」


 これは反省していると思っていいのかな。

 よし、いいとしてテスト内容を伝えよう。


「そんなことはしないから安心してね。今からやってもらうのはね、ユイにお姉ちゃん大好き、って言ってもらうから」


「それだけでいいの?」


「うん、でも簡単そうで難しいよ。ちゃんと本心で言ってね。もし嘘っぽかったら、タニアを捨てるから。できる?」


「できるよ……嘘じゃないもん……」


 ユイを好きなのは本当のようだな。

 ではやってもらおう。

 僕はタニアと共に食堂へと移動する。


 戻ると、食事がテーブルに並んでいた。

 すぐに食べられる状態のようだ。

 ユイとリリィはすでに座っている。


「ただいま。待たせてごめんね」


「ご主人様、おかえりなさい。用意できましたのでどうぞ。タニアもそっちに座ってね」


「ん……」


 タニアは席にはつかず、ユイの前に移動した。

 緊張した感じだ。


「タニア? どうしたの?」


「あのね……お……えとえと……」


 なかなか言えないようだ。

 ほっぺを赤くしているところから、嫌なのではなく恥ずかしいのだろう。


「タニア、落ち着いて言ってみて」


 ユイがタニアの頭をぽんぽんとなでている。

 タニアはちょっとだけ嬉しそうで、その表情はユイと似ている。

 ヴァルマンにあまり似ず、母親に似てるようでよかったなと思う。

 さあ、がんばれタニア!


「お……お姉ちゃん……」


「タニア……初めてお姉ちゃんって呼んでくれたね。嬉しいな」


「ひゃう……」


 ユイがタニアを抱きよせた。

 お姉ちゃんと呼ばれてほんとに嬉しそうな表情だ。

 言わせてみた甲斐があったものだ。


「タニア、もう1度呼んでくれるかな?」


「うん、お姉ちゃん……言いたいことがあるから聞いてくれる?」


「いいよ。なあに?」


「わたしね……お姉ちゃんが大好きなの。だからずっと一緒にいたいんだ……」


「タニア……わたしもあなたが大好き。だから一緒にいたいよ。じゃあいい子にしてようね。決めるのはご主人様だから……」


 ユイはそう言って僕を見てきた。

 よし、タニアは合格だから約束通り……。


「ユイ、もう決めたよ。タニアにはユイとずっと一緒にいてもらうから。これからも教育をよろしくね」


「いいんですか!? ありがとうございます! タニア、よかったね」


「うん、お姉ちゃんのおかげ……」


 予定よりだいぶ早く決めてしまったけど、まあいいか。

 だってユイがあんなにも嬉しそう。

 タニアは今奴隷になった不安からユイを頼って好きになっているのかもしれないけど、きっと時間がたてば心から好きになるだろう。

 そうなったら奴隷から解放するとしよう。


「よし、じゃあお昼ごはんにしようか」


「はい。タニア、席について」


「お姉ちゃんの隣がいい……」


「じゃああたしが代わってあげるよ」


「あ、リリィさんありがとうございます」


 そしてタニアはユイの真横に椅子を置いて座った。

 やけに甘えているな。

 お姉ちゃんと呼んだことで、甘えたい気分になったのかな。

 まあいいことだ。


 おそらく……これで大丈夫だろう。

 あとはユイに任せればいい。

 僕はユイの笑顔を見て大満足だった。


 なおユイとタニアに買ったプレゼントは嬉しそうに2人で着けてくれた。

 ユイとリリィと僕のお揃いのペンダントも首にかかっている。

 また仲良くなれた気分だ。

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