54.商談
昨日はあれから街を散歩したり、商売に関する下見をした。
そして地下の隠れ家へと帰り、次の日の準備をしたりして過ごした。
そして今日は重要な商談をしに行こうと思う。
サーシャちゃんの商才を僕が活用させてもらい、成功させるのだ。
今はたくさんの荷物を載せた台車をユイが軽々と引いている。
リリィは前でユイを誘導、サーシャちゃんは荷物の上に乗って満面の笑みである。
僕は力を貸す必要はないけど、なんとなく荷物を後ろから押している。
だってユイだけに引かせてる光景はなんかこき使ってるように見えるし……。
なおこの荷物の中身は、ランバールの街からこのガナードの街へと売ろうとしている商品のサンプルである。
小麦や穀物おありふれたものだが、ガナードの街で流通しているものより質のいいもののはずだ。
これを売り込み、この街で粗悪品を売って悪どい商売をしている憎きヴァルマンの商売を邪魔するのが、僕が勝手に考えている目的である。
というわけで目的地に到着だ。
この街の流通の中心、おそらく偉い人がいる場所だ。
サーシャちゃんから流れ込んでくる商売の知識によると、リールさんという人らしい。
ディーラ商会が来たということを伝えて取り次いでもらった。
少し待つと髭を蓄えた仕事のできそうな人がやってくる。
「お待たせしました。おや? 今日はディーラさんはおられないのですね」
「はい、アルバートと申します。代理で僕と娘であるサーシャちゃんが来ました。あとの2人は護衛です」
「なるほど、お忙しい方のようでしたからね。あ、私はリールと申します。それにしても、やけに早くないですか? まだランバールの街と往復できるような日数は経っていないようですが……」
やはりそれを聞かれるか。
まあ適当にごまかしておこう。
「独自のルートと足がありましてね」
「そうですか、それは頼もしい。あと……道中なにもありませんでしたか?」
「なにかとはなんでしょう?」
「えと……これは中に入ってからにしましょうか。この部屋へどうぞ」
何か言いにくい話のようだ。
なんとなく予想できるのは、ヴァルマンからの妨害がなかったか心配しているのかもしれない。
部屋に入って席に着かせてもらう。
「では先ほどの話ですが……まずこの街の大商人ヴァルマンをご存知ですか?」
「はい、知っています。あまりいい噂は聞かないようですが……」
「そうでしょうね……。悪どいことをして儲けていますが、この街での力が強すぎて……下手に逆らうと私らの商売がうまくいかなくなってしまうのです」
「なるほど……。では今回の新しい商売をするのは大変なのでは?」
「そうですね。しかしディーラさんの提案してくださった内容で、この街を変えることができるかもしれないと……」
ふむふむ、さすがはディーラさんである。
あんな素晴らしい人を死なせることなくてよかった。
「なるほど。決断していただけてありがたいです」
「それで問題が起きましてね。前回来ていただいて話をした時点で、それがすぐヴァルマンに伝わってしまったのです。その後でディーラさんの護衛の方々が倒れられたと聞き、大変心配していたのです」
「そうでしたか……たしかに盗賊に襲われたりといろいろありましたが、なんとか退けましたので」
「盗賊ですか……やはりあの男は手段を選ばないようですな……。しかしそれらを退けるとは頼もしいですね。おや……もしかしてあなたはドラゴン退治の英雄であるアルバートさんでは?」
「あ、たぶんそうです」
「おお……そんな方が協力してくださっているとは頼もしい。なんだかやれそうな気がしてきましたぞ」
ヴァルマンをなんとかひたいのは僕だけではないようで、ありがたい。
だけど少し怖いな。
僕らはなにも心配ないけど、例えば目の前にいるリールさんが襲われたりしたら大変だ。
なんとか先手を打ちたいけど……。
「アル、ちょっといいかな?」
「ん? どうしたの、リリィ」
「えっとね……このあたりにおかしな気配が……。あ、これだ」
リリィが手をかざしたところに、魔法陣のようなものが浮き出ていた。
「それはなんだろう?」
「おそらくは音を記憶する魔法陣だよ。たぶん前回の打ち合わせの時もこれで全て盗み聞きされてたんだ」
「そ、そのせいでディーラさんは襲われることになったわけですか」
火事の時といい、魔法陣を使いこなす奴がヴァルマンのところにいるってことかな。
盗聴器のようなものまで使うとはやっかいな相手だ。
「これどうしようか、燃やしちゃう?」
「うーん、それだとその仕掛けを見破ったことを相手に教えちゃうね。今の会話はもう記憶されてるのかな?」
「だろうね。でも消すこともできるよ」
「じゃあ最後に消そうか。その後で嘘の会話を吹き込もう」
商談の不成立の会話を吹き込めば、敵を油断させられるだろう。
ついでに魔法陣を回収したところを抑えることができればいいんだけどな。
「ディーラさんのところにはすごいことをできる方が揃っているのですな……」
「どうも。僕の自慢の仲間ですので。あ、ちなみに僕の恋人でもあります」
「そ、そうなのですか……それはまた……いいことですな」
突然ののろけを発揮する僕に少し戸惑うリールさん。
でもちゃんと言っておかないとね。
そしてこの後も細かな打ち合わせをした。
ここに来る前に考えていた交渉の類をする必要はなかった。
リールさんは、ディーラさんと僕らを全面的に信用してくれているようだ。
それだけディーラさんの提示した案が素晴らしかったのだろう。
全て終わった後で台本を作り、商談決裂の会話を魔法陣に吹き込んでおいた。
あとはこれを回収させつつ、犯人の顔を確認したいものだ。
この後食事に誘われたが、商談はダメになったとヴァルマンに思わせなくてはならないのでやめておいた。
万全を期すべく、不機嫌な顔をしながら出て行く演技もしてみた。
多少なりとも効果があればいいけど……。
外でお昼をどうしようかと考えていると、リリィが提案してきた。
「この近くで食べよう。ある程度の距離なら、あたしがさっきの部屋に侵入者が来ないか見張れるからさ」
というわけで近くの定食屋にて食事中である。
リリィは僕の体に触れることで力が増すので、机の下で足を絡めているという……なんともなんともな状態である。
はたから見たら、なにこそこそいちゃついてんだよって感じであろう。
だがそれを言われたとしても、堂々といちゃついていると返す覚悟である。
食事が終わってしばらく休憩するも、怪しいやつは現れなかったようだ。
やはりこういう時の侵入者は夜に来るのだろうか。
あと身内の犯行の線も考えていたけど、やはり外部の人間が犯人なのかな。
「アル、あたしがこのあたりで見張ってるよ。みんなで待ってても効率悪いしさ」
リリィがそう提案してきたけど、少し不安だな。
でも……ここは信じてお願いするべきだろう。
なにかあればきっとすぐに助けに来れるはずだし。
「うん、じゃあリリィに任せるよ。でも犯人を見つけても無理に追ったりしないでね」
「わかってる。アルに心配かけるようなことしないよ」
ということでリリィに任せて、僕らは冒険者ギルドへ向かうことにした。
今日の夕方に、ギルドで僕が講義するようにラルフさんが手配してくれているはずだ。
それを確認しに行く。
確認した結果……参加者はわりと多いことが確認できた。
しかも2時間ほど時間が取られているとか……。
いったい僕に何をさせようとしているのやら。
とりあえず何を話すか考えないと……。
まず思ったのは、ユイの強さをみんなに見せつけたいってことだった。
それをユイに言うと、こんな返事をくれた。
「では模擬戦をして見せるのはどうでしょうか?」
「え? でもそれだと相手がいるよね。ユイの相手が務まるほどの人を探すのは難しいよ……」
「探す必要はないですよ。ご主人様がお相手をしてください」
「え?」
ユイはなにを言っているのやら……。
僕の腕では全く相手にならないはずだ。
ユイと手をつないでいればユイ並みに動くことも可能だけど……。
あ……もしかしたら手をつながなくとも、周りの空気を通して力を借りることができる?
「ご主人様、試しに今やってみませんか? わたし……かっこよく動いて、皆さんに賞賛されるご主人様が見たいんです」
「ユイがそういうなら試してみようか」
「ありがとうございます、ご主人様!」
ユイにお願いされては僕は断れない。
雑貨屋さんにて、練習用の木の剣を買って街の外へと向かう。
安全で広い場所に来て、さっそくユイと勝負だ。
「ご主人様、どこからでもかかってきてください」
「うん……いくよ!」
体に力がみなぎっているのを感じる。
ユイの力が僕の中に流れ込んできているようだ。
これならいけると思い、僕はユイに全力で斬りかかった。
ユイなら防げると信じて。
「はああああっ!」
「てええいっ!」
僕の攻撃はユイにあっさりと防がれる。
さらに連続で攻撃をするも、その全てを防がれた。
でも、かなり高レベルな殺陣をしているようで気分がいい。
ユイも楽しそうに見える。
「次はこちらからです!」
僕の攻撃をかわしたユイが、僕に斬りかかってきた。
防げるだろうか……と考えていると、ユイがなにをしようとしているかがわかる気がした。
その勘を信じて剣を振ると、ユイの攻撃を弾くことができた。
さらに連続で攻撃されるが、その全てを防ぐことに成功した。
なるほど……ユイと僕はお互いの気持ちが通じ合っていて、相手がなにをするか全て読めるんだ。
これでは勝負はつかないだろう。
しかし、見世物としては最高だ。
「ユイ、ここまでにしよう」
「はい、ご主人様はさすがにお強いですね」
「ユイが強い分だけ僕も強くなれるみたいだね。ユイのおかげだよ」
「わたしが強くなったのはご主人様のおかげですから……」
いつものように褒め合っていると、サーシャちゃんが僕たちに拍手をしてくれた。
どうやら楽しんでもらえたようだ。
というわけで今日の講義でユイの強さを見せつけるための演目が決まった。
これでユイの素晴らしさをみんなに自慢しつつ、女性を大切にすることの大切さをみんなに伝えるんだ。




