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64.脅し

 カイルさんが、ヴァルマンの屋敷で護衛をしている隊長っぽい人と話している。

 先ほどの爆発について報告しているのだが、僕のお願いで少し話を作ってもらっている。


 まず爆発の原因は、何者かが爆発の罠の魔法陣をしかけていた。

 それを僕の元に向かっていた仲間2人が踏んでしまった

 しかし2人は、それをぎりぎりのところで無効化して生き延びた。

 ということにしたが、まんざら嘘でもない。


 さらにカイルさんにはこんな予想を言ってもらう。

 魔法陣を使いこなす何者かがここにいる人物を狙っているのではないかと。

 ヴァルマンの娘がここに現われたのは、その何者かが連れてきて罠を仕掛けているのではないかと……。

 先ほど雇った護衛に魔法陣に詳しい者がいるから見てもらうべきではないかと……。


 話は無事に伝わったようで、隊長は別荘の中へ入っていった。

 おそらくヴァルマンに報告するのだろう。

 僕の予想だが、屋敷が襲撃されたりといろいろあったヴァルマンはかなり慌てていて、まともな思考は出来ていないと思う。

 だから作戦通りに行くと確信している。


 しばし待っていると、中から隊長が出てきた。


「先ほど雇った護衛で魔法陣に詳しいものがいると聞いたが、いるか?」


 よし、これで中に入れる。

 僕はユイとリリィを伴って、隊長に話しかけた。

 なお、ユイはヴァルマンに顔を見られないようフードをかぶっておいてもらう。

 会うのが怖いのか少し震えているので、しっかり手を握っておいてあげよう。


 そして話がつき、ヴァルマンの別荘内へと入ることができた。

 中へ入ると、ヴァルマンに迎えられた。

 近くで見るのは初めてだな。

 ぶん殴りたい衝動も湧くが、今は我慢だ。

 まずはユイの妹にとり憑いたっぽいカーダを何とかしよう。


「お前たちか、魔法陣に詳しいというのは。本当なんだろうな?」


 ヴァルマンの顔には疲労の色が見える。

 命を狙われていると思っていて眠れてないのかもしれないな。

 以前見た時のような、威張りまくっていた時の覇気がない。


「はい。リリィ、なにか感じるかな?」


「ん……例えばそこ……」


 リリィは壁に掛けられた絵画を指差した。


「む? そこになにがあると言うのだ」


「見てみてください」


「おい、見てみろ」


 ヴァルマンは部下に命じて絵画を調べさせた。

 すると中から魔法陣の描かれた紙が出てきた。


「な……これはいったいどのような魔法陣なのだ?」


「えっと……音を記憶する魔法陣だと思う」


「な!? まさかカーダのやつが……こんなところにまで……」


 どうやらカーダはヴァルマンの別荘にもこういった魔法陣を仕掛けていたようだ。

 となると、屋敷みたいに爆発させる魔法陣も?


「リリィ、他にはあるかな?」


「うん、たくさんあるみたい。そこの柱にはすごく危険な魔法陣がありそう……」


「き、危険とはなんたのだ……?」


「えっと……えいっ!」


 リリィがなにかを念じると、魔法陣が浮かび上がってきた。


「この魔法陣はなんだ?」


「爆発させるみたい。この建物が吹っ飛ぶくらいに……」


「ななな……なんということだ。ということはワシの屋敷を燃やしたのもあいつの仕業だったのか。むうう……裏切りおってえ!」


 ヴァルマンは怒りと恐怖で震えている。

 身内だったカーダが自分を殺そうとしていたかもしれないんだものな。

 ま、同情なんてする気はない。

 と考えていると、リリィが僕の腕をつんつんとつついてきた。


『今のは嘘なんだ。ユイをいじめてたこんなやつは苦しめばいいんだ』


 爆発はリリィの嘘のようだ。

 嘘は良くないけど、この場合はいいか。


「それでこの魔法陣はどうすればいい? 消せるのか?」


「消せるけどちょっと時間かかるかな。他にもたくさんあるみたいだし……」


「なんだと……」


「特にあっちの部屋の方から危険な感じがするよ」


 青ざめるヴァルマンに対し、リリィはどこかを指差した。

 計画通りであれば、あの先にタニアがいるはずだ。


「あそこは娘の……。カーダのやつめ、やはりあの子に何かしたのか? おい、ちょっと調べてみてくれ」


 あまりにも予定通りに行き過ぎて怖いくらいだ。

 僕たちはタニアが寝ている部屋へと案内された。

 さっそくリリィが調べてみる。


「これは……何かされてるみたいだ。もしかしたらこの子自身になにかの魔法陣が仕掛けられているのかも……さっきの爆発みたいな」


「なに!? 大事な娘なんだ! なんとかしてくれ!」


 娘を大切にしているヴァルマンに腹が立って仕方がない。

 同じ母親から生まれたユイを何故大事にしなかったのかと……。

 でも今はカーダのことが先だ。


「ヴァルマンさん、こういうことをする相手に心当たりは?」


「カーダという、ワシに使えていた魔法使いがいたのだ。どうやらワシを裏切ったようだ。ワシの屋敷を燃やしたり、娘にこんなことまでするとは……」


「なるほど……」


 さてリリィ、実際はどうなのかな?


『カーダが乗り移ってる前提で調べてみたんだけど、たぶんその予想があってると思う。なんとか追い出しつつ消そう』


『出来そう?』


『時間をかければたぶん……。アルは適当にヴァルマンを脅しておいて』


 脅しか……得意ではないけどやってみるか。


「ヴァルマンさん、僕たちが彼女にかけられた魔法を解いてみます。もし失敗すれば大変なことになるかもしれませんが、よろしいですか?」


「大変なこととはなんだ?」


「この建物が爆発して吹っ飛ぶかも……」


「なんだと?! そうなったら娘も死ぬではないか! なんとかしろ!」


「僕たちだって命がけなんです。ダメなのであれば他を探してください。あと成功したら報酬はたっぷりといただきますよ」


「むうう……仕方がない。やってみろ。おい、避難するぞ。お前は見張ってろ」


「は、はい……」


 そう言ってヴァルマンは部屋を出て行き、部下が1人残された。

 娘が大変だろうと、自分の命の方が大事か。

 昨日だって娘を置いて逃げたせいで大変なことになったというのに、やはりクズ人間のようだ。


 まあいない方がやりやすい。

 はじめよう。


「リリィ、まずはどうする?」


「何かあってもいいように、防御魔法陣でこの子を覆うよ。手伝って」


 僕とリリィとユイで協力して、タニアの周りに魔法陣を作る。

 これでカーダの魔法陣は使えないはずだ。


「次はどうする?」


「ちょっと起こして話を聞いてみようか」


 タニアを眠らせたのは大自然の力だ。

 だから起こすことも容易なようで、タニアはすぐ間に目覚めた。

 もしカーダが中にいるのであれば、僕が首を斬って殺した直後の記憶のはずだ。


「んん……ここは?」


「君のお父さんの別荘だよ」


「そう……ですか」


 カーダを殺した僕の顔を見ても、特に反応はない。

 本当に乗り移っているのか不安になるな。

 でもそれだけ冷静になれる敵なのだと思うとしよう。

 とりあえず揺さぶりをかける。


「まず君に重要なことを伝えないといけないんだ。カーダという男が君にとんでもない悪さをしたみたいなんだ。覚えてるかな?」


「え? カーダさんがそんなことをするはずが……」


「さっきもカーダの仕掛けた罠で爆発が起きて怪我人が出たんだ」


「そんな……」


 タニアは困ったように、ヴァルマンの部下に目を向けた。

 その部下は僕の言うことが正しいと言うように頷く。

 タニアの中身がカーダであれば、さぞ混乱していることだろう。

 なにせ、さっきユイとリリィを殺そうとした時の記憶はないのだから。


「あの……わたしはいったいどうしたら?」


 どうするかな……正体を現すように誘導したいけど……。

 ヴァルマンの部下がいなければもっと簡単なのになあ。

 でも逆に、ヴァルマンの部下にカーダがタニアの体を乗っ取っているという証拠を見せたくもある。

 うまくいけば、ヴァルマンに対してのいい攻撃となるんだ。

 なんとか言葉を探していこう。


「まず君の現状について教えておくよ。もしかしたら君の体に魔法陣が仕掛けられているかもしれない。君の命を奪うようなね……」


「そんな……怖いです」


 怖がるタニア。

 なんとなく、ほっとした態度のようにも見える。

 僕が見当違いの予想を言ったから安心したかな。


「その可能性は低いから安心してね。次に考えられるのは、カーダが君の体に入り込んでいるってことだよ」


「え!?」


 これには動揺したと見える。

 間違った予想で安心したところに核心をついたのが効いたようだ。


「でも安心してね。もしそうだったら、今から君の中にいるカーダを追い出すよ」


「どうやって……ですか?」


「僕たちの魔法でだよ。じゃあはじめるね。2人とも、やろうか」


 ここで当初の予定通り、カーダを追い出す魔法を作り始める。

 途中で怖がって正体を明かしてくれるのが理想的だ。


 タニアは若干怯えた顔で見ている気がする。

 さて、どうするのかな。

 おそらくこの魔法は時間をかければ完成し、カーダは今度こそこの世からいなくなるだろう。


 しばらくすると、タニアに反応があった。


「おいやめろ! やめないとこの娘の体ごと爆発させるぞ!」


 どうやら観念したようだ。

 これでカーダがタニアの体を乗っ取っていたことが証明されたかな。


「カーダさんでしょうか? まさか本当に体の中に入り込んでいたとは……」


「そうだ……貴様に殺された瞬間にこの娘の体に入り込んだのだ」


 やば……僕が殺したって言葉はやばい。

 ヴァルマンの部下の口封じをするべきか?


『アル、大丈夫だよ。今の言葉の一部分を聞こえなくしておいたからさ』


 さすがリリィ、気の利くことをしてくれる。

 ではこのまま続けよう。


「すごいことができるのですね。それより、タニアさんを爆発させたらあなたも死にますよ」


「ふん……死ぬくらいならば道連れは多いほうがいい」


 こいつもかなりのクズだな。

 ヴァルマンの屋敷を爆発させたのも、道連れにしたかったわけか。

 リリィ、こいつの魔法は封じていられるかな?


『大丈夫。前回カーダが死んだ瞬間は、自分の命を生贄に膨大な魔力を生んでたけど、今回はもうできない。このままこいつを消す魔法を完成させよう』


 よし、リリィを信じて続けよう。


「あなたは危険ですね。予定通り消させていただきます」


「おい、やめろと言っているだろう! 死にたいのか!?」


 少女の可愛い声で汚い言葉を使うカーダ。

 僕たちは死なないし、死ぬのはお前だけだよ。


 そして魔法が完成した。


「うおおおおーっ!」


 断末魔をあげつつカーダは消えた……のかな?


『うん、この子の体から不自然さが消えたよ。間違いないと思う』


 よし、カーダはこれでいいだろう。

 あとは部下さんに嘘情報を持っていってもらおう。


「いったい……どうなったんだ?」


「どうやらカーダという男がお嬢さんの体を操っていたようです。なんとか追い出しはしましたが、また命を狙ってくるかもしれません。警戒をしてくださいね」


「わ、わかった……」


 ふう、何もかも上手くいったぞ。

 今日からヴァルマンは怯えて暮らすことになるだろう。

 でも、ユイの苦しみはこんなものじゃなかったはずだ。

 やつの地獄はまだ始まったばかり……。

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