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05.初めての夜

 街を歩いている間に日が落ち、あたりはうす暗くなっていた。


「さて、そろそろ宿屋に行こうね。買った服も着て見せてほしいしさ」


「はい……楽しみです」


 地図に記載されていた、冒険者御用達の宿に来てみた。

 さて、1泊おいくらかなあ。

 冒険者カードを提示して受付だ。


「1人1泊食事付きで300Gだよ。奴隷用の相部屋は1人50G」

「では2人部屋をお願いします。はい、600Gね」

「まいどあり、じゃあおつりと……これが部屋のカギだよ」


 どうせまたユイがわたしは安い部屋でと言いだすだろうと思って、素早くお金を払った。

 言うタイミングを逃してきょとんとしているユイを連れて部屋へ行く。

 狭いけどベッドが2つある部屋のようだ。


「ご主人様……わたしにこのような部屋はもったいないです。わたしはやはり奴隷用の部屋に……」


「ユイ、君は僕を守ってくれるんだろう? 違う部屋に行ったら守ってもらえなくなるじゃないか」


「あ……そ、そうでしたね。ではこの部屋で一緒に……すみません」


「謝らないの。僕はユイと一緒にいたいんだから」

「は、はい……」


 真っ赤になるユイ可愛いなあ……。

 少しずつでいいから……奴隷ではなく普通のお友達といった感じになっていきたいものだ。


「ユイ、覚えておいてね。ユイには僕を守ってほしいんだ。だから常に一緒にいて、同じことをしよう。仕事も食事も……寝る時もだよ」


「は、はい……それが命令であれば」


「命令じゃないよ。これは僕からユイへのお願い。嫌なら断ったって構わない」


「いえ、嫌ではありません。わたしもご主人様と常に一緒にいたいです」


「じゃあよかった。僕とユイは同じ気持ちなんだね」


「そう……ですね」


 なんだか僕たちって恋人同士みたいなことを言っているような……。

 でもユイもまんざらじゃない感じで真っ赤だし、僕もユイのことが気になっている。

 もしそんな関係になったとしたら……それはそれで問題ないかな。


「ではご主人様、水を汲んでまいりますね」


「いや、僕が行くよ。ユイはたくさん働いて疲れただろう?」


「そ、そんなのだめですよ。わたしは全然疲れていませんし、ご主人様を働かせるなんて奴隷の名折れです」


 うーん……僕からしたらこういう時の仕事は男の役目なんだけど。

 なんとか言いくるめよう。


「ユイ、ちょっと聞いてくれるかな。僕って実は変な奴でさ……人のお世話するのが好きなんだよ」


「えっと……? あ……だから今日はわたしにいろいろしてくださって……」


「そうだよ、おかしいと思う?」


「ご主人様は全くおかしくないです。むしろ立派なお方です」


「そう思ってくれるんだ。じゃあ僕に水汲み行かせてね。ユイは休んでていいから」


「えっと……あ……はい……」


 ユイは困った顔になったが、何も言い返せないようだ。

 よし、ちゃちゃっと行ってしまおう。

 部屋の隅に置いてあったタライを持ち、部屋を出て行く。


 宿の人に聞くと、外にある井戸を自由に使っていいそうだ。

 井戸にあるロープを引っ張っていると、ユイがやってきた。

 休んでていいと言ったのになあ……。


「ユイ、どうかしたの?」


「ご主人様はさっき、わたしに常に一緒にいるように言われましたよね。だからお守りするために来ました」


「あ……そうだった。ごめんね、一緒にいてほしいって言ったのに部屋で待たせるなんてひどいことしちゃったね」


「いえ、ご主人様の気遣い……とても嬉しかったです」


「じゃあそこで見守っててね」

「はい……」


 ユイはそわそわしながら僕の作業を見つめている。

 こういうことに慣れさせ、奴隷としての意識を減らす特訓をしていこう。

 そして水を汲み終わり、あとは部屋に持って行くだけか。

 そんなに重くないので僕1人でも大丈夫だけど……。


「ユイごめん、重いから手伝ってくれる?」


「はい! お任せください」


 大喜びで桶を半分持ってくれた。


「ユイが来てくれてよかったよ。僕だけだと困ってたかも」


「お役に立てて嬉しいです」


「これからも僕を助けてね」

「はい!」


 2人で仲良く桶を運んでいく。

 こんな感じで、ユイにいろいろ頼るとしよう。

 僕はユイがいないとだめなやつなんだと思ってくれればいい。

 いやまあ……今のままだと実際そうなると思うけど。


 無事部屋に戻り、水入りのたらいを床に置く。

 あとはタオルも何枚か部屋に置いてあるみたいだ。


「じゃあユイ、先に体を拭きなよ。買った服も早く着て見せてほしいしさ」


「そ、それはだめです。ご主人様が先に決まっています。お嫌でなければ……わたしに拭かせてくれませんか」


「ユイに拭いてほしいけど……どうせなら買った服で綺麗になったユイに拭いてほしいんだけどなあ……」


「そ、そうなのですか? で、では急いで綺麗になりますのでお待ちください」


「じゃあ僕は向こう向いてるから、着替えたら教えてね」

「は、はい……」


 本当はユイの体を僕が拭いてあげたいんだけど……いやらしい奴と思われるんじゃないかという怖さで言えなかった。

 傷だらけの体を見られるのも嫌かもしれないし……。

 言えばなんでも命令に従うんだろうけど、それはだめだ。

 もっと仲良くなったら僕にもお世話をさせてもらおう。


「ユイ、ゆっくりでいいからね」


「いえ! ご主人様をお待たせするなんてダメです」


「ユイ、覚えておいてほしいな。僕はユイに綺麗でいてほしいんだ。だから時間をかけてでも綺麗になってほしい」


「わたしが綺麗になれば……ご主人様は喜んでくれるのですか?」


「そうだよ」


「ではあの……しばらくお待ちください」


 うん、楽しみだ。

 正直こうやって待たされている時間も幸せだ。

 あ、今のうちにお金を数えていようかな。


 えっと……銀貨70枚に銅貨5枚……これで705Gかな。

 なんとなくだけど……1Gは僕がいた世界の10円くらいの価値な気がする。

 今日は4805Gあったのにだいぶ使っちゃったなあ。

 でも女の子のためにお金を使うことに喜びを覚える僕がいる。

 明日も稼げるといいな。

 それと家計簿をつけた方がよさそうなので、明日書く物を買うとしよう。


「ご主人様……体を拭いて、着替え終わりました」


「そっち見ていいの?」


「はい、どうぞ……」


 振り返ると、先ほどのぼろ服から一転したユイが立っていた。

 ひらひらしたスカートがなんとも可愛らしく、健康的な格好だ。

 白いタイツを履いているのか脚が見えないのが少し残念……いや、傷跡を隠せるように店員さんが選んでくれたのかも。

 シャツの上から羽織ったケープにフードがついているのも僕好み。

 かぶせたい……。


 顔もしっかりと拭いたのだろう。

 傷や火傷のない部分は綺麗な肌がのぞいている。

 うん、やっぱり元は綺麗な子だったに違いない。なんとか治す方法を探そう。

 ぼさぼさだった髪も少し整えられている。あ、くしを買ってあげないといけないな。

 首輪は邪魔だから、早く外せるようにしてあげたい。


「ご主人様、どうなのでしょうか? そんな見つめられると恥ずかしいです……」


「あ、ごめんね。可愛くて見とれちゃってたんだ。すごく似合ってるよ」


「あ……ありがとうございます。こんな素敵な服を着たのは生まれて初めてです」


「これからはもっといろいろ着ようね。また買ってあげるから」


「そ、そんなの申し訳ないです」


「僕がしたいからいいの」


「はい……ではお願いします」


 うんうん、やはり女性は着飾って美しくなってほしい。

 でもそうなると荷物が増えるのか……。

 宿暮らしではなく家が欲しくなるな。


「ではご主人様、お体を拭かせてください」


「あ、うん……お願いするね」


「えっと……お嫌でなければ服を脱いでいただければ」


「あ……そ、そうだね……」


 やばいな……なんかすごく緊張する。

 そもそも僕は元の世界でも女の子と触れあった経験がないんだ。

 裸になるのはなんとも恥ずかしい……。

 とりあえず上半身だけ脱いでみた。


「では……失礼しますね」


「う、うん……よろしくね」


 冷たいタオルが背中に当てられて気持ちいい。

 タオル越しにユイの手が震えていることが分かる。

 僕と同じで緊張してるのかな。


「ご主人様の肌……白くて綺麗ですね」


「そうかな? でも男としては頼りない感じだよね」


「そんなことはありません。ご主人様は素敵な男性です……。この体……傷1つつかないようお守りいたします」


「うん、頼りにしてるね」

「はい……」


 幸せだなあ……そう考えていると緊張もしなくなってきた。

 この時間をまったりと楽しむとしよう。

 なお、下半身は恥ずかしいので断った。


 この後は、宿で用意された簡単な食事をして眠ることとなる。

 もちろん別々のベッドでだ。

 若い男女が同じ部屋にいて何も起きないのかって?

 だって僕は紳士……というかへたれなんだよ。

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