13.回復魔法は貴重?
次の日の朝、なぜか2人そろって大寝坊してしまった。
遅めの朝食を食べ、開き直って街を散歩することにした。
「ユイ、どこか行きたいところはある?」
「ご主人様と初めて会った場所へ行きたいです」
「あの広場かな」
「はい! あの時以来、わたしがこの街で一番大好きな場所なんです」
捨てられたユイが新しいご主人様を探していた場所。
さぞかし惨めでつらかったと思うのだけど……僕のおかげで一転したようだ。
というわけでユイと手をつないで広場に移動した。
すると……またざわざわしている。
まさかまたユイみたいな子がいたりしないよなあ。
ちょっと誰かに聞いてみよう。
「すみません、なにかあったんですか?」
「エルフが捕まって奴隷になったらしい。今度競売にかけられるらしくて、先にお披露目されるんだそうだ」
「エルフって……どんなのでしょう?」
「知らねえのか? まあ人里に来ることがまずない連中だからな。山奥に住み、とても美しく魔法を使いこなす種族だ。さぞかし高い値で売られるんだろうな」
エルフ……ファンタジーものでは定番だ。この世界にもいるんだな。
美しくて魔法が使えて人里離れた場所に住む。うん、それっぽい。
でも、それを奴隷にしていいのかな?
「エルフを奴隷にして、エルフが怒ってきたりしないんですか?」
「どうだろうな。でもエルフが勝手に人間の領域に来たんだ。悪いのはエルフの方だろうよ」
うーん、なんか勝手な言い分のような……。
ちょっと見ていこうかな。
なんとか助けてあげたくはあるけど……今僕が持っているお金では買えないだろう。
やがて広場の真ん中に、1人の少女が連れてこられた。
ユイより若く見える少女が手足を縛られて口も塞がれている。
あんな晒しものみたいにされて……つらいのか泣いているように見える。
「んー? エルフってわりには美人じゃねえなあ。まだガキだしよ」
さっき教えてくれたおじさんが、がっかりした顔で言う。
たしかに……ちょっと可愛いなとは思うけど、美人という感じではないかな?
「あと数年したら美人になるんじゃないですか?」
「どうだかなあ。それにエルフってのは長寿らしいぜ。あれが大人になるまで10年はかかるんじゃねえのか? あれじゃあたいした値がつかないだろうな。あとはどんな魔法が使えるか次第か」
「そうですか……」
安くなるなら僕にも買えるだろうか。
いや……買うとか物みたいに扱いたくはないけど、そうしないと助けることはできない。
「いくらくらいになると思います?」
「んー……なんといってもエルフだしな。能力次第だけど、最低でも10万Gはかかるんじゃねえかな」
僕の所持金は1万ちょい……。手が届かないな。
どうしようもないし、その子を見ているのもつらいので広場を後にした。
「ユイ、また今度人のいない時に来ようね」
「はい! 楽しみです。でもご主人様……なにか悲しそうですね」
「うん、さっきの子を何とか助けられないかって思ってね」
「わたしの時もそうでしたが、ご主人様はお優しいですね。でも、いちいち奴隷に同情していてはご主人様の身が持ちませんよ」
「そうだね……」
たしかにそうなんだろう。
たまたま目に入ったのがユイとさっきのエルフであって、世の中には可哀想な奴隷がたくさんいるんだ。
その全員を救うには……今の僕ではどうしようもないな。
「ユイ、冒険者ギルドに行こうか。あそこで仲間を探せるかも」
「はい!」
冒険者ギルドには、仲間募集の掲示板もあったと思う。
そこで信頼できる仲間を見つけ、ギルドで力をつけていこう。
その前に……昨日のドラゴンについて聞いてみたが、僕がした調査の精査が終わっていないようだった。
事が大きすぎて時間がかかるらしい。
また明日聞きに来るとしようか。
というわけで仲間募集の掲示板を眺める。
『治療魔法使える方、組みませんか。当方剣士です』
『攻撃魔法使える方募集。4人で組んでいます』
『回復できる方募集。報酬は弾みます』
どうやら魔法を使える人材が人気のようだ。それも回復魔法を求める声が多い。
そうすると、さっきのエルフが魔法を使えれば貴重な戦力になるんだなと感じる。
この掲示板で探すのって難しそうだな。
ユイは強いけど、僕は役立たず。説明が難しい……。
「ねえ君、仲間を探しているの?」
不意に話しかけられた。
目の前には僕と同い年くらいの男が立っている。
そばには奴隷と思しき女性が2人だ。
「そうですね。少人数より多い方がいいかと思いまして」
「良かったら僕と組まないかい? 君って期待の新人だって噂が流れてるんだよ。だからぜひと思ってね」
「そうなんですか?」
「うん、だって大量のモンスターを倒したり、ドラゴンの絵を写して来たそうじゃないか。さぞかし強いんだろうね」
知らない間に僕はちょっと有名になっていたようだ。
それもすべてはユイのおかげだな。
「強いのは僕ではなくこの子なんですよ」
「へえ……君は使える奴隷持っているんだね。うらやましいな。僕の奴隷は弱くてね……やっぱり安物はだめだね」
「そうですか……。では他を当たってください。あなたと組む気はありませんので」
「え? いきなりだねえ……もう少し話して決めてほしいな」
「十分です。ではこれで。ユイ、行こうか」
奴隷を物扱い……そんなやつとは組めないな。
というか……ほとんどの人間がそうであれば誰とも組めないな。
やはりユイと同じ境遇の奴隷を仲間にしていくしかないのだろうか。
「ご主人様、どうして断られたのですか? 良さそうな方に見えましたが……」
「ん? ユイにはそう見えたんだ」
「はい、だってご主人様への尊敬の念が見えました」
「そっか……ユイがそう言うなら悪い人じゃないんだろうね。でもなんとなく合わなさそうな気がしてさ」
「そうですか。ご主人様がそう思うのでしたら、組まなくてきっと正解でしたね」
もしかしたらあの男はまともな方だったのかもしれないな。
やはりこの世界は居心地が悪い。
この後お昼ごはんを食べ、気分転換にユイと図書館へ行くことにした。
ユイは回復魔法の本を読み始めた。
ギルドで募集が多い職業だったからかもしれない。
僕はちょっとエルフについて調べるとしよう。
本に書いてあることはほぼさっきのおじさんが言っていた通りだったけど、ちょっと気になる部分もあった。
遥か昔はエルフとの交流もあったらしい。
しかし、徐々に男尊女卑となっていく人間社会に対し、エルフは男女平等を訴えたそうだ。それで交流は減っていき、エルフたちは山奥にひきこもったと……。
なんとなくエルフとは気が合いそうな気がする。
そうなると……ぜひさっきのエルフを助けたい。
エルフに対しての差別もひどそうだし、きっとあの子はひどい目にあうだろう。
あまり行きたくない場所だけど、奴隷管理ギルドへ行って話を聞いてみるかな。
ユイと一緒にがんばれば、あのエルフを買えるだけのお金もたまるかもしれない、
そのユイは本を一生懸命読んでいる。
読み終わるまで待つか。
ユイを見つめていると、僕の視線に気づいて微笑んでくれた。
「ご主人様……ひとつ試してみていいでしょうか?」
「え? なんだろう? よくわかんないけどやっていいよ」
「はい、それでは……」
ユイがなにか呪文のようなものを唱えている。
そして僕に手をかざすと……なにかあたたかい光に包まれた。
なんだろうこれは……心安らぐ……。
「いかがですか? ご主人様」
「気持ちいい……何をしたの?」
「心がリラックスするという魔法を使ってみました。ご主人様はなにか悩まれているご様子でしたし」
「そっか、ありがとうユイ」
「はう……んんっ……」
ユイの気持ちが嬉しすぎて……ユイの頭を強めになでてみた。
気持ちよさそうなユイの顔にまた癒される。
なんだか……ユイさえいれば仲間なんていらないって気分になる。
「ご主人様、もう少し修行すれば回復魔法も使えるようになりそうです。ご主人様の周りにいる人は全て守り、癒します」
「うん、期待してる」
ユイは僕のために、仲間の選択肢の幅を広げようとしてくれているんだな。
元気も出たし、その気持ちに応えていくとしよう!




