26.今度は僕から
「うみゅう……ごしゅじんしゃまぁ……どこですか?」
ユイが目覚めたのかなと思ったら、寝ぼけているような声を出してきた。
うーん、可愛い。
「ユイ、僕はここにいるよ」
「あー、ごしゅじんさまだー。わーい」
ベッドに近づくと、ユイが僕を抱きしめて引っ張ってきた。
嬉しいんだけど、リリィが見てる前でいちゃつくのはよくない。
リリィが居心地悪いって顔をしちゃうんだからさ。
「ユイ、寝ぼけてるのかな? そんな引っ張らないで……」
「ふふっ、ユイは仕方ないやつだな。そのままにさせてやりなよ。甘えたい年頃なんだよきっと」
あれ? リリィは特に居心地が悪そうでもない。
むしろ優しい目でユイを見つめている。
僕が不思議そうな顔でリリィを見ると、その視線に気づいたようだ。
「ユイが可愛すぎて怒る気も無くなっちゃったよ。あたしの前だろうとかまわないから好きなだけいちゃつきなよ」
「そ、それはさすがにどうかと……」
「ふふっ、じゃあ散歩に行ってくるよ。今度はちゃんと戻ってくるから安心して。あ、1時間で戻るから」
「あ、うん……ありがとうね。いってらっしゃい」
リリィは僕とユイを2人きりにしてくれるみたいだ。
ありがたくこの時間を楽しもう。
「ユイ、おはよう。よく眠れたかな?」
「うーん? まだ夢の中ですよー」
やはり寝ぼけていたようだ。
可愛いからこのまま寝ぼけててほしいかも。
「夢の中でユイは何をしたいのかな?」
「ご主人様に優しくキスしてもらいたいんです……えへへ」
なぬ!?
ユイは僕の頭をつかんで引っ張ってくる。
やばいやばい……キスはしたいけど、そういうのはちゃんと目覚めてからじゃないと。
「ユイ! 寝ぼけてないで起きて!」
「え? こ、これは夢じゃないんでしょうか? ああああ……」
ユイの顔がみるみる真っ赤になっていく。
そしてようやく僕の体が解放された。
「ご主人様ごめんなさい……わたしってばはしたない……」
「いいんだよ、嬉しかったからさ」
「そ、そうですか……。えっと……おはようございます。リリィさんはどうしたんでしょう?」
ユイは起き上がり、照れ隠しをするかのように部屋中をきょろきょろと見渡す。
僕はその顔を両手で包んで、僕の方に向けた。
「今は僕とユイの2人きりだよ」
「そ、そうなのですか……。あの……ご主人様?」
「ユイ……大好きだよ」
「は、はい……わたしもあの……ご主人様のことが大好きです」
ユイがさっきキスなんて言葉を出したものだから、したくてたまらない。
昨日のイベント的な感じではなく、ちゃんとしたキスを……。
果たして今はちゃんとしたタイミングだろうか?
「ユイ、改めてお礼を言わせてね。ユイのおかげで昨日はドラゴンに勝てたんだよ」
「い、いえ……あれはご主人様の力ですよ。とても素晴らしい指揮でした」
「それができるようになったのはユイのおかげだよ。僕の能力を教えてくれてありがとう」
「は、はい……でもあの……」
ユイの顔が真っ赤になった。
おそらく僕と同じように、あの時のことを思い出しているのだろう。
神託という形で僕にキスをした時のことを……。
「僕ね、あの時すごくすごく嬉しかったんだ。だってさ。ユイとまた一つ仲良くなれたような気がしたから……。ユイはどうかな?」
「あの……えっと……わたしもすごくすごく嬉しかったです。あんな形でしたけどご主人様と……」
「そっか。同じ気持ちでいてくれたんだね。じゃあさ……また嬉しくなろうか」
「はい……」
そう言ってユイは目を閉じた。
僕は緊張で体が震えるのを必死で押さえ……ユイの顔に僕の顔を近づけていった。
「ユイ……愛してる……」
「んっ……」
唇にやわらかな感触……この世の何よりもやわらかな気持ちが僕を包み込む。
あの時はこの感触を楽しむ間もなかったんだ。
今は……ずっとずっとこうしていたい。
何分たったのだろうか……このままだとリリィが帰ってくるまでしちゃいそうだ。
そろそろ離れるべきかな。
ユイが今どんな顔をしているかも見たい。
「ユイ、すごく素敵だったよ」
「はい……わたし幸せすぎて死んじゃいます……」
ユイは目がとろんとなっている。
紅潮したほっぺたが可愛らしい。
よし、もう1回しよう。
「ひゃう……んっ……」
これはやばい……癖になりそうだ。
何度しても飽きそうにないぞ……。
ユイ依存症になりそうだ、というかなりたい。
「ユイ、君が好きすぎて僕はどうにかなりそうだよ」
「わたしもです……ご主人様が好きすぎて……もうどうにかなっちゃいました。わがままを言わせてください。ご主人様とこれからもずっと一緒にいたいです」
「もちろんだよ。そのわがままはずっと聞き続ける。だからずっとずっと僕と一緒にいてね。そして何度でもわがままを言ってね」
「はい……ではあの……もう1度お願いします。んっ……」
僕だけでなくユイもキスが癖になってしまったようだ。
うーん……2人きりの時は常にしていたいぞ。
いやいや……こんなことばっかりしていてはだめになっちゃう。
「ユイ、今日はこれで終わりにしようか。また今度2人きりになったらしようね」
「はい、楽しみにしています。この気持ちをずっとためておきますね。リリィさんが居づらくならないようにしないといけませんし」
「うん、リリィは大切な仲間だからね。あ、でもさっきリリィがさ……好きなだけいちゃついていいよって言ってたんだ。あれは本心かな?」
そう言った時のリリィがユイを見ていた顔……嘘には見えない。
でもさすがにずっといちゃついてたら嫌がるだろうな。
「リリィさんもご主人様とこんな関係になりたいと思っているはずなんですよね。だから目の前でしてると悲しむと思います」
「いやいや、それはないってば」
「ありますよ。ご主人様は自分の魅力をよくわかっていないからそう思うんです。リリィさんはわたしとご主人様のために気持ちを抑えてるんですよ」
うーん……まさかそんなことありえるのかなあ。
ユイは僕が助けたことで惚れてくれた。
リリィも僕が助けたことになるから……ありえるのかも?
もしそうなら困ったな……僕はユイのことばっかり頭にあってそんなこと考えてなかったぞ。
「ねえユイ……もしそうなら、僕ってリリィにすでにひどいことしてるってことにならないかな? すでにリリィはつらいってことにならない?」
なにかおかしな質問をしている気分だ。
自分がモテていることを前提に話すってこっ恥ずかしいぞ。
「そうですね……つらいかもしれません。でもそれを解決する方法はありますよ」
「なんだろう?」
「ご主人様がわたしとリリィさんを同時に愛してくだされば解決です。3人でこうやって楽しく過ごせば気を遣う必要もありません」
えと……それは三角関係的なあれかな?
以前もこんなこと言われて同じことを思った気がする。
そんなまるでハーレムみたいなこと……僕には向いてないよ。
というかユイはそれでいいのだろうか。
「えっと……ユイ、僕はユイをずっと大切にするって言ったよね?」
「はい! とても嬉しかったです。ご主人様が嘘をつくはずもないので、わたしはこれから先……一生幸せになれそうです」
「じゃあさ……僕が他の女の子と仲良くしてたらユイをないがしろにしてるってことにならないかな?」
「え? どうしてでしょう? ご主人様ほどわたしを大切にしてくださる方なんてこの世にはいないですよ」
ううむ……感覚の違いなのかな。
ユイは自分が奴隷だと思ってるから、僕を独り占めしようという思考にならないみたいだ。
なんていうか不満だ……ユイには僕を独占したいと思ってほしいのに。
でもこれって、もしかして僕のわがままなんだろうか?
これを言うとユイが困った顔になるのが想像できてしまう。
「あの……ご主人様? どうかしたのでしょうか……なんだか悲しそうに見えますが」
「え? いやあの……悲しくなんてないよ。ユイが好きすぎてどうしようもないなって考えてたんだ」
「そ、そうですか……照れちゃいます……」
よし、今はまだいいや。
ユイが幸せを感じているのは間違いないんだ。
僕が一番に願うのは自分の幸せではなくユイの幸せ。
2人で幸せになる方法をゆっくり考えていこう。
リリィが僕を好きというのがもし本当だった場合……どうしようかな。
どうかユイの勘違いであることを願う僕であった。
「そうだ……ご主人様、リリィさんになにかプレゼントをしませんか?」
「そうだね、なにがいいだろう。2人で一緒に考えようね」
「はい!」
まあそれもなるようになる……といいな。
今はリリィにも喜んでもらうことを考えるとしよう。
リリィの幸せは僕とユイの幸せなんだ。




