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28.英雄は僕の隣に

 草原に3人で横たわり、まったりとした時間過ごした。

 そろそろ冒険者ギルドに向かおうかな。

 ドラゴン退治の報酬は何がもらえるんだろう。

 あとリリィによくしてくれた冒険者にお礼を言わなくっちゃね。



 街へ戻り、冒険者ギルドへ到着だ。

 すると……なにか騒がしい声が聞こえてきた。


「だから相場より少し高く買うと言っておるだろうが! なぜドラゴンの角だけだめなんだ!」


「ですからあの……もう先約があるんです……」


「じゃあそいつと直に交渉するから連れてこい。それに女なんぞじゃ話にならん。もっと話のわかるやつを出せ!」


 うーん……髭を生やしたいかにも金持ちで悪人なおっさんが、受付のお姉さんに対してどなっているようだ。

 受付のお姉さん困ってるなあ……助けたいけど怖い。


「あの方は……」

「ユイ?」


 ユイが怯えて、僕の体に隠れるようにして震えている。

 知り合いなのだろうか?

 とりあえず隅っこに連れて行こう。


「おいあんた、いい加減にしろよ。何様のつもりだ?」


「む? なんだ貴様は」


 あ、ドラゴン戦で指揮を執っていたラルフさんだ。

 スキンヘッドで怖そうなイメージだけど、指揮を任せられるくらいなんだから強くて頼りになるに違いない。

 受付のお姉さんを助けてくれそうでほっとする。


「俺はここで世話になっている冒険者だよ」


「ふん、冒険者風情がわしに意見する気か? わしをだれかわかって言っておるのか?」


「この街で有名な商人のヴァルマンさんだろう。あんたが力を持っているのはわかってる。だけどここは冒険者ギルドだ。ここのルールに従ってもらわなきゃ困る」


 商人か……見た目から勝手に悪徳商人かなと思ってしまう。

 悪徳商人? あ、ユイが怯えてるのってもしかして?


「ふん……まあいい。この場は引くが、外であったら覚えておれ。わしに歯向かったことを後悔させてやる」


 その商人は護衛を伴って出ていった。

 ふう……なんとか収まったようだ。

 ラルフさんは平気そうな顔をしているが、受付のお姉さんは可哀想に怯えてしまっている。

 それよりユイだ。


「ねえユイ、さっきの商人ってもしかして……」


「はい……わたしの前のご主人様です」


 そうか……あれがユイのお母さんとお父さんを不幸な目にあわせた商人か。

 さらにはユイにもひどいことをした。

 あの顔はしっかり覚えておこう。

 今は無理だけど、いつか力をつけたら懲らしめてやりたい。


「事情は知らないけど、なんかやな感じのやつだったよね。周りの空気にも嫌われてたよ」


「空気に嫌われて生きていけるの?」


「さすがに嫌いだからって、息させずに殺したりはしないよ……」


 リリィの説明に納得する。

 自然に嫌われて殺されるんだったら、環境破壊してる人間はとっくに殺されてるな。


「それよりなんでユイは怯えてるの? あ、言いにくいんなら別にいいけど」


「ここではちょっと……今度お話しますね」


 今冒険者ギルドにはたくさんの人がいる。

 ここでするような話ではないな。

 さてさて……報酬の分配までもう少し時間があるな。

 とりあえず怯えてるユイを抱きしめておくか。


「やあアルバート君、相変わらず君は奴隷と仲がいいんだね」


 唐突に話しかけてきた男……以前僕に一緒に組まないかと誘ってきた男だ。

 奴隷を物のように扱うような言い方をしたので嫌っているんだけど……彼もドラゴン戦に参加していたのかな?

 後ろにいる女性2人には見覚えがある。


「あ! ねえアル。この人だよ、2人がいなくなった後お世話になったんだ。えっと……あの時はありがとうございました」


「いやいや、どういたしまして」


 彼がリリィと一緒に行動していてくれたのか……そんな悪い人ではないのかな。

 少し考えを改めようか。


「リリィがお世話になりました。本当にありがとうございます。名前を教えていただけますか」


「僕はカイルだ。覚えておいてくれると嬉しいな」


 カイルさんか……改めて顔をよく見てみる。

 少し長髪でナンパ男ってイメージだ。

 人を見た目で判断するのはよくないけど……初対面の印象と合わさって、あまりいいイメージが持てない。

 でもリリィのことに関してはたっぷり感謝だ。


「はい、覚えておきます。リリィは僕の大切な人なんです。お礼になにかしたいのですが……」


「気にしなくていいよ……と言いたいところなんだけど、ひとつ教えてほしいんだ。僕の奴隷たち……ミィとキィは君の指揮ですごい力を発揮したと聞く。僕はそれを見ていなかったんだけどね」


「はい、ミィさんは槍でドラゴンのしっぽを地面にくし刺しに、キィさんはその槍に雷の魔法を流していましたね」


 わりと活躍してくれた2人だ。

 カイルさんはこの2人を連れていることが幸せだな。

 ぜひそれをわかってほしいぞ。


「それなんだけど……どうして急にああいうことができたんだろう。そしてあの戦闘が終わった後それができなくなったのはなぜだろう?」


 うーん、どうしようかな。

 僕の能力を説明していいものか。

 どうしたものかと悩んでいると、受付のお姉さんの声が聞こえてきた。


「ではみなさん、お集まりください。これよりドラゴン戦の戦利品分配をいたします」


 時間が来たようだ。

 カイルさんにはまた後で話しましょうと伝え、そちらに参加する。

 まずは指揮を執っていたラルフさんが挨拶するようだ。


「今回のドラゴン退治、みんなご苦労だった。無事に勝てたのはみんなのおかげだ。そして……すまなかった。俺の指揮が至らないせいでみんなを全滅させそうになった。申し訳ない」


 そう言ってラルフさんは頭を下げた。

 たしかに僕が行った時、みんな倒れてたからなあ……。

 でもこういう時に頭を下げて謝るって立派だと思う。

 見た目は怖いけどいい人そうだ。


 僕はラルフさんの指揮を見ていないけど、おそらく問題はなかったんじゃなかろうか。

 きっとドラゴンが想像以上に強かったんだ。

 周りの冒険者がラルフさんに文句を言わず、そんなことないとフォローしていることからもそれがわかる。


「それでも勝てたのは、1人の遅れてきた英雄の力によるものだ。えっと……お、来てるようだな。アルバート、こっちへ来てくれ」


 なんか呼ばれてしまった……。

 まあそうだよね。

 途中から勝手に指揮しちゃったし。


「ご主人様が英雄……素敵です。ね、リリィさん」

「うん……」


「ありがとう、じゃあいってくるよ」


 ラルフさんの元へ行くと、ここに来ている全員に注目される。

 これはなんとも恥ずかしいというか、緊張する。


「みんなも知ってるだろうが、こいつが途中で現れて回復してくれたり指揮をとってくれた。間違いなく1番活躍した男だ」


「ありがとよー」

「ほんとすげーやつだよ」

「いったい何をしたのか教えてくれよー」

「大好きですー」


 みんなから歓声が飛んでくる。

 どさくさまぎれにユイの声が聞こえたのがなにか嬉しい。


「よし、じゃあ挨拶を頼むぜ。あ、お前がどんな能力を使ったのか気にはなるが、言いたくないなら言わなくていいからな。暗黙の了解ってやつだ」


 そっか……戦いの能力は個人情報だものね。

 言わなくていいのは助かる。


「えっと……まずはみなさんありがとうございます。いきなり現れた僕の指示を聞いてもらえたおかげで勝てました。実のところ、あの時うまくいく自信はなかったんです。それなのに指揮をとったこと……それは謝らせてください」


「英雄さん、謙遜しなくていいんだぜー」

「そうそう、すごい指揮だった」

「しかも様々な魔法を使いこなしてただろー」


 うーん……何を言おうか悩んでたけど、何を言っても歓声が飛んできそうな雰囲気だ。

 この流れで言っておくべきは、僕の仲間自慢だろう。


「ありがとうございます。それと誤解があるようなのですが、あの時使っていた魔法は僕ではありません。僕の頼りになる仲間たちが使ってたんです」


 すると、周りがざわざわし始め……皆の視線がユイとリリィに集まっていく。

 あ……2人は目立ちたくないだろうからあまり紹介する気はなかったけど、すでに多くの人に知られてるんだな。

 ほんと知らないうちに有名になってたようだ。


「なあアルバート、ぜひその仲間を紹介してくれるか」


「あ、えっと……はい……。ユイ、リリィ、来てくれるかな」


 断りたかったけど、そんな雰囲気ではない。

 こうなったら自慢しまくってやる。


「この2人が僕の自慢の仲間です。実のところ、僕は大して強くないんです。この2人がすごいんですよ。それにえっと……可愛いでしょう?」


 あれ? なんか緊張で言う必要ないことまで言ったか。

 周りがちょっとシーンとなってしまう。

 そして僕の左右がなんとなく熱くなった気がする。

 どうしよ……ユイとリリィに恥をかかせてるのだろうか?

 早く誰か何か言って……。


「お、おう……可愛いと思うぜ」

「そ、そうだな。英雄さんのお眼鏡に叶うとは幸せな奴隷たちだぜ」

「よしみんな、3人の英雄に拍手だ!」

「あ、そういえばあの女の子。ドラゴンにとどめさしてたぞ。あの首を叩っ斬るなんてすげー剣の腕だぞ」


 よかった……みんなが盛り上がろうとしている雰囲気だったから助かった。

 僕の自慢のユイとリリィ……英雄扱いしてくれて嬉しいな。


「ありがとうございます。あと戦いで僕の指示に動いてくれた人達……みなさんのおかげで勝てたんです。もう一度言わせてください。みなさん、本当にありがとうございました」


 僕がお辞儀話すると、左右のユイとリリィも一緒にお辞儀をする。

 そしてまた飛んでくる歓声。

 がんばった甲斐があって嬉しいな。

 これでユイとリリィも喜んでくれてるといいな。


「よし、ありがとよアルバート」


 ここでラルフさんと交代だ。

 はあ……緊張した。


「さて、戦利品の話なんだがな……みんなも気になっているであろうドラゴンの角の話からしようか。戦利品の中で最も価値があり、まずお目にかかれない代物だ。これはどんな傷でも癒す魔法の触媒になると聞く」


 そう、だからユイの顔の傷痕をなくすためにどうしても欲しいんだ。

 そういえばさっきの悪徳商人はこれを買おうとして断られていたんだったか。

 先約と言っていたけど誰なんだろう?

 交渉して譲ってもらうのは難しいだろうな。


「そこでだ、俺はこう考えた。俺たちが全滅しかけて死を待つ時にこの英雄たちが助けてくれた。つまり俺たち全員が命を救われたわけだ。その行動はドラゴンの角の価値を遥かに上回ると思わないか?」


 え? もしかして……。


「そうだそうだ!」

「さすがのドラゴンの角も死者は生き返らせれねえもんな」

「そいつは英雄にふさわしいぜ!」


「みんなと同じ意見で嬉しいぜ。そしてちょうどいいことに、この英雄はドラゴンの角をほしがっている。ここは持っていってもらおうと思う!」


 周りから歓声が上がっている。

 つまり……僕がドラゴンの角をもらえる。

 ユイを綺麗な顔に戻せる……。

 僕の冒険の目標がひとつ達成できるんだ。


「というわけでアルバート、これを持って行ってくれ」


「あ……ありがとうございます! みなさんもありがとうございます!」


「英雄さんはほんと謙虚だな」

「もっと威張っていいんだぜー」

「お前さんはきっと大物になるぞ!」


 ああ、なんていい日なんだろう。

 神様……僕に素敵な力をくれてありがとうございます。

 お願いした女性を幸せにすることがさっそく叶えられます。


 この後は他のみんなで戦利品をうまいこと分けたようだ。

 この大人数なのに、誰1人不満を言うことなく分配ってすごいな。

 冒険者ギルドの人はそれだけ優秀なのかな。

 僕はユイの治療を早くしたいなということで頭がいっぱいだった。

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