32.突然の旅立ち
問題なく隠れ家から外へ出たので、街へと向かおう。
まず最初に目指すは、治療所だ。
ドラゴンの角が使えるか聞いてみよう。
「ほう……ドラゴンの角ですか。そういった高位の触媒はやはり高名な治療術師に依頼するべきでしょう。残念ながら私はまだまだ未熟です」
「なるほど。そういった方がいる場所に心当たりはありませんか?」
「そうですね……遠くの街となりますが、ランバールであれば見つかるのではないかと思います」
「なるほど、ありがとうございます」
謙虚な感じの治療術師さんなので、信用して良さそうだ。
ランバールの街か……どのにあるんだろう。
冒険者ギルドへ行って教えてもらおうかな。
冒険者ギルドの受付で聞いてみると、すごくいい偶然が待っていた。
「ちょうどランバールの街まで護衛の依頼が来てるのですか、受けられませんか? 出発はなるべく早くがいいとのことですが……」
「受けます」
もう迷わず返事をしてしまった。
チャンスはしっかり活用しないとね。
秘密の隠れ家のことは後回しになるけど、ユイもリリィも納得してくれた。
「依頼を受けられる前に、ひとつお伝えしておきたいことがあります。その方はランバールの街から来た商人なのですが、連れてきた護衛がこの街で急に倒れてしまったのです。毒を盛られたとの噂もあります。いかがされますか?」
商人の護衛が毒を盛られた?
名探偵ではない僕だけど、簡単な推理が頭に思い浮かぶ。
商売敵の妨害ではないかと……。
この街にいる悪徳商人がすぐに思い浮かんでしまった。
だとしても……いや、だからこそこの依頼は受けなきゃいけない気がするぞ。
「大丈夫です。引き受けます」
「わかりました。それでは依頼人をここにお呼びいたします。準備が必要だと思いますが、どのくらいかかりますか? 食糧などは向こうで用意してもらえます」
「では1時間ほどで」
「わかりました。お待ちしております」
そんなわけで、すぐにドラゴンの角を取ってきた。
そして残る時間で装備を整えておくことにした。
ランバールの街までは馬車で10日かかるらしいんだ。
武器の予備や、リリィの矢もたくさんいるだろう。
あと、リリィがエルフっぽい耳を隠す帽子も買っておいた。
ほんとはユイと選んでプレゼントにしたかったんだけど、急ぎなので仕方がない。
新しい街ではハーフエルフだとばれないようにしてあげたいんだ。
そして約束の時間はすぐに来て、護衛対象の方と対面だ。
「やあ、急な依頼を受けてくれてありがたく思う。私の名はディーラ。妻のクラリスと娘のサーシャだ」
「アルバートです。この2人が仲間のユイとリリィです」
「よろしく頼む。ドラゴン退治で大活躍したと聞いた。期待しているよ」
いかにも紳士で仕事のできそうな、髭を生やしたディーラさん。
とてもおしとやかそうな妻のクラリスさん。美人だけど僕はユイの方が好き。
元気いっぱいといった感じのサーシャちゃん。10歳くらいかな。
銀色の髪を左右で束ねていて、お母さんによく似ている。
さっそく用意されていた馬車に乗り込み出発だ。
ユイとリリィに出会えた思い出の街ガナードに別れを告げる。
次に戻って来る時は綺麗になったユイと一緒かな。
馬車に揺られつつディーラさんと少し話した結果、女性や奴隷差別をしない人だった。
というわけで僕の仲間である。
こういった人は成功して大物になってほしいものだ。
奥さんもとてもできた人のようなのだ、お似合い夫婦だ。
さらに娘のサーシャちゃんもいい子だ。
なぜかというと、ユイになついて遊んでいるから。
「ユイお姉ちゃん、抱っこしてー」
「あ、はい。どうぞ……」
「わーい」
少しうらやましいな。
僕も今度ユイに甘えてみるべきだろうか。
いつも甘えさせてるし、たまにはいいよね?
「ねえサーシャちゃん。わたしの顔は怖くないのですか?」
「どうしてー? すごく綺麗だよー」
「そ、そうですか?」
うん、見る目のあるサーシャちゃんも将来有望だ。
やはり人格者の両親からは素敵な子が生まれるのだろう。
こっそり才能を覚醒させてあげたい気分となる。
さすがにしないけどね。
こんな小さな子が急にすごくなったら、両親はさぞ驚いちゃうだろうしさ。
そんなこんなで、旅は楽しいものだった。
ユイがモンスターを寄せ付けない結界を展開しているので、すごく平和だ。
ディーラさんは不思議がっているけど、運がいいのだろうと言っておく。
この道にモンスターが出ないと勘違いされても困るしね。
時々休憩して馬を休ませつつ馬車は走る。
なんていうか……遅い。
リリィの力を使って足で走る方が速そうだ。
でもリリィの力は他人に見せたくないので、このまま我慢しよう。
やがて夜となり、移動をやめて休むことになった。
たき火を囲み、クラリスさんが料理を作ってくれている。
ユイは相変わらずサーシャちゃんと遊んでいて、リリィは馬のお世話を手伝っている。
僕はディーラさんとおしゃべりだ。
「私の商会がガナードの街とも取引できるようにしようと考えていてね、今回の旅でいい結果が出たんだよ。急いで帰りたかったので、君達が護衛を引き受けてくれて助かったよ」
元々雇っていた護衛が急に体調を崩して困っていたって話だった。
この人は悪徳商人ヴァルマンのことを知っているのだろうか?
「いえ、ちょうどランバールの街へ行きたかったので助かっています。ところで、ガナードの街で力を持っている商人のことはご存知ですか?」
「もちろんだよ。ヴァルマン商会だね。いろいろと噂を聞いたよ……」
「それは悪い噂でしょうか?」
「ん……まあ……そうだね」
ディーラさんは言葉を濁す。
あまり悪口を言いたくないのかな?
だったら僕から言ってみよう。
「あのヴァルマンには僕の知り合いがひどい目にあわされたんです。気をつけてくださいね」
「そうか……。ではやはり噂通りなのだな。私の護衛がやられたのももしかしたら……。今回私の仕事が成功したらヴァルマン商会は痛手を受けるんだ。もしかしたら、帰るまでにもなにか起きるかもしれない」
「それについてははお任せください。必ずお守りします」
「そうか、ありがとう」
ディーラさんが成功すれば憎きヴァルマンに損害が出るんだな。
遠まわしではあるが、成功に協力したいな。
それに刺客が来るなら、返り討ちにしつつ悪事の証拠を掴みたいものだ。
狡猾らしいから証拠を残さないかもだけど……。
「ところでアルバート君、君たちは何をしにランバールの街へ行くのかね? 差し支えなかったら教えてもらえないか」
「僕たちは腕のいい治療術師を探してるんです。あの子の傷を治してあげたくて」
「そうか、それなら私が知っているからちょうどいい。無事に帰れたら紹介状を書かせてもらうよ」
「え? ありがとうございます! 助かります」
うーん、ランバールの街にも行けるし治療術師も見つかった。
かなり運が向いてきているのを感じる。
あ、リリィがなにか言いたそうな顔でこっちに来たぞ。
「ねえアル、馬が少し足を痛めてるみたいなんだ。治してあげられないかな」
「そっか、なんとかしたいね」
「む? そうなのか? 出発前は問題なかったし、今も問題ないように見えたが……よくわかったね」
「あ、はい。あたし動物と話せるんです」
自然と話す能力のおかげなのか、エルフだからなのかも?
なんにせよ、旅のためにはよくしてあげないと。
ユイの回復魔法は使えるだろうか?
サーシャちゃんと遊んでいるユイを呼んでみよう。
「ユイー、ちょっと来てくれるかなー」
「はーい!」
ユイはサーシャちゃんと手をつないだまま嬉しそうに走ってきた。
「馬が怪我してるみたいなんだけど、回復魔法使えるかな?」
「馬ですか……。馬についてはよく分からないのですが……」
「馬のことならあたしがわかるよ。3人で協力したらできるんじゃないかな?」
「よし、やってみよう」
3人とサーシャちゃんで馬のところにやってきた。
今は御者さんが馬の脚をわらでこすってあげているようだ。
動物と話はできない僕だけど、馬の顔は気持ちよさそうに見える。
御者さんに説明して、さっそく魔法をかけてみよう。
ユイとリリィを左右に抱きしめる。
なお、ユイにはサーシャちゃんがぴとっとくっついている。
リリィから、馬がどんな怪我をしていて、どんな対処が必要かの情報が流れ込んでくる。
その対処を魔法でするべく、ユイの力を借りる。
この形にすっかり慣れちゃったな。
そして馬が光に包まれて……うまくいったかな?
「リリィ、どうだろう?」
「聞いてみるね。……うん、そっか……。成功みたいだ。アルとユイにもありがとうって言ってるよ。この子賢いな、誰が治してくれたかちゃんとわかるみたいだ」
よかった、この形で使う魔法はなんでも出来る気がする。
リリィはすごくほっとした顔だ。
「ねえユイお姉ちゃん、今光ったのはなあに?」
「今のはご主人様の魔法です。お馬さんの怪我を治したんですよ」
「そっかぁ、お兄ちゃんすごいんだねー」
サーシャちゃんのまんまるな目に見つめられて、なにか照れてしまう。
ユイってばこんな時でも僕を持ち上げようとするんだな。
すごいのはユイなんだよと教えるべきか。
「あっ! ねえアル、なんか敵意を持った奴らに囲まれてるかも。これは人間かな。まだ遠いけど警戒した方がいいよ」
「えっ? よし、戦闘準備しよう」
リリィが何かに気づいたので、のんびり時間は中断だ。
これをディーラさんに伝え、馬車の中に待機してもらった。
馬も馬車の近くに連れてきて、守りやすい状態にしておく。
さあ、護衛の仕事をしっかり務めよう。




