19.3人一緒の夜
僕たちは仲良く手をつないで宿屋へと向かっていた。
「ふう、やっと休めるんだ。冒険って結構疲れるんだな」
「リリィ、お疲れ様。あ、聞いてなかったけど、自然と会話したりすると疲れるのかな?」
「うん、魔力なのかな? ちょっと疲れちゃうんだ。あと力を借りる時もあたしの魔力を使ってもらうから。もっと仲良くなってくれたら消費も少なくなると思うんだけど……」
なるほど……僕が力を覚醒させたとはいえ、まだまだ伸びしろはあるようだ。
僕がリリィにできたのは、力を使うきっかけだけなのかな。
考えてみるとユイだって出来ることが増えていってるんだ。
リリィの今後に期待しよう。
あと……そういえばリリィは夜に街を歩いて衛兵に捕まってたんだったか。
たいして休めてないのもあるかもしれないな。
今日はしっかり休んでもらおう。
「リリィ、別の部屋で休む?」
「え? でも……ひとつの部屋のほうが安く済むんだろ?」
「そうだけど、余裕あるから問題ないよ」
「えっと……でも……」
別の部屋のほうが喜ぶと思ったのに、そうでもないのかな。
そんなリリィを見てユイが何か思いついたようだ。
「ご主人様、さっきリリィさんにご主人様のマッサージは気持ちいいって話をしたんです。きっとリリィさんはしてほしいんですよ」
「な! 違うって……」
さっきの買い物の時に話をしたのかな。
女の子同士仲良くなっているようだ。
「リリィ、どうする? 好きな方で決めていいよ」
「じゃああの……一緒で……」
「うん、わかった」
正確な理由はわからないけど、しつこく聞くと嫌がるだろう。
宿屋で2人部屋を借りて3人で入室した。
そしてすぐに食事をすませた。
「じゃあ水汲んでくるからね。今日も1人でいいからゆっくりしてて」
「あ、さすがにそれは。リリィさん、どちらがご主人様にお供するかじゃんけんしましょう。もちろん勝ったほうが行けるんですよ」
「なんでだよ……。行きたいならユイが行けよ」
「え? 譲っていただけるのですか?」
ユイはすごく不思議そうにリリィを見つめている。
僕のことを尊敬してくれているユイは、他の人も僕のことを好きなはずと勘違いしてるのだろうな……。
というわけでユイと水汲みに行った。
「ご主人様、リリィさんがちゃんとついてきてくれて嬉しいです」
「そうだね。僕も嬉しいよ。ユイはリリィと仲良くなれたみたいだね」
「はい、年上ですけど見た目は妹みたいで可愛いです」
「ちょっと生意気とか思ったりしない?」
「全然ですよ。あのくらいは許容範囲です」
ユイは楽しそうにそう言ってくる。
昨日のように不満を我慢していることもなさそうだ。
そういえば……ふとユイの言っていたことを思い出した。
父親違いの妹にいじめられてたんだったかな……。
それを考えると、リリィはさぞかし可愛い部類だろう。
こんな感じでリリィについて話しつつ、水汲みは終わった。
部屋に戻るとしよう。
部屋に戻ると、リリィが緊張した顔で立っていた。
どうしたんだろう?
「あの……おかえり……」
「ただいま、どうかしたの」
とりあえずたらいを床に置いてと……。
リリィは手を後ろに回した状態でもじもじしている。
やがて決意したように、なにかを僕たちに向かって差し出してきた。
「これ、一緒に食べよっ!」
リリィが手に持っているものはお菓子だろうか?
小さな円形のケーキのような見ためで、なんとなく甘い香りが漂ってくる気がする。
「わあ、いい香りですね」
「リリィ、これどうしたの」
「あの……2人によくしてもらったお礼がしたくて買ったんだ」
「そっか、おいしそうだね。もしかしてこれを買うためにお小遣いがほしかったの?」
「そ、そうじゃないよ。さっきたまたま思いついただけだから……」
リリィは顔を真っ赤にして答える。
なんにせよ、これは嬉しいサプライズだ。
「じゃあ食べようか。あ、3つに切ってあるんだね」
「うん、切ってもらった。えと……買った後で教えてもらったんだけどさ、これを一緒に食べると仲良くなれるんだってさ。ま、そんなの嘘だろうけど」
「そっか、でも僕はそれを信じたいな」
「わたしもです。でも……わたしたちってすでに仲良しですよね」
「な、なに恥ずかしいこと言ってるんだよ」
うろたえつつも否定はしないリリィ。
やはりちゃんと僕たちのことを仲間だと思ってくれているわけだ。
というわけで、そのお菓子は3人で仲良く食べた。
小さいけど、甘くて美味しい……。
お腹も心も満たされる味だ。
食べ終わって体を拭く時間だ。
僕は後ろを向いて、ユイとリリィに先に体を拭いてもらうこととした。
「さあリリィさん、服を脱ぎましょうね」
「な、恥ずかしいって。この部屋には男もいるんだぞ!」
「大丈夫です。ご主人様は約束を守る方なので見たりしません」
「そ、そうだとしても恥ずかしいんだよ」
しばらく騒いでいたが、やがて静かになった。
リリィはおとなしくユイに体を拭いてもらっているのだろう。
僕はこの間、冒険者ギルドでもらった冒険案内を少し見ておくことにした。
「リリィさん……服の上からはわからなかったけど大きいですね」
「ちょ! そんなとこ触るなよ!」
「いいじゃないですか、女同士ですし。うらやましいです……」
「こ、こらぁ……。そこに男がいるんだから……」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃない!」
楽しそうで何より。
お、自分にはどんな戦い方が向いているかわからない方のために……冒険者ギルド公認の占い屋が診断します…… というのがある。
ちょっと見てもらいに行こうかな。
僕はユイやリリィの才能は見抜けるけど自分のはわからないんだ。
占いが当たるのかわからないけど、僕の持ってる能力と同じようなことをこの占い師さんはできるのかも。
「今度は逆だ。ユイも脱がせてやるー」
「はい、好きなだけ見てください」
「嫌がらないのかよ……って……これ大丈夫なのか?」
「はい、問題ありません。お嫌でなければ拭いていただければ」
「ん……嫌じゃないに決まってるだろう」
リリィはユイの身体の傷やらに驚いたのだろう。
この会話からもわかるように、リリィは僕たちとうまくやっていけるだろうなと感じる。
「さあ、次はご主人様ですよ。リリィさん、行きましょう」
「ま、待て。服着なきゃ……。ユイも着ろよ」
「普段はこのままですよ」
「なに! もう裸見せてるのか」
「はい」
「それはよくないぞ、ちゃんと着るんだ!」
うーん、にぎやかでいいなあ。
ユイと2人きりはすごく楽しかったけど、緊張しまくってたからなあ。
リラックスできる感じでいいかも。
「さあリリィさん、一緒にご主人様の体を拭きましょう」
「ユ、ユイだけでいいだろ。その方がアルも喜ぶよ」
「2人の方が喜ぶと思いますけど……。ご主人様、そうですよね?」
それを聞かれても……どう答えればいいのだろうか。
どちらかと言えば、ユイがいい。
ただ、2人に一緒に拭いてもらうというのは、男としてかなり嬉しいかもしれない。
はあ……ユイ一筋でいきたいのにこんなことを考えてしまう自分が悲しい。
「あれ? 聞こえてますか? ご主人様ー」
「え? あ、うん。お任せするよ。好きにして」
優柔不断な僕は成り行きに任せることにした。
結果……2人が拭いてくれることになったようだ。
「2人ともありがとうね」
「すごい能力をくれたからそのお礼だ。今日だけ特別だからな……」
「リリィさん、きっと毎日が特別な日になりますよ」
「それはユイだけだろう……」
僕は嬉しさたっぷり、申し訳なさちょっぴりで体を拭いてもらうのであった。
その後、マッサージをしてあげようとしたのだが……リリィは頑なに嫌がってしまった。
その流れでユイも遠慮してしまった。
そして、本日最後のイベントはベッドの振り分けである。
いろいろ協議した結果、ユイとリリィが同じベッドで寝ることになった。
ユイと一緒に寝れないのは残念だけど、この形が1番平和だろう。
今日は緊張せずに眠れそうだ。
明日は寝坊せずに起きられるだろうなと考えながら、僕は眠りに落ちた。




