66.咲き誇る花
カーダを殺してから4日ほど経過した。
風の噂によると、ヴァルマンはいもしない敵に追われて逃げ回っているとか。
さぞかし精神的にまいっていることだろう。
僕らはと言えば、ディーラさんの商売の手伝いをしている。
ヴァルマンをこらしめるにはこれが一番の近道だからだ。
ランバールの街からガナードの街へ、転移の魔法陣を使ってありえない速度で荷物を運ぶ。
妨害もないので順調である。
そして今日は、近くの森へやってきていた。
あのドラゴンの出た森だ。
ユリアの花が咲いてるか確かめに来たのだが、期待以上だった。
探すまでもなく、あちこちにピンクと黒で彩られた花が見える。
見た目もそんな悪くなくて一安心。
あとはこの花を触媒とする魔法を伝えればいい。
女性であればだれでも使える回復魔法……。
これで少しでも女性が尊敬され、待遇が改善されればいいな。
僕ら3人はユリアの花をたくさん摘んで帰ることにした。
この花はドライフラワーにしても効果は変わりないので、いくらでも保存しておける。
たくさん持って帰ろう。
そして今夜からユイの体の治療を始めよう。
毎日続けていれば、ユイの体はきっと綺麗になるんだ。
かばんがいっぱいになった頃、辺りを見回して気づいた。
ここはたしか……ユイと一緒に魔法陣に引きずり込まれた場所か。
あれはいったい何だったんだろうなあ……。
と考えていると、リリィがなにかに耳を傾けるような仕草をしているのに気づいた。
「リリィ、どうかした?」
「ん……なんか助けてって声がするんだ。こっちに来てほしいって言ってるような……」
「どこだろう?」
「こことは違う場所? すごく不自然な場所というか……」
なんだろう?
ここから飛ばされたダンジョンも不自然な場所だったけど……。
リリィが転移魔法陣で助けてくれなかったら、あのまま死んでいたかもしれない。
「あのドラゴン戦の時にリリィは僕たちをどこかわからない場所から助けてくれたよね? あれと関係はあるかな?」
「あ……もしかしたらそこからかもしれないね。そこに行く転移魔法陣作れるかも……やってみる? ってそんな時間はないか」
気になるし、冒険心はくすぐられるな……。
なにかの罠の恐れもあるけどね。
でも今日は用事があるし、しばらく忙しいからなあ。
「そうだね、またそのうちでよければかな」
「うん、一応それを伝えてみる……」
リリィが目を閉じて謎の存在に話しかけているようだ。
あのダンジョンを操っている誰かかな?
もしくはダンジョンそのものにも意思がある?
とりあえずリリィに任せるとしようか。
「……ん、待ってるから時間のある時に来てほしいって言ってる。なんだかすごく必死な感じだよ。騙そうとしてる感じではないかな……」
そう言われると気になるな。
時間ができたら来るとしよう。
そして僕らは森を後にした。
きっとまた来ることになるだろう。
次に向かったのは冒険者ギルドだ。
以前講義をした時のように人を集め、回復魔法を伝えるのだ。
すでに数日前から告知をしてあり、もうすぐ始まる時間だ。
タイトルは『2人に1人は使える簡単な回復魔法』だ。
まあ実際は女性にしか使えないんだけどね。
女性にだけ才能があるとみんなに思わせたいんだ。
そして回復魔法の講義が始まった。
僕はユリアの花を見せ、新種の花を利用した魔法ということを説明する。
ユイとリリィに実演してもらいつつ、呪文を教えた。
女性だけが使えることは言わないが、術者から対象者への思いが強いほど効果が上がることは伝えておく。
さらには対象者から術者への思いが強ければさらに効果が増すことも伝える。
言ってて若干恥ずかしいが、事実なので仕方がない。
ユリアの花は大量にあるので、参加者にも実践をしてもらった。
予定通り女性はあっさりと使えるようになった。
男性陣はどんなにがんばっても使えていない。
無駄な努力をさせるのは少し可哀想な気もするけど、僕の野望のために犠牲になってもらおう。
そして無事に講義は終わった。
この魔法は他者に自由に広めていい……というか伝えてほしいと言っておいた。
さらには冒険者ギルドにも簡単な説明を書いたものを置かせてもらう。
これでどんどん広まるはずだ。
次はランバールの街の冒険者ギルドでも同じように講義をした。
これで2つの街で新回復魔法が伝わったことになる。
どちらも大きな街なので、他の地にも伝わることだろう。
これにより女性が回復魔法で活躍するはずなので楽しみだ。
***
今日の予定を終え、ディーラさんのお屋敷へとやってきた。
夕食をごちそうになる予定なんだ。
到着すると、サーシャちゃんが迎えに来てくれた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、いらっしゃーい。手つないでー」
サーシャちゃんの声は昨日出るようになった。
待っていても治らなかったので、昨日ユリアの花により回復魔法を試したんだ。
するとあっさり治り、最初から試しておけばよかったと思った。
病気や心の傷も癒せる万能魔法だ。
サーシャちゃんに手を引かれて食堂へ移動する。
楽しそうにはしゃぐサーシャちゃんに癒される。
「ねえねえ聞いてー。サーシャが考えた商売のアイデアをお父さんがすごいって言ってくれたんだ。今日からするのー」
「すごいんだね、サーシャちゃんは」
「えへへー」
サーシャちゃんに覚醒させた商才は役立っているようで、ディーラさんと意見を交わし合っているみたいだ。
ディーラさんはさぞ大喜びしていることだろう。
この才能を消すべきかと考えたけど、このままにしておけばいいかな。
大活躍する女性商人……悪くない。
そして食堂に入り、皆で食事開始だ。
僕が今日やっていたことがまず話題に上がる。
「アルバート君、お疲れ様。なんでも私を治してくれた回復魔法を広めているそうじゃないか。あれほどのものならば授業料をとることも可能なのに、まったく君は欲がない男だ」
「欲がないわけじゃありませんよ。これをすることで僕のためになりますからね。ディーラさんにはこっそり教えておきますが、あの魔法って実は女性にしか使えないんですよ」
「ほほう……」
僕はこの魔法で女性が尊敬されるようになればいいと考えていることをディーラさんに話した。
ディーラさんは僕と同じように男女平等な社会になってほしいと思っている人だ。
きっと賛同してくれるだろう。
「やはり君は素晴らしい人間だよ。この街の将来は明るいな。実はサーシャが大人になって私の後を継いだ時のことを考えて不安だったのだが……この子が大きくなる頃にはそんなこともなさそうだ」
「きっと大丈夫ですよ。それに僕らもサーシャちゃんを守りますから」
商売をする上でトップが女性だと舐められる社会だから不安だったんだろう。
でもサーシャちゃんが大きくなる頃にはそれが当たり前の社会にしたいものだ。
ちなみに僕は、ヴァルマンの件に片がついた後もディーラさんに協力していこうと思う。
権力を持った人格者であるディーラさんの元にいれば、いろんなことがスムーズに運ぶんだ。
「ありがとう、期待しているよ。どうせならばサーシャと結婚してくれれば話が早いのだがな」
「なっ! んぐ……ごほごほっ……」
「ご主人様、大丈夫ですか?」
ディーラさんの爆弾発言により僕はむせてしまった。
何を言いだすんだこの人は……。
「お父さんだめだよー。お兄ちゃんにはもう2人もお嫁さんがいるんだからー」
そういうサーシャちゃんがとてもいい子に見える。
「サーシャはアルバート君と結婚したくないのかい?」
「そりゃあサーシャだってお兄ちゃんのお嫁さんになりたいけどさ……」
「2人も3人もそう変わらないさ」
「そうなの?」
僕がむせている間にディーラさんがサーシャちゃんを説得しようとしている。
ここはしっかりお断りせねば……。
「ごほんっ……。あの、ディーラさん。サーシャちゃんはとても素敵な女性ですが、僕の両手は2人で精一杯なんです」
「そうか……残念だ」
「ほらね、お父さん。サーシャはもっと素敵な人を見つけるよー」
「そうか……しかし彼ほどの逸材はなかなか……」
ディーラさんは名残惜しそうだが、とりあえず無事解決だ。
どんどん押して来られたりしなくてよかった。
もしサーシャちゃんが泣きながら迫ってきたら、優柔不断な僕は悩んでいたかもしれない。
何気に大人なサーシャちゃんに感謝だ。
それにサーシャちゃんを恋人にするとまずい理由はほかにもある。
万が一そうなったとしたら、ユイとリリィは奴隷の身ということで引いてしまいそうな気がしたんだ。
そんな気を遣わせるわけにはいかない。
あ……そういえばそろそろ奴隷の身から解放してあげたい。
面倒な手順とたくさんのお金がかかると言われたが、ディーラさんの協力を得れば可能かもしれない。
ちょっと相談してみよう。
「ところでディーラさん、奴隷を解放する方法はご存知ですか?」
「うむ……以前調べたことがある。なんでも首に刻まれた奴隷の証を消すのに高級で特殊な触媒が必要とか……」
「触媒ですか……」
「そうか、2人を奴隷の身で無くしたいのだろう? 出来る限りは協力するぞ」
「ありがとうございます」
ユイとリリィの首にある入れ墨のような印。
あれを消すことができればいいわけか。
ふと思う……ユリアの花で消せないのだろうかと。
よし、明日奴隷管理ギルドへ行って詳しく聞こう。
ユイとリリィを奴隷から解放して対等な状態になりたい。
そして……その状態で結婚したいな。




