31.地面の下へ
次の日、僕とリリィは寝坊した。
ユイは早起きして、2人の寝顔を楽しんでいたそうな。
ではさっそく今日のお出かけだ!
リリィの案内で転移魔法陣を作る予定場所へと移動する。
地下にはすでに空間が作られているらしく、その真上に行くらしい。
もちろん3人で仲良く手をつないで、おしゃべりしながら歩く。
「リリィさん、昨日はどうでしたか? 今日は絶好調になっていると思うのですが」
「むう……悔しいことに絶好調だよ……。なんで一緒に寝ただけでこんなことになるんだか」
「だってご主人様ですからね。あ、もちろんわたしも絶好調ですよ」
2人は僕と一緒に寝ると絶好調になるらしい。
とりあえず深くは考えないことにした。
2人の調子がいいのなら、それにこしたことはないんだ……。
そして到着した。
街から少し離れた人気のない場所だ。
「今からここに転移の魔法陣を作るよ。1回作ればここから簡単に移動できるようになるから。もちろん使えるのはあたしらだけだよ」
「なるほど。じゃあ疲れるのは最初だけなんだね」
「わたしたち3人の秘密の隠れ家……素敵ですね」
どこかに自宅が欲しいなとは思っていたけど、まさか地下とはね。
でもこんなに早く、しかもお金もかからずに手に入るのはありがたい。
「じゃあリリィ、どうしたらいい?」
「あの……あたしとユイを抱きしめてくれるかな……。別に変なことしようってわけじゃなくて必要なことなんだ。あたしの力じゃ魔法陣は作れない。アルがあたしとユイの力を使えば可能らしいんだ」
「僕が……? わかった。やってみるよ」
「ご主人様、わたしの力を存分にお使いください」
ユイとリリィを左右に抱きしめ……リリィを通して大自然の声が聞こえてくる。
魔法陣の生成方法が頭に流れ込んでくるようだ。
次に必要なのはこれを行使する魔力。
それはユイの中からあふれ出てくる……。
「いくよ……転移魔法陣、展開!」
目の前に光が溢れ……魔法陣が出現した。
僕たちはそのまま中に吸い込まれる……。
ん……気がつくと石畳の上で寝ていた。
左右にはユイとリリィも倒れている。
周りを見るといつぞやの迷宮のように石壁に囲まれている場所だ。
成功したのかな?
っ……体が痛いな。
もしかすると長い時間倒れていたのかもしれない。
ユイとリリィも体が痛いんだろうな。
とりあえず寝ている2人の頭をなでよう。
別に下心とかあるわけでなく、こうすると2人は回復するらしいから……。
我ながらおかしなことだと思うけど……事実だから仕方がない。
「うにゅう……ご主人しゃまぁ……」
「ふみゅう……ありゅぅ……」
僕が触れたことで、2人して嬉しそうに可愛い寝言を言ってくれる。
ユイのは見慣れた光景だけど、リリィのは初だ。
まるでユイが2人に増えたようにそっくりだなあ。
やっぱりリリィも僕を慕ってくれているわけか。
ほんとどうしよう……2人と仲良くはしたいけど、2人と同時に深い仲になるなんて僕には荷が重いよ。
悩みながら2人の髪の毛の感触を楽しんでいると、同時に目を覚ましたようだ。
「ん……ご主人様? わたし寝てたのでしょうか」
「あれれ? 転移……上手くいったのかな?」
「2人ともおはよう。うまくいったみたいだよ。周りを見てごらん」
「わあ……こないだ迷い込んだ場所に似てますね。ここがわたしたちの秘密の場所になるんですね。素敵です」
「すごい……こんなの作ってくれてたんだ。ねえねえ、歩きまわってみよう」
というわけで、3人でこの秘密基地探索を開始した。
今いる場所は小部屋で、ここに脱出用の魔法陣を出せるみたいなので……玄関だな。
小部屋を出ると廊下があり、正面に大きな部屋があるようだ。
廊下の左と右に2部屋ずつ小部屋があるようだな。
全て石でできている……すごいな……。
「リリィ……これどうやって作ったんだろう?」
「えっと……聞いてもすごい難しいこと言われるからよくわかんない……。がんばったんだって……」
「そっか……とりあえずがんばっていただいてありがとうございます……」
その場でお辞儀をすると、ユイも僕に習ってお辞儀をした。
大自然の力のすごさを感じる。
とりあえず廊下の左右にある部屋に入ってみよう。
ドアがないからか、廊下から部屋の中が見えないように壁があるようだ。
その壁を迂回すると、8畳くらいの部屋だ。
「これで3人とも自分の部屋が持てるね」
「うん、いろいろやりやすくなるよ」
「え? わたしはご主人様と同じ部屋が……」
「ユイ、ちょっと耳貸しな」
リリィがユイに耳打ちをしている。
何を言っているのかわからないけど、いつも通りならこれでユイは説得されるはずだ。
「ご主人様、わたし自分の部屋が欲しいです!」
何を言われて説得されているか今度知りたいものだ。
さて、次は大部屋を見に行こうか。
大部屋はやたら広い空間だった。
ここに1つの家が収まりそうなくらい広い。
使い道は今のところ思いつかないな。
よし、これで全部の部屋を確認できたぞ。
「すごい場所を用意してもらえたみたいでほんとありがたいよ」
「はい! リリィさんはすごいんですね」
「ん……こんなことができたのも2人のおかげだしさ。あと希望があれば構造を変えてくれるんだってさ。えっとね……」
リリィは照れつつ、いろいろと説明をしてくれた。
そして3人で何がほしいか話し合う。
台所やトイレやお風呂もほしいねと贅沢なことも言ってみた。
すると、地下水をうまいこと導いて水道的なものも作ってくれることになった。
至れり尽くせりだ。
そうこうしている間にお腹がすいたので、買ってきたお弁当を食べよう。
ここは地下だというのに、温度も湿度もちょうどいい。
なぜか風も吹いてくるので、外でピクニックしている気分だ。
「ねえアル、今日はこれからどうするの?」
「街でいろいろとやっておきたいことがあるから行こうか。ここに置いておくものも買いたいしね。そのためにお金も稼がなきゃいけないし、いろいろやることはあるよ」
「そっか、お金といえば……あのドラゴンの角って家が余裕で買えるだけの価値があるらしいじゃん。何に使うの?」
そういえば言ってなかったか。
これを言うとユイが遠慮しそうだったけど、早めに言っておいたほうがいいな。
「これはね、どんな病気や怪我も治せる力があるらしいんだ。これを使ってユイを綺麗な体に戻すんだよ」
「ええええ!? そ、そんな貴重なものわたしにはもったいないですよ……」
予想通りの反応だ。
さっそく説得をするかな。
おそらくリリィもこっちについてくれるだろう。
「ユイは気にしなくていいんだよ。これはぼくのわがままなんだ。ユイに今よりずっと綺麗になってほしいって思ってるんだ」
「そ、それは嬉しいのですが……やはり申し訳ないです。ね、リリィさんもそう思いませんか?」
「んー、貴重って言ってもたいしたことないんじゃないの? アルならいくらでも手に入れてくれそうじゃん。そう思わない?」
「そう……ですね」
さすがに命がけのドラゴン戦はあまりやりたくないかな……。
でもその説得の仕方はありだ。
僕も便乗しよう。
「そうだよユイ。この角はユイがいたから手に入ったし、これからもユイがいてくれればいくらでも手に入る。ユイはずっと僕といてくれるんだよね?」
「はい! もちろんです!」
「じゃあ問題ないね」
「え? あ、はい……そう……ですかね?」
よし、あと一押しだ。
あ、リリィがユイの耳元でまた内緒話をしている。
そしてユイの顔が真っ赤になりつつ頷いている。
「ご主人様……わたしはあの……アルのために、綺麗になりたいと思います」
「う、うん……嬉しいな」
不意に名前を呼び捨てにされてどきっとしちゃう僕。
リリィの説得に感謝だ。
無事に話もついたので、さっそく街へ出かけよう。
ドラゴンの角は盗まれないようここに置いておく。
世界で1番安全な隠し場所かもしれない。
玄関となる場所で、脱出の方法をリリィに教わろう。
「あたしら3人はここで念じるだけで魔法陣が出るから、それで簡単に移動できるよ。さっきみたいに気絶することはもうないから」
「なるほど、簡単でいいね。じゃあユイが念じてみて」
「はい……。……あ、魔法陣が出てきました。簡単ですね」
「だろ? ちなみにさ、外に人がいたら魔法陣を出さないようにしてくれるそうだから、人に見られることはないよ」
なるほど、それは至れり尽くせりだ。
外からここに来る時も、周りに人がいないか確認してくれるのだろう。
大自然が味方に付くってすごいことなんだなあ。
では、隠れ家より初のおでかけをするとしよう。




