45.移動の手段
サーシャちゃんの能力のおかげで、ディーラさんがガナードの街でどのような商売をするかわかった。ここランバールの街からいろいろなものを運んで売る契約をしてきたようなのだ。
商品としては小麦その他の穀物でありふれたものだ。今現在ガナードの街で流通している物は安いのだが、質が悪い物も混じっているそうなのだ。それに代わって少し高くはあるが、質のいい商品を売り込むらしい。
これが成功すれば、ユイをひどい目にあわせたヴァルマンの商売に痛手を与えることができる。
とは言え商売に関しては執事さんに任せるとする。
僕たちはディーラさんの治療を完全なものにするための触媒探しだ、
予定通りガナードの街へ向かうとしよう。
だけど時間がないのが問題だ。
ワープでもできたらいいのに……。
と考えていたら、転移の魔法陣のことを思い出した。
「ねえリリィ、ここから地下の隠れ家に移動する転移の魔法陣は作れないのかな?」
「うーん……ちょっと聞いてみるね」
これができれば楽なんだけど、難しいかな。
前回は短距離移動する魔法陣を作っただけで数時間気絶しちゃったからなあ……。
少しするとリリィはこう言った。
「うーん……すぐには難しいけど、あの魔法陣は少しずつ作ることもできるらしいよ。何日かかけたら作れるかもしれないって」
「なるほど……何日くらいかかるかな?」
「それはあたしらのがんばり次第だけど、3日から5日くらいだろうってさ」
それならば、普通に移動するより遥かに早い。
やるべきだろう。
「よし、じゃあそれをやってみようか。きっとすごく疲れるんだろうけど手伝ってくれるかな?」
「もちろんです!」
「うん、やってみよう」
というわけでこれから何日かかけて転移の魔法陣を作ることになった。
作る場所はサーシャちゃんの家の中。
こもって作業をするには、安全な場所がいい。
執事さんには重要な作業があるから家にこもるとだけ伝えておいた。
詳しいことは伝えていないが、信用しますとだけ答えてくれた。
その信用に応えるためにもがんばらなくては……。
さて、今は夜。
今朝がたディーラさんのお屋敷が火事になって慌ただしい1日だった。
これから魔法陣を作る作業をして、疲れ切ってから眠ろうと思う。
作る場所は1階の広い部屋だ。
ソファーに腰掛けて、座った状態で集中しようと思う。
「ユイ、リリィ、これが終われば僕たちは疲れ切って眠っちゃうと思う。だから先に言っておくね。おやすみ……」
「おやすみなさい、ご主人様にリリィさん。がんばりましょうね」
「おやすみ、2人とも。それよりさ……もっと素敵な言葉を言ってくれたら、あたしもユイもがんばれるんだけどなあ……」
素敵な言葉とは、愛の言葉だろうか……。
よし、照れくさいけど言ってみよう。
「ユイ、リリィ、2人とも愛してるからね」
「はい……私もご主人様を愛しています……」
「うう……言わせといてなんだけど照れくさいね。アル大好きだよ……」
そう言って2人は僕の左右から抱きついてきた。
では魔法陣作りを始めよう。
リリィの力により、大自然から頭に流れ込んでくる呪文を唱える。
それを使うために必要なのはユイの魔力。
何度もやっている協力作業だ……。
目の前の床に光る円が現れた。
これからここに何日もかけてひとつの魔法陣を作るんだ。
ディーラさんたちを救うために集中だ……。
円の中に少しずつ模様が描かれていく。
それとともに僕たちの体力や魔力が消耗していくのも感じる。
何事もなく無事に終わればいいなと考えつつ……意識が落ちていった。
***
目が覚めると朝になっていた。
食糧も買いこんでおいたので、朝食を作るとしよう。
ユイとリリィは寝かせたまま、僕は台所へ行く。
僕より2人の方が疲れているだろうから、栄養のあるものを作らないとね。
食べたらまた魔法陣を作る作業をしなくては。
《無理をし過ぎても効率が悪いぞ。気分転換にデートでもして来てはどうだ》
おや大自然さん、おはようございます。
気分転換もしたいのですが、急ぎたいんですよね。
《急がば回れと言うだろう。疲労した体と心ではあの魔法陣は作れん。我が助言に従え》
なるほど……そういうものかな。
大自然さんにたくさん力を借りるわけだし、助言に従っておこう。
そんなこんなで朝食もできたので、ユイとリリィを起こしにいこう。
ソファーに戻ると、僕がいなくなった隙間を埋めるように寄り添って寝ていた。
僕に寄り添っていると勘違いしてるのか、それとも2人が仲良しだからかな。
なんだか起こすのも悪い気がして、少し寝顔を眺めてみた。
2人とも可愛いな……こんな素敵な子たちが僕の恋人か。
ただ少し気になってしまうのは、昨日の火事の救出劇でユイの火傷が増えたことか。
もちろん僕自身はそんなの気にせずユイを綺麗だと思っている。
だけど他の人がユイを嫌な目で見るであろうことが悲しい。
ユイとお揃いの顔を隠すフード付きマントでも買おうかな。
リリィもほしがれば3人でお揃いだ……悪くないかもしれない。
そう考えていると2人がほぼ同時に目を開けた。
「おはよう、よく眠れたかな?」
「ふみゅう……おはようございますご主人様」
「アルおはよう……なんだかいい匂いがする……」
「朝ごはん作っておいたからおいで。あ、その前に顔を洗ってきなよ」
2人は寝ぼけた顔のまま立ち上がって顔を洗いに行った。
仲良く手をつないで、姉妹のようだ。
前は手をつなぐのを嫌がっていたリリィなのに、今では当たり前のようにそうしていることが可愛い。
そして食卓のテーブルで待っていると、顔を洗ってすっきりした2人がやってきた。
「わあ……おいしそうです! もしかしてご主人様が?」
「アルって料理できるんだ……」
「うん、座って。食べよう」
「はい……でも申し訳ないです。わたしずっと寝ちゃってて……」
「いいんだよ。2人ともがんばってくれたんだから。それに僕料理するの好きなんだよ。これからも作るからね」
「ありがとうございます! でもわたしも料理覚えたいんです。今度一緒に作らせてくださいね」
「うん、一緒に作ろうね」
ユイにはお嫁さんの才能があったし、きっとおいしい料理を作ってくれることだろう。
一緒に料理も楽しそうだなあ。
「ねえユイ、あれしようよ」
「あ、そうですね……」
リリィがユイになにかを言って、僕の両隣に2人がやってきた。
なんだろう?
「ご主人様、素敵な料理をありがとうございます」
「ありがとね、アル……」
そして僕のほっぺにやってくる2つのやわらかな感触。
左右からのキス……これはなんとも……。
「2人ともありがとう。朝から幸せだよ」
「良かったです。これリリィさんが考えたんですよ」
「う、うん……男の人ってこういうの好きだろうと思ってさ」
もちろん大好きだ。
リリィもユイも僕を喜ばせようといろいろ考えてくれてるんだなあ。
「うん、大好きだよ。またしてくれたら嬉しいな」
「何度でもします!」
「ユイ、あんまりやりすぎると価値が減っちゃうから時々だよ……」
「あ、そうですね。ご主人様、時々たくさんしますね」
「うん、期待してるよ」
リリィは男心を色々とわかってくれているようだ。
それに従ってちょっと面白い言い方になっているユイも可愛い。
さあ、朝食だ。
今朝のメニューは買ってきたパンを少し焼いてこんがりさせ、バターを横に添えた。
そして目玉焼きと焼いたイノシシ肉、簡単なサラダというメニューだ。
単純なので、料理ってほどではないかも。
「おいしいですご主人様」
「ほめすぎだよユイ、簡単にできるものなんだから」
「でもすごく力がみなぎってきますよ」
「うん、あたしも力がみなぎってくる。なにか特別な作り方でもあるの?」
特に工夫はしてないんだけど……不思議だな。
僕がなでたり抱きしめるだけでも力が湧いてくるから、それと同じ現象かな?
それならば、なるべく食事は僕が作る方がいいのかもしれない
よし、愛情をしっかり込めよう。
「そんなに喜んでくれるんだったら、この魔法陣が完成するまで食事は僕が作るね。だから2人ともがんばってほしいな」
「はい! たくさん食べてがんばります」
「あたしもがんばるね。今日もすぐに魔法陣作るんだよね?」
いや、今日はさっき大自然さんが言ったようにデートだ。
お弁当を作るとしようかな。
「いや、ひたすら作業だけをしても効率が悪いらしいんだ。だから気分転換にお出かけしよう。大自然さんにそうするよう言われたんだよ」
「そうなの? んー……ほんとだ、そう言ってるね」
「でも大丈夫なのでしょうか?」
「うん、気にせずたっぷり楽しもうよ。そのほうが魔法陣が早く作れるらしいから。ね?」
「ご主人様がそう言うのであれば楽しみますね」
ということに決まったので、朝食を食べてから3人でお弁当作りをした。
すでにこの時点でいい気分転換となっている。
そしてサンドイッチが完成した。
3人がそれぞれ作ったので、形に個性が出て面白い。
リリィが少し不器用で変になったと悲しんでいたが、あれもおいしそうなので食べさせてもらうとしようか。
では……大変な状況ではあるけど、デートを楽しむとしよう。
こういうのが僕たちらしいということで……。




