47.転移魔法陣完成
あれから毎日のように、魔法陣を作りつつ気分転換にお出かけをしていた。
サーシャちゃんを狙う悪党もあれ以来現われなくて一安心している。
ただ心配なのは……はたから見たら僕らが毎日遊んでいるようにしか見えないことだろうか。
執事さんは特に何も言ってこないけど、心配しているかもしれないな。
でもそれも今日で終わりだ。
魔法陣を作り始めて4日目の朝、どうやらほぼ完成しているらしい。
というわけでちゃちゃっと朝食を食べ、出発の準備をした。
地下にある隠れ家へ向かって転移をするのだ!
「じゃあ魔法陣を念じて……」
これで転移の魔法陣が浮かび上がる……はずだけど出てこないな。
何か足りないのかな?
《最後の仕上げだ。お主とリリィの愛の誓いを見せよ》
はい? 愛の誓いとはなんでしょうか?
《2人の絆がさらに深まりし時、魔法陣は完成する》
さらにって……。
うーん……誓いと言えば、誓いのキスかな?
いやでも、このタイミングだとムードとかってものが……。
まったく……大自然さんってば不要な設定を作って楽しんでるな。
「あ、あの……ご主人様、わたし忘れ物を思いついたので部屋に戻りますね」
「え? うん……」
ユイが少し慌てた感じで階段を上がっていった。
思いついたってなんだろうか……。
あ、ユイにも大自然さんの声が聞こえていたのかな。
だから気を遣ってくれたのかも?
「ねえリリィ」
「な、なに?」
リリィは顔を赤くしてそわそわしている。
当然リリィにも大自然さんの声は聞こえているはずだ。
さて、ここからキスにもっていけるのだろうか……。
「何度も言ってるけど、僕はリリィのこと大好きだよ」
「う、うん……知ってる。あたしもアルのこと好きだし……」
見つめ合う僕とリリィ。
うーん……僕はキスをすごくしたいんだけど、リリィはこれでいいのだろうか?
ファーストキスはもっといいシチュエーションの方がいいような気がする。
よし、こうしよう。
「リリィ、今夜2人でどこかお出かけしないかな?」
「え? でもユイは? 3人一緒にいないとだめだよ……」
「大丈夫。だってリリィの力のおかげで、僕たち3人は常に心を通わせることができるようになったでしょ。ユイも許してくれるよ」
「そ、そういうものかな?」
たしかに常に3人一緒にいようと言ったのは僕だ。
でも、僕がユイとキスをしたあの日……リリィが気を遣って2人きりにしてくれたんだ。
あの時ユイと僕は素敵な時間を過ごすことができた。
だからリリィにも同じように感じてほしい。
僕の勝手な願いだけど、ユイはわかってくれるよね?
あと大自然さんも……。
《よくわかった。絆も深まったようだし、魔法陣は完成だ》
どうもありがとうございます。
ではそれでいいようだ。
「じゃあリリィ、約束だよ」
「う、うん……ユイがいいって言うなら行く……」
「ありがと。じゃあユイを迎えに行こうか」
リリィと一緒にユイの元へと向かった。
部屋をノックすると、すぐに開かれた。
ユイがわくわくしたような顔で話しかけてくる。
「ご主人様にリリィさん、絆は深まりましたか?」
「えっと、実はまだなんだ。でも魔法陣は完成したみたいだから出発しよう」
「あら……そうなのですか?」
不思議な顔をするユイ。
今言っておくかな。
「それでユイにお願いがあるんだけど……今夜はリリィと2人でお出かけしていいかな?」
ユイはきょとんとした顔になったが、すぐになにかを察したように笑顔となった。
「はい、どうぞデートしてきてください。リリィさん、きっと素敵な夜になりますよ」
「う、うん……ありがとユイ」
「ユイ、ありがとうね」
予想はしていたけど、ユイはあっさり受け入れてくれた。
ユイが嫉妬することはきっとないんだろう。
ま、それが僕の大好きなユイってことかな。
「よし、じゃあ出発しようか。ディーラさんを治療するための触媒を手に入れて帰るよ」
「はい! すぐに終わらせて、ご主人様とリリィさんに素敵なデートをしていただきます」
「デ、デートはともかく……なによりそれが大事だね。でもあの……忙しかったらまた今度でもいいから、落ち着いた時がいいな」
「そうだね。ちゃんと解決してから楽しむ方がいいもんね」
そうだ、主目的を忘れてはいけない。
ディーラさんを治療しつつ、犯人探しが第一なんだ。
まあ、その目的を果たすための手段がリリィとのデートだったわけで……。
改めて考えると、かなりおかしな話だけど……。
これは大自然さんがおかしなことを考えるのが悪いな。
《まあそう言うな。これも我らが協力するのに必要なこと。今日も助力は惜しまぬからな。頼るがいい》
頼りにしています。
でもそんなに協力してくれるほどリリィのことが好きなんですか?
《それもあるが、我らはお主のことが気になっておる。始めは不自然な存在のために警戒していたが、その不自然さがこの世界の雰囲気を変える力となることに気づいたのだ》
不自然な存在というのは、僕はもともとこの世界の人間ではないからだろうか。
でも世界の雰囲気を変えるとは?
《この世界は一部の人間が威張り散らしており、それが不快だ。お主も同じ気持ちで、世界を変えたいと思っているだろう?》
そうですね。
女性を軽んじて奴隷に簡単にしてしまうこの世界が不快です。
《だからお主に協力するのだ。期待しているぞ》
わかりました。
まさかこんな身近なところにも協力してくれる力があるとは……。
これはいけそうな気がしてきたぞ。
「ねえアル、ぼーっとしてるけど何か話し込んでるの?」
おっと、大自然さんと長話をしてしまった。
「ごめんね、ちょっといろいろ相談してたんだ」
「相談ならあたしらにもしてくれたら良いのに……ねえユイ」
「そうですね。一緒に話し合いたいです」
ユイもリリィも少し寂しそう。
それならこう言って安心させようか。
「これは2人に相談するのは恥ずかしいんだ。でも隠し事は嫌だから教えてあげるよ。ユイとリリィを幸せにする方法について相談してたんだ」
「ご主人様……」
「そ、そうなんだ……」
顔を真っ赤にする2人……可愛いな。
この世界を変えて、2人を奴隷から解放して……やることはたくさんある。
でも確実に成し遂げるからね。
2人とも……幸せになってほしいな。
「さあ、今度こそ出発しよう」
「はい!」
「うん!」
2人が僕の腕に腕をからめてくる。
この幸せな状態で魔法陣の元へと戻った。
そして魔法陣を念じると、魔法陣が浮かび上がってきた。
そこに3人で飛び込む。
そして次の瞬間……地下の隠れ家の玄関へと到着していた。
これからはここを経由してガナードの街とランバールの街を移動できるのだろう。
ただ……体がやけに疲れている。
「ユイ、リリィ、無事到着したけど体は大丈夫かな?」
「なんだか体が重いです……」
「あたしも……長距離転移は体に負担があるみたいだね……」
「そうみたいだね……少し休んでいこう」
少し困った副作用ではあるけど、10日かかる道のりを一瞬で移動したんだ。
これは我慢しようか。
ただ休むといっても、ここにはまだ石の部屋しかなかったような……。
《そんなことはない。そこの部屋へ行ってみるのだ》
大自然さんに言われて部屋の1つに入ってみる。
そこの床には干し草を編んだであろう敷物があった。
触ってみるとふかふかで気持ちいい。
いつのまにか作ってくれたんだ……。
《うむ。先ほどまでいた仮宿に負けぬようにせねばならぬからな。他にも色々とあるが、まずは休むがよい》
ありがとうございます。
サーシャちゃんの家もよかったけど、やはりこっちの方がいいな。
誰にも邪魔されない僕たちのお城……。
「じゃあ軽く眠ってから行こうか。なにがあるかわからないし、体調はばっちりにしていこう」
「はい、最近はずっとソファーで眠ってましたから……このふかふかのベッド気持ちいいです。いい香りもしますね」
「うん、山の中で野宿したことを思い出すな……。でもここは安全だし……幸せだな」
心安らぐ……地面の下だというのに、まるで大草原に横になっている感覚。
いい香りもしてくるし……これはよく眠ることができそうだ。
大自然っていいなあ……。
僕はこの家でユイとリリィと楽しく暮らす日々を思い浮かべながら寝るのであった。




