67.奴隷からの解放
次の日、僕たちはランバールの街にある奴隷管理ギルドへと来ていた。
ユイとリリィを奴隷から解放する方法を聞くんだ。
用件を伝えると別室へと案内された。
なんか偉そうな人が現れ、話を聞くとこうだった。
「奴隷から解放するためには、首に刻まれた奴隷の証を消す必要があります。それが可能な術者は滅多にいないため、依頼料に10万Gかかります。さらにはそれを行うために必要な触媒の代金が20万Gほどかかります」
あわせて30万G……そこそこいい車が買えるだけの金額か。
ユイとリリィの分だと60万Gになる。
がんばって稼げば無理ではないが、なんでそんなかかるのやら……。
ていうか消さないといけないのかな?
「この証を消さないと奴隷から解放はできないのですか?」
「はい、そうです。そういう決まりとなっております」
さも当たり前のように言われてしまった。
細かい理由を聞いたとしても、同じように答えられるだけなんだろう。
この証が残った状態で奴隷の首輪だけを外すと、逃げた奴隷として処分対象らしいしやっかいなものだ。
その術者に頼らずに、僕らで消した場合はどうなのだろうか。
「もしその術者に頼らずこの証を消せた場合は奴隷から解放できるのですか?」
「解放はできますが……選ばれた一族が修業をして身に付けることができる魔法なのです。他に消す方法はまずないでしょうね」
「そうですか、一応探してみますね」
そう言って、奴隷管理ギルドを後にした。
なんとかしてみるとしよう。
僕たちはユリアの花をたくさん摘んで、サーシャちゃんの家に戻った。
首に刻まれた奴隷の証を消すことができるか試そう。
「まずユイから試してみようか。首輪をはずすよ」
「はい……。ずっと着けていたものなので、はずされると少しさみしい気分ですね。ご主人様のものでなくなった気分です」
「ユイは奴隷でなくなっても僕の所にいてくれるよね?」
「もちろんです……一生お側にいます」
「うん、奴隷じゃない状態で一緒にいてほしいんだ」
「はい……」
だからこそ今から行う魔法は成功させたい。
僕とリリィはユイの首に手を当て、一緒に念じ始めた。
想いが強ければ強いほど強力になるこの回復魔法。
成功すると信じて念じる……。
「ううっ……くうううっ!?」
ユイが苦しみ始めた?
なんでだろうか……今までこんなことはなかったぞ。
この治療は続けていいのだろうか?
どうしたものかとリリィを見ると、こう言った。
「この首にある痣みたいなのってさ……カーダが使ってた邪法みたいな感じかも。消そうとしたら抵抗してユイを苦しめてる……」
「邪法……? いったいなんで……」
奴隷を縛るためにこんな恐ろしい魔法を使っている?
なんだかとてつもない悪意を感じる。
こんなもの、この世からなくしてしまいたい。
まずはユイからなくしたいけど……続けていいのかな?
「ユイ、大丈夫?」
「わたしは大丈夫です……続けてください。苦しいですが、ご主人様の想いが伝わってくるんです。ご主人様の望むわたしになりたい……」
ユイは僕のためにがんばってくれるみたいだ。
いや、ユイ自身のためでもあるのかな。
ありがとう、ユイ。
「リリィ、続けようか」
「わかった……。ユイ、一緒にがんばろうね」
「はい!」
そしてまた念じ始める。
ユイの首を元の綺麗な状態に……。
「ぐうううっ! ひいいぃぃっ!」
ユイが悲鳴をあげるが、ユイを信じて続ける。
きっと大丈夫のはずだ……。
「ギィエエエーッ!」
次に聞こえたおぞましい声はユイのものではなかった。
ユイの首から黒いもやが立ち上って宙に浮かんでいる。
これがこの奴隷の証を作っている魔法の正体?
まるで呪いのようなおぞましさだ。
「なんだろあれ……。アル、どうする?」
「僕に任せておいて」
どうすればいいかはよくわからない。
でも今ユイを苦しめているこのもやが許せない。
そしてたくさんいる奴隷を苦しめていることが許せない。
僕が望む世界にするには、これを消さなきゃいけないんだ。
そう考えながら、僕は黒いもやをつかんだ。
「キイエエエーッ!」
「消えろーーーーっ!」
僕がそう叫ぶと、黒いもやは消え去った。
ユイの首元を見ると火傷の痕はあるものの、黒い模様は消えていた。
どうやら成功したようだ。
「アルすごいね、いったいどうやったの?」
「よくわからないかな……。ただユイのことを想って念じただけだよ」
「そ、そっか……さすがだね……」
言うなれば、愛の力?
さすがに恥ずかしすぎるので言わないけど……。
ユイの様子はどうだろう。
「ユイ、気分はどう?」
「なんだか晴れ晴れとした気分です。こんな素敵な気分は生まれて初めてかもしれません。不思議ですね」
あの呪いのような奴隷の証がなにか悪さをしていたんだろうか。
なんにせよ、ユイの笑顔がまぶしい。
次はリリィを笑顔にしよう。
「ユイが成功してよかったよ。次はリリィの番だね」
「はい、わたしもがんばってリリィさんを治しますね」
「うん、よろしく。あたしが苦しんでも続けてね。あたしも2人を信じてる」
そしてリリィの治療を開始した。
不思議なことにリリィが苦しむこともなく、リリィの首は綺麗になった。
黒いもやは出てきたが、特に何もすることなく消えた。
「なんかあっさりだったね……。ユイ、なにかした?」
「はい、ご主人様とリリィさんが治してくれた時にコツをつかみました。リリィさんにあんな苦しい思いはさせられませんからね」
「そっか、さすがユイ」
さっきは僕が最後かっこよく決めたと思ったけど、ユイの方が上手だなあ。
でもそれが嬉しい僕であった。
「リリィ、気分はどう?」
「すごく爽快だよ。これ付けられてから気分が重かったんだ。やっと解放されたよ」
「気分が重いってどんな風に?」
「なんていうかな……いろいろあきらめようかって気分になる感じかな。すごく後ろ向きな思考になってた。アルがいなかったら、とっくに奴隷の自分を受け入れてたかも……」
それが奴隷の証を付ける邪法の効果なのかな。
奴隷を心の底から自分を奴隷だと思いこませるか……。
厄介なことをしてくれるものだ。
「そっか、じゃあ消すことができてよかったよ。さっそく奴隷管理ギルドに行こうか」
「はい、ご主人様。それでこの首輪はどうしましょうか?」
「うーん……着けずに行きたいけど、なにか文句言われても困るな。悪いけど一応着けてくれるかな」
「はい、ご主人様に着けてほしいです」
「あたしもアルにしてほしい……自分で着けるのってなにか悲しいもん」
ということなので、申し訳ないけど2人に再度首輪を着けた。
2人とも僕が着けることで嬉しそうにしてくれていることが救いか。
これで最後にしたいものだ。
そして奴隷管理ギルドに到着だ。
先ほど話した人に奴隷の証を消したことを伝える。
「な! それは本当ですか? 確認させていただいてよろしいでしょうか」
ユイとリリィの首を見て驚くギルドの人。
正式な手順意外では消せないと言っていたものなあ。
でもこれで奴隷から解放できるはずだ。
「これで2人は奴隷じゃなくなったんですよね?」
「は、はい……今から手続きの書類を作りますね。でもいったいどうやって消したのか教えていただけますか?」
「怪我を治したりする回復魔法で消えましたよ」
「は? そんな馬鹿な……」
「事実です。簡単な回復魔法ですし、これからは奴隷の解放が簡単にできるかもしれませんね」
なぜかギルドの人は顔色が悪い。
書類作成を他の人に任せ、どこかに消えていった。
奴隷の解放でお金が取れなくなるから焦っているのだろうか?
ま、そうだとしても僕の知ったこっちゃないか。
手続きが終わり、ユイとリリィはこれで奴隷ではなくなった。
なんともいえない達成感がある。
「2人ともこれで自由の身だね。おめでとう」
「ありがとうございます。でも何も変わった気がしません。わたしは奴隷でなくなってもご主人様とずっと一緒にいますし」
「あたしも同じかなー。でもユイ、ご主人様って呼び方はやめないと」
「えと……でもご主人様と呼び慣れてますし……」
僕も呼ばれ慣れはしている。
でもこれからは変えてほしいなあ。
ここはリリィの説得に期待だ。
「ユイもあたしと同じようにいつもアルって呼ぼうよ」
「ううー、恥ずかしいですもん」
そういえば最近名前で呼んでくれてないなあ
呼ばれたいぞ。
「名前が恥ずかしいんだったら、旦那様とかどうかな? ご主人様に近いし」
「そ、それも恥ずかしいですね……」
旦那様か……まだ結婚してないけど、それはそれで……。
いや、でもやっぱり名前がいいなあ。
「じゃあやっぱり名前しかないよ。アルも名前で呼ばれたいよね?」
「うん、呼ばれたい」
「ではあの、アル……バート様……。うう、やっぱり恥ずかしいです。しばらくはご主人様と呼ばせてください」
顔を真っ赤にしているユイが可愛い。
まあよしとしようか。
たまにしか呼んでくれない方がありがたみがある。
ユイとリリィ、これからは僕と平等な関係だ。
他の奴隷もこんな風に減っていってほしいな。
奴隷なんてシステムはいらないんだ。
一緒にいてほしければ仲良くなればいいんだからね。




