36.順調な旅
ガナードの街を出発してから4日ほど。
モンスターは現れないし、盗賊が襲撃してくることもなかった。
旅は順調だ。
さらにリリィにお願いして大自然の力を借り、こっそりと馬車のスピードを速めている。
予定よりも早くランバールの街へ到着するだろう。
さらには揺れも抑えてくれているので、かなり快適だ。
旅があまりにも順調なことにディーラさんは驚いている。
「私はこれまで数えきれないほど馬車で移動をした。しかし、これほどまてまに快適な旅は体験したことがないぞ。モンスターどもは君たちに恐れをなして出てこないのだろうか?」
「どうでしょうね。すごく運がいいのかもしれませんよ。僕には幸運の女神が2人もついていますから」
「ご主人様……」
「なな、何恥ずかしいこと言ってるんだよ……」
実際にはユイとリリィの能力によるものだけど、それは隠しておく。
2人に出会ったことは間違いなく幸運なわけで、嘘はついていない。
「そうかそうか。それなら私にも幸運の女神が2人いる。合わせて4人だな」
「ふふ、あなたったら……」
「んー? もー、パパったらー」
ディーラさん一家も仲良しだな。
僕も将来はこんな家庭を持ちたい。
とまあこんな感じで、ディーラさん一家とも仲良くなっている。
おかげで旅は快適だ。
サーシャちゃんはユイだけでなく僕やリリィにもにもなついてくれ、とてもなごむことができた。
絵を描くのが好きなようで、みんなの絵を描いて見せてくれた。
それが割と上手くて、サーシャちゃんには絵の才能があるのかなと思ったりした。
さらに休憩のときに、女の子らしい遊びのおままごともやった。
僕とサーシャちゃんが夫婦役でユイが子供役。
リリィが第二夫人役とサーシャちゃんが設定を作り、若干リアルな感じにびびらされたりした。
10歳だというのにおませさんである。
このやりとりをディーラさんが見ていたらしく……次の日の朝、僕と2人きりの時にこんなことを言ってきた。
「君たちは本当に仲が良いのだな。もし結婚するのであれば、式には呼んでほしいものだ」
「あはは……ぜひ来ていただきたいですね」
「それで……君は2人とも妻にする気なのかね」
「え!?」
唐突に聞かれて戸惑ってしまう。
そういう聞き方をするってことは、この世界では2人の相手と結婚していいのだろうか?
ちょっと探りを入れてみよう。
「あの、まだ決めてはいないのですが……そういうのってどう思います?」
「そうだな……少し話はそれるが、まず結婚とは相手を幸せにする誓いと古来より決まっている。女は子を産む道具だとか、世話をさせるものという輩もいるが、私はそうは思わない。君はどうだ」
「はい! 僕とディーラさんと同意見です」
よかった……この世界にはちゃんと僕と同じように、女性を大切に順調ようとしている人はいるんだ。希望が持ててきた。
「そうか、同志がいて嬉しいよ……。話を戻すが、1人の女性を幸せにするだけでも大変なことなのだ。それが2人ともなると、いかに大変なことか……」
「そう……ですよね。2人ともを幸せにしたいだなんて、僕は欲張っているのかもしれません。やはり1人に絞るべきですよね……」
いろいろ流されて……このままだとユイとリリィの2人とくっついてしまいそうな僕。もしディーラさんがそれはよくないと言えば、それに従って僕は覚悟を決めるとしよう。
だって僕はこの数日の間話しただけで、ディーラさんが信用に足る人物だと確信しているから……。
なんせこの世界で初めてまともに話す大人の男性なんだ。
さて、ディーラさんのお言葉は……。
「ふふっ、君は真面目なのだな。うん、君ならば大丈夫だ。君は2人ともを幸せにできると私が保証しよう」
「え?」
あれ? 思っていたのと反対のことを言われたぞ。
てことは……ディーラさんのお墨付き?
さっき言葉に従うぞと決意しちゃったぞ……。
「それに考えてみたまえ。君は2人にあれだけ慕われているのだ。どちらかを選ぶなんてしたら……きっと2人とも不幸になる。それこそ大問題だ」
「そうなの……でしょうか……」
「それは君が1番よくわかっているだろう?」
もし僕がユイだけを選んだら……リリィは気を利かして去っていくかもしれない。
そうなればきっとユイは悲しむだろうな。
罪の意識に苛まれるかもしれない。
リリィはその後どうなるかわからないけど……悲しむのかな?
その答えを知らずに一生を過ごすことになるわけで、きっと僕も辛いな。
まあこの考えはリリィが僕を好きという前提ではあるから、下手したら単なる思い上がりだけどさ。
なんにせよ、僕に2人ともを幸せにする覚悟があればいいわけか。
でも答えはすぐに出せないや。
僕ってやっぱりへたれなのかな……。
「そうですね……。なんとか2人ともを幸せにする方法を考えなければ……」
「うむ、そうやって一生悩んでいくんだ。私も未だに悩んでいるよ。どうしたら妻と娘を幸せにできるのかとね」
「ディーラさんも……」
そうか……ずっとずっと悩んでいくことになるんだ。
でも幸せかもしれないな……大切な人のことをずっと考えられるんだ。
僕もそうやって生きていきたいな。
「お……女性たちが戻ってきたようだ。この話はこれで終わろうか。なんにせよ、自分のことは自分で決めるんだ。後悔はしないようにな」
「はい、ありがとうございました。また相談させていただくかもしれません」
「うむ。いつでも頼ってくれ」
まるで父親のように頼りになる存在だ。
護衛の仕事という偶然の出会いだったけど、この出会いに感謝しよう。
ユイとリリィ……結論はまだ出てないけど、2人を幸せにするために僕は頑張ってみるね。
ついてきてくれると……嬉しい。
さて、女性たちがおトイレから戻ってきた。
これから今日の旅が始まるんだ。
みんなで馬車に乗り込み、いつも通りの談笑だ。
ふとクラリスさんがこんなことを言い出した。
「このあたりに出てくるイノシシのようなモンスターはね、とてもおいしい肉を落とすの。もし現れたらおいしい手料理を振舞いたいのだけどね……」
この言葉を聞いたユイは、僕の顔を見てきた。
どうしましょうかというアイコンタクト。
ユイと心で通じ合っている気がして嬉しいな。
返事として僕はこう言うんだ。
「それはぜひ食べてみたいですね」
それから10分後、御者さんの悲鳴とともに馬車が停止した。
外に出ると予想通りというか、イノシシのモンスターに囲まれていた。
僕を空腹から守ろうとしたユイの力であろうか。
いいお嫁さんになりそうだなあなんて呑気なことを考えてしまう。
「ユイ、任せたよ」
「はい! ご主人様と、おいしいお肉のために!」
どうやらユイも食べたかったようだ。
たくさん食べて健康的に成長しようね。
イノシシたちは、ユイの剣の前にあっさりと打ち倒された。
リリィが矢で援護するまでもなかったようだ。
今日のお昼ご飯が楽しみである。
そう呑気に構えていると、地響きがしてきた。
巨大な何かが迫ってきているような……?
「ご主人様! 巨大なイノシシが迫ってきています! 危険なので向こうにおびきよせます」
馬よりも大きく、この馬車並みのサイズのイノシシがやってきた。
あれはユイだけで大丈夫だろうか……。
「リリィ、弓矢で援護をしてあげて!」
「うん!」
ユイを見ると、相手が大きすぎてどう戦えばいいか悩んでいるようだ。
イノシシの攻撃は華麗に避けているけど、このままではよくないな。
リリィの矢も刺さってはいるけど、皮が厚いためかあまり効果はないように見える。
「あの……お兄ちゃんは戦わないの?」
不意にサーシャちゃんに話しかけられた。
はたから見ると僕だけ何もしてないように見えるな……。
正直に言うか。
「実は僕って弱いんだよ。行ったらユイの足手まといになっちゃうんだ」
「んー? そんなことないと思うよ。だってユイお姉ちゃんが言ってたもん。お兄ちゃんが近くにいたらすごく強くなるって。だから行ってあげてほしいの……」
「こらこらサーシャ、彼らには決まった戦い方があるんだ。任せようじゃないか」
「むー……」
ディーラさんの言葉で、サーシャちゃんは悲しそうに黙ってしまった。
やばいな……サーシャちゃんが泣きそうな顔だ。
ユイは相変わらず苦戦しているし……行ってみようかな。
僕は馬車に置いてあるユイの予備の剣を手に取った。
「ちょっといってくるよ、リリィはここでみんなを守っててね」
「あ、うん……気をつけて」
「お兄ちゃん! がんばってー!」
応援を受けつつユイの元へと走る。
実は無策でなく、やってみたかったことがあるんだよね。
僕は左手に剣を持ちかえる。
そして右手は……。
「ユイ、僕の手をとって!」
「ご主人様!? わかりました!」
僕はユイと手をつなぐことで、ユイと同じように戦うことができる。
ユイは僕と手をつなぐことで、その力を増す。
手をつなぐなんて本来であれば戦いにくいはずだが、僕たちはさらに強くなれる!
「ユイ、跳ぶよ!」
「はい!」
2人でジャンプすると同時に、僕が剣を振って地面に衝撃波を放つ。
これにより飛ぶ力を稼ぐとともに、地面に土ぼこりが立った。
この間、ユイは剣を構えたまま集中している。
僕はそのユイを抱きしめ、土ぼこりでうろたえているイノシシの背中を蹴ってさらに高く跳ぶ。
「ご主人様! いけます!」
「じゃあ任せたよ!」
僕は持っていた剣をユイに渡し、ユイが安定した姿勢になれるようにしつつ離れる。
ユイから離れてしまった僕は情けなく地面に落下するわけだけど……。
うう……背中が痛い。
でも、これで勝負は決まっただろう。
「せえええいっ!」
砂ぼこりの中、ユイが2本の剣をクロスさせるようにして巨大イノシシに斬りつける光景が見える。
やはりユイの戦う姿は美しいな……。
僕がユイに見とれていると、巨大イノシシは体を切り刻まれて息絶えた。
後には戦利品であろう巨大な肉が残された。
「ご主人様、やりました! 来てくださってありがとうございます!」
ユイが僕に抱きついてきた。
なんとも嬉しく、体の痛みも忘れてしまう。
幸せを感じつつ、旅はいろいろあって楽しいものだなと思うのであった。




