03.初仕事
ユイに案内されて冒険者ギルドへ到着だ。大きな建物で、中はにぎわっている。
とりあえず、ちゃちゃっと登録を済ませて冒険者カードとやらをもらった。
長々と説明されたが覚え切れないので、おいおいでいいだろう。
がんばれば認められるんだろうし。
壁にある張り紙に仕事の依頼があるようなので眺めてみる。
難易度が低めなのは薬草集めとか弱いモンスター退治、荷物運びなんてのもあるな。
冒険者ギルドって名前だけど、なんでも屋って感じかなあ。
「いろんな仕事があるみたいだけど、ユイはどれがいいと思う?」
「あの……わたし字が読めないんです」
「そっか、じゃあ今度教えてあげるね」
「そ、そんなお手間をかけるわけには……。でもあの……お願いします」
「うん。じゃあとりあえず、順番に読んでいくよ」
僕は神様にこの世界の言葉と文字がわかるようにしてもらっている。
ほんと至れりつくせりな神様だった。
不満点としては……女性を幸せにしたいと言った僕を、女性が不幸な目にあっている世界に送ったことかな?
いや……たしかに幸せにしやすいという意味ではあっているのか。
どんな仕事があるのかユイに説明していく。
ユイは張り紙を真剣に見つめながら僕の話を聞いている。
字を覚えようとしているのかもしれないな。
そして一通り見終わった。
「さて、どの仕事ができそうかな?」
「えっと……ご主人様のためならどれもできる気がします」
「そう? やけに自信たっぷりだね」
「はい! ご主人様の生活を守るためと考えたら力が溢れてくる気がするんです」
ユイの目は自身に満ち溢れている。
僕を守るだけでなく、僕の生活を守る……そういう考え方もあるわけか。
頼もしいけど、最初から危険なことはさせられないよなあ。
そもそも武器もないんだ。
「この荷物運びの依頼受けようか。街中での仕事みたいだから安全だよ」
「はい、がんばります!」
受付に仕事をしたいと言うと、地図を広げて向かう場所を教えてくれた。
ユイがわかる場所らしいので、また案内してもらう。
そういえば、そろそろお昼だろうか?
移動しながら手持ちの食糧……干し肉を2人で仲良く食べた。
今からしっかり稼がないと夕飯は食べられないぞっと。
到着すると、大量の木箱が積み上げられているのが見える。
あれを運ぶんだろうか。
責任者っぽい人に話しかけてみよう。
「すみません、冒険者ギルドより荷物運びの仕事に来たんですけど」
「おう。なんかひょろそうな男と奴隷のガキか……。まあいい、今からこの荷物を街の入り口まで運んでもらう。運んだ数に応じて報酬を渡すからな」
「はい、わかりました」
「おう、南入口に持っていけばすぐわかるはずだ。頼んだぜ。あ、そこの台車を使っていいぞ。ただし乗せるのは3つまでにしといてくれ。重すぎて壊れちまうからな」
「わかりました」
この仕事を引き受けた人は他にもいるみたいで、台車を押して行く姿が見える。
さて、木箱を試しにひとつ持ってみるか。
しかし……重すぎてかなり力を入れないと持ち上がらない。
「ああご主人様! そういったことはわたしが致しますので」
「え?」
ユイは僕の手から軽々と木箱を奪い取り、台車に乗せた。
すごい力だ……。
そのまま台車に3つの箱が乗せられる。
「ご主人様はのんびり見ていてください。わたしが運びますから」
「いやいや……ユイ1人に働かせるなんてできないよ」
「えっと……わたしは信用がないのでしょうか?」
不安そうな目で僕を見てくるユイ。
これは奴隷根性が染みついているということなのだろうか。
なんとかその考えも変えさせていかないとなあ。
「違うよユイ、僕はユイと一緒に働きたいんだ。一緒に頑張ろう」
「ご主人様と一緒に……? えっと……共同作業……きゃっ……」
何を考えているのか顔を赤らめるユイ。
まあ、納得してくれたようだ。
「じゃあ台車をもう1つ……あれ? もうないのか」
「他の方が全部使っているようですね……」
「困ったね。これを2人で押すのも効率が悪いし」
「あ、わたしそのまま持ちますね」
そう言ってユイは荷物置き場から3つ重なった箱をまとめて持ち上げた。
そんなにも力が出せるのか……。
「では行きましょう、ご主人様」
「ユイ……大丈夫なの?」
「はい、まだまだ持てそうですが……重ねて箱が壊れるといけませんので」
「そ、そう……じゃあ行こうか。南入口の場所はわかる?」
「はい、こちらです」
軽々とした足取りで進んでいくユイ。
台車を押す僕の方が遅そうだ……。
あ、責任者っぽい人が驚きの目でユイを見ている。まあそうだろう……。
道が悪いので、台車を押すだけでも体力をかなり使ってしまう。
なんか僕がユイの足手まといになっているような……。
「遅くてごめんね、僕そんな力がなくてさ」
「いえ、働く姿かっこいいです!」
「そう?」
「はい! それにとても新鮮で……」
ユイは憧れたようなまなざしで僕を見つめてくる。
きっとお世辞ではなく本心なんだろう。
たしかに女性に働かせてふんぞりかえっている男が多いものなあ。
かっこいいと言われて悪い気はしない僕は、少しやる気を出した。
そして汗だくとなり目的地に到着。
ユイは相変わらず涼しそうな顔のままだ。
荷物置き場に木箱を置き、台車に乗った箱も下ろしてくれた。
「ご主人様大丈夫ですか? つらそうです……」
「ごめんね、まさかこんなにも体力がないなんて……」
「ではあとはわたしにお任せください」
「うう……ごめんね。少しだけ休むよ」
「いえ、ご主人様のためです!」
ふう……情けないけどユイだけに任せた方が効率よさそうだ。
そう話していると、いつのまにか責任者のおっちゃんがこっちに来ていた。
そして僕たちに近づいてくる。
「おい、そこの怪力娘。荷物運びはいいからこっちを手伝ってくれねえか。お前さん、奴隷を借りていいかい?」
「あ、はい。じゃあユイ、そっちでがんばってきて」
「わかりました!」
ユイははりきっておっちゃんに着いて行った。
さて……僕は少し休憩させてもらおう。
少し休憩をして、1人で荷物を運ぶべく荷物置き場に戻った。
無理はせず2つの木箱を乗せてゆっくりと進む。
ユイも頑張ってるかなあ……。
時間をかけて荷物を運ぶと、ちょうどおっちゃんが現れて話しかけてきた。
「お、いたいた。お前さんすごい奴隷を持ってるんだな。あの子10人分の作業を1人でこなしてるぞ」
「はい、僕の宝物ですよ」
「ははっ、ちげえねえや。ところであの子、ご主人様のために頑張るんですってずっと言ってるんだよ。あんな健気な子は見たことねえや。ちょっとこっち来て見てやんなよ」
「あ、はい。連れて行ってください」
ユイ頑張ってるんだなあ。
おっちゃんが褒めてくれたので僕も嬉しい。
現場に着くと、荷物の仕分けなのだろうか?
指示を受けて荷物をひょいひょい運んでいた。
その顔はなにか嬉しそうに輝いている気がする。
「おい、応援してやんなよ。たぶんあの子はそれでもっと働くぞ」
「あ、はい……。おーい! ユイがんばれー!」
「あ、ご主人様ー! 見ててくださいねー! では指示と荷物をどんどんください!」
「お、おう! 今度はこれをそっちにだな……」
ユイは嬉しそうに僕に手を振り返してきた。
おっちゃんの言うように、動きがさらによくなった気がする。
「お前さん、奴隷にあれだけ好かれるたあな。珍しい光景でなんか微笑ましいぜ」
「珍しいんですか?」
「そりゃあ、普通は奴隷をこき使うやつばっかりだしな。それに奴隷ってのはたいてい暗い目をしてるもんだ。あんな明るい顔の奴隷初めて見たぜ」
「そうですか……」
他の人は奴隷を大切にしていないようだ。
なんとかそういった考えを変えさせていきたいな。
この差別は奴隷をバカにしているから起きている気がする。
今のユイのように、すごい能力を持った奴隷を見ればその考え方は変わったりしないだろうか。
その証拠に目の前のおっちゃんも、すごい奴がいるなあって目でユイを見ているし。
潜在能力を覚醒させるらしい僕の能力……これはかなりいいものかもしれないな。
この後僕も仕事に戻ろうと思ったが、ここにいることでユイがとても嬉しそうなのでそのまま応援していた。
そして時間も過ぎ……仕事も終了のようだ。
「お疲れさん、報酬は奮発しといたぜ。こいつを持って冒険者ギルドで受け取ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
「お前さんたちならいつでも歓迎だ。また手伝ってくれよな」
「はい、機会があれば」
なにか封筒を渡された。
この中に仕事結果の書類が入っているのかな。
ユイと共に冒険者ギルドへ向かおう。
「ユイすごく頑張ってくれたみたいだね。みんなが褒めてたよ」
「はい! だってご主人様のためですから……」
「報酬も多めにくれたらしいから、なにか買ってあげるよ。なにがいい?」
「そ、それは申し訳ないです。ご主人様自身のものを買ってください」
予想はしていたが、断る返答が来た。
僕としては、どれそれを買ってほしいとおねだりされたいくらいなのに……。
「ユイ、がんばったらね……それだけの対価をもらえるものなんだよ」
「でもわたしは奴隷です……」
「そんなの関係ないんだ。ユイはがんばったんだから、ね?」
「でしたらあの……ひとつお願いしていいですか?」
「うん、なにかな?」
ユイは立ち止まり、僕を見上げてきた。
僕も見つめ返し、何を言われるのか楽しみに待つ。
「わたし……1度でいいから頭をなでなでされてみたかったんです。ご主人様がお嫌でなければ……」
「嫌じゃないよ。むしろしたいさ。ユイ、たくさんがんばってくれたね」
「あ……」
ユイのぼさぼさの髪に手を置き、なでなでした。
気持ちよさそうな顔で目を閉じるユイがなんとも愛おしい。
「ご主人様……ありがとうございます」
「いつだってしてあげるよ」
「嬉しいです……」
実は僕も女性になでられるのが好きなので、ユイが喜ぶ気持ちがよくわかる。
いつかユイにもしてもらいたいなと思いつつ……ユイが喜ぶこの行為をたくさんしてあげようと思うのであった。