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29.強さの秘密を教えます

 お祭り騒ぎのようなドラゴン退治の戦利品分配が終わった。

 そしてラルフさんが僕に話しかけてきた。


「なあアルバート。そのドラゴンの角を欲しがっているやつはいくらでもいる。さっきの商人もそうだしな……。奪われないように気をつけてな」


「そうですね……気をつけます。でも大丈夫です。僕には自慢のボディーガードが付いていますから。ね、ユイ」


「はい! 絶対にお守りします!」


「ははっ、ドラゴンの首を落とした嬢ちゃんなら問題なさそうだ。それじゃあな」


「はい、忠告ありがとうございます」


 うん、やっぱりいい人だ。

 ユイのことを奴隷と呼ばず、嬢ちゃんと呼んだのも嬉しい。


 さて、あとはカイルさんと話をしないといけないな。

 リリィを助けてくれたお礼をしないと。

 周りを探すと、向こうもこちらを待っていたようですぐに見つかった。


「やあ、約束を覚えてくれてたようで嬉しいよ。英雄さん」


「当然です。僕の大切なリリィを助けてくれたこと、一生忘れはしません」


「そうか……素晴らしい奴隷みたいだものね。それも当然か」


 奴隷じゃなくて仲間なんだけどなあ。

 よし、なんとかしてカイルさんにもそれをわかってもらおう。


 とりあえず……一緒に宿屋へ行って部屋で話そうということになった。

 あまり周りに聞かれたくないしね。

 僕はいつも通りユイとリリィと手をつないで歩く。


「君たちはいつもそうやって歩いているのかい?」


 カイルさんは不思議そうな顔。

 カイルさんの奴隷であるミィさんとキィさんは少し羨ましそうな顔の気がする。

 この反応だと、カイルさんは好かれているのかもしれない。

 これならいけるのではなかろうか。


「はい、こうすることで絆が深まって強くなれるんですよ」


「そ、そうなのかい? でもいったいどうしてだい?」


「やってみればわかります」


 カイルさんは困り顔。

 ミィさんとキィさんは少し緊張した顔だ。

 やってほしいなあ……。


「さ、さすがにそれは恥ずかしいな。やめておくよ」


「そうですか。していただければ僕たちの強さの秘密を知ってもらえ、カイルさんたちの戦力アップにもなるのですが……残念です」


「な……それは本当かい? 僕をからかってないだろうね」


「もちろんです」


 やってくれたら、昨日は一時的にだけ引き出したミィさんとキィさんの能力を少しだけ覚醒させよう。

 僕の能力はそういう細かいこともできるんだ。

 これがわかったのはもちろんユイのおかげだ。


「じゃあミィとキィ……おいで」


「はい!」

「わかりました!」


 ミィさんとキィさんがカイルさんの左右に並んで手をつなぐ。

 うーん、仲睦まじい光景でいいなあ。

 この街で流行ればいいのに。


「は、恥ずかしいねこれは……」


「カイルさん、恥ずかしいってことは……ミィさんとキィさんを女性として意識しているってことでしょうか?」


 僕がこれを言った瞬間、3人の顔がそろって赤くなった。

 少しからかうつもりだったけど、わかりやすくていいなあ。


「そ、そんなわけはないだろう。この2人は奴隷だぞ。女とも思えない」


 僕が嫌っている、女性を人と思わない奴隷扱い。

 でも今の状況だと照れ隠しにしか聞こえない。

 よし、カイルさんなら更生できそうだ。

 早く宿屋につかないかなあ。


 そして仲良し2グループは宿屋へ到着。

 両グループとも2人部屋をとった。

 そして夕飯を食べつつ話をしようという流れになった。


「ではカイルさん、なんの話だったでしょう?」


「君がドラゴン線の指揮をしていた時、ミィとキィは今までにないことができたんだ。でも今はできない。それがなぜかと思ってね。あ、今日ラルフさんが言っていたように能力を聞き出したいわけじゃないんだ。僕はその……ミィとキィに強くなってほしいから、そのヒントが欲しいんだ」


「なるほど……」


 ミィさんとキィさんに強くなってほしいか。

 そうなることで2人を尊敬してくれるなら協力してもいい。


「カイルさん、僕は人の才能を見抜くことができるんです。だからあの時の力は間違いなくお2人の力なんですよ」


「そうなのかい? てことはミィには槍の才能があって、キィには雷魔法の才能があると?」


「そうです。そして……」


 よし、ここで嘘をつこう。

 目の前にいる3人が幸せになれそうな嘘を……。


「ミィさんとキィさんの才能はカイルさんが引き出すことができます」


「僕が? ぜひそれを教えてくれないか!」


「2人と仲良くし、大切にすればいいんです」


 僕の能力……女性の才能を覚醒させる能力は、条件を付けることもできる。

 カイルさんが2人を大切にして気遣うたびに能力を開花させる……という覚醒のさせ方もあるんだ。


「なるほど……でも具体的にはどうしたらいいんだい?」


「そうですね……ではまずミィさんとキィさんの確認をさせてください。順番に僕の目を見てもらえますか」


 ここでそれぞれの能力覚醒をしておいた。

 ミィさんは槍の才能、キィさんは雷魔法の才能だ。

 さっき手をつないだ分、少しだけサービスしておく。


「はい、終わりました。では具体的な方法ですが、さっき3人で手をつないで歩きましたよね。あれでも効果はあるんですよ」


「あ、あの恥ずかしい歩き方でかい? ミィ、キィ、どうだい?」


「あ……なんだか槍の使い方が少しわかるような……」


「わたしは雷魔法が使えるような……」


 うんうん、うまくいっているようだ。

 僕の能力はやはりすごい。


「槍は今ないけど……キィ、雷魔法を使ってみせるんだ」


「はい……」


 キィさんが念じると、空中に電気が走った。

 小さいが、間違いなく雷の魔法だ。


「すごい……。なあアルバート君、毎日ああやって歩けば2人はもっとすごくなるのかい?」


「そうですね。それに、他にもいろいろな方法があるのでお教えしますよ」


「ぜひ教えてくれ!」


「はい、では2人でこっそりと話しましょうか。みんなは悪いんだけどカイルさんの部屋に行っててくれるかい」


「はい!」


 4人が息を揃えて返事をしてくれた。

 リリィまでも『はい』と言ったのは意外だったけど、なにか楽しかった。

 これはあれかな……自然と会話できるリリィだから空気を読んだ的な。



 そしてカイルさんと2人きりだ。

 僕はユイとリリィにいつもどんなことをしているか伝えた。

 奴隷と思わず仲間と思い、いかに大切にしているか。

 具体的な方法も伝えていく。


 そしてさっそく実践だ。

 桶を持って、2人でカイルさんの部屋へ行こう。

 さあ、カイルさんはうまくやってくれるかな。


「ただいま。ユイ君とリリィ君は部屋に戻っておいてとの伝言だよ」


「はい、わざわざありがとうございます」


 ユイとリリィは部屋から出てきて、僕に気づく。

 ユイは僕の持っている桶を見て、何をするか察してくれたようだ。

 そして僕に微笑んで、不思議そうな顔のリリィの手を引き部屋に戻っていく。


 再びカイルさんの部屋に意識を向けると、なにかざわついていた。

 カイルさんが1人で水汲みに行くと言ったからミィさんとキィさんが驚いたのだろう。

 ちゃんと説得できたようでカイルさんは外に出てくる。

 では井戸に向かおう。



「ふう……これであの2人は強くなるのかい?」


「間違いないです。あ、カイルさんの想いの強さが重要なので、イヤイヤしたらダメですからね」


「わかったよ……それにしても奴隷のために働くなんて君は変わってるよ」


「今日からカイルさんも変わり者の仲間入りですよ」


「あはは……」


 カイルさんは僕の言ったことを実践してくれるようだ。

 そんなにもミィさんとキィさんに強くなってほしいのかな。

 いつか理由を聞きたいもんだ。

 そして2人が本当に強くなる日が来るのも楽しみだ。


 こうして水汲みが終わり、お互いの部屋へと戻った。

 これからカイルさんは2人の体を拭いてあげるのだろう。

 僕はユイの体を拭こうとして、リリィに止められるのだろうな。


「ただいま、水汲んできたよ」


「おかえりなさいませ、ご主人様。いつもありがとうございます」


「おかえり、ありがと」


 やっと3人きりで落ち着けるな。

 明日からまた冒険をするし、今からのんびりしよう。


「ユイ、今日は体を拭いてあげたいな」


「はい、お願いします」


「だだだ、だめだぞユイ! 女性が裸を簡単に見せちゃだめなんだ」


「あ、リリィさんもご主人様に拭いてほしいんですね。じゃあ一緒に脱ぎましょう」


「違う! なんでそうなるんだー!」


 うーん、仲良し姉妹の喧嘩を見ているようで楽しい。

 この後はもちろん、僕が背を向けた状態でユイとリリィが体を拭きあうこととなる。


「リリィさん、照れてないでご主人様に拭いてもらいませんか?」


「照れてない! それになユイ、耳を貸せ」


「ふむふむ……なるほど……それは困りますね……」


 なんかユイが納得してる。

 リリィは時々ユイに耳打ちして納得させてるけど、どんなことを言ってるんだろう。

 ま、リリィが嘘をつくこともないだろうし、きっとユイのためになることなのだろう。


 この後、僕は綺麗になった2人に体を拭いてもらった。

 後は寝る前にまったりお話しようかな。

 今日はいい日だったなあ。

 ドラゴンの角も手に入れたし、奴隷を大切にしようとする同志も増えた。


 あ……ユイを酷い目にあわせた悪徳商人のことも思い出した。

 基本的に人を恨んだりは苦手な僕だけど、ユイをあんな目にあわせたあの商人だけは許さないぞと本気で思う。

 あいつを懲らしめるいい方法はないものか……。

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