14.ハーフエルフ
奴隷管理ギルドにやってきて説明を聞いた。
主人のいない奴隷は何人かいて、販売もしているらしい。
その中で優秀な能力を持つ者は、定期的に競売にかけられるとか。
さっき見たエルフがいつ競売にかけられるのか聞こうとすると、なにか騒ぎ声が聞こえてきた。
「はなせ、はなせよー! なんでこんなところに連れてこられるんだよ」
「ええい、うるさいぞこの役立たずが。そこで教育を受けろ!」
「やだやだ! 山に帰らせろ!」
「おい、口を塞げ!」
叫んでいるのは少女のようだ。
よく見るとさっきのエルフ?
どうしたんだろうか……。
「なにがあったんでしょうか?」
「とある商人がエルフの奴隷を手に入れて、高く売れると喜んでいたのですが……いろいろ問題が発覚しましてね」
「問題?」
「あの奴隷……エルフではなく人間との間にできたハーフエルフだったのです。しかもエルフのよさを引き継いでいないらしく、魔法の適性がありませんでした。役立たずと判明したので、このギルドで安く引き取ることになったのですよ」
ハーフエルフ……人間とエルフの仲が悪いことを考えると、あの子はすごい差別を受けるのではないだろうか。
でも安く買えるのであれば都合がいい。
「すみません、僕があの子を買うことはできますか?」
「可能ですが、まだ奴隷としての教育を施していませんよ。その分安くは買えますが、逃げ出す可能性も大いにあります」
「かまいません、いくらくらいなんでしょう?」
「少々お待ちを……」
逃げるか……あの子の能力を覚醒させたら、そうなる恐れもあるな。
まあ、逃げてエルフの里へ帰れるのならそれはそれでいいかな。
少し待つと、先ほどの職員が戻ってきた。
「お待たせしました。能力が低く未教育ということで安くはなるのですが、ハーフとはいえエルフという希少性のため……手数料あわせて12000Gでの販売となります」
僕の手持ちは13000ほどある。
あの子を買っても今日の宿代は残るな。
「では買います」
「ありがとうございます。ではこちらへ……」
個室に通され、ユイの時と同じように様々な手続きをした。
それが終わり、今から連れて来てくれるらしい。
さて、ユイにいろいろとお願いをしておこう。
「ユイ、今から来る子はたぶん暴れたり僕に悪口を言ったりすると思うんだ」
「そうですね、奴隷になり立てですから……」
「それでね、もし僕に対して失礼なことをしてもユイは怒らないでほしいんだ。お願いしていいかな?」
「わかりました」
「ありがとね、ユイ」
ユイの頭をなでておく。
きっと今からユイはストレスをためてしまうだろうから……。
「ひゃうう……」
「もしユイに不満がたまったらさ……そのぶんだけこうしてあげるから許してね」
「こんな幸せなら……何でも構いません……」
よし、ご褒美で釣るのはずるいけどこれでいい。
やがて手枷足枷に拘束されて猿轡もされたハーフエルフの少女がやってきた。
奴隷の証である首輪も着けられている。
髪は緑色のショートカットで、エルフのイメージ通り耳はとがっている。
顔はやはりまだ幼く見えるな。
そばかすがチャームポイントという感じの可愛さだ。
「では確認をお願いします。しばらくこの部屋をお使いください。今日中であればキャンセルも可能ですので」
「わかりました」
そう言って職員は出ていった。
さて、話をしてみようか。
でも拘束された状態は可哀想だ。
「ユイ、あの子の拘束を解いてくれるかな。暴れそうだったら捕まえててね」
「わかりました」
ハーフエルフの少女は予想通り暴れたが、ユイの力に敵うはずもない。
あとは口だけか……。
「ねえ、僕は君にひどいことをしないよ。だからまずお話をさせてくれるかな。口のそれを取るからね」
「うぐぐ……ぷはぁ! そんなこと言っても騙されないぞ。最初だってそう言って連れてこられたんだ」
誰かに騙されて連れてこられたんだろうな。
これで信じてもらうのは難易度が高そうだ。
「信じてくれないかもしれないけどさ、僕は君を助けたかったんだ。君をエルフの里に返してあげたいとも思ってる」
「そんなの嘘に決まってる!」
「ご主人様は嘘をつかないんですよ」
「はん! これが従順な奴隷ってやつか。可哀想に……洗脳されちまったんだろうな」
「それはありません」
それにしても口の悪い子だ。
ユイは僕のお願い通り、怒ったりせずにいてくれる。
しかしどうしたものかなあ……。
「じゃあ信じなくてもいいよ。でも僕らと一緒に行動してくれるかな」
「ふん……逃げたら殺されるって聞いたしな。仕方ないけどそうしてやるよ」
「ありがとう。僕はアルバートで、その子はユイって言うんだ。名前を教えてくれるかな?」
「リリィ……」
「そっか、よろしくねリリィ」
「ふん……」
とりあえずいきなり逃げることはないようだ。
ここでは落ち着かないので、宿へ移動しようかな。
「じゃあ行こうか」
「はい、ご主人様。ところでこの拘束具はどうしましょうか?」
「置いていこう。そんなものいらないよ」
「わかりました。ね、リリィさん。ご主人様は優しいでしょう?」
「ふん……そうやって油断させようとしてるんだろう」
悪態をつくリリィだが、少しだけ安心している感じもした。
あんなものを着けられて歩かされるのはさぞ嫌だったことだろう。
外に出て、ユイにはリリィの手をしっかり握ってもらった。
ユイの反対の手はもちろん僕の手とつながっている。
「な、なんなんだよこの恥ずかしい歩き方は……」
「仲がいいと手をつなぐんだよ。リリィも一緒に行動するわけだし、僕らと仲良くなろうよ」
「な、なにこっ恥ずかしいことを……あたしはそんな子供じゃないんだから……」
「リリィは何歳なのかな?」
「17歳だ、お前らからしたら見た目は子供だけどもう大人の歳なんだぞ」
さすがエルフは若く見えるようだ。
見た目は13歳程度だけど実年齢は17歳か。
あれ? てことはこの子は近いうちに性奴隷にされる恐れもある年齢だったのか。
こういった小さな子を好む奴もいるかもしれないし、僕が買うことができてよかった。
3人で手をつないで宿屋へと歩く。
変な目で見られるが、僕もユイも気にしない。
ただリリィだけが恥ずかしそうであった。
宿で部屋を取ろうとすると、3人部屋はなくて4人部屋となるらしい。
所持金が心もとないため、2人部屋で我慢することにした。
また寝不足になるかもしれないけど……。
では部屋に行こう。
「ベッドは2つか……。あたしは床で寝ることになるんだよな……」
リリィも自分の立場を少しはわかっているようだ。
僕でなかったらそうなっていただろう。
「リリィはそっちのベッド使っていいよ」
「え?」
「僕はユイとこっちで寝るからさ。ね、ユイ」
「はい!」
「そ、そうなんだ……仲いいんだな」
少し呆れたような顔をしつつも嬉しそうにリリィはベッドに寝転んだ。
よし、リラックスしてくれれば話も聞きやすいだろう。
まずは腹ごしらえということで食事をもらってきて食べた。
いつも通りだと次は……。
「ユイ、今日は1人で水汲みに行くよ。リリィを見ててね」
「はい、わかりました。リリィさんにご主人様の素晴らしさをお伝えしておきます」
「え? あんたが行くのかよ……」
不思議そうな顔をするリリィと、笑顔のユイを残して部屋を出ていく。
いったいどんな話をするんだろうか。
気になるけど、立ち聞きするのも失礼だし、水を汲んでくるとしよう。
この3日間ユイと一緒に水を汲んでたから、1人は寂しいなあ。
でもリリィを1人にはできないから仕方がない。
水入りのたらいを1人で持って、自分の力のなさが少し悲しくなる。
部屋に戻ると、予告通りユイが僕について語っていた。
「……というわけで、ご主人様は大変素晴らしいお方なのです。
「ふむふむ……」
予想外なのは、リリィが割と真剣に聞いていたことだ。
ベッドに座って、ユイに向かって身を乗り出している。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「あ、おかえり……あの……」
一瞬、リリィも僕をご主人様と呼んでくるのかと思った。
僕としては、リリィには生意気な口調のままでいてもらいたい。
そのほうがユイにいい影響があるかもしれないと思ってみたり。
「ただいま。2人ともなにか楽しそうだね」
「はい、リリィさんにもご主人様の素晴らしさをわかっていただけました」
「そうなの? リリィ」
「う、うん……。あんたってさ、人の能力を引き出せるらしいじゃんか。わたしに魔法の才能があったら引き出してほしいなって……」
そうか、ユイがなんでリリィを余裕で押さえつけられるほど強いのかを話したんだな。
どうせ僕からも言うつもりだったし、話が早い。
「リリィは魔法を使えるようになりたいの?」
「うん……。あたしはエルフの血が入ってるのに魔法が全然使えなかったんだ。それでバカにされてさ……嫌になってエルフの里を逃げてきたんだ」
「魔法が使えないのはそんなにもつらいことだったの?」
「それだけじゃないさ、ハーフエルフってことでずっとバカにされていじめられててさ……。せめてなにか才能があればよかったのにさ」
ふうむ……エルフは男女差別はしないけど人種差別はするんだな。
仲良くなれるかと思ったけど、少し難しいようだ。
それはさておき、リリィの力を見てみるとしようか。
それがうまくいけば、異世界に来て僕が能力を引き出すのは2人目。
できるかどうかまだわからないけど……ちょっと楽しみだ。




