52.サーシャちゃん大活躍
次の日となり、僕たちは治療所にやってきていた。
もちろん、回復魔法の触媒となるユリアの花を大量に抱えてだ。
到着すると、サーシャちゃんが嬉しそうに走ってきた。
2日ほど来ていなかったから、悲しい思いをさせてしまったかもしれない。
サーシャちゃんに挨拶をして、ふと思う。
この子にも魔法を教えてみよう。
「サーシャちゃん、今からお父さんとお母さんな怪我を治すよ。手伝ってくれるかな?」
サーシャちゃんは元気よく頷いてくれた。
そしてユイとリリィがサーシャちゃんに魔法の指導をする。
僕はこの間に執事さんと、治療術士さんに説明をしておこう。
「今からディーラさんたちを治療するのですが、新しく作った魔法を使おうと思います。よろしいでしょうか?」
「おや……アルバート様たちが作られたのですかな?」
「はい、そしてこれが触媒です」
「これは……庭にも生えている雑草に似ていますな……。しかし不思議な色をした花のようですな」
「これで治療ですか? 失礼ですが、この花からはそういった力を感じないような……」
治療術士さんは怪訝そうな顔だ。
僕らが作ったこれまでと全然違う魔法だから、この花だけ見てもわからないかもしれないな。
「信じられないかもしれませんが、とりあえずやらせてください。たとえこれが失敗したとしても、悪化することはまずありませんので」
「わかりました。アルバート様にお任せいたします」
「ありがとうございます。では始めますね」
ちょうどサーシャちゃんに魔法を教え終わったようだ。
僕ら4人はディーラさんの前えと移動した。
そしてベッドの上に、たくさんのユリアの花を置く。
これで準備は完了だ。
「サーシャちゃん、お父さんの手を握っててね」
僕はサーシャちゃんの背後から、ディーラさんの手を握っているサーシャちゃんの手に振れる。
ユイとリリィはいつも通り、僕の左右から抱きついている。
この魔法は使用者と、対象者の想いの強さに比例する。
サーシャちゃんが中心となることで、間違いなく成功するだろう。
「よし、じゃあ始めてくれるかな」
「はい。サーシャちゃん、わたしたちが呪文を唱えるのに合わせて念じてくださいね」
サーシャちゃんは頷き、ユイとリリィは呪文の詠唱を始めた。
僕は3人に力を貸すことを念じる。
やがてユリアの花が光り始め、ディーラさんの体が光に包まれる。
そして光が消えると、火傷の痕がなくなったディーラさんがいた。
新しい傷であれば割と簡単に消せるようだ。
「おお……旦那様の傷が……。素晴らしい魔法ですな」
「はい。傷は癒えたので、あとはしっかり休めばよくなると思います」
執事さんも周りで見ていた治療術士さんたちも驚いている。
時が経てば、この魔法は女性ならだれもが使えるありふれたものとなるんだ。
早くその日が来てほしい。
あ、いきなり魔法を使ったサーシャちゃんは問題ないだろうか。
「サーシャちゃん、体におかしなところはないかな?」
サーシャちゃんはにっこりと頷くと、クラリスさんのベッドまで走って行った。
早くお母さんも治したいのだろう。
小さなサーシャちゃんが平気ならば、おそらくだれが使っても問題はないだろう。
副作用については懸念していなかったけど、改めて安心だ。
そしてクラリスさんも同じように治療が完了した。
これで最重要だった目的は達成できた。
満足している僕らに、ディーラさんの知り合いの治療術士さんが話しかけてきた。
「その素晴らしい回復魔法はいったい……。その見たことのない花が貴重なものなのですか?」
「あ、この花はあまり人の行かない場所で発見したんです。このあたりにも種を蒔きましたので、そのうち咲き誇ると思いますよ。そうなれば、僕らはこの魔法を皆さんに伝えていこうと思っています」
魔法はともかく、花も作ったというのは怪しすぎるので、遠くで見つけたことにしておく。
「そうですか……。あと今見たところ、サーシャお嬢さんもその魔法を使っていたように見えましたが……」
「はい、この魔法は簡単に覚えられるように工夫しましたので」
「なるほど……」
治療術士さんは複雑そうな顔をしている。
あ、考えてみるとこの魔法が出回れば……この人たちは失業の危機?
ここにいる治療術士さんは男が多いようだし……。
まあいいか、全体で考えれば世の中はよくなるはずだ。
この魔法も万能じゃないから、腕のいい治療術士さんであれば仕事がなくなることはないだろう。
さて、2人の命に問題がなくなった。
次は商売を成功させるべく手伝いをしよう。
別室で執事さんと話をする。
もちろんサーシャちゃんも一緒だ。
「それで執事さん、ガナードの街での新しい商売はうまくいきそうですか?」
「はい、運ぶべき荷物を用意いたしました。ただ、2つほど問題がありまして……。まず1つは、最近盗賊が増えているようでして、荷物を奪われる危険があります。護衛の仕事を受ける冒険者も不足していて、まだ雇えていません」
盗賊か、こないだも捕まえたのに増えてるんだな。
この街に金の臭いでも嗅ぎつけたんだろうか。
それに関しては僕らが護衛しよう。
というか馬車とか使わず、転移しちゃおう。
「荷物の輸送に関しては僕らに任せてください。もうひとつの問題は何でしょうか?」
「助かります。もうひとつは、ガナードの街での商売の交渉です。旦那様に無理をさせるわけにはいかないため、私が行くべきなのですが……この老体に長旅は辛いのです。さらには、私がここを長期に渡って離れると、他のことにも支障がでます」
確かに執事さんはここに残っておくべきな気がする。
転移魔法陣で素早く移動して一気に終わらせるという手もあるが、執事さんの体であの転移は危険かもしれない。
どうするべきか考えていると、サーシャちゃんが僕の服の裾を引っ張ってきた。
「サーシャちゃん、どうかした?」
サーシャちゃんは強い意志を持った目で僕を見つめてきた。
わたしに任せてと言っているように見える。
「サーシャちゃん、一緒に行くかい? 商売の交渉もしてくれる?」
サーシャちゃんは力強く頷いた。
よき、これで決まりだ。
「執事さん、サーシャちゃんが僕らと一緒に行けば解決すると思いますよ。よろしいでしょうか?」
「サーシャ様が……?」
執事さんは目を丸くして驚いた顔。
無理もないか。10歳のサーシャちゃんが商売の交渉をしてくると言っているのだから。
「サーシャちゃんには商売の才能があるんですよ。なにせディーラさんの娘さんですからね」
「それはそうかもしれませんが……。ううむ……アルバート様といると不思議なことがたくさん起こりますな。では信じてお任せいたします。サーシャ様を宜しくお願いします」
「わかりました、任せてください」
***
というわけで準備を開始した。
馬車の手配をするという執事さんの申し出は断っておく。
不思議そうな顔をされたけど、とりあえず転移魔法陣のことは内緒だ。
ディーラさんの家の倉庫からサーシャちゃんの家へと荷物を運ぶ。
かなりの量だが、大丈夫だろう。
台車も運び込んでおこう。
ちなみにディーラさんの屋敷の崩れた部分の修繕はまだ開始されていない。
ディーラさんの容態が危険ということにしてあるので、屋敷のことには構っていられないと敵にアピールしてある。
泥棒が入るとまずいので警備だけはちゃんとしているようだ。
サーシャちゃんの準備はメイドさんにお願いした。
長期のお出かけはよくしているようなので、すぐに終わった。
小さな体で大きなリュックを背負っている姿がなにか可愛らしい。
あとは転移の疲労に耐えられるかだ。
「ねえリリィ、サーシャちゃんは長距離転移して大丈夫だと思う?」
「んとね……若い子の方がこういうのには耐性があるらしいよ。あと、あたしらがサーシャちゃんの分を肩代わりすることもできるかもしれないってさ。アルの力を使えばね」
「なるほど、じゃあそうしようか。耐性があると言っても、サーシャちゃんにつらい思いはさせられないからね」
「はい、そうしましょう」
というわけで、魔法陣のある部屋に荷物を運び込んで準備は完了だ。
転移にはものの大きさとかは気にせず運べるらしい。
隠れ家の玄関も十分な広さがあるので問題ないだろう。
僕らは4人でしっかりくっついて、荷物を縛ってあるロープをしっかりと握っておいた。
「サーシャちゃん、これから僕たちの家に招待するよ。びっくりするかもしれないけど、しっかり僕に捕まっててね」
サーシャちゃんは嬉しそうに頷いてくれた。
僕らのことを信用してくれてるんだとわかる。
では転移開始だ!
そして地下の隠れ家へと到着した。
前回と同じく……いや、それ以上の疲労感に包まれる……。
「サーシャちゃんは大丈夫かな?」
僕らを心配そうに見ながら頷くサーシャちゃん。
ちゃんと守ることができたようだ。
「僕らは今からそこの部屋で休むよ。サーシャちゃんはこの中を好きに見てていいからね」
サーシャちゃんは頷くと、嬉しそうに地下の家探検へと出発した。
まだたいしたものはないけど楽しんでもらえればいいな。
さて……僕らは干し草のベッドで休むとしようかな。




