16.早すぎる捕獲
朝目覚めても、リリィは戻って来ていなかった。
どうやら完全に逃げたようだ。
とりあえず朝食を食べ、奴隷管理ギルドへと向かった。
なにかあった時のために、奴隷が迷子になったと伝えておくわけだ。
ギルドの受付でそれを伝えていると、昨日対応してくれた職員が現れて話しかけてきた。
「アルバートさん、ちょうどいいところに。探しに行こうと思っていたんですよ」
「なにかあったんですか?」
「昨日売った奴隷が逃げ出しませんでしたか?」
「あ、実は迷子になって……今捜索願を出そうと来たんです」
僕が受付の人を見ると、そうですねと頷いてくれた。
「迷子……でしたか。実は昨晩街の門を抜けようとしていまして、不審なので衛兵が捕えたのです」
「そうですか、そんなところに……。ところで捕まえる時に抵抗とかしましたか?」
「あ、おとなしく捕まったと聞きましたね。そう考えるとやはり迷子だったのですかね」
「そうなんです。では会わせてもらえますか?」
「はい、お待ちください」
うーん……あっさり捕まったか。
リリィの能力は使うのが難しかったってことだろうか?
まあ……大事にならなくてよかった。
少し待つとリリィが連れてこられた。
ギルドの人にお礼を言って、外へ出る。
昨日のように、ユイを中心として3人で手をつないで歩くことにした。
さすがに今逃げられるのは嫌だ。
「リリィ、君の能力は逃げる役に立たなかったのかな?」
「というか……逃げたこと怒らないのか?」
「逃げてもいいって言ったのは僕だしね」
「変な奴……。逃げようと思えばこの力で出来たと思うけど……」
「どうしてしなかったの?」
「あんたが人に怪我させちゃだめって言ってたから……」
そんなことを言ったっけ?
言ったのは……昨日リリィが部屋を出て行って、ユイと2人きりになってからだったような……。
まさか立ち聞きされてたんだとしたら……いろいろと恥ずかしいわけだが。
「まあいいや……。それより逃げたいんだったら協力するからさ、とりあえずは僕たちと行動してようよ」
「そうですよリリィさん。ご主人様に任せておけば間違いないんですから」
「だってあんたらといたらさ……」
「何か嫌なの?」
「あたしお邪魔虫じゃんか……」
「え?」
お邪魔虫って……もしかして僕とユイに気を遣ってくれてるんだろうか?
「昨日はあんたらを2人きりにしようとして部屋を出てった。一応逃げる気はなかったんだ。でも……部屋に戻れないような空気になっててさ……仕方ないから外に行ったんだよ」
そう言われると確かに、昨日はユイといちゃついていた感じだったかもしれない。
部屋に戻りにくい空気を作っちゃってた?
「ごめんねリリィ……気を遣わせちゃったんだね。でも気にしなくてよかったのに」
「気にならないわけないだろ……。なんだよあの甘ったるくてこっぱずかしい空気は。今だってそうだよ。あたしがいなきゃ2人で仲良く手をつないで歩いてたはずだろ」
これは弱ったな……悪いのはこの状況を望んだ僕だから、どうしたらいいかわからない。
僕が何も言えず悩んでいると……ユイがなにかを思いついたようだった。
「ご主人様、いいことを思いつきました。リリィさんもこの中に入ればいいんですよ。1人だけのけものにされた気分だからそう思っちゃうんです」
「えと……どういうこと?」
「わたしはリリィさんと仲良くしていくつもりですし、ご主人様もリリィさんを大切に思っています。あとは……リリィさんがご主人様とわたしを好きになってくだされば問題ありません」
えと、それは三角関係的なあれ?
いやあの……僕はあんな関係になるのはユイとだけでいいのだけど……。
ユイには独占欲がないのだろうか?
ないんだろうなあ……ユイらしいけど少し悲しかったり。
「な、なに言ってるんだよ。あたしはあんな空気の中に入りたくないぞ。それにあたしがア……こいつのことを好きになるってなんの冗談だよ」
今僕のことを名前で呼ぼうとしてやめたっぽい。
やっぱり昨日の会話を立ち聞きしてて、そのせいで呼び辛くなったのかな。
「ご主人様と一緒にいれば、間違いなく好きになってしまいますよ。ご主人様はそれだけの魅力を持っておられますから」
「仮にそうなったとしても、あたしは邪魔者になりたくないってば……」
「そんなことはありません。いいですか、ご主人様は……」
「あー、わかった! ちゃんと一緒に行動するから、もうその話は無しにしてくれ……。なあ、あんたからも何か言ってやってくれ」
リリィはかなり困っている感じだ。
同じように僕も困ってるんだけどさ。
ユイになんと言えばいいのやら。
「ユイ、ありがとね。ユイの説得でリリィは一緒に来てくれるってさ」
「はい! すべてはご主人様のためにです」
「そればっかり言うんだな……」
ふう、これで解決なのだろうか?
とりあえず、リリィが居心地が悪くなるような行動は慎むとしようか。
宿は別の部屋にするのもありかな。
では、3人でする初仕事を探しに行くとしようかな。
冒険者ギルドへ出発だ。
ギルドへ着くと、受付の人にすぐ話しかけられた。
例のドラゴンの件だろうか。
「お待ちしていました。いただいた情報を精査できましたので、まずはこちらをお受け取りください」
「あ、どうも……」
もらえたのは5000Gだった。
これで金欠からは脱出できたようだ。
「あの森に潜むのはドラゴンの幼生ということがわかりました」
「あの大きさで子供なんですね……」
「そうです。街の近くにあのようなものがいては危険ですので、現在討伐隊を編成中です。よろしかったら参加されませんか? 本来はランクC以上の冒険者にしか参加資格はないのですが、発見者なので参加可能です」
「そうですね。いつになるんでしょう?」
「3日後となっています」
とりあえず参加させてもらうことにした。
いい経験ができるかもしれない。
この状況に伴って森の調査依頼がいろいろあるらしいので、今日はそれを受けることにした。あのドラゴン以外に異常が起きてないか下調べをするらしい。
それをきちんとしておかないと、ドラゴン討伐で全滅の恐れもあるとか。
ついでに出発前にギルドの資料でドラゴンについて見ておいた。
どのように強いのか詳しく書いてあったが、僕が興味を惹かれたのは戦利品だ。
ドラゴンの角……様々な病気や怪我を治すと言われている。
それを治療術の触媒に用いれば、ユイの顔の傷痕が消せるのではないだろうか?
もっともそれを手に入れるには、僕らだけでドラゴンを倒す必要があるわけだけど……。
さて、情報も仕入れたし森へと出発しよう。
今日は出るのが遅かったので、時間があまりなさそうだ。
あ、でもその前に武器屋でリリィの装備を買おう。
たしか弓の才能もあったはずだ。
「リリィ、弓を使ったことは?」
「ないよ。練習しようとしたけど、あたし力ないからうまくひけなかったんだ」
「ちょっと練習してみなよ。リリィには弓の才能もあるはずなんだ」
「うーん……あんたがそう言うなら」
「ご主人様の言うことに間違いはないですよ、リリィさん」
「あんたはそればっかりだね……」
ということで、弱い力でも扱えるらしいショートボウと矢筒を500Gで購入。
適当に防具も購入した。
ちょうど昼ごろになったので、お昼ごはんを食べて出発だ。
ユイを中心に3人で手をつないで街を出る。
「帰りが遅くなるといけないから、早足で行こう」
「はい、ご主人様」
「なあ……この手をつなぐのやめないか? あたしは逃げないって約束するからさ」
「だめですよ。こうしてないとリリィさんだけ寂しくなっちゃいます。あ、それともご主人様と手をつなぎたいってことですか?」
「違うって……」
ユイはきっと、リリィが僕らになじめるように頑張ってくれてるんだな。
それもきっと僕のためなんだろう。
効果のほどはわからないけど、ユイが積極的にがんばってくれているのが嬉しい。
このまま任せてみよう。
「どのくらい歩いたらその森に着くんだ?」
「2時間くらいかな」
「2時間もこのままか……。しょうがない、あんたにもらった力を見せてやるよ」
「力?」
リリィは足を止めて目を閉じた。
なにか集中しているようだ。ちょっと楽しみ。
「大地よ……力を貸して……。……うん……ありがとね」
そして目を開けるリリィ。
特に変化はないけど……。
「さあ行こうよ」
「え? なにか変ったのかな?」
「歩けばわかるよ」
「うん……おおおっ?」
歩きだすと、なんか地面も一緒に動いているような……。
普通に歩いているつもりなのに、周りの景色が勢いよく動いて行く。
「大地に移動を手伝ってもらってるんだ。これですぐに着くさ」
「す、すごいんだねリリィ」
「いやいや、これは……」
「ご主人様のおかげですね。素晴らしいですリリィさん」
「ま、まあそういうことだよ……」
リリィの持つ、自然と会話して力を借りる能力。
これはかなり素晴らしい能力のようだ。
僕はリリィが逃げずに、自らの意思でずっといてくれたらいいなあと思うのであった。




