42.わがまま
火事になったディーラさんの屋敷から、ディーラさん一家を助けることに成功した。
雨も降ってきたし、火事はそのうち消えるだろう。
問題は火の強いところにいたディーラさんたちが助かるかどうかだ。
見た感じ、2人をかばっていたディーラさんが1番ひどいかもしれない。
「ディーラさん、しっかりしてくださいね。今から治療所へ連れていきます」
すると、目を開けてかすれた声で話しかけてきた。
「アル……バート君……。サーシャだけは……絶対に守ってくれ……」
「大丈夫です。サーシャちゃんもきっと助かりますよ」
「ありが……とう……」
ディーラさんは安心するように気を失った。
そして担架で運ばれていく。
助かるといいな……。
それにしても助けてではなく守ってくれか……。
助けることに必死だったけど、やはりこれは命を狙われたのだろうか。
今もまだ燃えている屋敷の中を調べに行くべきだろうか?
しかしユイは疲れ果ててしまっている……。
無理をさせすぎたのだろうか?
あれ? よく見るとユイの体はあちこち火傷をしている。
一緒にいた僕は平気だったのに……。
ユイは僕を守ろうと自分の身を犠牲にしていたのか。
この火傷の痕も消せるといいけど……。
ユイはこのまま休んでいてもらおう。
そうなるとリリィと一緒に行くべきだろうか……。
いや……危険かな。
あ、リリィがやってきた。
「アル、お疲れ様。ユイもがんばったみたいだね
「うん、リリィもいろいろ助けてくれてありがとうね」
「そんなの当然だよ。それよりさ、屋敷にある異和感の様態を確かめに行かない? 今ならまだ何か残っているかも……」
リリィも中を調べるべきと思っているようだ。
でもリリィに怪我があったりしたら……。
《我に任せよ。中に人がいなくなったため、火の勢いも弱めることができた。崩れる前に急げば間に合う》
大自然さんも協力的だ。
こんなことをした犯人に怒っているのかな?
「よし、じゃあ行こう。手をつないでね」
「もちろん。あ、ユイをだれかにお願いしなきゃね」
近くにいたメイドさんにユイのことを任せ、僕はリリィと屋敷の中へと向かった。
たしかに火の勢いは弱まっているようだ。
あと危険なのは崩れることか。急ごう。
「リリィ、異和感はどこから感じる?」
「こっち……この部屋かな?」
ディーラさんの寝室の隣の部屋のようだ。
ドアが燃え尽きて中が見えているので、ここが一番燃えた場所かもしれない。
つまり爆発した場所かな。
リリィが部屋の隅にあるなにかを発見した。
板きれ? うっすらとなにかの魔法陣が見える。
「これはなんだろう?」
「たぶんなにかの魔法がかかってたんだよ。もう少しで消えるところだった。このまま魔力を留めておくよ」
「そんなことができるんだ。それにしても、そんなのがあるってことはやっぱり誰かがディーラさんの命を狙ったんだね。それで犯人がわかる?」
「うん、証拠にはできないだろうけど……犯人の特定に役立つと思う」
「よし、じゃあ戻ろうか」
わりとあっさり見つかったな。
リリィの力……協力してる大自然さんがすごいのかもしれない。
僕とリリィが屋敷を出ると、それを待っていたかのようにサーシャちゃんの部屋のあたりが崩れ落ちた。
きっとこれも偶然ではないのだろう。
素晴らしい力を持っているリリィに感謝だ。
外ではユイが目を覚まして待っていた。
「ご主人様、どうでしたか?」
「後で話すよ。それよりディーラさんたちの連れて行かれた治療所へ向かおう。命を狙われているんだとしたら危険だ」
「命を……行きましょう。ご主人様がお世話になった方々とサーシャちゃん……わたしが守ります」
ユイから力を感じる。
僕を守ろうとする守護の力によるものだろう。
僕の大切な人達も守ってくれるんだ。
この屋敷については執事さんに任せておけばいいだろう。
あ、でも着替えをしないといけないな。
「ユイ、僕とリリィはまず着替えをして準備をしてから行くよ」
「わかりました。わたしは先に向かいます」
「よろしくね」
よし、急いで着替えをしよう。
サーシャちゃんの家へ戻って着替えを済ませる。
ユイの荷物と、貴重品も持っておこう。
ドラゴンの角……これも盗られないように持っておかないと……。
準備を終えてリリィと急いで治療所へ向かう。
ディーラさんを殺そうとしたやつらは、おそらく殺し損ねたことに気づいているだろう。
さすがにこの大騒ぎの中殺しに来るとは思えないけど、警戒しなくちゃ。
治療所に到着すると、執事さんがいた。
先ほどは屋敷で指示をしていたのに素早い人だ。
ディーラさんたちの容体を聞こうと話しかけると、奥の方の部屋へと案内された。
中ではディーラさんとクラリスさんとサーシャちゃんの3人が寝ていた。
それぞれに治療術師さんがついて魔法をかけている。
あ、ユイがサーシャちゃんを心配そうに見ている。
とりあえず聞いてみよう。
「3人は助かるでしょうか?」
「旦那さまと奥様はなんとかなるとのことです……。しかしサーシャ様が危険な状態です。旦那様が守っておられたようですが、やはりあの小さきお体では……」
「そうですか……」
サーシャちゃんを助ける方法……僕は持っている。
きっとユイもサーシャちゃんを助けたいのだろう。
ユイ、君になついてくれたこの子を助けようね。
ユイに近づくと、僕に気づいて泣きながら近寄ってきた。
「ご主人様……サーシャちゃんが……わたし、なんとしても助けたいです」
「ユイ……そうだね……」
「ですからあの……ご主人様……わがままを言っていいでしょうか?」
「言わなくていいよ。だって僕、ユイのしたいことはわかるんだ」
「ご主人様……」
僕はかばんからドラゴンの角を取り出し、ユイに握らせた。
これでサーシャちゃんを治してもらうとしよう。
ディーラさんの知り合いの治療術師さんがいいけどいるかな?
執事さんに聞いてみようか。
「ユイ、おいで」
「はい!」
執事さんにドラゴンの角を見せて、これを使ってもらうことを話す。
「ドラゴンの角!? そ、そんな貴重なものをよろしいのですか?」
いつも冷静だった執事さんが叫んだ。
こうも驚くほどか……。
そして周りの治療術師さんたちもざわめきだす。
「本物なのか? あれがあればこの治療も確実に……」
「見るのは初めてだが、とてつもない魔力を感じるぞ」
「死ぬまでにこの目で拝むことができるとは……」
貴重だとは知っていたけど、ここまでか。
よし、きっとサーシャちゃんは治るはずだ。
そして1人の治療術師さんが僕の前にやってきた。
「そのドラゴンの角……私に任せていただけますかな?」
一番年長で威厳のある人って感じだ。
おそらくこの人がディーラさんの知り合いの腕のいい治療術師さんだろう。
「はい、よろしくお願いします。サーシャちゃんを確実に助けてください」
「して……それをどれだけ使いましょうか?」
「え? どれだけとは?」
「命を助けるだけであれば、半分で足りるはずです。傷跡まで完全に消すには全て使う必要があります。半分をディーラ夫妻の治療にあてることもできます」
なるほど……1本まるまる使わなくてもいいのか。
どうするべきかとユイを見ると、すごく不安そうな顔をしている。
おそらく……ユイは自分と同じ苦労をサーシャちゃんにさせたくないのだろう。
だからサーシャちゃんの顔や体に火傷の痕が残らないようにするべきだ。
「1本すべてをサーシャちゃんに使って完治させてください」
「わかりました。それでははじめます」
よし、これでいい。
サーシャちゃんは間違いなく治るだろう。
ユイを見ると、僕に笑顔を返してくれた。
僕はユイの顔をなでてそれに応える。
ユイの顔……火傷がまた増えてしまったけど、僕からしたら世界で一番美しい顔だ。
次に直すチャンスが来るかはわからないけど、例えこのままでも僕は構わない。
「ユイ、一生一緒にいようね」
「はい……ありがとうございます。こんなわたしと一緒にいてくださるのはご主人様だけですもの……」
「ちょっと待って! あたしもいるよ……」
リリィが慌てたように僕たちのところに来た。
そうだよね、リリィもユイの顔を綺麗と思ってくれる仲間だもんね。
「あ、もちろんリリィさんもです。今のは男性でって意味ですよ……」
「ほんとかなあ? まあいいや、サーシャちゃん早く治るといいね」
ドラゴンの角は失ったけど、僕たちの仲は深まった気がする。
あとは3人の回復を願うばかりだ。
そして……この事件の犯人は絶対に捕まえよう……。




