02.ユイの能力
さて……ユイという奴隷を助けることはできたけど、彼女は傷だらけでまともに歩くこともできない。なんとかしてお金をためて、服とか薬を買ってあげたい……。
「ユイ、お金を稼ぐ方法って知ってる?」
「えっと……? 仕事を探すには冒険者ギルドと聞いたことがありますが……」
ユイは困ったような顔で答えてくれた。
なんでそんな質問をされたのだろうといった表情だ。
奴隷管理ギルドがあることにはびっくりしたけど、冒険者ギルドってのもあるんだなあ。
モンスターと戦ったりするんだろうか?
そういえば僕って武器もなければ戦う力もないな。
神様がなにか能力をくれたらしいけど、それがなにかもわからない。
ユイは足が不自由で、働ける仕事も限られるだろう。
しばしユイの目を見つめて思案する。
「あ、あの……ご主人様?」
「あっと、ごめんね。ユイの目が綺麗だから見入っちゃったよ」
「き、綺麗……です……か?」
「そうだよ。嫌でなければしばらく見せてほしいな」
「い、嫌だんて……わたしは命令であれば従うまでです」
命令ではなくお願いなんだけどなあ。
奴隷とはそういうものなのか……少し切なくなる。
ユイ……この子を幸せにするにはどうしたらいいだろうか。
すると不思議なことが起きた。
僕の頭の中になにか情報が流れ込んできた?
《ユイの潜在能力》
《適正S 守護の力……大切な人を守る力。想いが強ければさらに強化》
《適正A お嫁さん……家事などをこなし、尽くす能力》
《適正B 裁縫師……裁縫により芸術作品を編み出せる能力》
《高い適性のものを3つ表示中。覚醒させたい能力をひとつ選択可能》
潜在能力?
なにかすごそうな力と、なんとも可愛い能力がある。
そして覚醒させたい能力をひとつ選ぶ?
これは……神様がくれた僕の力なんだろうか?
これを選べばユイの能力がすごくなるってことなのかな。
ひとつ選んでみるべきか。
適正ってのは……Sの方がいいのだろうか?
お嫁さんとか可愛い能力も捨てがたいが、守護の力がなんとなくすごそう?
というわけで守護の力を覚醒させるべく念じてみよう……。
《ユイが守護の力を発動。変更も可能》
これでいいのだろうか?
よくわからないけど確認してみよう。
「ユイ、なにか感じる?」
「えっと? あの……恥ずかしいです」
特に何も変化はないようだ。
いや、なんだかユイの顔が赤い。
というか今の体勢って……まるで口説こうと見つめているかのようだ。
「あ、長々と見つめちゃってごめんね……」
「いえ……」
さて困ったな……。
とりあえず冒険者ギルドへ向かってみようか。
「ユイ、冒険者ギルドの場所を知ってる? 実は僕この街初めてなんだよ」
「はい、ご案内いたします」
「じゃあまた肩を貸すから一緒に歩こう」
「そ、そんなのだめです……。1人で歩けますので」
「いいからさ、さっきも言ったけどこれは命令だよ」
「はい……」
ふう……ほんとは女の子に命令とかしたくないんだけどなあ。
肩貸してよ、とユイから気楽に言ってくるような関係になりたい……。
「あの……ご主人様? どうしてわたしを助けてくださったんでしょうか……」
「そうだね……君を幸せにしたいからかな」
「し、幸せに? それってあの……もしかしてわたしを……」
ユイが真っ赤になって慌てている。
あ、今の僕の言い方だとまるで嫁に貰おうとしているよう?
お嫁さんの才能があるらしいし、結婚を夢見る少女なのかも?
しかし、赤くなったユイの顔はすぐに落ち込んだ表情を見せた。
「ってそんなわけないですよね……。わたしなんて醜くて何も特技もない奴隷ですし」
「いや、ユイは醜くなんてないよ」
「でもわたしのひどい顔を見た人はみんな目を背けます。まともに顔を見てくれた人なんてご主人様くらいで……あ……」
そう言ってユイはおそるおそる僕の顔を見つめてきた。
僕は目をそらさず答える。
「他の人は知らないけど、僕はユイを醜いなんて思ってない。むしろ可愛いと思ってるよ。信じてくれるかな?」
「わ、わたしが可愛い? そんなまさか……でも……信じます……」
「うん、僕はユイに嘘をつかないって約束するから信じてほしい。それとユイは自分に特技がないと思ってるだろうけど、すごい力があるはずなんだよ」
「えっと? それはどんな力なのでしょう」
「それはね……」
なんて説明しようかと考えていると、3人の男が僕たちの前に立ち塞がった。
「おうおう兄ちゃんよう。そいつを奴隷にしてやるなんてやさしいねえ」
「まったくだ。奴隷以下になったら俺らが可愛がってやるつもりだったのによ」
「もしかしてこの女に惚れたんじゃねえの? だったらよ、今すぐそいつを捨てなよ。俺たちと一緒に楽しもうぜ」
広場でユイに酷いことをしようと狙っていた男たちだ。
それを僕が邪魔した形になったから逆恨みしてるのだろうか。
ユイは怯えている……僕が守らなきゃ。
「この子はもう僕の大切な人です。あなたたちには関係ありません」
「ご主人様……」
「もしかしておめえ、ほんとにこの醜いガキに惚れちまったのか?」
「奴隷に恋するたあみっともねえやつだな」
なんとも勝手なことを言ってくれる。
だが……僕はともかくユイを馬鹿にする言葉は許せないぞ。
「女の子に対して醜いなんて酷いことを言うな。取り消せ!」
「あん? 醜いやつに醜いって言って何が悪いんだ。お前本気でおかしいぞ」
「ユイが傷つくから許せないって言ってるんだ」
「ったくもう……うぜえやつだな。からかうだけで済ませようと思ったが、痛い目にあわせてやらなきゃわかんねえようだな。くらいなっ!」
男の1人が僕に殴りかかってきた。
やば……僕喧嘩なんて弱すぎてできないぞ。
「ご主人様っ!」
「なにっ?」
ユイが僕の前に立ち塞がり、男の拳を軽々と受け止めていた。
しかもさっきまで引きずっていた足でしっかりと立っている。
これがユイにあった潜在能力……守護の力?
「な、なんでこんなひょろっちいガキが俺のパンチを止められるんだよ……」
「ご主人様に手を出さないでっ! えええいっ!」
「ぬおおっ!?」
信じられないことに、ユイの倍はあるであろう男の巨体が遠くに吹っ飛んだ。
ユイがつかんで投げたようだ。
男は気絶したのか、そのまま動かなくなる。
「こ、このガキが何をしやがったあ!」
「くらいやがれえっ!」
残る2人の男がユイに殴りかかってきた。
それもあっさりと受け止めて放り投げるユイ。
なんて強いのだろう……惚れぼれしてしまう。
当のユイは唖然とした顔となっている。
「あれ? なんでわたしこんなことが……」
「すごいよユイ、助けてくれてありがとう」
ユイは自分がしたことを信じられないといった表情だ。
さっき嘘はつかないって約束したし、正直に言っておくか。
「さっきユイにはすごい力があるって言っただろう。それだよ」
「え? でも……どうしていきなり」
「えっと……なんて言えばいいのかな。僕にはね、人の才能を見抜いて発揮させる力があるみたいんだ」
「そ、そうなのですか? じゃあえっと……あれれ?」
ユイは道端にある大きめの石を持ち上げようとしているが、さっき投げた男より遥かに軽いはずのその石は持ち上がらないようだ。
「ユイの力はね、大切な人を守る時に発揮されるんだ」
「大切な人……ご主人様……」
「僕を大切な人と思ってくれているようで嬉しいよ」
「だって命の恩人ですし。それに可愛いって……」
ユイはまた真っ赤になっている。
恥ずかしいから言わないけど、照れているユイは可愛い。
僕に対して照れているんだと思うと嬉しいし……。
「あの……わたし精一杯ご主人様をお守りします!」
「うん、よろしくね。それよりユイ……足は大丈夫なの? さっきから普通に歩いてるよ」
「あれ? 不思議ですね……。ご主人様を守ろうと思ったら自然と……」
僕を守るためには、足がちゃんと動く必要があるからだろうか?
だったらこの能力は素晴らしいな。
「えっと……ご主人様。足が疲れていませんか? 私の背中に乗ってください」
「え? そんなのだめだよ。女の子におんぶされるなんて……」
「なんとなくできそうなんです。わたしの能力をちょっと試させていただけませんか?」
「そういうことなら……」
僕はしゃがんだユイの背中に覆いかぶさるようにしてみた。
僕は細身だが、小さなユイより遥かに重いだろう。
すると、ユイは僕を背中にしょって軽々と立ち上がった。
「ご主人様すごく軽いです! このまま冒険者ギルドへ行きましょう!」
「ちょ、ちょっと待って……。さすがにそれは恥ずかしいから」
「あ、ごめんなさい……。わたしってば調子に乗って……」
「いいんだよ。だって僕のためにしようとしてくれたんだから」
「はい……」
とりあえず、神様にもらった僕の能力が素晴らしいものだとわかった。
ユイはきっと僕を守ってくれるだろう。
男が女の子に守られるなんてみっともない?
そんなことはない。だって僕は守るより守られる方が好きなタイプだ。
それに、僕を守ることでユイが自分に自信を持ってくれるかもしれない。
ユイとこの世界でうまくやっていけるといいな。