兵士見習いの少年が持つ剣もほぼ本物の剣でした
さて、クラウス様についてやって来た、城の兵たちの訓練。
目的は私もちょっと体を動かすことと、兵たちにも私という存在に慣れてもらうことだ。
が。
訓練場の外周を兵士見習いだという少年たちと軽く走りながら、兵たちの視線を感じる。無茶苦茶感じる。
慣れてもらうの無理なんじゃないですかねと呟きそうになるどころか、叫びそうになるのは、何も私がおごっているわけでも自意識過剰なわけでもない。
いや、少しは自意識過剰なんじゃないかと反省したっていいんだけれど、そうしてもいられない。目を向けた先でやたらと視線が合ってしまうし、その都度訓練に意識を集中しろと隊長格であろう人たちが怒声を飛ばしている。
私だって、美少年が朝の陽ざしの中、同じ年齢くらいの少年たちと爽やかに走ってたら凝視したい。
問題は、その美少年の中身が私というところだ。
つくづく、私という意識は、私という肉体に対して、乖離している気がする。
それはともかく、一緒に走ってくれる少年たちも、やたらと向けられる視線の数々に、居心地が悪そうだった。
正直申し訳ないところだ。
そして彼らは彼らで、視線の先にいるのが私だと気付いて、私をちらちらと見ている。
いやあ、私の記憶を全て振り返ってみても、こんなに人の視線を集めたことはないんじゃないかな。
なんて他人事のように笑っていないと正直いたたまれない。
生憎、こういう時どうしたらいいのかなんて、思いつく方法は一つしかない人間だ。
つまり、気にしないふり。
ふり、なだけだけどもね。
さて、走り込みが終わると次は剣の素振りだった。
基本的な型をマティアスが教えてくれることになり、他の子たちはペーアに従ってそれぞれに素振りを行っている。
年長が、年少に教える、ということなのだろうか。
といっても、私の年齢推測が当たっていればの話だ。
単にペーアが熟練者なのかもしれない。
どちらにしても、私には剣の扱いの良し悪しはよく分からない。
と思ったのだけれど。
素振りの様子を見ていると、頭を過る知識と動作に関する映像のような記憶が浮かんでくることに気が付いた。
これは、この体で初めて目が覚めて、ハーブティーを淹れた時の感覚に似ている。
他にも、本を読んでいて、本に書かれている以上の知識が浮かんでくることもあるし、関連する物事に思い至ることもある。
それは私の記憶ではない記憶。
この体に与えられた知識としての記憶ということだ。
先生は、この体を作るにあたって、詰め込めるだけのものを詰め込んだといっていたけれど。
自我を持たない、ということになっているホムンクルスに剣の扱いについて学ばせて、何の役に立つと思っていたのか。
まあ、他にも、何でこんな知識を、と思うものはたくさんある。
私が思い浮かぶ中で植え付けられていない知識といえば、人との関わりと、ホムンクルスに関する知識くらいだろうか。
「ほら、ルカ。実際に剣を振る前に、持ち方と、持てるかどうか、だ」
マティアスは、私が素振りに気を取られているか、早く剣を振りたいと思っているかとでも考えたのだろう。
そう言って、剣を差し出した。
持ってみると、当たり前かもしれないが、剣は重かった。
持てない、という感じではないが、考えてみればこの体で持った最大限重たいものといえば、ティーポットくらいか。
重たいものを持つことに慣れていないことに加えて、重たさの理由がもう一つ。
「これ、本物の剣?」
他の、大人の兵たちが持っている物と大きさも同じ、材質も同じようだ。
つまり、鉄で出来ている。
「まあ、本物かな。刃は引いてあるけどね」
言われてみれば、確かに刃は鋭くはないようだ。
この重みの鉄で殴られればそれだけで大怪我に違いないが。
これを素振りで基礎的なトレーニングとは、私は基礎という言葉の感覚を修正した方がいいかもしれない。
「ルカは最初だからまず構えからだけでいいよ」
とは言われたものの、遠くで剣を自在に振り回している大人の兵たちも、真面目な顔で素振りを続ける少年たちも、尊敬に値する腕力だと思わないわけにはいかなかった。
それでも、幾つかの型をこなしたところで、マティアスが『結構やれそうだな』なんてい言ってくれたので、素直に嬉しかった。




