41.壊される安らぎ
素晴らしい目覚めだった。
サーシャちゃんの家のベッドが豪華なのもあるし、左右に素敵な女の子たちが寝ているからだろう。
今日の予定は、家でのんびりだ。
ディーラさんのお屋敷にて朝食をごちそうになり、午前中はサーシャちゃんと遊んだ。
昼食を食べ、サーシャちゃんは午後からお勉強らしい。
さすがお嬢様である。
そして午後からはサーシャちゃんにプレゼントするぬいぐるみ作りだ。
まずは僕が見本を作ろう。
僕の左右からユイとリリィが抱きついた状態で作業がしにくいが、幸せなのでよし。
ユイはわかるけど、リリィが昨日以来積極的になっている。
「ねえアル、何のぬいぐるみを作るの?」
「今からユイとリリィそっくりなぬいぐるみを作るよ。2人にプレゼントするからね」
「わあ……素敵ですご主人様……」
「そっか、ユイはサーシャちゃんそっくりなのを作るんだよね。あたしはアルそっくりなのが作りたいなあ……」
僕そっくりのぬいぐるみか。
手作りしてくれるなら欲しいな。
「じゃあ僕と同じようにやってもらおうかな。髪や顔と服を少し変えるだけで、基礎部分は同じだからね」
そして3人で仲良く作業をしていった。
ユイは器用に、リリィは少し不器用だけど、少しずつ形になっていく。
やがて夕方となり夕食を食べ終え……さらに作業を続ける。
そしてついに4つのぬいぐるみが完成した。
僕とユイとリリィとサーシャちゃんそっくりだ。
といってもデフォルメされたぬいぐるみなので、似てるのはなんとなくだけど……。
「じゃあまずはユイとリリィにプレゼント。もらってくれる?」
「もちろんです! 大切にしますね……」
「あたしも大事にするよ。ありがとね、アル……」
ユイもリリィもぬいぐるみを愛おしそうに抱きしめている。
喜んでくれてよかった。
「じゃあアルにはこれね。あたしだけじゃ上手くいかないところはユイに手伝ってもらったんだ。だからこれはあたしら2人からのプレゼント」
「ありがと、リリィにユイ」
リリィが主に作って、ユイが少しだけ手伝った僕そっくりなぬいぐるみだ。
糸が少しほつれた部分があるのも愛嬌だ。
これは僕の宝物にするとしよう。
そして最後の1つは、ユイが作ってサーシャちゃんにプレゼントするぬいぐるみだ。
銀色の髪を左右で束ねているというわかりやすい特徴があるので、すぐに誰かわかってもらえるだろう。
「サーシャちゃん、喜んでくれるといいです……」
「絶対に喜んでくれるよ。明日渡そうね」
「はい!」
明日の朝はまずユイの治療をしてもらいに行く予定だ。
だから昼以降かな。
今日はもう寝るとしよう。
昨日と同じように、大きなベッドで3人一緒に寝る……。
幸せだな……そして明日はもっと幸せになるんだ……。
***
「アル! 起きて……」
ん? リリィが僕を起こそうとしているようだ。
まだ眠いし、暗いので朝ではないようだけど……。
「リリィ……どうしたの?」
「よくわからないけど嫌な予感がするんだ。ちょっと外に出てみないかな?」
「ん……わかった」
リリィがそう言うのであれば、当たる気がする。
なにかが起こるのであれば防がなくては。
僕はベッドから起き上がる。
「ふみゅう……ごしゅじんさま?」
僕が起きるとユイも目覚めたようだ。
「ユイ、ちょっと外に出てみよう。なにか起きるかもしれない」
「わかりました……。先に行っていてください。わたしはこの格好だと外に出られないので……」
「わかった。急ぐから先に行ってるね」
ユイは下着が透けている格好だからさすがにそのままでは出られないな。
僕とリリィはパジャマ姿で玄関へと向かった。
「リリィ、その嫌な予感って言うのは大自然さんが教えてくれてるの?」
「うん……よくわからないけどなにか不穏な空気がディーラさんの屋敷を包んでるって……。気のせいだといいんだけど」
「そっか……悪いことが起こるつもりで警戒しよう。何もなければそれでいいんだから」
「うん……なにかあったらすぐ対応できるよう抱きつかせてね」
リリィとくっついて外へ出る。
大自然さん、なにかあれば急いで僕にも教えてください。
外の冷たい風に当たりつつ、ディーラさんの屋敷を眺める。
特に何も異常はないようだ。
庭も静かなままだ。
「リリィ、ユイが来たら屋敷に行ってみよう」
「うん……嫌な予感が大きくなっていくよ……」
僕に抱きつくリリィの手に力が込められる。
なんとなく僕も嫌な気配を感じている。
なにか起きるかもしれないけど、いったいどう防げばいいんだろう?
ユイと一緒に屋敷へ向かって僕に危険が迫れば、ユイが何か気付いてくれるかもしれない。
そう考えていた次の瞬間……巨大な爆発音とともに屋敷の一部が炎上し始めた。
いったい何が?
唖然としている間に屋敷が燃え上がっていく。
な、なんとかしなくちゃ……。
「リリィ、雨は降らせられないかな?」
「た、頼んでみるよ」
あとは酸素を上手く遮断して燃えるのを防いでもらう?
いや、人を避難させないとそれもできない。
「ご主人様! いったい何が?」
ユイが来てくれた。
よし、一緒に助けに入ろう。
「ユイ、何が起きたかはわからないんだ。でも中にいる人を助けに行くよ!」
「わかりました!」
「アル、さすがに3人で行くと動きにくいだろうし、あたしは外から補助をしてるね」
「うん、まかせたよリリィ」
中でリリィの力を借りれないのは厳しいかもしれないけど、その方がいいかな。
外にいてくれた方が全体を見てもらえるし。
「まずはこれ……冷たいけど我慢してね!」
庭にあった井戸から水が飛んできて僕とユイを濡らした。
冷たいけど、火に飛びこむと言えばこれか。
「じゃあがんばってきて! なんとか火を消せないかやってみる」
「うん、任せたよリリィ!」
僕はユイと手をつないで屋敷の入口へと走った。
ディーラさん夫妻とサーシャちゃん、執事さんやメイドさんを助けなくては。
走りながら僕たちの体が光に包まれる。
おそらくは火に強くなる魔法をかけてくれたのだろう。
すると、入口から何人か出てきていた。
執事さんもいるぞ。協力してもらおう。
「執事さん! 大丈夫ですか?」
「な、なんとか大丈夫です……。しかし火は旦那様の部屋の方から……」
「助けに行くので場所を教えてください。それと避難した人の確認をお願いします」
「わかりました。私がご案内いたします」
執事さんは近くにいたメイドさんに、逃げ遅れた人の確認をする指示を出した。
さすが仕事のできる執事さんだ。
そしてディーラさんの部屋の方面へと案内してもらう。
近づくにつれて火の勢いが強くなっていく……。
「あの廊下の奥の右手が旦那様と奥様の寝室です。向かいがサーシャ様の……どうかお願いいたします」
「わかりました。執事さんは避難をしてください」
「はい、治療の手配などをさせていただきます」
執事さんは素早く戻っていった。
話が早くて助かる。
では信頼に応えなくては。
「ユイ、行けそうかな……」
「は、はい……やってみます……」
ユイは異様に怯えているようだ。
たしかにこんなひどい火事だと無理もないけど……。
いや待てよ……ユイの体は火傷の跡だらけだ。
火が怖いのも無理はないのかもしれない。
僕がしっかりしなくては……。
《我の力も存分に使え》
大自然さんの声?
リリィ触れてなくても声が聞こえるのか。
とりあえず助かる。
これからドアや窓に穴を開けることがあると思います。
そこから酸素が一気に入り込まないように空気の流れを止めていただけますか?
《承知した。そこの廊下にもこれ以上酸素が流れ込まぬようにしておこう。それとリリィより連絡だ。避難できていないのはそこにいるであろう3人だけらしい》
よし、これで大爆発は防げるだろう。
さらに僕たちがうまくやればみんな助かるようだ。
あとはユイに無理をしてもらおう。
廊下の一部も崩れかけているので、ドアも開けるよりは壊す方が早いだろう。
「ユイ、ディーラさんとサーシャちゃんの部屋のドアを斬ってほしい。いけるね?」
「もちろんです!」
ユイは僕の手を引っ張って炎の中へと走っていった。
魔法のおかげか、熱さを感じない。
そしてユイの華麗な剣さばきで2つのドアがあった部分に穴が開いた。
「僕はディーラさんの部屋を見る。ユイはサーシャちゃんの部屋を!」
「はい!」
中には誰もいないように見える。
どこかに逃げているのならいいけど……。
というか熱いな……ユイと手を離すと僕の方がやばいかもしれない。
「ご主人様! こちらに3人ともいます!」
すぐにサーシャちゃんの部屋へ向かうと、ディーラさんとクラリスさんがうずくまっているのが見えた。
おそらくサーシャちゃんを抱きしめたまま気絶しているのだろう。
一緒にいてくれて助かった。
これならまとめて助けることができる。
「ユイ、急いで3人にも防御魔法と、治癒魔法もかけて!」
「はい!」
3人の体が光に包まれた。
さらにどこかから水が飛んできて3人の体を濡らす。
リリィも協力してくれているようで心強い。
さて、大自然さんが火の勢いを抑えてくれたおかげで何とかもってはいるけど……それでも火の勢いは強くなってきている。
逃げ道は窓だな。
大自然さんの協力のおかげでバックドラフトの危険もない。
「ユイ、窓から逃げるよ。3人を抱えてくれる?」
「お任せください!」
僕は置いてあった椅子を窓に叩きつけて割る。
そこからユイは華麗にジャンプして飛び出した。
僕はその後でかっこ悪く転がり出る。
するとすぐに人がこちらに走ってきた。
中の様子を見ていたリリィが人をよこしてくれたのだろう。
さらにぽつぽつと雨が降ってきた。
これで解決……だろうか。
ディーラさんたちの怪我がたいしたことなければいいのだけど……。




