60.邪法使いカーダ
現在ヴァルマンの屋敷の前にて、敵であるカーダの魔法陣を無効化したところだ。
その状態でヴァルマンとカーダの会話を聞いている。
『むむむ……ワシはどうすればいいのだ』
『命を狙われているのは間違いなくヴァルマン様でしょう。ですから別荘の1つへの避難をお勧めいたします。別の場所へ旅行中と噂を流しますので』
『そうか……しかしタニアを連れて行こうにも動かせん』
『タニア様はお任せを。ヴァルマン様がいないとわかればここは安全になるでしょう。敵が今より襲撃してくるかもしれません。地下道を通って脱出を』
『わかった、任せたぞ。商売については……まあしばらくは部下に任せておけばいいだろう。例のディーラとかいう商人はこの街の商売に失敗したみたいだからな』
ヴァルマンは脱出し、カーダとユイの妹は残るようだ。
そして商売の失敗という僕たちの偽情報に騙されてくれているな。
「アル、どうしようか。ヴァルマンを追う?」
憎むべきはヴァルマンの方だが、現状で危険なのはカーダの方だ。
なんとかこの機会に倒したいな。
「いや、まずはカーダを何とかしたい。ヴァルマンは僕らの偽情報に騙されてるし、商売が失敗して自滅する可能性が大きい」
「そっか、じゃあどうする?」
「もう少し様子を見てみよう。まだ夜は長いんだ」
実のところいい手が思いついてないんだけど……。
様子を見ていればなにかあるかもしれない。
また意識を集中だ。
そしてヴァルマンと護衛が地下道に向かったのが確認できた。
あんなものを用意するとは用心深いものだ。
「どうやら地下に天然の洞窟があって、それを利用して逃げ道を作ったみたいだね。すごく長い洞窟みたい。でもあたしにかかったらばればれだよ。後で追いかけることもできそう」
「そっか、じゃあ後回しで問題なさそうだね。そうだ、道を少し崩せるかな? 脅すだけでいいんで怪我はしない程度にさ」
「うん、怪我させるようなことはやってくれないけど、脅すくらいならできるよ」
「じゃあお願い」
そしてまた意識を集中して確認する。
頭の中に大きな音が響いてきた。
『ヴァルマン様! 屋敷との通路が崩れました!』
『なに!? まさか屋敷が襲われているのか? くそっ……まずは逃げるぞ』
いい感じに勘違いしているようだ。
屋敷の内部も今の地響きで混乱しているみたいだ。
さてカーダはどう動くのか。
しばし様子を見よう。
「ご主人様、少し様子を見るだけだったのにすごいことになってますね……」
「そうだね。狙われる心当たりが多いから用心深いんだろうけど、勝手に騒いでくれてるみたいだ。それだけリリィの作ってくれた魔法陣がすごいってことだろうけど」
「あたしだけじゃなくて3人で作ったんだよ」
屋敷の大騒ぎとは真反対にのんびりしている僕たち3人。
しっかり落ち着いて状況を確認していこう。
ユイの妹の容体という懸念点はあるけど……。
お、どうやらユイの妹のところにカーダが移動したようだ。
『さて、体調はいかがですかな? タニアお嬢様』
『ごほごほ……苦しいよ……』
『まず眠りの魔法をかけてさしあげましょう。ゆっくりと眠ってくださいね。安らかに……』
静かな寝息が聞こえてきた。
カーダがユイの妹に眠りの魔法をかけたのかな。
魔法陣は封じているけど、普通の魔法は使えるようだ。
『さて、長年あなたのお父様に仕えてきましたが……そろそろ限界でしょうね。ヴァルマン様は敵を作りすぎた。そして俺にも敵がいるようだ。今日の襲撃は間違いなく俺の能力を知っている。俺が逃げるために、最後にあなたを利用させていただきます』
え? 何か不穏なことを言っているような……。
「お金持ちの娘として生まれ甘やかされて育ったあなた……最後にどのような悲鳴を聞かせてくれるのでしょうね。その絶望で俺はこの状況を打破できる魔法を作る」
ユイの妹を生贄にして魔法を作る気か?
これは止めないと。
「ご主人様……」
「ユイ、妹を助けに行こうか」
「はい!」
「あたしはここからサポートするね。3人で行くとこっそり侵入できないだろうし」
「うん、任せたよリリィ」
僕はユイと手をつないで屋敷に向かって走り出す。
「ご主人様、気配と姿を隠します!」
ユイの魔法により侵入がしやすくなった。
だが、警備の兵が多くてちょっと厳しいかな。
『アル、屋敷周りで軽く地震を起こすね。使用人の人達にそれで避難してもらおう。なにか嫌な予感がするんだ』
リリィの嫌な予感は当たるし、任せるよ。
やけになったカーダが人質を取ったりする可能性もあるしね。
そして屋敷が揺れ始め、使用人の人達が避難してくる。
今日カーダが勝った奴隷の女性も逃げてくれるといいんだけど……。
そして屋敷の混乱に乗じて侵入だ。
リリィがカーダの気配のする場所へのルートを伝えてくれる。
目的地は……地下?
「おそらくこの先は……わたしが拷問されていた場所です……」
「ユイ、そんな場所へ行って大丈夫?」
「平気です。妹を助けたいんです……お願いします」
「わかった、じゃあ手分けしようか。僕は1人で来た振りをして正面から奴と対峙する。ユイは隙を見て妹を助けるんだ」
「わかりました」
1人で行くのは怖いけど、ユイの力を借りればなんとかなるはずだ。
あとユイにかっこいいところも見せたいし……。
明りが洩れている部屋に入ると、石の台に乗せられた少女とそれを見るフード姿の男が僕に背を向けていた。
カーダと、あれがユイの妹のタニアか。
僕が来たことに気がついたのか、そいつは振り返った。
「何者だ? いや……聞くまでもなく俺の敵か。知らない気配が2つ……これは逃げられそうにないな」
ユイは気配を消しているはずなのに気づかれているのか。
でもユイを知らない? まあいい、なんであれ倒すのみだ。
「その通りです。逃げることはできないのでその子を解放してください」
「逃げる気はない。命は惜しいのでな……できれば殺さずに捕まえてほしい」
カーダは両手をあげて無抵抗の構えを見せている。
リリィの魔法陣に恐れをなして勝ち目がないと思っているのか、何か企んでいるのか。
とりあえずユイの妹を助けるまでは油断できない。
「そこから横へ動いてください」
カーダは素直に従い、ユイが素早く妹の所へ駆けつけた。
そして抱きあげて僕の元へと戻ってくる。
「ご主人様、助けることができました」
「よし、あとはカーダを捕まえるだけだ」
「ふむ……名前まで知られているか。基本は隠密行動していたのだがな。せめて何故俺を捕まえようとしているのか教えてくれないか」
「それはあなたがした数々の悪事で思い当たるでしょう。それとこの子に見覚えがないのですか?」
こいつは間違いなくユイを酷い目にあわせていたはずだ。
ユイを知っているはずなのに……。
するとカーダはフードを取った。
火傷をしているのか顔中がただれていて、目も塞がれている。
「この通り目は見えぬのだよ。しかし人は気配で覚えることができる。お前もその娘の気配も知らないものだ。いったい誰なのだ?」
目が見えない……。
しかもなんであんなぼろぼろなんだ。
『アル、たぶんそいつは自分の邪法でボロボロなんだよ。あとこれは予想なんだけどね、ユイはアルと出会ってそいつの魔法が解けるついでに気配も変わったんだ。アルに危険が及ばないようにだと思うよ』
なるほど、リリィの説明に納得だ。
知らないところでユイは僕を守るためにいろいろしてくれてるんだな。
ユイは無意識にしてるんだろうけど。
「知らないのであればそれでいいです。では……あなたには死んでいただきますね」
「む? 捕まえないのか?」
「捕まえてもどうせあなたは逃げだすんでしょう。そしてまたたくさんの人を酷い目にあわせるんだ。だから殺します」
捕まえて突きだすよりその方がいい。
何より今こいつが落ち着いているのが不気味なんだ。
なにか企んでいるとしか思えない。
「くくく……これは俺にとって絶望的な状況だな。目の光を失った時以上だ」
『アル、そいつなにかを企んでる。急いで倒して!』
リリィにそう言われたのもあるし、僕自身も嫌な予感しかしない。
僕は迷わずカーダの元へ走り、その首を切断した。
ユイを酷い目にあわせた奴……あっけなく倒すことができた……。
そう思った瞬間、頭上から耳をつんざくような爆音が聞こえてきた。
『そいつが死ぬ瞬間、あたしの魔法陣の力を上回ったみたい。この屋敷を壊せるだけの仕掛けをしてたみたいだよ』
なんでそんなことを……。
最後に皆を道連れにしようとしてたんだろうか?
急いで逃げなきゃ。
『すでに屋敷は大火事だよ。そのあたりにも地下への隠し通路があるはず。それを見つけて脱出して。集中すればわかるはず』
リリィに言われたように集中すると、周りの空気の流れを感じることができた。
その気配を頼りに探すと、地下への隠し通路を発見した。
「ユイ、ここから逃げよう」
「はい!」
ユイは妹を抱えてその通路へと飛び込んだ。
僕も行こうと思ったが、屋敷に他に人が残っていないかが気になる。
敵であるヴァルマンの使用人といえども、罪のない人だって働いているんだ。
リリィ、他に人はいないかな?
『えっと……だいたいは自身で避難したと思うんだけど、そういえば今日買われた奴隷の女の人は出てきてないよ』
さっき寝ていたようだが、自身でも起きなかったんだろうか。
だとしたら助けに行かないと。
リリィ、誘導してくれるかな。
『危険だけど言っても行くんだよね。ちょっと待ってね……あ、その人のいる部屋はまだ火が回ってないよ。でも……あれ? なんで……』
リリィが何か戸惑っているようだ。
どうしたの?
『この気配……その人死んでるよ。なんでだろう……』
まだ火が回ってないのに?
もしやカーダがなにかしたのかな。
だとしたらもう向かっても意味がないか……。
僕はユイを追って地下の秘密通路へと向かうのであった。




