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57.ユイの傷痕

 今僕たちは敵についての話をしている。

 一番の敵はユイをひどい目にあわせ、さらにはディーラさんたちにも害をなしたヴァルマンだ。

 さらにもう1人、それに手を貸す男……こいつがやっかいだ。

 邪悪な魔法を使ってヴァルマンの悪事に手を貸している。


 それについてユイが思いだしたことがあるようなので、これから話してもらう。

 怖い思い出のようなので、僕がユイをお姫様抱っこし、リリィもユイにくっついている状態だ。


「この状態幸せです……。もう落ち着いちゃいました。では話しますね。わたしがヴァルマンにひどい目にあわされていた時の話です。あの男はわたしに熱い鉄の棒を近づけながらこう言ってたんです。『お前が絶望すればするほど力が増すんだ』と……」


「それはもしかして……さっき言ってたなにかを代償にして魔法陣を作るってやつかな?」


「だと思います。そういったことをされる時……他に知らない男の人がいたような気もしますし……」


 ということは、その男はかなり昔からヴァルマンに仕えていたんだな。

 邪悪な魔法を使うためにユイの体をこんなにしたとは……許せない。


「これでますますその男とヴァルマンを許すわけにはいかなくなったよ。僕はあいつらをひどい目にあわせないと気がすまない。ユイを怖がらせるかもしれないけど……」


「いえ、わたしも怖がっている場合ではありません。これ以上被害者が出てはいけませんので、わたしもがんばります。あの人たちを倒しましょう」


「もちろんあたしも同じ気持ちだよ。ユイ、がんばろうね。そうだ、アルは今手が塞がってるから、代わりにユイをなでてあげる。がんばるユイはえらいよ」


「ひゃわ……リリィさんの手も素敵ですね……。いくらでもがんばれそうです」


 よし、決意も新たにしたところで頑張らなくては……。

 ヴァルマンと、それに手を貸す謎の男……絶対に倒すぞ。

 ユイを痛めつけて絶望させてそれを魔法の力に変えるとは許せない。

 そんなつらい思い出だけど、他にもいろいろと聞いておかなくては……。


「ユイ、つらい思い出だろうけど……その男を倒すヒントになるかもしれないんだ。なにか気になることはなかったか思い出してくれるかな?」


「はい……でもその時のわたしは泣きわめくだけで何も考えることができなくて……」


「そっか……じゃあ思い出さない方がいいね」


「はい……あ、でもその男とは関係ないのですが、ひとつ気になることを思い出しました。わたしの妹のことです」


 妹か……たしかヴァルマンと一緒になってユイをいじめていたはずだ。

 ユイは実の妹にひどいことをされてさぞ絶望的な気分だっただろう。

 その感情を魔法に利用したなんて許せない……。


「妹がどうかしたの?」


「はい、妹も一緒にわたしに焼けた棒を押しあててきた記憶があります。でも今思えば、いろいろと不自然なことがあったんです。なぜか妹が来る時だけ、わたしは目隠しをされていました。そして妹の楽しそうな声を聞きながらひどい目にあわされて……。その時のわたしはおかしいと思う余裕がありませんでしたが、今思えばおかしな感じの声で……」


「あ、もしかしたら今日見た魔法陣見たいなものかもね。あらかじめ妹が楽しく遊んでる声を記憶させておいて、それをユイに聞かせたとか」


「なるほど……」


「あ……きっとそうです!」


 ユイを絶望させるために、妹がユイをいじめていると錯覚させる状況を作り出したってことかな。

 ということは、ユイの妹はユイの体を傷だらけにするほどの酷いことはしてないってことだろうか?

 ふうむ……ユイに妹を助けてほしいって言われた時に気乗りしなかったけど、今の予想が当たっているならば更生の余地が出てきたか。

 いや……普段ユイをいじめていたのは本当なんだろうし、そこまで簡単ではないかな。


「よかったです……たしかに妹は普段からいじわるでしたが、あんな酷いことをする子だなんて思いたくなかったんです。リリィさんが魔法陣に詳しいおかげで謎が解けました……」


「ん……どういたしまして。あたしもそれがわかってよかったよ。だって正直なところ……そんなことする妹を助けるのって嫌だったから……」


「そうでしたか……ごめんなさい、わたしわがままを言いすぎてましたね。ご主人様も申し訳ありません」


「いいんだよ、僕の生きがいはユイのわがままを聞くことなんだから。あ、もちろんリリィのもだけど」


「ありがとうございます……」


 よし、事実かはまだわからないけど、妹のことはひとつ安心できた。

 しかし……ユイをそんなに絶望させてどんな魔法を使っていたのだろうか。

 やはり金儲けかな。

 そうなると、なぜユイを捨てたんだろう?


「ねえユイ、捨てられた時の状況を教えてくれる? 言い方は悪いんだけど、ヴァルマンにとってユイはまだ利用できたはずなのに……」


「そうですね……ちょっと思い出してみます」


「ごめんね……つらい思い出なのに」


「いえ、ご主人様に抱っこされた状態だと……どんなことを思い出してもあまりつらくないんです。だから何故か簡単に思い出せます」


「そっか……」


 それは一安心。

 つらくて封じ込めていた記憶だけど、僕のために思い出してくれているようだ。


「思い出しました。わたしは捨てられる直前にこう言われたんです。『最後に一つだけ役に立ってもらう。ワシのために絶望してのたれ死ね』と……」


「それは……まさかユイの体を使ってなにか邪悪な魔法を使おうとした? リリィ、ユイの体になにかないか調べることできる?」


「ん……大丈夫とは思うけど調べてみる」


 リリィがユイの体に抱きついて集中している。

 何もなければいいんだけど……。

 緊張しながら待っていると、リリィが口を開いた。


「大丈夫、ユイの体は何ともないよ」


「そっか……それならいいんだけど、でも不安だな」


「いや、不安になる必要もないと思うよ。あたしの予想なんだけどね、アルとユイが出会ってすぐにそれは消されたんじゃないかな? だってユイになにかあればアルが困るでしょ? だからユイはそうならないよう、無意識のうちに消したんだよ」


 ユイの守護の力か……たしかに僕に害をなす可能性があるのであればそうなりそうだ。

 この力のおかげでユイを守れていたなんて、嬉しいな。


「ご主人様のおかげでわたしは無事なのですね……。なんて素敵なことなのでしょう……」


「そうだね、僕はユイと出会えてよかったよ。やっぱり運命の出会いだった」


「はい……」


 僕はユイと見つめ合う。

 リリィが気を遣って離れようとしたが、ユイがリリィを逃がさないように捕まえた。


「リリィさん、逃がしませんよ。だって……ですよね、ご主人様?」


「そうだね。僕とリリィ、リリィとユイが出会ったのも運命なんだよ」


「そうです……」


「むう……2人ともなんでそんな恥ずかしいことを……」


 なんでと言われても……ユイとリリィが好きだからだ。

 ユイは僕とリリィが好きだから。

 そしてきっとリリィも同じはず……だって嬉しそうだから。


「う、運命はさておき、もうひとつ気になることがあるんだ」


 リリィは照れ隠しに話題を変えようとした感じだが、真面目な話っぽい。

 というか僕とユイが脱線してた感じか。


「どうしたの?」


「あのね、さっきから言ってるユイの体を犠牲にする邪法なんだけど……犠牲となるはずのユイが魔法を解いたってことは、もしかしたら他の所に飛んでいった可能性があるんだ。それだけ危険な魔法のはずなんだよ」


 なるほど……呪いもそんな感じだと聞いたことがあるから、似たようなものかな?

 呪いを返されると倍になって帰ってくる的な……?


「どこに飛んだんだろう……ちょっと怖いね」


「基本的には術者に害をなすような形になると思うんだけど……無事なようだったしね。狡猾な術者は、自分の身代わりを作っておくらしいんだ。だからもしかしたら……」


「あ……もしかしてわたしの妹にその力が飛んだとかでしょうか?」


「その可能性はあるね。だってユイがあいつの所にいた時、妹は元気だったんでしょ?」


「はい……」


 そう考えるとつじつまがあうのか……。

 まず、その術者がユイになにかしらをかけて放りだした。

 しかし僕がユイを引き取り、さらに謎の魔法を解除したことで予定が狂った。

 ユイにかかっていた呪いのような魔法が妹を病気にしたと……。

 全て推測だけど、それっぽい気がする。


「そうすると妹はわたしのせいで?」


「ユイのせいじゃないよ。悪いのは術をかけた男と命令したヴァルマンだ。ヴァルマンは自分した悪事が自分に返ってきただけだよ。たぶん娘の病気の原因がそれだとは気づいてないんだろうけどね」


「だろうね、その魔法をかけた男は失敗したとヴァルマンに伝えてないんだと思うよ。早いところ懲らしめてやりたいね……」


「その男を倒せば妹は助かるのでしょうか?」


「それはわからないよ。でもそいつを倒さないと、被害者はまた増える」


「では……倒しましょう!」


 倒すための対策はまだ見つかっていないが、倒す理由はふんだんに出てきた。

 きっと……僕たち3人が力を合わせればなんとかなるはずだ。


《我も忘れるな。自然の力を邪法にて悪用するその男はあまりにも不快だ。協力は惜しまぬ》


 大自然さんも協力してくれるなら力強い。

 なるべく早く、急いで倒すとしよう。

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