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56.敵発見

 冒険者ギルドでの僕の講義は終了した。

 今日来れなかった人や、噂を聞きつけてくる人のためにこれからも時々行う予定だ。

 ラルフさんに挨拶をして外へ出ると、薄暗くなっていた。

 サーシャちゃんは疲れたようで、ユイがおんぶしている。


 さあ、怪しい人物の見張りをしてくれているリリィに会いに行こう。

 無理してないといいんだけど。

 疲れてるだろうから夕飯はリリィの好きなものにしようかなあ。


 リリィが昼間いた場所に到着したが……この辺りにはいないようだ。

 なんとなく自分の勘を頼りに移動してみる。

 なにかあれば大自然さんが言ってくるだろうし、無事なのは間違いないだろう。


「あ……こっちの方角はもしかして……」


 歩きながらユイがそう言ってきた。

 ユイが気づくということは……。


「もしかしてヴァルマンの屋敷の方角?」


「はい……リリィさん大丈夫でしょうか?」


「無理はしないって約束してくれたから大丈夫だよ」


「そうですね。ご主人様、少し急ぎましょう。リリィさんに早く会いたいです」


 僕たちは少し早足でリリィの元へと向かう。

 ユイはやはりヴァルマンが怖いんだろうな。

 早くその恐怖を取り除いてあげたいものだ。


 そして……リリィの姿が見えてきた。

 ゆっくりと歩きながらなにかを観察しているように見える。

 視線の方角にあるのは大きな屋敷だ。

 とりあえず声をかけようかな。


「リリィ、お待たせ」


「あ、アル……会いたかったー!」


 と言ってリリィが僕に抱きついてきた。

 それと同時に僕の頭の中にリリィの声が響いてくる。


『ちょうどよかったよ。今この屋敷を調べようとしてたんだけど、見張りに怪しまれそうだったんだ。ちょっと演技してね』


 なるほど、待ち合わせしてた恋人の感じでいいかな。

 普通に会話しつつ心でも会話だ。


「待たせてごめんね。夕飯にしようよ、今日はリリィの好きなもの食べようね」

『なにかわかった? ここはあのヴァルマンの屋敷みたいだよ』


「うん! イノシシの肉をパンで挟んだやつがいいな」

『やっぱりそうなんだ。例の盗み聞き魔法陣を回収したやつを追ってきたら、この屋敷に入っていったんだ』


「まかせて、美味しいの作るよ」

『予想通りだったね。それで犯人の男の顔は見た?』


「わーい、アル大好きー」

『顔は見てないけど気配は覚えたから、もしどこかで会えばすぐわかるよ。あとね、ディーラさんの屋敷を燃やした犯人も同じだと思う。どうする?』


「じゃあ家に戻ろうか」

『それだけわかれば十分だよ。今日はいったん戻ろう』


「うん、あたしもおんぶしてー」

『それがいいね。ここの警備すごそうだし、たぶん付近の会話も聞かれてると思うんだ』


 リリィは本当に僕におぶさってきた。

 サーシャちゃんを見てうらやましくなったのだろうか?

 まあ可愛くねだられたので僕は喜んでおんぶする。

 このまま家に向かうとしよう。


 これで犯人はヴァルマンだと確定したな。

 でもヴァルマンは用心深いやつのようで、手を出すのは難しそうだ。

 敵が多いと自分でわかってるのかな。

 商売敵の家を燃やそうとするくらいだし、自分も同じことをされないか警戒しているのかも……。


 ディーラさんの屋敷を燃やした犯人もわかったし、そいつも懲らしめたいものだ。

 あ、そういえば……すでにこの街にいるってことは、ディーラさんの屋敷に仕掛けをしたのはかなり前なのだろうか。

 そんな前からディーラさんの暗殺を目論んでいた?

 ディーラさんがこの街へ旅に来ている時、薄くなった警備の隙を見て屋敷に仕掛けをしたのかもしれないな。

 なんにせよそいつも間違いなく敵だし、のさばらせておくわけにもいかない。


 さて、ヴァルマンの屋敷から離れたので普通に会話をしようかな。

 でも一応警戒して、重要な話は家に戻ってからにしよう。


「リリィ、ほんとにお疲れ様。1人で大変だったでしょ?」


「うん、少し神経使ったから疲れちゃった。だから今ご褒美もらってるの」


「ふふっ、こんなことでよければいくらでもしてあげるよ」


「さっきのリリィさんの甘え方すごく可愛かったです」


 うん、それに遠慮なく甘えてくれたのが嬉しかった。

 あ、そういえばユイをおんぶしたことってなかったな。

 ユイ……うらやましがってくれないかな?


「えへへ、アルって甘えられるの好きだもんね。ユイも後でやってみなよ」


「じゃあ……今のうちにおねだりしておきます。ご主人様、後でわたしもおんぶしてほしいです」


「まかせて、いくらでもするよ」


「ありがとうございます!」


 リリィのナイスアシストによって、ユイをおんぶする権利を得た。

 考えてみるとユイもいろいろ手伝ってくれて疲れてるんだ。

 しっかりとねぎらわせてもらおう。



 地下の隠れ家に戻ってサーシャちゃんを寝かせ、僕たちは夕飯を作ることにした。

 リリィのリクエスト通り、パンにイノシシ肉を挟んだハンバーガーを作る。

 この家の食糧貯蔵庫……なんと入れた物が腐らないという素晴らしい物となっている。

 大自然の力は何でもありだ。


 そんなわけで3人で協力し、ハンバーガーの完成だ。

 買い置きしておいたパンなのに新鮮なままでおいしい。

 サーシャちゃんの分は保存しておけば、いつでもおいしく食べられるはずだ。

 食べながらリリィに話を聞かせてもらおうかな。


「それでリリィ、その犯人らしき男は強そうだったのかな?」


「うん、なんか得体が知れないっていうか……不気味だったよ。不自然な存在とでも言うのかなあ……」


 不自然か……そういえば大自然さんが僕のことを不自然と言っていたなあ。

 そいつも別世界から来て何かしらの力を持っているんだとしたらやっかいだな。


「慎重にいかないとね。そいつが得意なのは魔法陣を使った魔法みたいだけど、リリィって魔法陣には詳しい? 大自然さんがいろいろ作ってくれてるけど」


「詳しいってわけじゃないんだけど、なんとなく仕組みがわかるんだよね。魔法陣ってのは、自然の力をうまく利用する物みたいだから」


 なるほど……魔法陣は自然の力を利用か。

 てことは、魔法陣無しで自然の力を借りることができるリリィの方がすごいってことかな。

 そういえばリリィはお願いして力を借りるけど、魔法陣は強制的になのかな?


「魔法陣で自然の力を利用するってのはわかったけど、自然はそれを拒否できないの?」


「えっとね……普通はあんな悪どい使い方はできないはずなんだよ。だからあいつが使っているのは邪法と呼ばれる魔法陣かもしれない。なにかを代償にしてその力を使っているのかも。例えば……奴隷の命を生贄にしたりとかさ……」


「それは……そんなことをしてるんだったら早くやめさせないと」


 なんとなく魔法というよりは呪いって感じがするな。

 でも自分の身を削るならともかく、他人を犠牲にして使う魔法なんて許せない。


「うん……なんとか考えないと。また勉強しておくね」


「勉強?」


「あ、今言ったことは最近教えてもらったんだ。魔法陣が色々使えるようになればもっとアルの役に立てるもん。期待しててね」


「そっか、リリィはすごいね。楽しみにしてるよ」


 リリィは今のままでもすごいけど、魔法陣を使いこなせるようになったらもっとすごくなるのかな。

 敵が攻撃の魔法陣を使うのに対抗して防御用の魔法陣とか……みんなを守る力になればいいな。


「あの……ご主人様、少し思い出したことが……」


 ユイがそう言ってきたのだが、体が震えている。

 怖いことを思い出しているのだろうか?

 ヴァルマンの奴隷だった時の何かかな……。


「ユイ大丈夫? 怖いんだったら、無理に思い出さない方が……」


「えと……大丈夫です。少し待ってください、落ち着いたら話しますので……」


「あ、そうだ。ねえアル、さっきお願いされたことを今しなよ」


 さっきのお願いというと、おんぶする約束のことかな。

 それでユイが元気になってくれるならいいけど……。


「ユイ、おいで……」


「あ、はい……。あの……やっぱりお願いを変えていいでしょうか? 以前リリィさんがされてたように抱っこされたいんです……」


「もちろんだよ」


 以前のリリィってことはお姫様抱っこだな。

 僕もユイにこれをしたかったのでちょうどいい。

 僕がユイを抱きあげると、ユイは甘えるようにくっついてきた。


「あ……これすごく幸せですね。リリィさんはこんな素敵なことをしてもらってたんですね」


「そうだよ、いいもんでしょ。ふふっ、ユイってば赤ちゃんみたい」


「そ、そうですか? じゃあリリィさんお母さんになってください……」


「いいよ、よしよし」


 僕が抱っこしているところにリリィも近づいてきて、ユイを挟み込むようにくっついた。

 ユイの幸せそうな顔……いいなあ。

 しかし、これから聞くのはユイが思い出すのを怖がる話だ。

 覚悟して聞くとしよう。

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