37.旅の終わり
例のイノシシの肉はとてもおいしかった。
食べ切れないほど大量にあったので、ディーラさん一家と山分けをした。
問題はこのままだと腐るということだが、リリィがうまいことしてくれた。
袋に入れた状態で酸素が一切入らないようにしてくれるという……要は真空パック的なあれだ。
食べ物を大切にするという目的であれば、自然は簡単に力を貸してくれるとのことだ。
これが人間相手に酸素を遮断して殺してくれと頼んでも絶対にしてくれないだろう。
なお、おいしく煮込む調理方法はクラリスさんに教えてもらった。
何気に料理好きな僕と、お嫁さんに憧れているユイは熱心に聞いて教わった。
そのうちどこかで一緒に料理をしたいものだ。
あ、1度行ったきりでそのままの地下の隠れ家でもいいなあ。
そんなわけで旅を開始して8日後……予定より2日ほど早くランバールの街へと到着した。
ぱっと見はガナードの街より大きそうだ。
まず、ディーラさんのお屋敷へと招待されることになった。
着いた先はなかなかに大きなお屋敷だ。
広い庭園もあり、いかにもお金持ちの家って感じだ。
庭の端にはなぜか小さな家がある。
将来ユイと結婚して住むならあんな家がいいなあ。
「あの家はね、サーシャのおうちなんだよー」
家を眺めている僕の視線に気づいたのか、サーシャちゃんがそう言いだした。
10歳にしてすでに家持ち?
その疑問に答えたのはディーラさんだ。
「ははっ、将来娘が年頃になった時に家をプレゼントしようと思っていたのだが、その頃を待ちきれなくてついつい建ててしまったのだよ」
「うちの主人は気が早すぎでしょう? 建てたはいいけどあまり使ってないんだから。それに実家からこんな近くに家を建てる意味もないわよね」
「それはほら、遠くに行くと心配だろう……」
なるほど、ディーラさんの子煩悩が行きすぎた感じだろうか。
家をプレゼントしたい気持ちと、遠くに行って欲しくない気持ちが合わさり、かなり意味のないことをしてしまっているようだ。
しっかりした感じのディーラさんだが、愛娘のこととなるとドジになるようだ。
「ディーラさんがサーシャちゃんのことをすごく大事に思ってるのはわかりました」
「そうだろう、君もそのうち子供ができればわかる。いいものだぞ」
「そうでしょうね。でもあんな立派な家なのに、使ってないのはもったいなく感じますね」
「そうだな……。お、いいことを思いついたぞ。君たちはしばらくこの街にいるのだろう? だったら宿を取るよりあの家に住んでみたらどうだろう。サーシャも君たち相手なら貸すことを嫌がらないだろう」
「うん! あの家で本格的なおままごとができるよー」
あの家を一時的に借りる?
それはなんとも素晴らしい申し出だ。
「そらはとてもありがたいです。でもあんな立派な家を僕たちが使っていいのでしょうか?」
「もちろんだとも。ここまでの旅で君たちが信用できる人物ということもわかった。好きなだけ使ってくれ」
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
というわけで、この街に一時的な拠点ができた。
あの家を早く見に行きたいが、まずは用事を済ませなくてはいけないな。
まずディーラさんのお屋敷にて、遅めの昼食をいただいた。
執事さんやメイドさんもいて、お金持ち感が伝わってくる。
僕もユイもリリィも若干萎縮してしまうのであった……。
食事が終わり、ディーラさんから2つの封書を受け取った。
ひとつは冒険者ギルドで、護衛の報酬を受け取るためのもの。
もうひとつは腕のいい治療術師への紹介状だ。
早くユイを治療しに行きたい。
「ではアルバート君、わたしはこれから仕事があるので行くよ。君たちの方もうまくいくといいな」
「はい、いろいろとありがとうございました」
「今日の夕飯はまた招待させてくれ。私は君と仕事の間だけでなく、友人になりたいと思っているんだ」
「はい……とても嬉しいです」
僕と同じように女性を大切にしようとしているディーラさん。
ぜひこれからも仲良くしていきたい。
いっそ専属の護衛になってもいいくらいだ。
ディーラさんが力をつければ世の中が良くなると思うし。
そして僕たちは出かけることにした。
なお、ユイがサーシャちゃんに後で遊んでとせがまれていた。
なのでやることを終えたら早めに帰ってこようと思う。
お借りする家の中を早く見てみたいしね。
さて……まずは冒険者ギルドへ向かおう。
ユイの治療にどのくらいかかるかもわからないし、報酬をもらわないとね。
なお、この街の地図は頼む前に執事さんが用意して渡してくれた。
すごく仕事のできる人のようだ。
冒険者ギルドは、ガナードの街のものと同じような内装だった。
さっそく受付にて報酬をもらう手続きをする。
そうそう、この間のドラゴンの角をもらった時、僕の冒険者ランクはEからCに上がっていた。
大活躍のおかげで一気に上がったんだ。
と言っても、Cランクは誰でも簡単になれるらしいけどね。
ここから上に行くには大変らしいけど、Cの時点である程度一人前と認められているらしいので困ることもないだろう。
さて、お楽しみの報酬は2万Gだった。
やけに多いので、ディーラさんが奮発してくれたのだろう。
遠慮なく受け取って、恩はまた別の形で返すとしよう。
さらには盗賊退治の報酬として3万Gほどもらった。
これだけの大金と言うことは、かなり悪どいやつらだったのだろう。
倒すことができてよかった。
この次はお待ちかねの治療所だ。
楽しみだし懐は暖かいしで、スキップしたい気分である。
3人で手をつないで歩いているのを怪訝な目で見る人のことが一切気にならない。
「ユイとリリィが活躍したおかげで、今僕たちはお金持ちだよ。あとで買い物しようね。2人は何が買いたい?」
「わたしは仲良くなったサーシャちゃんになにかプレゼントがしたいです」
「そっか。きっとサーシャちゃん喜ぶよ。リリィは?」
「うーん、すぐに思いつかないなあ。それよりユイ、サーシャちゃんってお金持ちのお嬢さんだからプレゼント選びって難しそうじゃないか?」
「そうですね……」
確かにそうかもしれない。
あの子煩悩のディーラさんはいろんなものをあげてそうだものな……。
そうなると手作りとかいいかもしれない。
そういえば、ユイには裁縫の才能もあることを思い出した。
僕の能力でそれを発揮させることはもうできないけど、少し練習すればすぐに上達するだろう。
「ユイ、いいことを思いついたよ。ユイが何か手作りしてそれをプレゼントするんだ。世界に1つしかないものだから、絶対喜ばれるよ」
「なるほど……でもわたし手作りとかしたことないのですが、それに何を作ればいいのか……」
「ぬいぐるみとかどうかな? 僕作り方知ってるから教えてあげるよ」
「そうなんですか? さすがご主人様です! ぜひ教えてください」
「任せて」
「アルってやっぱ変……」
というわけでぬいぐるみを作ることが決まった。
治療所へ行ったら材料を買いに行くとしよう。
そして治療所へ来た。
大きい場所なので期待が持てる。
だが……ディーラさんに紹介してもらった凄腕の治療術師さんは忙しいようで、不在だった。
明後日の朝なら予約できるということで、それを楽しみに待つこととする。
なお料金も、触媒を持ち込むのであればたいしてかからないそうだ。
ドラゴンの角……大事に取っておくとしよう。
というわけで用事も終えたし買い物タイムだ。
まずはユイのために雑貨屋で裁縫道具一式を買うことにした。
材料の布や糸は、ユイのセンスでいろいろと選んでもらっている。
ユイはこれでいいとして……。
「リリィ、なにか欲しいものがあったら遠慮なく言ってね」
「あの……あたしも裁縫してみたい……。できるかな?」
リリィもやりたいんだ。
楽しそうに買い物をしてるのを見てうらやましくなったのかな?
リリィはユイと違ってそういう才能があるわけじゃないけど、ある程度なら誰にでもできるだろう。
「大丈夫だよ。じゃあリリィの道具も買おうね。3人で練習しよう」
「うん!」
そんなわけでリリィのセンスで材料を選んでもらった。
2人とも個性あふれるものを作ってくれそうで楽しみだ。
裁縫道具を買い終わり、次は服を買うことにした。
僕らって今着てる服しか持ってないから、いろいろ衛生面に問題がある。
と言ってもリリィが自然にお願いして綺麗にしてくれてるんで、不潔ってほどじゃないけどね。
でもせっかくの機会だから、新しい服を着て今のは洗濯をしたい。
何を買おうかなー。
「ねえアル、ちょっとユイと2人で話をさせてくれないかな?」
リリィが突然こんなことを言い出したので、素直に従って僕は遠くへ離れた。
こういう時の内緒話は、きっと楽しいことが起こると思う。
やがて話を終えたリリィはこんなことを言い出した。
「えっとさ、あたしとユイだけで買い物させてほしいんだ。2人であたしらのもアルの服も選ぶからさ。アルは楽しみに待っていてほしいんだ」
「ご主人様をその……驚かせたくて。いいでしょうか?」
「もちろん、2人がどんな姿になるか楽しみにしてるよ。じゃあお金渡すね」
いい提案だ。
今夜は素敵なファッションショーが見られるぞ。
僕は奮発して5千Gほど渡すことにした。
「えっと……こんなにいいの?」
「うん、全部使っていいよ。2人とも綺麗に着飾ってね」
「わ、わかった……ありがとう。じゃあ特にユイが綺麗になるようなのを選ぶよ」
「わたしはリリィさんをすっごく可愛くするので期待していてくださいね。ご主人様、貴重なお金をありがとうございます」
「うん、期待してるよ」
そんなわけで女性2人は大きめの服屋さんに消えていった。
あまり離れ離れにはなりたくないけど、こんな街中では危険なことは起きないだろう。
というわけで期待を胸に僕は待つことにした。
1時間後くらいたち、大きな包みを持った2人が出てきた。
すごく満足そうな顔だ。
この異世界でも女性は買い物好きなのだろう。
「ご主人様、お待たせいたしました。リリィさんがすごく可愛くなるので楽しみにしててください」
「あ、あたしはそうでもないよ! それよりきっとユイに惚れ直すぞ」
「2人ともおかえり、ユイもリリィも楽しみだよ。じゃあ帰ろうか」
「はい!」
「う、うん……」
というわけでディーラさんのお屋敷へと向かう。
3人とも荷物を持っているため、手はつないでいない。
でもわくわく感いっぱいだ。
これで旅の疲れがばっちり取れることだろう。




