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44.声を失った少女

 今の僕たちの目的は2つある。

 ひとつは重症のディーラさん夫妻を治すための、治療の触媒を探してくること。

 もうひとつは、そんな目にあわせた犯人を懲らしめることだ。


 とりあえず重要なひとつめをこなすため、ユイやリリィと出会ったガナードの街へ戻ろうと思う。

 しかし、その街に関連してもうひとつ問題が起きたと執事さんが言いだした。

 まずはそれを聞こう。


「ディーラ様の容体というより、商売に関連したことなのですが……ガナードの街で何をするべきか私がまだ聞いていないのです。関連した資料も燃えてしまっていますし、旦那様の意識は当分戻りそうにないのです。


「その場合、どんな問題が起きるのでしょう?」


「もし旦那様が商売の約束をすでにしているのであれば、約束を反故にすることになってしまいます。信用を失うだけならまだしも、違約金を支払う可能性もあります。旦那様の現状を考えますと、それは避けねばなりません」


 つまり、ガナードの街でしようとしていた商売を成功させないとピンチってことかな。

 最悪の場合……ディーラさんの商会がつぶれて治療をするお金もなくなるし、たくさんの人が仕事を無くして路頭に迷っちゃうわけか。

 なんとかしたいけど……僕には何も思いつかないぞ。


「アルバート様は何か聞いておりませんか?」


「いえ……僕は何も……」


「そうですか……あとはサーシャ様も話を聞いている可能性があるのですが、目覚めたサーシャ様は心に傷を負っているようでして……」


「え!? サーシャちゃんは大丈夫なんですか?」


 ユイが驚いたように会話に入り込んできた。

 サーシャちゃん……あの火事がそんなにも怖かったのかな。


「体に異常はないのです。ただ……声が出せなくなってしまったようなのです……」


「そんな……」


「ユイ、サーシャちゃんの所に行ってみようか。執事さん、いいですか?」


「もちろんです。ユイ様には特になつかれていたご様子。会えばいい影響があるかもしれません」


 さっそく向かおう。

 あ、今がプレゼントにいいタイミングかもしれないな。


「ユイ、サーシャちゃんへのプレゼント今渡そうか」


「え? 持ってきているのですか?」


「もちろん、大事なものだから全部かばんに入れてあるよ」


 ディーラさんの屋敷に火事場泥棒が来る恐れもあったし、僕のドラゴンの角を狙う奴らが現れる可能性も踏まえ、ほぼすべての貴重品は持ってきている。

 なお、サーシャちゃんのだけでなく僕ら3人のぬいぐるみもある。


「わあ……全部あるんですね。あ……今ってサーシャちゃん寂しがってますよね。これ全部あげたいのですが……」


「そうだね、そうしようか。2人の分はまた作るから」


「あたしもそれがいいと思うよ。また一緒につくろっ」


「はい! ありがとうございます」


 というわけで各自のぬいぐるみを抱え、サーシャちゃんのぬいぐるみはユイが持って移動開始だ。

 執事さんはそんな僕らを見て目を細めている。

 微笑んでいるのかな。


「皆様がお作りになられたのですか?」


「はい、ユイが仲良くなったサーシャちゃんにプレゼントがしたくて作ったんです。プレゼントはやはり手作りかなと思いまして」


「なるほど、素晴らしい考えです。少し拝見してよろしいですかな?」


「はい、これをどうぞ」


 ユイがサーシャちゃんぬいぐるみを執事さんに手渡した。

 執事さんは物珍しそうにそれを眺めている。


「これは独特なデザインですな……。人の形とはかけ離れた形ですが、愛嬌があって心がいやされます」


 この世界にもぬいぐるみはあるみたいだけど、わりと人に近い形をしていた。

 対して僕が作ったのは2頭身にデフォルメされたぬいぐるみだ。

 僕の世界ならではのものなのかもしれない。


「これで新しい商売ができるかもしれませんな……っとすみません。なんでも商売に絡めるのは商人に仕える者の悪い癖ですな」


「いえ、ディーラさんたちが無事に治ったらそれもいいかもしれませんね」


 ぬいぐるみ職人……悪くないな。

 考えてみると、生活のための手っ取り早い手段として冒険者になって戦いをしてたんだ。

 他に生きる方法があるのなら、そっちの方が僕に向いてそうだ。

 リリィの力で森とかから材料を分けてもらい、ユイと一緒にいろんな商品を作る。

 平和になったら考えてみよう。



 そしてサーシャちゃんの元へ到着した。

 ベッドに座ってぼーっとどこかを眺めている。

 でも僕らの姿に気づくと、こっちを見てくれた。

 声が出ないそうだけど、そこまで最悪な状況でもないのかな


「サーシャちゃんこんにちは」


 ユイが近寄って挨拶をすると、サーシャちゃんはユイを見つめている。

 僕は執事さんに小声で話しかける。


「反応はしてくれるんですね」


「そうですな……。ディーラ様たちが回復し、時間がたてば大丈夫とは思います。しかし現状で商売のことについて聞くのは無理でしょうな」


「なるほど……」


 しっかり長い時間休ませてあげないと……。

 でもこのままじゃディーラさんの商売が危ういか……。


「ご主人様ー、来てください」


「あ、ちょっといってきますね」


「はい、よろしくお願いします」


 僕がサーシャちゃんの元へ移動すると、僕の方も見つめてくれた。

 ではプレゼントタイムだ。


「サーシャちゃん、これわたしたちからのプレゼントです。サーシャちゃんとわたしたち……受け取ってください」


 ユイが最初に2つのぬいぐるみを渡し、僕とリリィもそれに続く。

 サーシャちゃんはもともと大きな目をさらに開いて輝かせ、それを受け取ってくれた。

 そして少し微笑んでぬいぐるみを抱きしめた。


「サーシャちゃん喜んでくれてるみたいだ。よかったね、ユイ」


「はい! サーシャちゃん、それをずっと持っているといいことがありますからね。特にこれ……」


 ユイは僕のぬいぐるみを指さす。

 サーシャちゃんはそのぬいぐるみと僕の顔を見比べて微笑んでくれた。

 あのぬいぐるみが僕たちだと認識してくれているようだ。


「サーシャちゃんは元気そうですね。よかった……」


「うん、今はショックを受けてるんだろうけど、時間がたてばもっと元気になれるよ」


「でも時間がないんだよね? ねえ、アルの力でなんとかならないの?」


 僕の力か……女性の潜在能力を見抜いて覚醒させる力。

 この場合は役に立つのだろうか……。


「どうだろう……」


「ご主人様、試してみていただけますか?」


「そうだね……役に立つかはわからないけど」


「サーシャちゃん、ご主人様は素晴らしい力をお持ちなんですよ。ご主人様を信じてくださいますか?」


 サーシャちゃんはユイをじっと見つめ、首を縦に振って頷いた。

 よし、試しにやってみようか。


「サーシャちゃん、僕の目を見つめてくれるかな」


 サーシャちゃんは僕を見つめてくれ、僕の頭の中に情報が流れ込んでくる。


《サーシャの潜在能力》

《適正S 絵描き……絵を描き、人を感動させる才能》

《適正A お嫁さん……家事などをこなし、尽くす能力》

《適正B 商才……商売を成功させる能力。商売に関する運も上昇する》

《高い適性のものを3つ表示中。覚醒させたい能力をひとつ選択可能》


 絵を描くのが好きなサーシャちゃんは才能に溢れているんだな。

 お嫁さんはユイと同じか……だからユイと気があうしおままごとも好きだったのかも。

 商才か……今一番必要なのはこれだろう。

 絵描きとお嫁さんは僕の力でなんとかせずとも、サーシャちゃんの努力で発揮していくことができるだろう。

 だから今、サーシャちゃんの生活を守るためにはこれだ。


《サーシャが商才を発動。変更も可能》


 よし、とりあえずサーシャちゃんに商才が備わっただろう。

 でも問題は……サーシャちゃんの心の傷を治す役には立たないということだけど……。


「サーシャちゃん、大丈夫かな? 気分悪くない?」


 サーシャちゃんは僕を見つめながらぼーっとしている。

 なにかを考えているのだろうか?

 そして僕に向かって手を伸ばしてきた。

 なんだろうか? 握ってあげればいいのかな?


 サーシャちゃんの手を握ると、僕の頭になにかが流れ込んできた。

 これは……商売に関して今やらなければならないこと?

 声を出せないサーシャちゃんは僕にこうやって教えてくれているのだろうか。

 これは執事さんにまとめてもらうのがいいかもしれない。


「執事さん、ちょっと来ていただけますか?」


「はい、なんでしょうか」


「今から僕の言うことをメモしていただけますか?」


「はて? わかりました。お願いいたします」


 僕は頭に流れ込んでくるサーシャちゃんからの情報を執事さんに伝えた。

 これはおそらく、ガナードの街でディーラさんが行った商談の内容だ。

 サーシャちゃんは一緒にいたから覚えていたのだろうか。

 もしくは商売の才能を発揮したことで、心の奥底にあった記憶が浮かび上がったのかも?


 執事さんは驚いたような顔だが、しっかりとメモをしてくれた。

 あとは彼に任せれば商売に関しては問題ないだろう。

 いや、サーシャちゃんと手を握っている今の状態であれば、僕にも商才が発揮されているのかもしれない。

 初めて聞くような単語が頭に入ってくるけど意味がわかる。


 サーシャちゃんが僕を慕ってくれているから、僕もサーシャちゃんの能力を使えるのだろう。

 これでディーラさん一家の生活は守れそうだなと、僕は一安心するのだった。

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