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61.ユイの妹?

 僕とユイはヴァルマン邸の地下にあった洞窟の中を歩いていた。

 入り組んだ場所ではあるが、少しだけ人の手が入っているようで目印が置いてある。

 それをたどれば外に出ることができるんだろう。

 地上のヴァルマンの屋敷はどうなったかな?


『屋敷が大炎上して街中がパニックみたい。屋敷の外ではカーダって男とお嬢様が出てこないって大騒ぎしてる。助けようにもこの家事じゃ無理だろうってあきらめてるみたい』


 カーダは殺したし、この屋敷のお嬢様であるユイの妹はユイが抱き抱えている。

 とりあえず他に被害者がいないならなにより。

 ヴァルマン邸の周りに他の家もないし、燃えうつることもないだろう。

 リリィ、可能なら雨を振らせてあげてね。


『うん、頼んでみる。それとあたしも移動するね。その方が誘導しやすいし、その洞窟の出口で合流しよう』


 よし、脱出しよう。

 ユイの妹は間違いなく死んだと思われてるだろうな。

 なんか誘拐してきたような形だけど……まあこの場合仕方ない。

 病気はどうなんだろうか。


「ユイ、妹の……タニアの調子はどうかな? カーダになにかされてない?」


「大丈夫みたいです。安らかな顔で眠っていますね。病気のようには見えません……いったいなんの病気なのでしょうか」


「とりあえず連れて帰って休ませておこう」


「ありがとうございます……」


 僕は正直なところ、タニアのことをよく思っていない。

 父親の悪影響もあるけど、ユイをいじめていたんだから。

 でもユイが助けたいって言う以上は助けよう。





 それから1時間ほど歩き、洞窟の出口らしきところに到着した。

 はしごがあるけど、このまま登って大丈夫かな。

 外にいるであろうリリィに確認してもらおう。


『小さいけど頑丈そうな小屋が建ってるね。特に罠はないみたいだ。鍵は中から開けられると思うよ』


 そっか、ありがとう。


「ユイ、僕が先に登ってみるね。タニアを担いで登れそう?」


「大丈夫です」


 はしごを登ると扉のようなものがあり、開けて出ると倉庫のような場所に到着だ。

 ユイを呼び、扉の鍵を開けるとリリィが立っていた。


「2人ともお疲れ様、その子がユイの妹かな?」


「リリィもお疲れ様。この子を誰にも見られないよう地下の隠れ家まで連れて行こう」


「わかった。街のみんなは火事に気を取られてるから簡単だと思うよ。それにここは街の外だしね。家はこっちだよ」


 ヴァルマンはこういった脱出路をたくさん用意していたんだろうな。

 上手いこと利用できてよかった。

 では帰ろう。




 リリィに案内してもらって地下の隠れ家へと到着した。

 ユイの妹タニアをベッドに寝かせて、これからのことを話しあおう。


「ユイもリリィもお疲れ様。突発的なことが起きて予定より早まったけど、ユイやディーラさんを酷い目にあわせたカーダを倒すことができたよ。他にも被害者はたくさんいたと思うし、これで少しは平和になると思うよ」


「ご主人様……ありがとうございます」


「アル、お疲れ様。今回は大丈夫?」


 リリィが心配してくれているのは、僕が人を殺したことかな。

 平気ってわけじゃないけど、前回ほどのショックは受けてない。

 ディーラさんに言われて盗賊を殺した経験のおかげで、躊躇くなく殺すことができたんだと思う。

 人を殺すのに慣れるのもどうかと思うけど、今回みたいな敵は迷っていては何をしでかすかわかったもんじゃないし、これでよかったんだ。


「大丈夫。僕は平気だよ」


「そっか、ならいいけど……どうせなら前回みたいに慰めてあげたいなって思って……」


「ん……やっぱり少しつらいかな」


「そっかそっか、じゃあ抱きついててあげる。ほらほら、ユイもおいでよ」


「はい!」


 前回人を殺した時にはユイとリリィが僕に抱きついててくれたんだった。

 今回はなくても大丈夫だけど、せっかくなのでやってもらおう

 いちゃついている感じで話を進める。


「それでご主人様……わたしの妹のタニアはどうしましょうか。さっきのリリィさんの話だと、死んだと思われているみたいですね」


「そうなんだよね……僕たちが助けたってことにしても不自然だし……。とりあえずここに置いて病気を治してから考えよう。ヴァルマンの別荘にこっそり連れていくとか、なにか方法はあると思うよ」


「はい、お手数をおかけします……。病気を治したいってわたしのわがままを聞いていただいてありがとうございます」


「いいんだよ。ユイのわがまま聞くのは好きだから」


「はい……」


 実際どうしよう……。

 病気が治るかは不明だし、そのあとどうするかも難しい。

 ヴァルマンの元に戻すべきだと思うけど、家もない状態だからなあ。

 それに帰す場合は、僕らの顔を見られないようにしないといけない。


「この子が起きた時に、僕らの顔を見せたり声を聞かれないようにしないといけないね。可哀想だけど縛って目隠ししておこうか」


「はい……ご主人様に従います」


「そうだよね……あ、いい方法があるってさ。ここに来てからの記憶を夢だと思わせる魔法があるんだってさ。


「そんなのがあるんだ……」


「うん、人間が踏み入ってはいけない聖域に侵入した時とかこれで忘れさせるらしいよ」


 なるほど……昔話とかでよくありそうなやつか。

 ああいうのは大自然の力が働いていたわけか。


「じゃあリリィ、それをお願いするよ」


「うん、任せといて。時間がかかる魔法らしいけど、その子が目覚めるまでにはかけられると思うよ」


 というわけで懸念点は消えた。

 安心したらなんだか疲れを感じる。


「とりあえず今日は休もうか。2人とも疲れてるよね」


「うん、もう寝たいかな……。あの子の見張りはどうしようか」


「それはわたしがしますね。今日は一緒に寝ます」


「じゃあユイに任せるよ」


 というわけでユイはタニアと一緒に寝ることになった。

 ここは2人きりにしてあげようか。


 おやすみのあいさつをして、僕はリリィと2人で別の部屋へといく。

 もしかしてリリィと2人で寝るのは初かな?

 ベッドに横たわると、リリィがすごく緊張している気がする。


「えっと……アル? ふつつかものだけどよろしく……」


「ん? 別に襲ったりはしないよ」


「ん……あたしはそういう魅力ないのかな?」


「もちろんあるよ。魅力的すぎて……襲えないんだ」


「ふふっ、そっかぁ。大きくなったらもっと魅力的になるから……それまで待っててね。おやすみ……」


「うん、おやすみ……」


 この後……当然何事もなく眠りについた。

 リリィが成長した姿を想像しながら……。



   ***



 朝目覚めると、リリィが僕に思いっきり抱きついていた。

 痛いくらいではあるが、幸せなのでこのままにしておく。


「ありゅう……いろいろおおきくなったよ……」


 成長した夢を見ているのかな。

 もっと寝言を言ってくれないものかと考えつつ、今日すべきことも考える。


 タニアの病気をユリアの花で治せるかやってみるのもいいかもしれないな。

 怪我を治す魔法として作ったけど、いっそ病気も治せるように改良するのもありな気がする。

 ただ、以前予想したように呪いの類だったらどうしようもないな。

 まあやってみよう。


 そしてヴァルマンの屋敷も見に行ってみたいな。

 あの後どうなったか知らないんだ。

 他に被害者が出ていないといいんだけど……。


 考え事をしているとリリィが目覚めたようだ。

 一緒にユイの元へ向かおう。

 そういえば昨日かけてもらった魔法はどうなったかな。


「リリィ、昨日お願いした魔法はどうなった?」


「大丈夫だよ。ここで起きたことは後で忘れさせることができるから、顔を見られようと問題ないよ」


「そっか、ありがとう」


 安心しつつユイの所へ行くと、ユイは寝ていたがタニアは起きていた。

 僕たちを見て戸惑ったような顔をしている。

 ユイはタニアが心配で遅くまで起きていたのかもしれないな。

 ユイは寝かせておいて、タニアに話しかけてみよう。


「おはよう、体調はどうかな? タニアちゃんだよね?」


「は、はい……。えっと……あの……ここはどこでしょうか?」


「ここは僕の家だよ。君の家が火事になったから助け出したんだ」


「火事!? あの、お父様はどうなったのでしょう?」


「逃げだしてると思うよ」


「そうですか……よかった……」


 タニアは13歳くらいだろうか。

 茶色い髪でユイと同じような肩までの髪型だ。

 少し似ているから母親譲りの顔と髪型なのかな。

 話した感じは、おとなしそうな感じだ。

 なにか思っていたのと違うような……。


「それであの……あなた方はどなたですか? わたしの隣で寝てるこの人も……」


「僕はアルバートでこの子はリリィ、その子はユイだけど……知らないの?」


「えっと……? はい……」


 ユイを知らない?

 仮にもユイはこの子の姉なわけだけど……。

 知らないはずがないのにおかしいな。


「ううーん……」


 あ、ユイが目覚めたようだ。

 これで反応を見てみようか。


「あ、あの……おはようございます。ユイさん?」


「え? あ、おはようございますタニア……様。おひさしぶりです。お体はいかがですか?」


「おひさしぶり……なのですか?」


 ユイは妹に対して様付けで呼ばされていたのか。

 なにかまた腹が立ってきたな。

 でもタニアのこの反応はなんだろうか。

 記憶に障害でも?


「はい……だって一応あなたの姉ですし……奴隷でしたけど……」


「あ……お姉ちゃん? そ、そうだったね。思い出したよ……。ちょ、ちょっと記憶が混乱してて……」


「あ、お姉ちゃんって初めて呼んでくれましたね……。えっと……?」


 ユイが戸惑っている。

 なにかおかしい。

 リリィがなにかを訴えるように僕に抱きついてきた。


『この子なにかおかしいよ。態度もだけど、なにか異様な不自然さを感じる』


 不自然さか……。

 どうしたものだろうか。


 この後も不自然な会話が続いたが、なにか悪いことをしているわけでもないのでこのまま様子を見ることにした。

 まずは朝食を食べるとしよう。

 さて……よくわからないこの状態をいったいどうしたものか……。

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