49.ユリア
新しい回復魔法を作ると決まった。
そして大自然さんからの提案で新しい触媒を作ることになった。
なんでも品種改良して新しい植物を作ってくれるとか……。
自然の摂理に反しているような気もするけど、自然そのものがいいと言っているので気にしないことにする。
まずはベースとなる植物を選ぶべく、森へとやってきていた。
ここへ来るのは、ドラゴンと戦った以来だ。
今は平和なようで、モンスターもちらほらいるだけのようだ。
触媒とするのならば、どこにでも生えていて大量に採れるものがいいだろう。
その条件に当てはまるのは雑草なわけだけど、雑草という呼び方はあまりよくないかな。
人間視点で邪魔な草花を雑草と呼んでいると聞いたことがある。
だからこれらを雑草と呼ぶってのは、威張りちらしている男が女性たちを見てこの女どもがとひとまとめにするのと同じ気がするんだ。
さあ、このたくさんの草花の中から素敵な子を見つけ出そう。
どれにするべきか……2人の意見も聞いてみるかな。
「ユイとリリィはどれがいいと思う?」
「どれがいいのでしょうね……」
「うーん……アルはどんなのがいいの?」
「僕は、ユイやリリィみたいに可愛い花が咲いてるのがいいな」
「そ、そっか……。アルってこっぱずかしいことを平気で言うよね……」
ユイもリリィも赤くなっている。
「僕は思ったことを正直に言っているだけだよ。こんな僕って変なのかな?」
「いえ……わたしはご主人様がなんでも正直に言ってくださるのが嬉しいです」
「まあそれがアルのいいところなのかな……。じゃあアルに選んでほしいな。たくさんの人の中からあたしとリリィを選んでくれたみたいに……」
「リリィさん……それ素敵ですね……」
リリィは自分で言った言葉に照れたのか、真っ赤になっている。
ユイもそれにつられて赤くなって……2人とも可愛いなあ。
ふと、小さなピンク色の花が咲いている草が目に入った。
周りにもたくさんあるようなので観察してみる。
どうやら咲く前は白いのに、咲くとピンク色となるようだ。
まるで今のユイとリリィのようだ。
「この花はどうかな?」
「可愛いです……ご主人様が選んだこの花にしたいです」
「うん、アルはあたしらのことをそんな可愛い花みたいと思ってくれてるんだね」
「そうだよ、じゃあこれにしようか」
決めたはいいけど、この花の名前はなんだろう?
大自然さん、教えてください。
《人間はまだ名前をつけておらぬようだな。お主が名付けるのがいいだろう。これから魔法の触媒となるべく品種改良を行うのだ。名前を付けることに意味がある》
なるほど……ではユイとリリィのように可愛い名前がいいな。
少し考え、自然と名前が口に出た。
「ユリア……この花の名前はユリアにしようか」
ユイとリリィと、さらにぼくの名前アルバートからとってみた。
ダサいと言われるかもしれないけど、僕はこう名付けたい。
「ご主人様、もしかしてそれはわたしたちの名前から取ったのでしょうか?」
「そうだよ。僕の大好きな2人の名前……もちろん僕も一緒にいたいから3人から取ったんだ」
「素敵です……でもわたしの文字が先頭でいいのでしょうか?」
「あたしはユリアでいいと思うよ。アリユとかリユアとかだとなんか呼びにくいし」
「あはっ、そうですね」
というわけで花の名前はユリアとなった。
人の名前みたいでもあるけど、そこは気にしない。
《良い名だ。ではそのユリアを元に新たなる花を作ろう。まず見分けやすいような特徴を考えてくれ》
特徴か……。
だれでも簡単に区別できるようにしたいな。
今この花はピンク色……この色はそのままがいいな。
だから変えるとしたら花の中心あたりの黄色い部分の雄しべや雌しべがあるあたり……名前はよくわからないな。
ここを……。
「こういうのはどうかな? 花のこの部分を黒っぽい色にしてもらうんだ」
「え? 黒というのは花にふさわしくないような……」
「僕の好きな色だからさ」
僕はユイの黒い髪を見つめた。
あまりない髪色のため世間的には嫌がられてるとユイは言っていたけど、僕が大好きなユイの髪だ。
ユイは僕の視線に気づき、少し照れたような顔となった。
でも少し寂しそうにこう言った。
「ご主人様の好きな色というのはいいのですが……この花も嫌われるようになったら可哀想です……」
「そんなことはないよ。だって、これからこの花は世の中の役に立つんだよ。たくさんの人がこの花で怪我を治せるようになる。そんな花が好かれないわけないよ」
そしてみんな黒い色が好きになる。
そしてユイの髪をみんなも綺麗だと思うようになる。
安直な考えかもしれないけど、僕はそうなってほしい。
「そういうものでしょうか……」
「あたしもそうなると思うよ。それにアルはきっとこの花をね、大好きなユイそっくりにしたいんだよ。ね?」
「まあそうなるかな……」
「ご主人様……照れちゃいます……」
リリィのフォローで花の特徴も決まった。
不思議な色の花となるけど、見分けやすさはばっちりだ。
《決まったようだな。ではリリィに花を抱かせ、いつものように共同作業できる形になるのだ》
その指示を受け、ユリアの花をいくつか根っこごと掘り出した。
それをリリィが抱きかかえて地面に座る。
僕はリリィの背後から優しく抱きしめる。
その僕の背中にユイがくっついてきた。
いつもとは少しだけ違う形であるが、僕たちが協力できる体勢だ。
《では心を1つに合わせて念じよ。花の品種改良と魔法の生成は同時に行われる。ここでの想いが力となる》
僕らは目を閉じて念じ始めた。
この花をどのようにして、どのように使うのかを……。
人々を癒す存在にし、新たなる回復魔法の触媒とするんだ。
ユイとリリィも同じように考えてくれているといいな……。
そして……あたたかい光が僕らを包んでいる感覚となる。
うまくいことを信じ、そのまま念じ続けた……。
《完成だ。さっそくひとつを試してみるがよい》
しばらくたつと、終わったようだ。
目を開けてリリィの手元を見ると、ピンク色と黒に彩られた花が見える。
見た目もそんなに悪くないな。
「じゃあ、1つだけ使ってユイの火傷の痕を消せるかやってみよう」
「はい、やってみます。これがうまくいけばディーラさんたちも治って、サーシャちゃんも元気になりますよね」
「そうだね。じゃあ一緒に花を持って、一緒に呪文を唱えよう。アルはあたしたちを抱きしめててほしいな」
「もちろんそうさせてもらうね」
ユイとリリィは向かい合ってユリアの花を手に持つ。
僕は2人の肩を抱くようにして見守る。
この魔法は協力しなくてもできるはずだけど、僕らはやっぱりこうやって魔法を使いたい。
そしてユイの顔をやわらかな光が包み込む。
それは数秒で消え、ユイの顔がほんのわずかだけ綺麗になった。
おそらく、こないだの火事でできた火傷がひとつだけ消えたんだと思う。
「えっと……成功したのでしょうか?」
「うん、綺麗だったユイの顔が綺麗になった」
「アルってばもう、それじゃわかんないよ。えっとね、ユイの火傷が少しだけ消えてる。今は花を1つしか使わなかったけど、たくさん使えばこないだの火事の時にできた火傷は全部消えると思うよ」
「よかった……成功なのですね……」
どうやら新たな回復魔法の生成は大成功のようだ。
あとは大量に栽培すればいいはずだ。
《それに関しては任せよ。地下の家で行うぞ》
ということらしいので、地下の隠れ家へと戻ることにした。
戻ると、広間に花壇のようなものができていた。
この家の改装は仕事が早いなあ。
大自然さんの指示のもと、そこにユリアの花を植える。
そしてまた僕たち3人で魔力を込めて成長を促した。
ちなみに魔法は完成したと思っていたけど、まだまだ改良の余地はあるらしい。
これから時間をかけて3人で作りあげていきたいと思う。
これできっとディーラさんは元気になる。
そうなった元凶はまだ捕まえていないけど、これで大きな懸念がひとつ解決するんだ。
やがて夜となった。
今夜はここへ来る前に約束していた、リリィと2人でデートの時間だ。
大自然さんと約束した……リリィとキスをして仲を深めると……。
こういうのはもっと自然な流れでいきたかったけど、そこは僕の努力で何とかしよう。
いや……そんな風に考えるのもリリィに失礼だ。
リリィとのデート……しっかり楽しもう。




