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50.リリィとデート?

 さて、今夜はリリィと2人きりでデートをするつもりだった。

 夜の草原で僕の腕に抱きついているリリィがいる。

 しかし……リリィの横にはユイがくっついている。

 ちょっと申し訳なさそうな顔をしたユイが口を開く。


「あの……わたしもついてきてよかったのでしょうか」


「いいの、アルと2人きりってまずないから緊張するんだよ。ついてきて……。えっと、ごめんねアル、せっかく誘ってくれたのに……」


「僕は構わないよ。リリィが好きな形でさ」


「ありがと……」


 ということらしい。

 別に嫌がられてるわけではないと思うけど、少し複雑な心境である。

 大自然さんがリリィとキスをしろと言ってきたのは、リリィのためを想ってだと思う。

 でもそれはリリィのためにはならない気がする。

 なんていうか急ぎすぎだ。

 リリィもそう思っているからこそ、あんなにも緊張しているんだと思うし。

 

 ……と大自然さんに問いかけてみるも返事はない。

 約束を破ることになるかもしれないけど、僕はリリィのためになるよう行動しようと思う。

 それでいいはずだ。

 さて、予定した場所に行こうかな。


「ねえアル、どこへ行くの?」


「今日は一緒に星を見ようと思ってるんだ。あまり夜に外に出ることってなかったからさ」


「そっか……楽しそう……」


 と言いつつも、リリィはおとなしい。

 いつもみたいに元気になってほしいなあ。

 ユイは気を遣っているのか、特に何も言わずに見守っているようだ。


 無言でしばらく歩き、なにか気まずさを感じる。

 僕はもともと口が達者な方ではない。

 楽しい気分の時であれば、無言でも楽しく歩いてたんだけど……。

 意識していると、僕まで緊張してきた。

 なにか言ってみよう……。


「ねえリリィ……」


「えと……なに?」


「えっと……リリィのことをなんでもいいから教えてほしいな」


「あたしのこと?」


「うん、考えてみたら僕に会う前どんなことしてたかあまり知らないし。あ、思い出すのがつらいんだったらいいんだけど……」


 今まで聞いたことがあるのは、ハーフエルフだからエルフの里で肩身が狭かったとか、魔法が使えなかったから馬鹿にされていたとか……つらかったことだ。

 いい思い出はないのかもしれないけど……リリィのことは何でも知りたい。


「えっと……楽しい話ではないけど、アルが聞きたいんだったら話す」


「僕はリリィのことは何でも聞きたいよ」


 ユイもそうだよねと聞こうとしたけど、せっかく気を遣って黙っているのでやめておく。


「ん……あたしもアルには全部知ってほしい。あたしがエルフの里であまりよく思われてなかったのは言ったよね」


「うん……」


「あたしはそれが嫌で里を飛び出したんだけど、もうひとつ目的があったんだ。父さんがどんな人か会ってみたかったんだ。もしかしたら父さんはあたしを探してるかもしれないなんて考えてさ……。おかしいよね、父さんはあたしが生まれたことすら知らないのに……」


「そっか……。お父さんを探す手がかりはあったの?」


「うん、母さんは時々恨むように名前をつぶやいてたんだ。その独り言をこっそり聞いてたら、出会った場所とかもわかった。それをヒントに探そうと思ったんだ」


 恨みごとか……。まともに恋愛をできたわけではなかったみたいだ。

 もしかして無理矢理?

 なんにせよ、リリィは両親に望まれず生まれてきたようだ。


「あたしはなにかに導かれるように、あっさりと目的地へ着いた。今思えば自然の力が見守ってくれてて、助けてくれてたんだろうね」


「うん、きっとそうだよ。それでお父さんは見つかったの?」


「見てはないんだ。ただ、その村をうろついてるとうまいこと噂話だけが聞こえてきたんだ。ある男がまた浮気しただの、子供を孕ませておいて責任を取らないとか。その男の名前は父さんの名前だった。あたしは確かめるのが怖くてそこを去ったんだ」


「そうなんだ……。たぶん名前が同じだけで違う人だよ」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど……噂話の中にエルフって単語も出てきたんだ。あたしはもうそれで……父さんは死んだってことにしようとと思ったんだ」


 リリィは詳しく言わなかったけど、おそらくその噂されている男が父親だと確信できるなにかがあったんだと思う。

 こんな辛い話をさせてしまったのに、僕はなんと声をかければいいかわからない。

 とりあえずこのタイミングで目的地に着いた。


「リリィ、ここに座ろうか。これ敷くから待ってね」


「あ、うん……いい場所だね。あの時もこんな風に星がよく見える場所に寝っ転がって泣いたんだ……。このままモンスターにでも襲われたら楽になるなって思って……」


「きっと大自然が守ってくれたんだろうね。よかった、リリィに何もなくて……」


 きっと自殺したくなるほどつらかったんだろう。

 そんなことをしないでくれてよかった……。

 

「うん、あたしも変なこと考えて実行しなくてよかった。だってそうしてたらアルに会えなかったもん。あ、寝っ転がりたいな」


「うん、そうしようか」


「まくら欲しい……」


 枕は持ってきてないから、僕は仰向けに寝てから右腕を横に出した。

 リリィは僕の腕枕に頭を乗せ、僕の方を向いてきた。

 暗くてはっきりとは見えないけど……照れているように思える。


 ユイはその後ろでどうしたものかと悩んでいるので、手のひらでおいでおいでとしてみた。

 するとリリィの背中にくっつくようにして、僕の腕に頭を乗せてきた。

 2人分の重みが腕に心地よい。


「幸せ……あの時と全然違う。ねえ、アルはあたしに何を言えばいいかわからないような困った顔をしてるけどさ、何も言ってれなくていいんだ。こうやってそばにいてくれたらいいんだ。ずっといていいかな?」


「うん……。僕もずっとリリィと一緒にいたいよ」


 リリィは僕の心を見抜いていたようだ。

 情けない僕だけど、それでいいみたいだ……。


「ありがと、ずっといる……。以前エルフの里に帰りたかったのはね、奴隷として生活するよりましだと思ってたからなんだ。でもそんなことなくてよかった。アルがご主人様でよかった。だから里にはもう帰らない。アルのところにいる」


「うん、ずっといてね。僕も以前はリリィを里に帰そうと思ってたけど、気が変わったよ。帰さないし逃がさない」


「あたしアルの奴隷だもん。ずっと捕まえてて……」


「捕まえておくよ。でもね、リリィもそのうち奴隷じゃなくなるんだ。そして僕の……」


 恋人、結婚相手、妻……いろんな単語が思い浮かぶ。

 でも恥ずかしくて言いにくいな……。

 

「アル、その続きは?」


「ん……なんだと思う?」


「んとね、お嫁さんがいいな……えへへ……言ってみて……」


 お嫁さんか、この言葉が1番いいかな。


「リリィは僕のお嫁さんになるんだ」


「うん……なる……」


「でもひとついいかな? お嫁さんがもう1人いるんだけど……」


「もちろんだよ。ユイも一緒じゃなきゃやだもん。ね、ユイ?」


「は、はい!」


 可愛いお嫁さんが2人……僕は幸せ者だな。

 世界で1番幸せにしたい……。


「あ、あの……」


 ユイが唐突に立ち上がった。


「向こうの方にモンスターの気配がするので倒してきます!」


「え? うん、よろしく……」


「では!」


 ユイが逃げるように遠くへダッシュして消えていった。

 僕らに気を遣ってくれたのだろう。


「ねえアル、ユイはなんであんなにいい子なんだろう?」


 なんでかな……。

 以前は立派なお父さんとお母さんがいたからだと思っていた。

 だけど、両親が立派とは言えないリリィだっていい子なんだ。

 だからユイがいい子なのは……。


「ユイだからだよ」


「ふふっ、答えになってないよ。でもアルらしい答えだね。あたしね、最初はユイが変な奴でうっとおしいって思ってた。でも……ユイがユイでよかった。でなきゃあたし、今こうしてないもんね」


「そうだね。僕に幸せをくれたユイは、リリィにも幸せをあげたんだ」


「うん……でもさっきまで背中にぬくもりをくれてたユイがいなくなって寂しい……。アル……だっこして……」


「うん、いいよ」


 そう言うとリリィは僕の体の上に乗っかってきた。

 体が密着し、リリィの柔らかさを体中で感じる僕。

 背中が寂しいと言っていたので、僕はその背中を抱きしめる。


「アルの体気持ちいいな……」


「リリィの体も……」


「えっち……なんてね。このまま誓いをしたいな……」


 誓いというと……誓いのキスかな?

 でも僕の知らないなにかの可能性もある。


「リリィの言う誓いっていうのは……」


「あ、ごめんね。エルフは大切ななにかを約束する時、1番尊敬する人や精霊の名前に誓いを立てるんだ。人間のやり方はよく知らないんだけど、アルがそっちのほうがいいなら……」


「いや、エルフのやり方でしよう。今聞いた限りだと、素敵な誓いみたいだから」


 この世界の人間の風習を知らないってのもあるけど、リリィがやりたいと思ってる方法がいい。


「ありがと……。じゃあ、アルは誰に何を誓ってくれる?」


 尊敬する相手か。

 何人かいるけど、やはりここは……。


「ユイに誓うよ。リリィを一生幸せにすることをユイに誓う」


「そっか……それならあたし、絶対幸せになれるね……。あたしもユイに誓うね……アルのことを一生愛して、そばにいます……」


「うん、ユイに誓ってくれるなら……一生一緒にいられるね」


 ユイはここで自分の名前を出されてるなんて思ってもいないだろうな。

 知ったら大慌てしそうだ。


「誓いの最後の仕上げは……アルにお任せするね」


 リリィは僕の目を見つめながらそう言い……やがて目を閉じた。

 僕はリリィの背中を抱きしめていた手を、リリィの小さな顔に添える。

 リリィのやわらかそうな唇に目を奪われる……。


「リリィ、愛してるよ……」


「うん、あたしも……んっ……」


 予想より遥かにやわらかい……。

 ついにリリィともキスをした。

 僕は先ほどの誓いを守り続けよう。

 

 何分かそのままでいて、僕たちは顔を離した。

 リリィの瞳はうるうるとしていて……夜空に瞬く星より遥かに綺麗だなと思った。


「アル……今何を考えてるのかな?」


「リリィのことだよ」


「うん、あたしもアルのこと考えてる。でも、もうひとつ考えてることあるよね?」


 そう……僕たちがこんな仲になれるようにしてくれた大切な人だ。

 リリィも同じように考えているのだろう。


「そうだね、じゃあ行こうか」


「うん!」


 僕とリリィは立ち上がり、手をつないでユイの元へと走り出した。

 暗闇で姿は見えないけど、僕たちにはユイがどこにいるかわかっていた。

 きっと1人で寂しがって……いるのではなく、わくわくしながら待っていることだろう。


 やがてユイの後ろ姿が見えてきた。

 ユイが僕たちに気づいて振り向くと同時に、僕とリリィはユイに抱きついた。


「きゃあっ! あはっ……2人とも楽しそうですね」


「うん! ユイのおかげですごくすごく楽しかったんだ。ね、アル」


「うん……ありがとねユイ」


「いえ、よかったです。リリィさん、どんなことをしたのか今度聞かせてもらいますね」


「今度じゃなくていいよ。どんなことをしたのか、アルが同じようにユイにしてくれるからさ……」


 リリィが唐突にそう言いだした。

 きっとリリィは、自分の感じた幸せをユイにも感じてほしいんだろう。

 僕も同じ気持ちだ。


「えっと……ご主人様、そうなのですか?」


「うん、さっきリリィにね、エルフがする誓いのやり方を聞いたんだ。ユイともしたいな」


「はい!」


 こうして僕は先ほどのようにユイとも誓いをして、キスをした。

 2人が誓いを立てた相手はもちろんリリィだ。


 これで……僕たちはずっと3人一緒。

 幸せになれるんだ……。

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