04.お金は君のために
冒険者ギルドで仕事の報告をして封筒を渡すと、なにか驚かれた。
「これは……かなり大活躍をされたようですね。報酬を用意しますので少しお待ちください」
仕事場のおっちゃんによると、ユイは10人分以上の仕事をしたらしい。
報酬に期待だ。
「ではこちらをご確認ください。4805Gとなります」
「あ、どうも……」
目の前にちょっとの金貨銅貨と、たくさんの銀貨が置かれた。
実はお金の価値をよく知らない……。
とりあえず数える振りをして財布代わりの袋に詰め込んでいく。
価値はおいおい確認するとして、どのくらい多めだったのか聞いてみた。
「そうですね……。だいたい10倍くらいでしょうか。間違いかとも思いましたが、素晴らしい働きに感謝するとの文が添えられていましたので」
「そうですか。ではありがとうございました」
「はい、またよろしくお願いしますね。このペースですと、すぐにランクを上げることができると思いますよ」
ランクか……たしか今は見習いランクでFだっけか?
ある程度の信用を得るとEになって仕事の幅が広がると聞いた。
とりあえずそこを目指して頑張るとしよう。
冒険者ギルドで街と周辺の地図も売っているので買うことにした。
価格は100Gで銀貨を10枚払った。
もらった報酬からしたら些細なものなので、今はお金持ち気分だ。
冒険者ギルドを出ると、そろそろ日が沈みそうだ。
地図を見て、服屋さんへと向かう。
「まずはユイの服を買おうね」
「わ、わたしにですか? そんな……お金がもったいないですよ」
「そんなことないよ。いつまでもそんなぼろぼろの服を着てるわけにはいかないよ」
「わたしにはこれがお似合いです……。あ、でもこんなんじゃ一緒にいるご主人様に失礼ですよね。では……安いのを願いします」
なんともやりにくい……。
女性になにかをプレゼントするの好きなんだけどなあ。
高い服を持ってきて、これ買ってほしいとユイがおねだりする日は来るのだろうか?
「ねえユイ、僕は可愛いユイにもっと可愛くなってほしいんだ。だからお金は気にせず着飾ってほしいんだよ。僕のためにね」
「可愛く……ご主人様のために……」
「だからいい服を買おうね」
「は、はい……」
僕のためにという言い方をすれば納得してくれるようだが、この言い方はずるい気がする。まあ、今は仕方ないか。
そして服屋さんに到着すると、女性の店員さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。どういったものをお探しでしょうか」
「この子に服を見繕ってくれますか。可愛くて動きやすい服装を」
「そうですね……ご予算はいかほどですか?」
「じゃあ……1000Gで」
「かしこまりました。それだけあればいいものをご用意できます」
金の価値はまだよくわからないけど、1000あればそこそこいいものが買えるみたいだ。
店員さんはユイの体のサイズを見ながら服を用意してくれた。
「まずこういったものはいかがでしょうか? よろしければ試着もできますが」
「ユイ、着てみる?」
「えっと……わたし今すごく汚れていますので、着るのは後で体を拭いてからの方が」
「そっか……」
店員さんが出してきたのは、厚手の布でできたシャツとスカートのようだ。
短めのスカートみたいだけど大丈夫だろうか?
さらに上から羽織るらしいケープかな。
「ユイ、どうかな?」
「なんだかとても素敵な触り心地です……。着たことないのでなんとも……」
「着てみたい?」
「えっと……はい……」
ユイは申し訳なさそうな顔だけど、目は輝いている。
よし、これに決めよう。
試着せずに買うのもあれだけど、それはまた今度だ。
これからもっとたくさんの服をプレゼントするつもりだしね。
「じゃあこれをください」
「かしこまりました。あ、下着などもあわせて買われますか?」
「お願いします」
「はい、では少々お待ち下さい。ユイさん、こちらへ。ご主人様は申し訳ないですが、少し離れていただければ」
「あ、はい……」
下着を選ぶのは女性だけでか……。
店員さんが女性でよかった、いろいろ世話をしてくれているようだ。
そして待っていると、買った物が丸めて縛られていた。
「では……下着の分はサービスと言うことで、1000Gぴったりで提供させていただきます」
「あ、はい……これで足りますかね」
「金貨ですね。ではちょうどいただきます」
ふむ……金貨1枚1000Gのようだ。
そう考えるとそこそこいいものを買った気分。
ユイが買った服を抱きしめるように持ち、店を後にした。
あ、靴だけはその場で履いて古いのは捨ててもらった。
「ご主人様……大切にしますね」
「うん、後で着て見せてね」
「はい!」
ええと……次は雑貨屋さんかな。
ランプとか水筒とか冒険に必要そうなものを買ってみる。
あとユイに背負わせるかばんもだ。
いろいろ買って400G。やはり服は高価だったようで、わくわくが増していく。
次は武具のお店だ。
明日はモンスター退治もしてみたいので、武器を買わないとね。
「ユイ、どんな武器が欲しい?」
「えっと……まずはご主人様の防具を買いませんか?」
「僕はいいんだよ。ユイに守ってもらうから。守ってくれるよね?」
「もちろんです! ではあの……使ったことはないのですが、この剣がいいかなあと思います」
ユイが手にしているのはショートソードと呼ばれる短めの剣のようだ。
ちっちゃなユイには大きく感じるが、これを使ってもらおう。
一応僕も小さなナイフを買うことにした。
ショートソードはいいものを選んで700G。ナイフは適当に200Gだ。
腰に装着するためのベルトも2本200Gで買ってお店を出た。
「ユイ、使えそうかな?」
「おそらく大丈夫です。ご主人様を守ることを考えていると、頭に使い方が浮かんでくるんです。どんなモンスターにも負ける気がしません」
「そっか、頼りにしてるよ」
「はい!」
僕が覚醒させたユイの守護の力……なんとも万能のようだ。
なにより常に僕を守ろうと考えてくれているのが嬉しい。
ユイに出会えてよかったなあ。
さて、買い物はこれでいいだろう。
あとは宿かなあ……と思っていると地図にあるものを発見した。
治療施設……これは病院? 魔法で怪我を治せるのだろうか。
ユイの顔や体の傷や火傷を治せるかもと思って行くことにした。
「いらっしゃいませ。どこかお怪我をされましたか?」
「え? ご主人様どこか怪我をしたのですか?」
治療術師さんに言われるなり勘違いして慌てだすユイ。
僕のことばかり考えてくれているようで、自分のこととは思ってないようだ。
「僕じゃなくてユイだよ。この子の傷……治せないでしょうか」
「わ、わたしですか!?」
「ほらユイ、ちゃんとこっち来て見てもらって。どうでしょうか?」
「そうですね……」
慌てだすユイだが、断る間を与えず治療術師さんに見てもらう。
「これはひどいですね……。かなり昔につけられた傷や火傷もあるようです。私の治療魔法では少ししか消せないと思いますよ」
「そうですか……少しでいいのでやってください」
「治療には様々な触媒を用いることで効果が増すのですが、いかがされますか? そのぶん治療費も増しますが」
「一番高いのはいくらですか」
「かなり貴重な薬草を用いますので、1000Gとなります」
結構な金額だが、迷う必要はない。
僕は金貨を取り出して渡した。
「お願いします」
「ご、ご主人様。わたしなんかにもったいないですよ……」
「ユイにお金を使うのはもったいなくなんてないよ」
「は、はい……」
ユイは困った顔だけど、少し嬉しそう。
やっぱり女の子だし、傷だらけの姿は嫌だろう。
「では治療を始めますね。ただし……この薬草でもそこまでの効き目はありません。そこはご理解いただけますか?」
「はい、少しでもよくしてやってください」
「わかりました。では……目を閉じてくださいね」
「はい……」
ユイが目を閉じて、ユイの頭上から治療術師がなにかをふりまく。
そして呪文を唱え出すと、ユイの体が光り出した。
魔法を初めて見たけど……綺麗だなあ。
……5分ほどその光景に目を奪われ、治療が終わったようだ。
「終わりました。気分はいかがですか?」
「あ……さっきまでずきずきしていた痛みが消えました」
「傷や火傷の痕はわずかしか消せませんでしたが、これ以上ひどくなることはないはずです」
ユイ……痛いのをずっと我慢してたのか。
見た目はほぼ変化ないけど、ここに連れてきてよかったようだ。
でなければ、おそらく痛いのを僕に気づかれないまま過ごしていたであろう。
「よかったね、ユイ」
「はい、わたしなんかのためにありがとうございます……」
お金はユイのために使いたかったから問題ない。
懐は寂しくなっているが、僕の心は満たされているんだ。
「いいんだよ。じゃあ行こうか。どうもありがとうございました」
「はい、お大事に。私では無理でしたが、どこかで凄腕の治療術師を見つける事ができればその傷跡も消せるかもしれませんよ」
「そうですか。探してみますね」
僕の冒険に目的がひとつ追加された。
ユイの顔を治して綺麗な顔に戻してあげたいな。