53.少し変わっていく街
僕の上に誰かが乗っかっている気がして目覚めた。
ユイなのかリリィなのか……吐息が僕の顔に当たっている気がする。
キスしちゃおうかなと目を開けると、それはサーシャちゃんだった。
どうやら僕らと一緒に休んでいたようだ。
とりあえずしっかり休むことができたようだ。
3人が起きるまでの間、今日何をするか考えようかな。
荷物を持っていくという仕事はあるのだけど、到着が早すぎるのも不自然かもしれない。
久しぶりにガナードの街をうろついてみようかな。
前回来た時は、治療所に行っただけで帰ったし。
考えはまとまったけど、女子3名はまだ寝たままのようだ。
ユイとリリィは起こしてもいいけど、サーシャちゃんを起こすのは申し訳ない。
なかなか幸せな状態だし、みんなが起きるまでまったりとすることにした。
そして皆が目を覚まし、出発することにした。
玄関から魔法陣をくぐれば、ここはもうガナードの街近くだ。
サーシャちゃんは不思議間そうな顔をしてるけど、なんだか楽しそう。
一応口止めをしておこうかな。
「サーシャちゃん、この家とこの道はね、僕たちの秘密の場所なんだ。だから他の人には教えないでほしいんだ。約束してくれるかな?」
サーシャちゃんはにっこりと微笑んでくれた。
いい子のサーシャちゃんは約束を守ってくれることだろう。
では、4人で手をつないで出発だ。
街へ到着して少し歩いていると、スキンヘッドでいかつい男が女性の手を引いて歩いている光景が見えた。
一瞬人攫いかと思ったが、見たことある顔……。
ドラゴン戦の時に指揮を取っていたラルフさんだ。
手をつないでいるのはラルフさんが連れていた奴隷の女性?
2人してなにか恥ずかしそうにしている。
僕は好奇心を持って話しかけることにした。
「ラルフさん、こんにちは」
「おお? お、アルバートか。なんだか久しぶりだな」
「ランバールの街へ行ってまして。ところでお2人は仲が良いみたいですね」
「うおっ! こ、これは違うんだ」
慌てて女性とつないでいた手を離すラルフさん。
そのままでいてくれればいいのに。
「違うんですか? 僕たちみたいに仲良くしてるのかなと」
「む……お前らは相変わらずなんだな。なにか1人増えてるみたいだが……」
「お世話になった人の娘さんを預かってまして」
「そうか……まあちょうどいい、おまえさんに聞きたいことがあってな。まず、カイルを知ってるだろう?」
カイルさんといえば、連れていた2人の奴隷に強くなってほしいと言っていた人だ。
それで僕が2人の潜在能力を条件付きで発動させたんだった。
その条件は、カイルさんが奴隷を大切にして仲良くなること。
あれ以来どうなったんだろうなあ。
「はい、もちろん知ってます。カイルさんがどうかしたんですか?」
「あいつの連れ2人が最近めっぽう強くなったらしくてよ、カイルと3人で大活躍してるんだよ。今も冒険者ギルドででかい仕事を引き受けてるよ」
ほほう、だとしたら僕の教えたことを実践しているんだな。
いいことだ。
「いいことですね」
「それでだ……カイルになんでいきなり2人がそんな強くなったのかと聞いたら、お前さんのアドバイスで常に手をつないで歩いてるからと言うじゃねえか」
「言いましたね。実践してくれてて嬉しいです。」
「嘘みてえな話だが、お前さんらやカイルたちの活躍を見てると本当かもしれないと思ってな……みんなこうして実践してみてるんだ。でも……特に何も変わらなくてな……」
なるほど……だからこの間から手をつないで歩く男女の姿があったのか。
ただ……カイルさんが連れている2人は僕が力を引き出したけど、他の人はそれをしてないんだ。
よし、このチャンスを活かさなくては。
「ラルフさん、その方法は正しいんですが……ひとつだけ足りないんです。詳しくは教えられないんですが、僕があることをする必要があるんです」
「そうなのか……じゃあこいつにやってみてくれないか。もちろん詳しくは聞かねえしお礼だってする」
「お礼ははいりませんよ。では僕の目を見ていただけますか。えっと……お名前は?」
「ライラです。よろしくお願いします」
僕はライラさんの目をじっと見て念じた。
……どうやら、ライラさんにある戦闘向けの才能は他者を強化する魔法のようだ。
ではカイルさんの連れた2人の時と同じように条件付きで能力を覚醒だ。
ラルフさんがライラさんを大切にし、想えば想うほど強くなるように……。
「できました。ライラさんが得意なのは、他者を強化する魔法ですね」
「そう……なのですか? 使ったことはないのですが……あ、でも頭の中に何かが……。ご主人様、また手を握ってよろしいですか?」
「お、おう……」
ライラさんがなにか呪文を唱えながら念じる。
手を握られて緊張した顔のラルフさんがなにか可愛い。
そして魔法が発動した……。
「ぬおおっ!? な、なんだこりゃ……力が溢れかえってくるぞ。うおおおおっ!」
ラルフさんは突然異様な高さにジャンプした。そして異様な速さで走ってどこかへと消えてしまった。
それを唖然として見送る僕たち。
今の強化魔法は、ユイのよりはるかに強力のようだ。
まあユイは才能があるわけじゃないのに使えてる時点ですごいけど……。
「あの……アルバート様。私にこんな力が眠っているだなんて……本当にありがとうございます。ご主人様に代わって御礼申し上げます」
「いえいえ、僕はきっかけを作っただけなんで。ところでライラさんはラルフさんのことが好きですか」
「えっと、そんな……私は奴隷の身ですし……」
顔を赤らめて答えるライラさん。
さっきの魔法の威力を見る限り、普段からラルフさんに大切にされていたんだと思う。
どうやらこの2人に関しては、僕が小細工をする必要はなかったようだ。
でも……2人の仲が進展するいたずらはしておこう。
「ライラさん、その能力をさらに強めるコツを教えておきますので、ラルフさんに伝えていただけますか?」
「はい、なんでしょうか?」
「ライラさんの強化魔法は、ライラさん自身にはあまり効果がないようです。なので、速く移動したい時は力の増したラルフさんに抱きかかえてもらってください」
「えっと……それが私の魔法を強くすると?」
「そうです、この方法は手をつなぐより効果がありますのでやってみてださいね」
「は、はい……伝えておきますね」
これでよし。
そのうちライラさんを抱きかかえて猛ダッシュするラルフさんの姿がこの街で見られることだろう。
それを見てみんな微笑ましく思うんだ。
さらにはそのラルフさんが冒険者として大活躍をする。
またひとつこの街が楽しくなるぞ……。
なんて企んでいると、ラルフさんが走って戻ってきた。
怖い顔に浮かぶステキなスマイル。
「こいつはすげーぞ。もしまたあのドラゴンが出たら俺1人でも勝てるかもしれねえ」
「それは頼もしいですね。あ、ライラさんがさらに能力を増す方法を伝えておいたので、後で聞いてくださいね」
「おう、ありがとよ!」
これでラルフさんはよしとしよう。
ただ……他にも同じように奴隷の女性とと仲良くしようとしている人がいるわけか。
その人たちにも同じようにしてあげたいな。
「ラルフさん、他にも同じようにパートナーの力を強くしたいと思ってる冒険者さんがいるんですよね」
「そうだな……ほら、あっちでも手をつないでる奴がいるぜ」
「あ、いますね。その人達みんなに会ってやり方を伝えておきたいんですよね」
「なるほどな……じゃあ俺が人を集めるから、冒険者ギルドで講義をしたらどうだ?」
「あ、いいかもしれませんね」
ということになった。
時間は明日の夕方にしてもらい、それまでになにかしら準備をすることになった。
その時に来ることができない人は、誰かに説明を又聞きしてもらって僕のところに来てもらう形とする。
これで女性を大切にしようとする男が増えることになるわけだ。
僕の望む世界にまた一歩近づく……。
楽しみだな。
そしてラルフさんたちと別れた。
その少し後にどこかから悲鳴が聞こえてきた。
「きゃああーっ! は、速すぎますぅー!」
この後、異様な速度で女性を誘拐して走って行く男が出たという噂が街に広がることとなる。
僕は予想がちょっとだけはずれたなあと思うのであった……。
そして、2人の結婚式には呼んでもらいたいなとも思うのだった。




