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65.恐怖におびえる商人

 ヴァルマンの部下がヴァルマンを呼びに行った。

 そして今起きたことを伝えるだろう。

 カーダがヴァルマンの娘を操ってヴァルマンを殺そうとしていたと……。

 そしてカーダは生きていて、ヴァルマンの命と狙うだろうと……。


 実際にはカーダは死んでいるし、危険など一切ない。

 でもそう思って怯えて暮らせばいいというのが僕の考えだ。

 ユイを酷い目にあわせたヴァルマン……苦しめばいいんだ。

 ちょっと邪悪な考えが僕の中に渦巻いているけど、そこはまあ許してほしい。


 そしてヴァルマンの部下が戻ってきた。

 ヴァルマンが呼んでいるので、外で話をしようということらしい。

 この別荘内にはカーダが爆発の魔法陣をたくさん仕掛けている、と嘘情報を伝えてあるから中に入りたくないのだろう。

 眠っているタニアは、ヴァルマンの部下が背負って外に出た。


 外に出るとヴァルマンが怒鳴り散らすように話しかけてきた。


「おい! 娘は本当に大丈夫なんだろうな!」


「今のところは大丈夫です。でもあいつがまた来るかもしれませんので、警戒してくださいね」


「くそう、あいつめ……今まで世話してやった恩を忘れおって……。おいお前たち、この建物内の魔法陣は消せるか? そしてこのまま護衛をしてもらう。報酬は弾むぞ」


 僕たちの話を信じて、実力を買っているようだ。

 先ほどカーダが本性を現してくれたのが大きいな。

 だが、もうここに用はない。


「すみませんが、さきほど娘さんを助けた時に力のほとんどを使い果たしました。しばらく休まないと何もできません」


「なんだと!? また攻撃してきたらどうずるんだ! 役立たずどもが! まあいい……休んだ後は働いてもらうぞ」


「それですが、断らせていただきます。先ほどはこちらが先手を取れたので撃退できましたが、次うまくいくとは限りません。あんな強そうなやつとは戦いたくないもので」


「何!? ワシの依頼を断る気か! この腰ぬけが!」


 いちいちうるさいなあ……威張り散らしているし。

 こうやって話をしているだけでも嫌だ。

 とっととあしらって帰りたい。


「申し訳ありません、もっと強い護衛を探されるのがいいかと」


「くそ! おい、そっちのお前たちはどうだ?」


 今度はカイルさんに護衛を頼むようだ。

 だが、すでに断るべきだと伝えてある。


「僕たちもやめておくよ。魔法陣をどうこうする力もないし、あっさり殺されそうだ」


「貴様らもか! もういい、とっととワシの前から消えろ! 断った以上、ここまでの報酬も払わんからな!」


「そうですか、では2度とお会いすることもないでしょうね。では……」


 僕らとカイルさんたちはヴァルマンに背を向けて歩き出した。

 後ろから罵声が聞こえるが、気にしない。


「カイルさん、いろいろとすみません。報酬ももらえませんでしたし……」


「かまわないよ。君たちのやりたいことはうまくいったんだろう? これで恩返しができたよ」


「そう言っていただけるとありがたいです。事情はお話できなくてすみませんが……」


「いいよ。あのヴァルマンは悪名高いやつだしね、いろいろあるだろうさ」


 カイルさんがいてくれて助かったな。

 もともとの目的だったタニアも帰せたし、偶然にもカーダの息の根をとめることができた。

 さらにはヴァルマンが怯えて暮らす状況が作れた。

 あとはしばらく様子を見るとしよう。


「でもここから歩いて帰るのは少し時間がかかりそうだね」


「あ、それについてはお任せください。リリィ、いつものをお願い」


「うん、任せて」


 リリィが大地の力を借り、歩くのに合わせて地面を動かす。

 他の人に見せるのは初めてだけど、カイルさんたちなら大丈夫だろう。


「こ、これはすごいね……。いったい何が起きてるんだい?」


「ちょっとした魔法ですよ。特殊なものなので教えることはできませんけどね」


「そうか、君たちといると面白いことがたくさん起きるね」


 3人ずつ手をつないだ2組がすごい速度で歩いていく。

 なにか楽しいなあ。


 そしてガナードの街へと到着だ。

 カイルさんはこれから冒険者ギルドへ行くらしい。

 そしてヴァルマンが強い敵に狙われていて、それを知って護衛を断ったら報酬をもらえなかったと伝えるらしい。

 これでヴァルマンの護衛を受けようという冒険者も減ることだろう。


「ではアルバート君、またね。次に会えるのを楽しみにしているよ」


「はい、また会いましょう。次に会う時はひとつ魔法をお教えしますよ」


「魔法とはなんだい?」


「キィさんに聞いてみてください」


「そっか、わかったよ。それじゃあね」


「では、さようなら」


 そしてカイルさんたちと別れた。

 次に会う時はユリアの花を使った回復魔法を伝えたい。

 キィさんには簡単に教えてあるが、もっと詳しく教えてあげないとね。


 さて、僕たちは家に帰ろう。

 それなりに疲れてしまった。


「ユイ、リリィ、今日もお疲れ様。がんばってくれてありがとうね」


「はい……がんばりました。ご主人様……」


「あたしもがんばったけど、ユイほどじゃないかな。ユイ、大丈夫?」


 ユイは震えながら僕の腕に抱きついてきた。

 ヴァルマンに会うのはやはり怖かったのだろう。

 そして妹のタニアの件だ。

 カーダが乗り移っていて演技をしていたわけだが、お姉ちゃんと呼ばれて嬉しそうにしていた。

 その時に幸せを感じてしまったせいで、今つらくなったのだろう。


 あの幸せをまた感じさせてあげたいな。

 今度はあんな演技ではなく本物を……。

 なにかいい手があればいいんだけど。

 今はとりあえず……しっかりと抱きしめていよう。


「ユイ、がんばったね」


「はい……褒めてください……」


 ユイがこんな言い方になるのは珍しい。

 それだけつらかったんだろうな。

 たくさん頭をなでよう。

 そのまま家まで帰った。



 ユイをベッドに寝かせて休ませる。

 しばらく近くで見守っているとしようか。

 リリィも心配そうにユイを見守りつつ、僕に話しかけてきた。


「こんなに怖がっちゃうほどひどいことをされたんだね。早くヴァルマンを懲らしめたいな」


「そうだね、あとはディーラさんに任せておけばあいつは商売に失敗して破滅するよ。しばらくは恐怖で逃げ回って仕事もできないだろうしね」


「うん、上手くいくといいな。でもアル……あいつを自分の手で殺したいと思ったりはしないの?」


 それは何度も思った。

 僕の大好きなユイにあんなひどいことをしたんだ。

 だけど……。


「僕がそんなことで人殺しをするとね、きっとユイは悲しむんだ。僕の勝手な予想だけどね」


「そっか……。うん、アルがそう思うんならきっとそうだろうね。このままやっていけばいいと思うよ」


「ありがと、リリィ」


 僕は甘いのかもしれない。

 証拠を残さずにヴァルマンを殺す方法はいくらでも思いつくんだ。

 でも……きっとこれでいいと思うんだ。

 きっとうまくいくさ。


「あ、今風の噂がきたよ」


「なんて?」


 リリィがいう風の噂とは言葉通りの意味だろう。

 なんだか日々すごくなっている気もする。


「ヴァルマンが違う別荘に移動したらしいんだ。それで、最初に部下に中を調べさせたら爆発したんだってさ……」


「な……。まさかカーダは本当にヴァルマンの別荘にそんな罠を?」


「みたいだね。自分が死んだら無差別に人を殺そうとしていたのかも。頭おかしいよ……」


 いったい何を考えているやら……。

 狂気に染まっている人間の思考なんて知りたくもないけど……。


「そうだね……。でもヴァルマンはさぞかし怯えてるんだろうね。そこだけはカーダの頭がおかしいことに感謝だよ。でも他にそんな罠がないか調べないといけないね」


「うん……みんなに協力してもらって調べてみる。ちょっと抱きしめてくれる?」


「わかった」


 リリィを抱きしめると、目を閉じて集中し始めた。

 自然の空気たちに協力してもらって調べるのだろうか?

 リリィの力ってすごすぎるな……。

 ま、悪いことに使わないと信用できるからいいか。

 僕もリリィに力を貸せるよう集中だ


 しばらく待つとリリィが目を開けた。


「ん……ガナードの街もランバールの街にも嫌な気配はないかな……」


「そっか、よかったよ。でもよくそんなことまでわかるね」


「うん、これに関してはみんな協力的なんだ。あの男が気持ち悪かったから、痕跡も全部消えてほしいみたい」


「そんな嫌われてるんだ……」


「うん、あいつの邪法ってね、人間だけでなくいろんな植物や動物を生贄にして使ってたんだってさ」


 そう聞くと、倒せてよかったと改めて思うな。

 死んだ後にもやっかいなことをたくさん残しているけど……。

 街は安全そうで何よりだ。

 ヴァルマンがカーダの罠で死んだとしたら……それは自業自得だろう。


「リリィ、疲れてるのにありがとうね。ゆっくり休んでて。僕は夕飯の準備をしてくるよ」


「うん、じゃあ休むね。でも寝るまでそこにいてほしいな……」


「わかった」


 リリィが寝るのを見届けてから、僕は食事を作りに行った。

 疲れた2人を癒せる食事を作ろう。

 なんとなくだが……この後すべてがうまくいくような予感がしていた。

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