21.魔法陣の中
目的である魔法陣も壊したし、出てきた敵も倒した。
あとは何をするべきか。
「ご主人様、魔法陣は無事に消えましたか?」
「たぶんね。手順通りしたから間違いないと思うよ」
「でも嫌な感じは消えてないかも……」
「え?」
勘の鋭いというか、自然の空気を敏感に感じ取れるリリィがそう言うと不安になる。
杭に囲まれた魔法陣……上に塵が積もってよく見えないな。
足で塵を払ってみようかな。
魔法陣のあった場所に足を置くと……急に何かに足をつかまれた。
そして引っ張られる。
「うわあああああああっ!」
「ご主人様っ!?」
ユイが素早く僕の手をつかんでくれたが、引っ張る力が強すぎる。
僕とユイは魔法陣の中? に引き込まれてしまった?
次の瞬間、激しい痛みが僕の体を襲う。
まるでどこから落ちたかのような痛みだ。
「てやあああっ! ご主人様、無事ですか?」
見ると、ユイの前には赤いスケルトンがいる。
スケルトンの攻撃から僕を守ってくれたようだ。
もしやさっき僕の足を引っ張ったのはあのスケルトン?
「なんとか大丈夫……ユイは怪我はない?」
「はい! すぐにこの敵を倒しますね。てええいっ! 退魔の陣!」
先ほどスケルトンを退治した魔法がまた活躍したようだ。
スケルトンが光に包まれて消えていき……え? そのまま現れたぞ。
「あれ? 効かない……」
ユイは魔法が不発になったことに驚いている。
今のって……まるで一旦消してすぐに現れたような?
「ご、ご主人様。さらに増えました」
やばい、さっきと同じようにスケルトンが3体となった。
今は倒すことを考えなくては。
「ユイ、倒せそうかな?」
「えっと……強くはないのですが、この剣では骨が斬りきれずに……すぐに再生されちゃいます。なにか指示をください」
ううむ……たしかに剣では骨のつなぎ目を斬ってばらすのが精いっぱいみたいだ。
なんとか骨を砕く方法を考えようか。
周りになんとか抱えられそうな石があるな。
「ユイ、少しずつでいいからばらして遠くに飛ばして。僕が叩きつぶしてみるよ」
「お任せください! てやあああっ!」
ユイの剣が鋭さを増し、スケルトンの1部分をはじきとばす。
やはり僕が細かな指示を出すと強くなるのかな。
さて、床に転がってぴくぴくしている骨の上から石を投げつけてみよう。
お、いい感じに粉々になったぞ。
こうすると動かなくなるようだ。
「ユイ、上手くいきそうだ。そのままよろしく」
「はい!」
ユイとの共同戦闘により骨は少しずつ減っていき、やがてスケルトンはいなくなった。
しかし砕けた骨は消えずにそのまま残っていて、なにか不気味だ。
「ふう……さすがはご主人様です。助かりました」
「ユイの強さのおかげだよ。でもこのモンスター、倒したのに消えないね」
「そうですね……それと気になることがあるんです。今戦った3体のモンスター、さっき戦ったモンスターと同じでした。見覚えのある傷がありましたので」
うーん? さっきはユイが魔法でどこかへ消したんだった。
あれはもしかして魔法陣の中に戻す魔法だったのかな?
さっき魔法を使った時、消えた瞬間に現れたのもそれで説明が付く気がする。
これをユイに言ってみた。
「なるほど……さすがご主人様です。だとするとここはやはり魔法陣の中なのでしょうか?」
「そうだね……僕たちはどこから現れたんだろう?」
ここは石でできた部屋のようだ。
綺麗に四角くなっていて、壁も石を人工的に積み上げたような感じだ。
中心には階段のように積まれた石があり、その最上段の真上……天井に魔法陣が見えた。
さっきはあそこから転げ落ちてきたのだろうか?
「おそらくあの魔法陣でしょうね。戻れるでしょうか……?」
「行ってみよう。ユイ、手をつなごうね」
「はい、絶対離しません」
ユイと手をつないで階段を上り、天井にある魔法陣に触れてみた。
しかし何も起こらない。閉じ込められた?
「ここからは出られないのかな。ユイ、なにかわかる?」
「わたしにはさっぱり……。あ、ご主人様……失礼します」
ユイが急に抱きついてきた。
ど、どうしたんだろう?
「敵が来ます。急いで階段を降りましょう。気配を遮断する魔法をかけています」
あ、ドラゴンに初遭遇した時にも使ってた魔法か。
敵が来たなら急いで隠れた方がいいな。
ユイと抱き合ったまま部屋の隅でじっとしていると、どこかからスケルトンが現れた。
そして階段を上って魔法陣の元へと行く。
そこでなにかを念じるようなポーズになるスケルトン。
すると……魔法陣が光り出した。あれで外に出られるのだろうか?
スケルトンが通ろうと手を伸ばすと、手だけが魔法陣の向こうに消えた。
しかし、何故かそれ以上進めないような感じでじたばたしているスケルトン。
やがてあきらめたように部屋を出ていった。
そして少しすると魔法陣の光は消えた。
「あの魔法陣壊れてるみたいだね。手だけ通れたから、僕は引っ張られたみたいだ」
「そうですね。でもどうしましょうか……。リリィさんがきっと心配しています」
リリィまで落ちなくてよかったけど……1人でさぞかし不安だろうな。
あ、手だけ出せるなら手紙を渡せないかな。
さっそく手紙を書き、次にスケルトンが来ないか待ち構えてみる。
しばらくするとスケルトンがやってきて、同じように魔法陣を起動させ……外に出られないのであきらめて去っていった。
よし、今のうちに手紙をっと。
想像通り、手紙だけ外に出せた。
あとはリリィが気づいてくれるといいのだけど……。
手紙には、『僕たちは無事だけど魔法陣に閉じ込められた。これを冒険者ギルドに伝えて助けを呼んで』と書いてある。
「ご主人様……助けは来るでしょうか?」
「どうだろうね。僕たちも出る手段がないか試した方がいいかも。ちょっと探索してみたいんだけど……ユイ、この中は危険そうかな?」
「いえ……わたしは絶対にご主人様を守ります。でもなにがあるかわかりません。こうやって気配を隠したまま探索しましょう」
「わかった、そのままお願いね」
ユイが僕に抱きついてるという嬉しい状態のまま、僕は地図を書くべくメモを取りだした。迷わないようにしないとな。
部屋を出ると、次も四角く大きな部屋だった。
正面と左右に部屋を出る通路があるようだ。
スケルトンや他のモンスターもうろついている。
「ユイ、左に見える通路に向かうよ。この魔法って長い時間使ってて疲れないのかな?」
「魔力が少しずつ減っていきますが、しばらくは大丈夫と思います。あの……頭をなでていただければもっとがんばれるかもしれません……」
「うん、しっかりがんばってね。ユイだけが頼りなんだ。よしよし……」
「ふにゅう……。あ……気分ではなく実際に魔力が回復するのを感じます。ご主人様の素晴らしい力です……」
僕の言葉と頭なでなでで魔力が回復?
それが本当なら、ユイはずっと魔法を使い続けられるということだろうか?
というわけで、僕に抱きついているユイの頭をなでなでしながら移動。
気分は肝試しに来たバカップル。
次の部屋に来ても同じような構造の部屋だった。
昔やったゲームに出てきたダンジョンみたいだな……。
部屋には仕掛けがあるわけでもなく、モンスターがうろついているだけだが。
でも全然気づかれないので、なんだか余裕が出てきた。
「ユイ、これすごいね。まるでモンスターがいないみたいだ。ユイと2人っきりの気分だよ」
「は、はい……。そう考えると照れちゃいます。そして幸せです。あ、こんなことを考えてたら外で心配しているリリィさんに悪いですね」
「そうだね、早く出て安心させてあげないと。でもユイ……せっかく2人きりなんだからさ。こないだみたいに僕を名前で呼んでよ」
ユイが僕を名前で呼んでくれたのは2日前の1度っきり。
不謹慎ながら、今は絶好のチャンスである。
「周りにモンスターがいるから恥ずかしいです……」
「じゃあ見えないようにしてあげる」
「ひゃうう……」
ユイをしっかりと抱きよせ、僕の胸に顔をうずめさせてみた。
今日の僕は積極的である。
「うう……苦しいでふぅ……ごしゅ……アルぅ……」
「あ、ごめんね。強くしすぎちゃったよ。でも名前呼んでくれたね……もう1度お願い」
ユイの顔に手を添え、目を見つめる。
ユイは恥ずかしそうに目をそらし、僕の胸に顔を自らうずめてきた。
「1度言ったらしばらくは言えません……。恥ずかしすぎて魔法が解けちゃいます」
「それは残念。じゃあ次は他の言葉が聞きたいな。ユイ、大好きだよ」
「はい……わたしもご主人様が大好きです」
幸せだ……。
魔法陣の中に閉じ込められる大変な状況なのに、そんなことお構いなしになってしまっている僕たち。
さあ、やる気を充填したところで探索を再開だ。




