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34.殺人

 僕とディーラさんは、地面で動けなくなっている盗賊のボスの前に立っている。

 ユイは近くで付近を警戒している。

 リリィは他の盗賊を近くに運んでくれているはずだ。


「ディーラさん、どうしましょうか? だれかに雇われて襲撃してきたのは間違いないと思いますが」


「そうか、しかしおそらくはその証拠もないだろう。追求しても無駄だろうな」


 なるほど、こいつからではヴァルマンには行き着かないか……。

 とりあえず襲撃を失敗させただけでよしとしようかな。


「それでお前たちは盗賊団なのか?」


「ふん……そんなの教えてやる義理はねえよ」


「黒鷲の盗賊団と名乗ってましたね」


「な! なんで知ってやがる!?」


 これもさっき話してたからなあ。

 でも慌てるってことは、この名前を知られてマズイことでもあるのかな?


「ふむ……黒鷲の盗賊団といえば、ランバールの街で手配されている悪名高き盗賊団だ。お手柄だよアルバート君、この場で殺してしまうといい。私が証言すれば、君が懸賞金を受け取れるだろう」


「え?」


「お、おい! いきなり殺す気か? まずはどこかにつきだすとかするべきだろ?」


 殺すなんてさすがに……。

 あ、もしかしてこうやって脅して悪事を吐かせる気かな?

 便乗してみよう。


「そうですね。何も知らないみたいですし、その方がすっきりしますね。ユイ、剣を貸してくれる?」


「どうぞ、ご主人様」


「ありがと」


 僕は剣を受け取り、地面で動けないままの盗賊に向かって振り上げた。

 殺す気もないし、早く白状してね。


「ま、まて! なんでも話すからやめてくれ! さっき言われたように、俺たちは確かに金で雇われた。でも依頼人はわかんねえんだよ。仲介人がたくさん間に入ってわからなくされたんだ。信じてくれ!」


 あっさり白状したけど、本当だろうか?

 ヴァルマンが噂通りの狡猾な奴ならばありえるかな。

 これについてはディーラさんの言った通りだった。

 あと聞くべきことは……。


「盗賊団はこれで全員ですか?」


「い、いや……まだ10人ほどいるが、今日は連れてきてない。こんなことなら連れてくるべきだったな……」


 それはこちらとしても幸いだったかな。

 ま、ボスを捕えたのは大きい。

 こいつを連れて行きたいけど……。


「ディーラさん、こいつを連れてランバールまで行くことは可能でしょうか?」


「少し厳しいな。まだ旅は長いし、馬車の負担が大きくなるのは避けたい。それに今はおとなしく捕まっているようだが、そいつは脱獄の常習犯だ。逃げられる可能性が高い。やはり殺しておくべきだろう」


「な!? おい! 話が違うぞ!」


 連れて行くのは無理ってことは殺すしかないのか?

 逃せば間違いなくまた悪事を働くだろう。


「ディーラさん、なんとかなりませんか? 僕人を殺すのはちょっと……」


「む? そうか……君はまだ若いものな。人を殺したことはないか」


「はい……」


「アルバート君。酷なことを言わせてもらうが、こういったことに慣れておいた方がいい。君はこれからの人生でこういったことに何度も遭遇するだろう。その時に悩んでいては、君や大切な人の身にも不幸が降りかかるぞ」


 大切な人……僕が決断しなければユイヤリリィが不幸な目に会うことになる?

 たしかにこれから先……こういったことは頻繁にあるのかもしれないな。

 慣れておくなら今なのか?

 悩む僕に、ディーラさんがさらにこう言ってきた。


「アルバート君、彼らの罪を知っているかね? 盗みに殺しに強姦……心を壊されて自殺した女性も少なくない。もし君がここで悩んでいては、そういった不幸な人がまた増えるんだ」


 そうだ……こいつらは僕ら男性陣を殺した後で女性たちを酷い目にあわせようとしていた。

 今回失敗しただけで、今までたくさんの人を酷い目にあわせてきたんだ……。


「わかりました。ディーラさん、馬車をここから少し遠く移動してもらっていいですか?」


「ああ、君は気の利く男だな。そうさせてもらうよ」


 僕は今から人を殺す。

 サーシャちゃんに見せるわけにも、声を聞かせるわけにもいかない。

 あ、でも馬車の護衛もいるな。

 見ると、リリィが作業を終えて盗賊を地面に並べ終わっていた。


「アル、みんなを連れてきたよ」


「ありがと。それで悪いんだけど、馬車の方に行ってくれるかな? 他に敵が来ないか警戒しててほしいんだ」


「うん? わかったよ」


 リリィは理由も聞かずに馬車に向かってくれた。

 これでここには僕とユイと10人の盗賊か。

 盗賊たちが殺すなと喚いているけど、僕はもう決めたんだ。

 馬車が離れるのを待つ間、ユイが心配そうな顔で話しかけてきた。


「あの……ご主人様? こういったことは私に命じてくだされば……」


「ユイは人を殺したことあるのかな?」


「いえ、まだです……。でもご主人様を守るためにはきっといつか……それが今ならそれでかまいません」


 たしかに僕のためならユイはしてくれるだろう。

 でも……それは嫌かな。


「ユイ、僕のわがままを聞いてくれるかな? 僕はユイに人殺しなんてして欲しくない。清い体でいてほしいんだ」


「えっと? 清いの意味はよくわかりませんが……ご主人様がおっしゃるのであれば、わたしは人を殺さないように生きていきます」


 意味がわからないか。

 盗賊が普通にいる世界では、人を殺すことの感覚が僕とは違うのかな。

 でもそれでいい、僕のわがままを聞いてもらおう。


 やがて馬車は遠くへ行った。

 僕は剣を振り上げるが、怖くて震えてしまう。

 そんな僕の背中にユイが抱きついてきて、温もりをくれた。


「ご主人様……そんなにも辛いのでしたら、わたしも一緒に剣を振ります」


「ありがとうユイ。でもこれは僕がやるよ。そのまま抱きしめておいてくれると嬉しい」


「はい……。では魔法をかけさせてください」


 僕の体があたたかな光に包まれ、心が安らぐのを感じる。

 ユイが僕に使ってくれる僕専用の魔法かな。


「ありがとね、落ち着いたよ」


「はい、それと返り血もつかないようにしておきました。ご主人様の体は誰にも汚させませんし、触れさせません。だってご主人様はわたしだけの……あ、リリィさんもですね……。す、すみません……変なことを言って……」


 ユイは今僕を独り占めしようとしたのかな?

 慌ててリリィのことを思い出したようだけど、嬉しいな。

 もっともっと変なことを言って僕を喜ばせてほしいよ。


「ユイ、大好きだよ」


「え? あ、はい……わたしも大好きです」


 今から人を殺そうとしているのに、甘ったるい空気が流れてしまう。

 そういえば盗賊の喚き声が聞こえないな……あれ? みんな寝てる?

 空気を読んでくれたのだろうか?

 そんなわけないし、ユイの仕業かな。

 喚かれたら殺しにくいもんね……。


「じゃあユイ、始めるから力を貸してね」


「はい、わたしの力は全てアルのものです」


 名前を呼ばれると同時に、ユイから僕に力が流れ込んできた。

 ユイが抱きついている今の状態であれば、僕は一流の剣士になれる。

 苦しませぬよう、一撃で殺していこう。

 首かな……迷わぬよう、10人一気に……。


「てええいっ!」


 ユイの力を借りたおかげで、10秒もかからず完了した……。


 盗賊たちは声をあげることもなく息絶えたようだ。

 僕の前にあるのは10の死体だ。

 ついに人を殺してしまったか。


「ご主人様、お疲れ様です。大丈夫ですか?」


「うん……死体を埋めないとね。リリィに手伝ってもらうから馬車へ行こう」


「はい」


 ユイと手をつないで馬車へ向かう。

 平常心を装ってはいるけど、罪悪感が半端なく襲ってくる。

 これは慣れることもないんだろう……慣れたくもないからずっとこの方がいいけど……。

 ああ、ユイとの手を離したくないな……僕の心の支えなんだ。


 リリィは馬車の近くに立っていた。

 僕らが近づくと、心配そうな顔で駆け寄ってきた。


「おかえり。ディーラさんに何してたのか聞いたよ。大丈夫?」


「うん……あとは死体を埋めるだけだよ。悪いけど手伝ってくれるかな?」


「わかった……」


「ユイはここで護衛をお願いね」


「はい! あ、リリィさん……」


 ユイがリリィに耳打ちをしている。

 いつもと逆で何か珍しいな。

 リリィは困ったような顔で頷いている。

 そして……僕の手を握ってきた。


「ほ、ほら……手つないでやるから元気出しなよ」


「あ、ありがとね……リリィ」


「ではいってらっしゃいませ」


 にこにこ顔ののユイに見送られて僕とリリィで歩き出す。

 ユイはリリィに手をつないでねと言っていたわけか。

 リリィと2人きりでこう歩くのは初だから緊張するな。

 でもありがたい……これで僕の心は支えられているままだ。


 ユイもリリィも僕には必要な存在ということがよくわかった……。

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