よく考えてみれば慕われている領主だと思います
彼らの表情からすると、クラウス様は随分と慕われているようだ。
そう、慕われているのだ。純粋に。
十人の少年たち誰もが、クラウス様に対して信頼を寄せているのが分かる。
彼らにとって、クラウス様は『信頼できる大人』なのだろう。
それは何だかとても、私のこの体を先生に作らせた張本人であるクラウス様とは、ちぐはぐなようにも思える。
けれどじゃあ、どうであればちぐはぐではないのかと問われると、難しい。
もし私がホムンクルスではなく、どこかから見目がいいというだけでこの城に呼び込まれた少年だとすれば、何がちぐはぐなのかは、はっきりとしている。
ある少年の人生に制限をかける一方で、他の少年たちから信頼を得るというのは、いずれ破綻してしかるべき上っ面の信頼だろう。
けれどそうではない。
そして、本来、私がこうしていること自体があり得ないことでもある。
自分の楽しみのために、人形を持とうとすることが何かを害することであったり、悪であったりすることはないだろう。
それを好む人と好まない人はいるだろうけれど、それだけで非難されるいわれはないことだ。
だから本当のところは、少年たちに信頼されるクラウス様を、ちぐはぐだなんて感じるのは単に私の偏見というところになるのだろう。
もっとも、私が何故クラウス様の給仕という立場にいるのか、その本当のところを少年たちが知った上で、同じように信頼の眼差しをクラウス様に向けるかどうかは、分からないけれど。
それとも、もう知っているのだろうか。
その可能性も、もちろん、ないではない。
その辺りは、それでもまあ、私が確かめなくてもいいことだろう。
つい今、自分自身の偏見を自覚したところだ。
それをさらに確認するような行動をしなくてもいい。
そんな私の内心はともかく、少年たちは口々にクラウス様に話しかけていた。
年長組は、早く正規の兵士になりたいとか、年少組は剣だけではなく勉強も頑張っているとか。
そう、勉強。
話を繋げていってみると、彼らは見習い兵士としてこうして体を鍛えて剣の基本的な扱いを身に着けたりする一方で、城の中で読み書きや計算も学んでいるらしい。
生活の場も基本的には城の中のようだ。
兵士が城の中に生活の場を持つのは分からないではないのだけれど、彼らはその子どもということだろうかと考えてみる。
けれど、そうでもないらしいと思ったのは、ダニロとオスヴァルトの言葉からだった。
「こうやって剣も読み書きも身に付けられるの、クラウス様のおかげだもんな」
「ああ。ちゃんと全部、出来るようになってみせます」
オスヴァルトの言葉の後半は、クラウス様に向けたもので、クラウス様は穏やかな笑顔でそれにうなずいて見せた。
「頼もしいな。だが、焦る必要も必要以上に無理をする必要もないからな。向き不向きもあるだろうから、向いていることを身に付けてくれていったらいいぞ」
すると、素直にうなずく者もいれば、少し考え込むような表情でうなずく者もいた。
少なくとも、剣の得意不得意であれば、この十人の中でも現れているようだから、それぞれ思い当たることもあるのだろう。
それにしても、クラウス様の言葉は、普段から本当にそういう考えを持っているのだろうという響きだった。
兵士見習いといっても、この十人全員が必ず兵士になる必要もないのだろう。
他の選択肢もあると、クラウス様自身が思っているし、案外用意までしているのかもしれない。
少年たちにとって、この城、この領主の元での兵士見習いという立場は、なかなかにいいもののようだ。
となれば、おそらくは、兵士であっても、他の立場で城に、領主に仕えている人たちにとっても、いい場所なのかもしれない。
考えてみれば、執事長のコンラートさんも、メイド長のエレオノーラさんも、クラウス様のことをそれぞれの立場で慕っているようだ。
クラウス様のことを、その嗜好と指向でもって問題があるようなことを言及したのは、姪であるヒルデガルドとその家庭教師の先生だ。
一般的な評価と、私にとってどうかは、まあ、おいおい考えてみてもいいのかもしれない。




