58.リリィの魔法陣
今日僕たちは、ディーラさんのお屋敷に戻ってきていた。
例の魔法陣が他に仕掛けられていないか調査するんだ。
攻撃をする前に防御はしっかり固めておかないとね。
というわけで魔法陣を感知できるリリィに集中してもらうべく、僕はリリィをお姫様抱っこしている。
僕の横にはユイがくっつき、ユイにはサーシャちゃんが抱きついている。
この状態でディーラさんの屋敷内を歩きまわっている。
いつも通りの怪しげな状態だけど、屋敷を調べるために使用人の皆さんには避難してもらっている。
その結果……周りの音を記憶する魔法陣が大量に見つかった。
さらに爆発を引き起こす魔法陣も3つほどあった。
確実にディーラさんを殺すためなのか、念入りに仕掛けてあったようだ。
リリィがそれを回収して、無効化してくれた。
そしてサーシャちゃんの家に戻って休んでいる。
幸いなことにこの家には仕掛けがなかった。
「調べに来てよかったね。こんなにあったらせっかく助かったディーラさんたちがまた酷い目にあうところだったよ」
「そうだね。でもこれだけ回収すればそいつの魔力の感じもわかる。対抗策を練れるかもしれないよ」
「そうなの?」
「うん、ちょっとやってみるからまた力を貸してね」
リリィがなにか思いついたようなので、また3人でくっついて協力する。
サーシャちゃんがなんとなく真似をしてユイにくっついているのが微笑ましい。
「あいつに対抗する力……魔法陣を作り出す……」
リリィがそう言って念じると、床に小さな魔法陣が描かれた。
これが対抗できる魔法陣かな。
そして消えていく魔法陣。
「できた……この近くではそいつの魔法陣の効果を無くしたり弱めたりできるはず。これを危険そうな場所に作っておけば守りはばっちりだよ」
「これはすごいね。これって持ち歩くことはできないのかな?」
「あたしらの体に魔法陣を描いておいてもいいし、紙に描いて持っておいてもいいはずだよ」
「よし、じゃあ僕らの体に魔法陣を描いておこう。その後で紙を買いに行こうか。ディーラさんたちにも持っておいてもらえば安全だし」
というわけで僕たちの体に魔法陣を描いておいた。
全てを無効にできるわけではないけど、これである程度は安心できる。
そして雑貨屋さんで丈夫な紙として羊皮紙を買って、魔法陣を描いた。
これを持ってディーラさんのところへお見舞いに行こう。
治療をして2日たったし、元気になっているといいな。
治療所に着くと、ディーラさんは起きているようだった。
どうやら治療はうまくいったようだ。
「ディーラさん、お元気そうでなによりです」
「アルバート君、よく来てくれたね。話はいろいろと聞かせてもらったよ。助けてくれただけでなく、治療や商売に協力してくれて感謝の限りだ」
「当然のことをしたまでです。僕はディーラさんにまだいろいろと教えてもらいたいですからね」
「そうか、私はいい友人を持てたようだ」
ディーラさんもクラリスさんも元気そうで何よりだ。
サーシャちゃんも嬉しそうにお母さんに抱きついている。
僕はディーラさんにこれまでのことを話した。
ディーラさんの命を狙ったのはどんなやつか、どんな手段を使って来るのか、対策も伝えておいた。
これに関しては僕がなんとかするので、警戒だけしてもらうよう伝えておいた。
商売の進捗についても話しておいた。
サーシャちゃんがいろいろと教えてくれたおかげでうまくいったと。
これには驚いていたが、そこは親ばかなディーラさん。
自分の娘が天才なのだなと大喜びしていた。
声が出せないことについては悲しんでいたが、両親が元気になった以上すぐに治ることだろう。
そしてディーラさんは信用できると思い、ガナードの街へ転移できる魔法についても話しておいた。
これに関しても当然ながら驚いていた。
荷物の運搬は僕が手伝うので、これを利用して商売を成功させる方法を頼んでおく。
ヴァルマンの商売を正攻法でつぶす方法を考えてほしいと、正直に伝えておいた。
「君たちの気持ちはよくわかった。いろいろと考えてみるよ。それにしても君は立派だな。君たちほどの力があれば、私がされたように攻撃して倒すことだってできるだろうに」
「それは最後の手段です。例えばれなくとも悪事は働きたくないんです。僕はともかく、僕の大切な2人を犯罪者にはしたくないんです」
「そうか……素晴らしい考えだ。私も本気を出して商売を成功させるよ。私と私の家族に手を出した報いを正攻法で返そう」
「お願いします。では僕たちはこの魔法陣を作ったやつをまず倒そうと思います。あとなにかあればサーシャちゃんの家に手紙を送るので、時々確認してくださいね」
「うむ、気をつけてな」
ディーラさんの無事を確認できたので、出発することにする。
サーシャちゃんはここにいるべきなので置いて行こう。
ユイと離れたくなさそうだったが、また今度遊ぼうねと納得させておいた。
まず行くのは冒険者ギルドだ。
ディーラさんの屋敷が攻撃された可能性はあったが、今まで証拠がなかった。
でも新たな証拠として魔法陣が追加で仕掛けられていたことを訴えておく。
その結果……この魔法陣をしかけた奴を特定できたら捕まえていいことになった。
冒険者ギルドに嘘発見器があるおかげで、こういう時の話が早くて助かる。
犯人らしき男がガナードの街にいるらしいので向かうと伝えると、手紙を渡された。
これをガナードの街の冒険者ギルドに渡せば、さっきした話がすぐに伝わるようだ。
そんなわけなので、サーシャちゃんの家に戻って地下の隠れ家へと転移だ。
転移の疲労で、隠れ家で眠る……。
***
数時間後に目が覚めた。
この疲労をなんとかしたいと思っていると、リリィが何か思いついたようだ。
「転移の時に一気に魔力を使うからいけないんだよ。この魔法陣を作った時みたいに、少しずつためておけばいいんだ」
「なるほど。ためておくいい方法はあるの?」
「うん、少しずつ魔力をためておく魔法陣を作るよ。それをさっきみたいに体に描いておこう。普段からじわじわと魔力は吸われるけど、気になるほどじゃないと思う」
「そうか、じゃあさっそくやってみよう」
最近新しい魔法を作ってばかりな気がするな。
3人で協力する魔法……何度やっても楽しいものだ。
そして……問題なく完成した。
3人の手の甲に小さな魔法陣が描かれる。
「だいたい12時間ほどで満タンになると思う。その状態で転移すれば一切疲れないと思うよ。たまってない時に転移するのは今まで通りだね」
「なるほど、これは便利だね」
「リリィさんすごいです。なんでも作れちゃいますね」
「えへへ、でもこれができるのはアルがいてくれるのと、たくさんの魔力をくれるユイのおかげだからね」
まさにその通りだ。
僕たちは3人いればなんだってできる気がする。
では少し休んで出発だ。
そしてガナードの街の冒険者ギルドへ手紙を届けた。
これで堂々と魔法陣を作った男に攻撃を仕掛けることができる……はず。
ちゃんと捕まえて冒険者ギルドで調べてもらって、ディーラさんの家を襲った犯人と確定するといった条件付きだけど……。
いっそ向こうから攻撃してきてくれればやりやすいんだけどなあ。
次にするべきは、商売を共にする予定のリールさんとその周りを守ることだ。
敵の魔法陣から身を守る魔法陣を渡しておきたい。
ただ……僕が直に行くのはしないほうがいい。
昨日商談が決裂したという偽情報を渡しているので、僕がまたリールさんと会っているのを見られるとまずいかもしれない。
あの偽情報に効果があるかは不明だけど、念を入れておきたい。
どうしたものかと悩んでいると、見たことがある3人が手をつないでギルドにやってきた。
あれはカイルさんと、お供の女性ミィさんキィさんだ。
「おや、アルバート君。久しぶりだね、会いたかったんだよ」
「カイルさんお久しぶりです。活躍してるって話を聞きましたよ」
「それもこれも君がミィとキィが強くなる方法を教えてくれたおかげだよ。だからずっとお礼を言いたかったんだ」
「いえいえ、僕が教えた方法を実践してくれているようでなによりです」
大活躍しているカイルさんが常に手をつないで街を歩いたおかげで、冒険者の間で手をつないで歩くのが流行ったんだ。
どちらかと言えば僕が感謝したい。
「それを教えてくれたことにも感謝してるよ。最初は恥ずかしかったけど、これって楽しいんだよね。君の気持がよくわかったよ」
「それはなによりです」
「ところで今日は何をしてるんだい? もし困ったことがあったらいつでも言ってくれよ。君たちだったらいくらでも無償で手伝うからさ」
「あ、じゃあお願いがあるんです」
僕はカイルさんに手紙と防御用の魔法陣を託すことにした。
僕からの手紙ということは内緒にして届けてもらう。
特に事情は聞かれなかった。
奴隷であるミィさんとキィさんを大切にしていることから、信用していいはずだ。
「わかった、手紙を渡すだけなんて簡単な仕事だね。もっと難しいことでも言ってくれていいんだけどな」
「もしかしたらまた頼むかもしれません。今からちょっと厄介な敵と戦おうとしているので」
「そうか、なにかあったらそこの掲示板で呼びだしてくれたらいいよ。僕はしばらくこの街にいるからね」
「お願いします」
よし、これで防御についてはばっちりだ。
次は攻撃に転じたい。
待ってろよ……まだ名前も知らないけど、魔法陣を使う男……。
必ず倒す。




