38.一時的なマイホーム
荷物を抱えた僕ら3人はディーラさんの屋敷へと到着した。
門をくぐると、執事さんが待ち構えていたかのように現れた。
「アルバート様、おかえりなさいませ。荷物でしたらお持ちいたします」
「あ、それはいいのでサーシャちゃんを呼んでいただけますか? 僕らはサーシャちゃんの家に行こうと思います」
「かしこまりました。では家の鍵も持ってまいります」
「お願いします」
執事さんはすごい速度で屋敷まで歩いて行った。
さぞかし仕事のできる人なのだろう。
僕らはサーシャちゃんの家の前で待つことにする。
やがてサーシャちゃんが執事さんを伴って出てきた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんたち、おかえりなさい! じゃあサーシャの家にご招待だよ」
僕らはサーシャちゃんにただいまと言って、執事さんから鍵を受け取った。
僕らが出かけている間に掃除を済ませてくれたらしく、自由にお使いくださいと言われた。
そのまま消えるように去っていく執事さん。
きっとなにかの達人に違いない。
では鍵を開けて家の中へ!
1番に入るのはもちろんサーシャちゃんだ。
「サーシャのおうちへようこそー!」
「わああ……すごく素敵なおうちです」
目を輝かせて中を見渡すユイ。
まあ気持ちはわかる。
玄関を開けてすぐに広めの部屋となっていて、テーブルに椅子、暖炉が見える。
二階へ上がる階段やドアも見える。
その全てがお洒落な装飾に彩られていて、見ているだけでため息が出る。
僕の知っている家とは構造が全然違うけど、これはこれでいいかもしれない。
例えば……僕が1人でおでかけして帰ってくるとしよう。
今まで思い描いていた光景だと、玄関にいる僕のところへユイが廊下を走って出迎えてくれていた。
この家の場合、玄関を開けた瞬間に、部屋の中で待っていたユイが振り向いて僕の方を見ていてくれるということになる。
まあどっちの形でも幸せなわけだが、これは妄想が捗る。
「んー? みんなぼーっとしてどうしたの?」
サーシャちゃんが僕らの顔を不思議そうに見ている。
いけない、妄想の世界に入り込みすぎていた。
ユイとリリィも同じだったのかもしれない。
「家に見とれちゃってたんだ。サーシャちゃんのおうちは素敵だね」
「わたしも見とれてました……。こんな家に住んでみたいなと思ってたんです。少しの間ですが、泊めていただけるなんてうれしいです」
「あたしも同じ……やっぱ家はこうだよね……」
「えへへ、自慢のおうちなんだー」
みんなで褒めたたえ、サーシャちゃんはご機嫌だ。
でもリリィの言い方……あの地下の隠れ家と比較して言ったのかな?
あれはあれでいいんだし、次行った時は今みたいに誉めたたえるとしよう。
「じゃあ2階の寝室に案内するね。荷物はそっちに置くといいかも」
サーシャちゃんに案内されて階段を上っていく。
とても広いおかげで、荷物があろうと余裕で通れる。
階段が狭いと思い込んでいるのは、僕みたいに裕福でない日本人の感覚なのだろうか?
2階に上がると、廊下があり部屋が2つほど並んでいた。
「ここがサーシャのお部屋の予定なんだけど、今日はお姉ちゃんたちに貸してあげるー。お兄ちゃんはあっちの部屋ね。なんかね、サーシャが結婚したら旦那様が住む予定なんだってさ」
なるほど、婿養子を取る気満々?
ディーラさんってば、娘が結婚しても出て行ってほしくないんだろうなあ。
「サーシャちゃん、ありがとね。じゃあ荷物を置かせてもらうよ」
というわけで部屋に入り、自分の荷物と裁縫道具やらを床に置く。
部屋はなかなか広く、ベッドや机など最低限のものが置いてあった。
いい部屋ではあるが、1人は寂しいのでもうひとつの部屋に向かうことにした。
部屋をノックしようとすると、ドアが開いてユイが顔を出した。
「あ、ご主人様。今お呼びしようと思ってたんです。入ってください」
「おじゃまします」
部屋の構造は、さっきの部屋とほぼ同じだった。
しかし内装は女の子らしく、さらには大量のぬいぐるみや人形が飾ってある。
「お兄ちゃん、ようこそ。サーシャの部屋はどうかな?」
「すごく可愛いね。サーシャちゃんはぬいぐるみや人形好きなのかな?」
「うん! パパとママがたくさん買ってくれるんだー」
よし、それならきっとユイの手作りぬいぐるみは喜ぶに違いない。
どんなものがいいか聞き出しておこう。
「サーシャちゃんが1番好きなのはとれかな?」
「えっとねー……これなの!」
サーシャちゃんが手に持っているのは、可愛い女の子の人形だ。
なんとなくサーシャちゃんに似てる?
「これサーシャちゃんにそっくりだね」
「でしょでしょ? だからお気に入りなのー」
なるほど、そっくりなのがいいのか。
ユイがサーシャちゃんそっくりなぬいぐるみを作れば喜びそうだ。
「じゃあ早く遊ぼうよー。この家使っておままごとしよっ」
というわけで豪華な舞台を使ったおままごとを楽しむこととなった。
僕がお父さん、サーシャちゃんがお母さん、ユイとリリィが子供だ。
旅の途中みたいに、リリィが第二夫人とかでなく普通の設定になったことに安心。
リリィはなんであたしが妹なのさ……と不満そうだけど、サーシャちゃんはリリィがハーフエルフで歳より若く見えることを知らないので仕方がない。
そんな感じでおままごとを楽しんだ。
終わるころに執事さんが迎えに来たので、夕食を食べにみんなで移動した。
なにごともなく夕食を終え、サーシャちゃんはお風呂に入って寝る時間となるようだ。
僕ら3人は借りている家に戻ってきた。
そして楽しみにしていた、ユイとリリィのファッションショーである。
……でもその前にお風呂の時間だ。
何気にこの世界で初めてのお風呂だ。
いつもは体を拭くだけだったからなあ。
「じゃああたしとユイが先にお風呂に入って、新しい服に着替えて待つよ。それでいいかな?」
「あの……ご主人様より先にお風呂なんて失礼では?」
「大丈夫だよ。このほうがアルも幸せになれるんだから。ね?」
「うん、2人の新しい服楽しみだからね。時間かけて綺麗になっててくれると嬉しいな」
ということになって、僕は今部屋で待機している。
正直なところを言えば、一緒に入ってみたい気持ちもあった。
背中流してほしいなと思ったりもした。
まあそのうちということで今は我慢だ……。
さて、なにして待とうかな。
明日ユイとリリィにぬいぐるみの作り方を教える予定だから、その準備をしてようか。
ユイが作るのはサーシャちゃんっぽいぬいぐるみだ。
僕は見本としてユイとリリィのぬいぐるみを作ろう。
紙を用意して型紙を書いていく。
全部のぬいぐるみのベースは同じでいいだろう。
髪型や服装を変えればそれっぽくなるはずだ。
作業に夢中になっていると、ノックの音がした。
いつの間にか時間が経っていたようだ。
僕はとりあえず返事だけ返し、ドアには近づかない。
なぜかというと、2人の姿を見るのは後のお楽しみだからだ。
部屋をノックされて少し待ってから、僕がお風呂へ向かう約束となっている。
そして廊下に人の気配がなくなったのでお風呂へと向かおう。
あ、廊下に僕用の着替えが置いてあるぞ。
薄めのシャツ……これはもしやパジャマ的なものかな?
てことはユイとリリィもパジャマ的な姿に?
楽しみだ……。
さて、この世界で初めてのお風呂……じっくりと洗おう。
洗ったら湯船でのんびりだ。
やっぱお風呂は気持ちいいなあ……。
この世界だと宿屋にはなかったから、お金持ちの家にしかないのかもしれない。
執事さんが薪を使っていい感じに沸かしてくれていた。
もしマイホームを持ったら、あのやり方を覚えないとなあ……。
あ、そういえば地下の隠れ家のお風呂はどう沸かすんだろう?
大自然で考えると地熱?
この街でいろいろ済ませたら早く戻りたいなあ。
せっかくリリィと大自然さんが用意してくれたのに、1回行ったきりというのが申し訳ない。
憧れのマイホームに思いを馳せながら、しっかりと体が温まった。
では出よう。
パジャマ的な衣服を身につけると、なにか落ち着く。
これから寝るぞって気分だ。
では……ユイとリリィの部屋へ向かうかな。
ファッションショーと思っていたけど、パジャマパーティーかもしれない。
僕の頭の中は期待でいっぱいだ。
仲良くしてくれる女の子がいる今の状況に感謝である。
ユイ、リリィ、あと神様……ありがとうございます。
2人の部屋の前でノックをする。
入っていいと返事が来たので、ドアを開けて中に入ろう。
ユイとリリィは……毛布で体を隠していた。
2人とも顔が少し赤いな。
お風呂で温まったのか、はたまた照れているのか。
毛布にいったいなにが隠れているのか気になって仕方がない。
もしあの下が裸だったらどうしよう……。
なんてありえないことを考えてしまうな。
ちょいといやらしい考えをしちゃったけど、僕も男なので許してほしい。
もしこれを言ったら、ユイはきっと許してくれて、リリィはあっさり許すユイを叱るのだろうなと考えてみた。




